イースと別れる直前、「せつな」はこう言った。
『じゃあ、私はここまで。ユージくんのところには貴方一人で行ってちょうだい』
「アンタはユージに会わなくても良いの?」
イースの問いに、せつなは首を横に振った。そして、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
『言ったでしょ、彼は私にとって他人。彼が待っているのは貴方だけよ、イース。まあ、ユージくんはワンちゃんみたいで可愛いとは思うけど』
「……結局、アンタって何なの。私とはまるで違うのに、私自身としか……思えない」
イースの呟きを、せつなは笑って受け流した。
『ふふっ、さっきも言ったでしょ? 私はイースだけど、貴女じゃない。私たちは二人ともイースだけど、それぞれ違う人間よ。私は私で精一杯頑張った。貴女は貴女で精一杯頑張ればいい』
そしてせつなは一歩下がると、軽く手を振った。
『またね、イース。ユージくんの
「ラ、ラブ? 待ちなさいよ、それじゃ答えに……!」
「せつな」の姿は鏡に吸い込まれるようにして消えていった。
一人残されたイースは、しばらく花園を見つめていたが、やがて意を決して足を踏み入れる。
いつの間にか、ジェントルーがそこで待っていた。
「やあ、イース。君も自分と会ったのか」
「知ってるみたいな口ぶりだけど、アレなんなの? 私にそっくりだった」
「あれは、可能性の一つさ。過去も未来も関係なく、無限に存在する可能性の中で、もっとも高い可能性の君だよ」
「……よく分からない。もっと分かりやすく説明して」
「それは無理だ。私だって完全に理解しているわけではない。だが、決して偽物ではないと心得ておきたまえ。君が見たものは、確かに君の真実なのだ」
「……いいわよ、もう」
抽象的すぎるジェントルーの説明に、イースは諦め顔で肩をすくめた。
そんなイースに構わず、ジェントルーはマントの中から取り出した望遠鏡を覗き込んだ。
イースも目を細めてユージがいる方を見る。距離は数百メートルほどだろうか。イースの目では辛うじてユージだと判別できる程度だ。
「……結局ここはどこなのかしら。アンタは知ってるの」
「あのクリスタルの中だ。記憶が曖昧だが、ユージと君と一緒だった時に、何かがあって……取り込まれたのだろう」
ジェントルーの言葉に、イースは空を見上げた。巨大すぎる月が浮かぶ夜空が広がっている。とても現実のものとは思えない。まるで夢の中にいるようだ。
「どうして分かるのよ」
「ブンドル団の技術だ。異空間を渡るのは十八番だからな」
ジェントルーは己のアイマスクを指さして言った。イースは眉間にシワを寄せながら、鼻を鳴らす。
「ふん。なら出ることも可能なのよね?」
「恐らくは。しかし、先ずはユージを助けるべきだろう」
「……助ける、でいいのかしら。どこの女どもか知らないけど、お楽しみの最中みたいじゃない」
イースの耳には、女達の喘ぎ声が届いていた。甲高い声から低いハスキーボイスまで、様々な女の声が花園に響き渡っている。
「心配するな、どう見ても強姦だ。少しは自分の男を信用してやりたまえ」
「平然と言うんじゃないわよ。貸しなさい、私が見る」
イースは強引に望遠鏡を奪い取って、ユージの様子を見た。
「ぐっ……ぎぎ……!」
思わず歯ぎしりする。
仰向けになったユージの上に赤い髪の女が跨がり、腰を動かしている姿が見えたからだ。ユージは下半身だけ裸にされ、3人の女に押さえつけられて、抵抗できずにいるようだ。
そんな彼の様子に、イースの心はかき乱される。
「私のユージに……!! ……なんてことを……!!」
「君の? 君はユージの恋人だったかな。彼に好きと言ったことは?」
「……ちっ」
ジェントルーの問いかけを無視して、さらに望遠鏡を覗き込む。
ユージは朦朧とした顔で、青い髪の女にキスされている。酸欠なのか、顔を真っ赤にして苦しそうだ。
(殺す……! 舌を引き抜いて、喉の奥まで突っ込んでやる……!!)
