※この作品はR-18です。

プリキュアじゃない彼女たちと世界を征服する話   作:a-su

22 / 56
2/4 (エロ無し)

「侵攻!? パルミエ王国に? 一体どこが…………なに?」

 

 電話機からの声に、ユージはしばし呆然とした。

 

「バカな! あのホープキングダムが……侵略だって…………?」

 

 ◆◆◆

 

 開戦の狼煙は、突然だった。

 

 敵国の名は、ホープキングダム。パルミエとシャンティアに並ぶ、世界三大国家の一つだ。

 夢と希望を国是とする、美しき国。平和主義の理想国家。だった。

 だが、豹変した。なんの前触れもなく、周辺国家を次々と攻撃し始めたのだ。いずれの国にも宣戦布告はなく、いきなり攻撃してきたと言う。

 最初は、隣国であるパンプキン王国。長年の友好国であったが、突如牙を剥き出しにした。

 

「パンプキン王国の王女、パンプルル姫は行方知れず。情報では、ホープキングダムに拉致されたとか」

 

 パルミエ王国の国王、ココ13世は、ナッツの報告を聞いて口をつぐんだ。

 ここは前線から数十キロ離れた場所にある、小さな要塞。その作戦室である。外は雨が降っている。窓の外には灰色の空が広がり、薄暗い室内をいっそう陰鬱なものにしていた。

 部屋の中には、数名の人間しかいない。まずは、ココと側近の大臣たち。そして、王族にして宰相、何よりココの親友であるナッツ。

 ココは線の細い優男だが、伊達に国王の重責を担っているわけではない。前線であろうと、冷静沈着に振る舞うだけの胆力がある。だが、今は顔色が悪かった。

 なぜなら、彼が治めるパルミエ王国は、ホープキングダムの侵攻によって滅亡の危機に瀕しているからだ。

 

「……シャンティアのシャロン女王に、救援を要請しよう」

「ココ! 俺は反対だ! あんな女に助けを求めたら、どうなるかぐらい想像がつかないのか!」

 

 ナッツは猛然と立ち上がって叫んだ。彼の瞳は怒りに燃えている。

 ココは力なく笑う。

 

「分かっているよ。彼女も世界征服を企む侵略者だ。しかし、話せる相手だよ。少なくとも、今のホープキングダムよりは」

 

 ナッツは拳を強く握りしめ、唇を引き結んだ。

 

「……プリンセス・トワのことはいいのか。お前の婚約者だろう」

 

 ナッツが口にしたのは、ホープキングダムの王女の名だ。彼女の兄が、現在の国王であるカナタ。トワはこのパルミエ王国に嫁いでくるはずだった。1万2000年続く、友好国の証として。

 

「最後に会ったのは、もう7年以上前か。あの子が5つのとき……美しい令嬢に育ったらしいけど、僕にとっては妹みたいなものさ。それに…………」

 

 ココは言葉を切り、視線を落とした。それから苦笑する。

 

「あの子やカナタが生きていたら、こんな暴挙は許さないよ。絶対に止めるはずだ」

 

 死。

 それが為政者たちに起こったとしか思えなかった。今のホープキングダムは、明らかにココが知る姿とは異なっていた。

 

「ココ……」

 

「とにかく、僕はシャンティアに行くよ。交渉が決裂したら、その時は後を任せる」

 

 ナッツは険しい表情で押し黙った。両手で顔を覆う。苦悩の滲む声が漏れた。

 

「どうしてなんだ……なぜ、こんなことに」

 

「ナッツ……」

 

「俺たちは今までずっと平和だったじゃないか……っ、なのに……っ!」

 

 ココはナッツの肩を抱く。親友の苦しみを分かち合うように。それから、静かに口を開いた。

 

「他に選択肢はない。倒しても倒しても、あの『ゼツボーグ』は現れる。既に戦線は崩壊しているし、敵は次々と国民を拉致していく。このままじゃ世界中が蹂躙されてしまう。そうなる前に、なんとかしなければならないんだ……」

 

「ちくしょう……っ、ちくしょぉぉ……っ!!!」

 

 悔しさに身悶えする親友を、ココは突き放した。後ずさったナッツに、すっと右手の指を突きつける。

 

「……これは決定だ。王としての。パルミエ王国は、シャンティア連合共和国へ安全保障条約の締結を要請し、『ギードラの化身』シャロン女王に救援を求める」

 

 

 ◆◆◆

 

 シャンティア連合共和国、外縁部。旧ラビリンス時代に資源の採掘基地とされ、今はぺんぺん草も生えない荒野となっている。

 そんな場所に、戦いのゴングが鳴った。

 