「イース、冷静さを保て。傷をつけられてはいないようだが、下手に突っ込めば人質に取られる可能性もある。作戦を立てるべきだ」
ジェントルーがそう言わなければ、イースは飛び出していたかもしれない。それほどまでに怒り狂っていた。
「……ジェントルー、冷静ね。頭に血が昇らないの?」
「ああ、私も腸が煮えくり返る思いだとも。あの女どもは殺す。だが私は怪盗ジェントルーだ」
ジェントルーは落ち着いた声で答えるが、その手は震えていた。
「どんな状況でも常に最善手を考える。そうでなければ、この仕事は務まらない」
「そう。……分かったわ」
イースは、ふーっと呼吸を整えた。
「最優先は、ユージの救出。その後は脱出手段の確保。あのクソ女共の処分はその次よ」
「同意しよう。よし、少し離れたところにいる、赤紫のゴスロリ女が見えるか? 奴の胸を見ろ」
ジェントルーに言われて、イースは視線を移す。ジェントルーの示す女は、ユージから離れたところでポツンと地面に座っていた。膝を抱えて、赤紫のゴスロリドレスを手持ち無沙汰に弄んでいるように見える。
胸のリボンには、小さなクリスタルが取り付けられていた。大きさはともかく、研究室で見た「鏡の国のクリスタル」と同じ色だ。
そのクリスタルがピンク色に光ったのを見て、イースは目を見開いた。
「見えたか? あの小さなクリスタルから、この異空間全体にエネルギーが供給されている。ユージを犯している女どもにもな。つまりあのクリスタルを破壊すれば、あの連中も力を失ってユージを確保できるというわけだ」
「あのクリスタルは壊せるの?」
「分からない。少なくとも、ウバウゾーを使えない今の私では無理だ。君のナケワメーケなら破壊できるか?」
イースは小さく首を縦に振る。
「……多分。ただ、ナケワメーケのパワーは大きすぎる。あの女ごとになるし、ユージを巻き込むことにもなる」
「なるほど? では、丸呑みにして溶かすか、噛み砕くことにするか」
「エグいこと考えるのね」
ジェントルーは肩をすくめた。
「それくらい、当然の報いだろう。召喚には何秒かかる?」
「……10秒あれば充分よ」
ジェントルーは難しい顔で顎に手を当てている。
「10秒……奴らがユージを人質にとるには十分な時間だな。先に召喚しておいて、奇襲させるのが賢明だろう」
「じゃあ、間合いに入るまで私達で注意を惹きつけておかないと……2対5だし、厳しいかも」
イースの懸念に、ジェントルーはニヤリと笑った。
「それなら問題はない。我々は今、愛しい男を辱められて怒り心頭だからな。素直な感情をさらけ出すだけで十分に囮の役目は果たせるとも」
◆◆◆
「ユージ。お前、何をしているの」
「いいご身分ではないか、ユージ? こんなところで、可愛い女の子たちに取り囲まれてセックスごっこか。君らしいよ。いや、本当にね」
イースは声を震わせながら、ジェントルーは吐き捨てるように、内心の怒りを吐き出した。
二人の言葉に反応するように、ユージを組み伏せる女たちの動きが止まる。彼女たちはゆっくりと振り向いた。
特徴的な赤・黄・緑・青の髪、それぞれタイプが違う美少女揃いだ。全員に共通しているのは、長い耳と不自然に幸せそうな笑顔。虚ろな目。そして、ユージの精液を全身に浴びていること。
(ユージ……可哀想に)
ユージの目は虚ろだった。抵抗する気力もないのか、されるがままになっている。口からは「気持ちいい……気持ちいい……」と、うわ言のような呟きが断続的に漏れている。
ふと、その視線がイースとジェントルーを捉えた。段々と、その目に光が戻ってくる。ユージは涙をこぼしながら、弱々しく微笑んだ。
「イース様、ジェントルー……無事だったんですか……よか、良かった……!」
「……何が『よかった』なの? 少しは自分の心配をしてよ! 酷い目に遭わされてるのはお前なのに……!」
こんなになっても、ユージはイースの安否を気遣ってくれた。
その優しさが嬉しくもあり、同時に憎らしくもある。抱き締めてあげたかった。抱き締めて、大丈夫だよと言って、安心させてあげたい。
しかし、ユージを覆い隠すように、4人の少女たちが彼を抱きしめた。
『ダメですよぉ? お楽しみはまだまだこれからなんですからぁ』
緑の髪の少女はユージの顔を持ち上げて、キスをした。ユージも目を閉じたまま、受け入れてしまう。
『面倒くさいのが来たねえ。一人なら我慢せず気持ちよくなれるのにさ』
『あんな娘たちのご機嫌取っても仕方ないじゃん♪ ほらぁ、あたしたちのお相手して?』
『んちゅ……お付き合いするだけ損よ? 自分の事だけ考えて、気持ちよくなりなさい……』
『あんな子たち、優秀な貴方には相応しくない。貴方一人でも十分気持ちよくなれるわ』
口々に喋り出した少女たちの真ん中で、ユージはぼんやりとした表情のまま、何も言い返さない。
少女たちは猫なで声で囁きながら、好き勝手にユージの身体に触れ始める。イースとジェントルーを無視して、ユージとの乱交を再開するつもりだ。
その光景を見て、イースは強烈な殺意を覚えた。
「ユージから離れなさい! この淫売ども!!」
(おい、イース。奴らから心臓の鼓動が聞こえない。やはりクリスタルの力で造られた人造人間の類だ。大本のクリスタルを破壊しなければ──)
「ルージュ、レモネード、ミント、アクア。止めなさい。お客様よ」
ジェントルーの囁きが遮られた。甲高いが聞き取りやすい、まるで鈴が鳴るような美しい声だ。ユージに群がる少女たちが、スイッチを切られたようにピタリと動きを止める。
「っ……ゴスロリ女……!」
イース達の前に進み出てきたのは、赤紫のゴスロリドレスに身を包んだ少女だった。彼女の胸元には大きなリボン、その中心には赤いクリスタルが輝いている。
それを破壊すれば、ユージを助けられるはずだ。緊張感と殺意でイースの肌が粟立つ。
少女はスカートの端をつまみ、ちょこんと一礼した。
「はじめまして、イース、ジェントルー。ちょうど今、ユージに私を『大好き』になってもらっているところなの。良かったら見ていかない?」
少女の言葉と同時に、ユージにまたがる少女たちの腰が再び激しく上下し始めた。
イースは唇を噛んで、ギリギリと奥歯を鳴らして堪える。今すぐ飛び出していってぶん殴ってやりたい衝動に駆られながらも、ジェンルーとアイコンタクトを交わして冷静さを保とうとした。
「……だ、だ、大好き、ですって……? 何を、言って、いるのかしら……?」
震える声で尋ねると、少女は満面の笑みを浮かべて答えた。
「そう、『大好き』! だって人間は気持ちよくなると好きになるんでしょう? だからユージにたくさん気持ちよくなってもらって、私のことを『大好き』になってもらうの。あっ、そうだ! 貴方達も一緒に気持ちよくなっていく? きっと、もっとユージを『大好き』になれると思うの」
「…………は?」
少女の提案を聞いて、イースは唖然とする。隣にいるジェントルーも怪しみの眼差しを向けていた。
「ふざっ……ふざけるな! 何を言っているの?!」
思わず怒声をあげる。すると意外なことに、少女は怯えて後ずさった。
「う……ご、ごめんなさい。何か気に触ることがあった? でも、私、ユージとお友達になりたいだけなの。おしゃべりして楽しく笑ったり、一緒に追いかけっこをしたり、頭を撫でてもらったり……。そういうの、ダメかなあ……?」
しおらしく、上目遣いでこちらを見つめてくる。そうすると、濃い化粧の下にあどけない素顔が透けて見えた。その言葉からは真摯さが感じられる。
ユージを無理やり犯していることを除けば。
イースは目まいを覚えつつも、何とか踏みとどまって、そしてユージの惨状を思い出して、キレた。
「御託はたくさんよ! 殺せ、ナケワメーケ!」
「イース、待て!」
もうジェントルーの制止も聞こえない。脳が燃えているのかと錯覚するほどの怒りが、イースの思考を支配していく。その足元から、まるで影が立体化したかのようにナケワメーケが姿を現した。
『ナァーケワメーケェー!』
「きゃっ……?!」
黒いミミズのような怪物は、その長い体躯を鞭のようにしならせる。主人の命に従って、ゴスロリドレスの少女を一呑みにした。
「ナケワメーケ、そのままそいつを溶かせ! 恐怖と絶望の中で、自分の罪を思い知らせるのだ!」
イースの命令に従い、ナケワメーケは大きく体をくねらせる。獲物を消化液の中で撹拌し、じわじわと溶かしながら殺すのだ。
──しかし、それは叶わなかった。
『ナケッ!?』
黒い巨体がぐらりと揺れた。そして次の瞬間、巨大な球体のように膨れ上がったのだ。
イースが呆気に取られていると、ナケワメーケの表皮に次々と亀裂が入り始めた。
「なん……何の光?!」
ピンク色の光が、亀裂からジェット流のように噴き出している。まるで血しぶきのようだ。
「まずいぞ、イース!」
『ナケワァァァァァァァァァァメェェェェェェ!!!!!』
断末魔の叫びを上げて、ナケワメーケが爆散した。爆音と衝撃波がイースの全身を叩く。咄嵯に両腕で顔を覆うが、それでもビリビリとした振動を感じる。
強烈な光の奔流に目が眩む中、イース達は見た。先ほどまでナケワメーケが居た場所に、呑み込まれたはずの少女が立っていた。
「これはクリスタルの光……!? ならば奴が『プリキュア』だったのか?!」
彼女はもうゴスロリドレスではない。ピッタリと肌に張り付く黒いボディスーツに、同じく黒いミニスカート、手袋とブーツを身につけただけの軽装だった。スーツの各所は鋭角的なフォルムをしており、攻撃的な雰囲気を漂わせている。胸に輝くクリスタルは、蝶の形をしたブローチにはめ込まれていた。
「…………」
少女は無言だった。化粧が消え、素顔を晒している。あらわになった素顔はまだ幼なかった。
その無垢な瞳が、ぐっと吊り上がる。
「…………どうして?」
「……?」
「どうして、邪魔をするの? 私はユージと仲良くなろうとしているのに。どうして私を攻撃するの? どうして、そんな意地悪をするの? ねぇ」
怒りを露わにする少女の声はしかし、徐々に涙交じりのものに変わっていった。
少女の目からボロリと雫が流れ落ちた。頬から顎へと流れていき、やがて彼女の足元にポタリポタリと落ちる雨となる。
「……ひっく。なんでぇ……? ひぐっ……えぐっ……わぁぁぁぁぁぁん!!」
少女は大粒の涙を流し、泣き出してしまった。しゃくりあげ、嗚咽を漏らしながら、その場にしゃがみ込む。
ナケワメーケを瞬殺した怪物とは到底思えない。
「……」
イースは黙って拳を握る。手袋越しに爪が皮膚に食い込んだ。泣こうと喚こうと、この少女がユージを汚したことに変わりはない。
ジェントルーは、イースを横目に見ながら静かに口を開く。
「ふん……。どうしても何も、君がユージの尊厳を貶めているからだ。彼は君のオモチャじゃない。ユージは合成人間だが、心を持っている。感情がある。ユージがどんな想いで、誰を愛しているか、君は知っているのか?」
少女は顔を上げ、キョトンとした表情でジェントルーを見た。
「心……? 心なら、私にだってある。ユージが貴方を愛してることも知ってるよ。貴方だって、ユージにキスして『大好き』って言ってもらってたじゃない」
ジェントルーが唖然として口をパクつかせる。イースも思わず目を見開いた。
「な……るほど、見ていたのか。我々を観察し……そうか、性行為と愛情をイコールで結びつけたわけか」
「だって、それが人間でしょう? 女の子と男の子が抱き合うときは『大好き』って言うんでしょう? そうやって赤ちゃんを作って、『大好き』を増やしていくんでしょう?」
「…………」
少女の言葉に、ジェントルーは何も返さなかった。代わりに、イースに向かってささやく。
(まずいぞ、イース。我々の常識で話してはいけない。やつは赤ん坊みたいなものだ。言葉は知っていても、意味を理解していない)
その通りだと、イースは思った。少女の言動は、どこかちぐはぐで噛み合っていない。
まるで子供のまま、成長を止めてしまっているような。いや、心だけを子供に入れ替えたような違和感があった。
(だから、残酷でいられるのね。ユージを強姦したのも、こいつの中では全て『好き』の延長線上にあることなのか)
少女は首を傾げている。自分が間違っているとは微塵も思っていなさそうだ。
性の意味も理解していない、稚気に満ちた少女が、
(イース、どうする? ナケワメーケを破壊された以上、戦っても勝ち目はない。撤退するか?)
(できるワケないでしょ。……赤ん坊なら、赤ん坊らしいことをしてあげるわ)
イースは深呼吸をして、冷静さを取り戻そうとする。膝を折って、少女と目線を同じ高さに合わせた。
「ねえ、アンタ、名前は?」
努めて優しく尋ねると、少女が目を伏せた。
「名前……名前は、ない。私は『キュアドリーム』のコピーだから」
「……コピー? キュアドリーム? そいつもプリキュア?」
ドリームは小さくうなずいた。
「そう。伝説の戦士プリキュア。私のオリジナル。初めての友達で、大好きな人。でも、もういない……。私はずっと、この世界で一人ぼっち。もう嫌なの。誰かと一緒にいたいの。みんなに好かれたいの。愛されたいの。お願い、私と友達になってよぉ……」
そう言うと、再び顔を覆って泣き出した。イースの心に憐れみと同情が湧き起こる。だが、それとこれとは別の話だ。
「……そう。じゃあ、とりあえずドリームって呼ぶわ。ドリームの気持ちはよく分かった。でも、アンタはユージを傷つけている。それを許すことはできないわ。大人しく降参して、ユージを返しなさい。そうすれば、悪いようにはしないから……」
「……? ユージは傷ついてなんかいないよ。ほら、見て。ルージュと気持ちよくなって、『大好き』になってくれてるの」
少女は立ち上がると、犯され続けているユージを指し示した。ユージは相変わらず虚ろな目をしたまま、力なく首を振っている。
ユージのペニスは、ルージュと呼ばれた少女の膣内にみっちりと収まっていた。ルージュの秘裂からは愛液と精液の混ざったものが溢れている。
『ほら、アンタの恋人たちがガン見してるよ。きっと気持ちいいことの邪魔をするつもりなんだ。アンタがドリームを「大好き」になるのが気に入らないんだ』
ユージの耳元でルージュが囁いた。他の3人も次々と話しかける。
『ねぇ、ユージィ。あんな連中いらないよね♪』
『大丈夫よ、ユージ。すぐに忘れさせてあげるから、自分の事だけ考えなさい』
『貴方は優秀よ、総統閣下。あんな足手まといの事は忘れて、一人で快楽の空へ旅立ちなさい』
好き勝手なことを言い放ち、彼女たちはユージの体を弄ぶ。ユージはされるがままになっていた。
「ユージ! 気をしっかり持って! こんな女達に負けちゃダメ!」
イースが叫ぶが、ユージは反応しなかった。少女たちは嘲笑するだけだ。
やがてユージが絶頂に達したのか、4人が一斉に動きを止める。イースとジェントルーを睨むと、勝ち誇った笑みを浮かべた。
『ふぅ~。ユージ、ちゃんとイケた? 良かった? これで私たち、もっと仲良くなれるね』
『ほら、邪魔なイース様が泣きながら見ているわ。何か言ってあげたら?』
『言ってあげなよ。ボクくんがいない方が、イース様は幸せだったって。おら、言えよ』
『自分さえいなければ、イース様はもっと幸せな人生を送れますって。ねぇ?』
口々に煽られながらも、ユージは一言も喋らなかった。ただ、焦点の定まらない目つきで、ぼんやりと女たちを見上げている。
イースは……イースは、「せつな」の言葉を思い返していた。
第1問。あのシャロンさえいなければ、貴方はとっくにユージくんと結ばれていた。これは正しい?
第2問。この先、ユージくんがシャロンを捨てる可能性はある?
第3問。あなたは何て答える? ユージくんがいない方が、貴方は幸せだったと言われたら。ユージくんさえいなければ、もっと幸せな人生を送れるはずだって言われたら。
3つの質問に、既に自分は答えを出している。
全て同じ答え。
「ユージ! ユージ! お願い、聞いて! お前が愛してる私の言葉を、絶対に聞き逃さないで!」
イースの精一杯の呼びかけに、ユージが反応した。
「……イース様?」
ゆっくりと視線を動かし、ようやくイースを見つける。そして、わずかに表情を緩めた。
「イース様……愛してます……ずっと、ずっと前から愛しています……」
「そうよ! お前は私を愛してる!」
イースは叫んだ。涙声になりそうなところを、なんとか耐えた。ここで弱さを見せたら、全て終わってしまう。それだけは避けなければならない。
「お前は私を愛してた! なのに私は、お前を軽く見て! 好きだと分かっても、迷惑なんて言ってしまった! ……ごめんなさい、私が馬鹿だったの! お前はなんでも許してくれるから、甘えてた。全部、謝るから! ごめんなさい! だから言わないで! 自分さえいなければなんて、そんなことは絶対に言わないで!!」
「イース……様……」
ユージの顔に微笑が浮かんだ。それはイースがよく知る、優しい笑顔だ。ドリームはキョトンとして、二人のやり取りを見守っている。
「好きなの! 大好き!! 愛してるの!!! 愛してくれてありがとう! 愛されてるの知ってたけど、嬉しかったけど、ただ恥ずかしかっただけなの! 今更だけど、すごく嬉しいのよっ……!」
イースは嗚咽混じりに訴えた。隣にいたジェントルーがかぶりを振って嘆息するが、イースの目には映っていなかった。自分の思いを伝えるのに精一杯だった。ユージだけが彼女の視界に入っていた。
「愛してるわ! 世界中の誰よりも愛してるの! 私はずっとワガママで、傲慢で、
ジェントルーもイースの肩を抱き、ユージに向かって叫ぶ。
「全く……聞こえたか、ユージ! イースの告白、怪盗ジェントルーが確かに聞き届けた。君も彼女を愛するのなら、口先ではなく行動をもって示すがいい。……さあ!」
ユージは、大きく息を吸っていた。腹部を膨らませ、へこませ、全神経を集中したかのような呼吸を何度か繰り返す。そしてゆっくりと口を開いた。
「イース様。これから、俺が何をしても、黙って見守って下さい。全て、イース様のためなんです。約束できますね?」
「……もちろんよ」
その返事を聞いて、安心しましたとユージが言った。その声には、確かな力があった。
(続く)
次回投下は6/19 06:00~エロありです。よろしくお願い致します。