『ナァケワメェエエエエケッ!』

 

『ゼェェェェェッッボォグッ!』

 

 シャンティアの主力はナケワメーケ。ホープキングダムの主力はゼツボーグ。合わせて1万を超える怪物たちが、一斉に雄叫びを上げた。

 大地を揺るがすほどの轟音に、黒い戦闘服姿のドリームは思わず耳を押さえた。

 

「もう! うるさいなぁっ!」

 

 言っても仕方がない。ドリームから見て左右に10km、前に1km。それほどの範囲で、ゼツボーグとナケワメーケがひしめき合っているのだ。

 太陽の光が怪物たちを照りつけ、そのシルエットをくっきりと浮かび上がらせていた。

 ナケワメーケの姿は、千差万別。鳥型、戦車型、スピーカー型、バイク型、人魚型など、多種多様の個体がいる。それが何千と集まっているのだから、まさに圧巻であった。

 対するゼツボーグは、まるで没個性だ。どれも同じ見た目をしている。2mほどの人型で、頭は南京錠にも似ている。内部のモノアイには、赤々とした光が灯っていた。それぞれが異なる武器を握っているのが、唯一特徴と言えるかもしれない。

 

「静かにしなさい、ドリーム。私が制御をミスったら、ナケワメーケに頭から噛じられるわよ」

 

 そう言ったのは、軍服姿のイースだ。彼女は百を超えるナケワメーケを一人で制御している。旧ラビリンス幹部の面目躍如というところか。この場にはいないが、彼女の元同僚であるサウラーやウエスターという男たちも戦場にいるらしい。

 全面戦争であった。侵略を繰り返すホープキングダムは、ついにシャンティア連合共和国にも牙を剥いたのである。ドリームとイースは今、最前線にいるのだ。

 

 開戦。大地を揺るがすナケワメーケたちの足音が響き渡る。ナケワメーケたちは、嵐のようにゼツボーグ軍団に襲いかかった。

 爆音、轟音、破裂音。撃破比率(キルレシオ)は、航空戦力を備えるナケワメーケ有利だ。次から次にゼツボーグが破壊されていく。だが、むしろ押され気味なのはシャンティア側だった。

 数の暴力である。ゼツボーグの数が減らない。いや、増えている。一体倒す間に、二体増えている。

 イースの苛立った声が聞こえる。

 

「事前の情報通りね! 夏場の蚊みたいにうじゃうじゃ湧いてきて、鬱陶しいったらないわ!」

 

 戦いの天秤は、徐々に傾いていく。ナケワメーケの攻撃が二体のゼツボーグを吹き飛ばす間、五体のゼツボーグが三体のナケワメーケを破壊する。シャンティア側に勝ち目はない。

 かに思われた。

 

『uwalalalalalallala────!』

 

 言葉に表せないような、苦悶の呻きが戦場にこだまする。それと共に、ゼツボーグが数十体、まとめて吹き飛んだ。

 ナケワメーケの群れから、突如として巨大な影が飛び出したのだ。身長15m、全幅6m。真っ黒な巨人が、その剛腕を振り回すたびに、数十のゼツボーグたちが宙を舞う。

 ドリームは目を丸くした。

 

「す……すごくデカい! すごく強い! あれが『ナキサケーベ』?!」

 

「もう……何をしていた! ナキサケーベよ、愚かなホープキングダムに恐怖と絶望を与えるのだ!」

 

『aaahhhahahahaha…………!!』

 

 苦悶の呻きは、ナキサケーベの咆哮だ。

 黒い巨人の頭部にある、黄色い単眼が光った。その巨体に似合わぬ速度で、ナキサケーベは駆ける。

 風を切って疾走しながら、左右の拳を繰り出す。ゼツボーグが何十体も巻き込まれ、空中を舞いながら粉々に砕け散っていく。

 

「あははははは! すごい! これなら勝てるかも!」

 

 ドリームは大声で笑った。イースはムッとした様子で振り返る。

 

「調子に乗るんじゃないわよ。いくらナキサケーベが強くても、アンタの仕事がなくなるわけじゃないのよ」

 

 ナキサケーベは強い。ただし、数十人の召喚者を必要とする。加えて活動時間も短い。

 それは、召喚者に苦痛を与えて精神エネルギーを吸い取るという特性ゆえ。一人で召喚すれば最悪死に至るという、ある意味では欠陥兵器とも言える代物なのだ。

 

「分かってるわ。長持ちしないナキサケーベが力尽きる前に、ゼツボーグの召喚者を倒せばいいんでしょ?」

 

 ドリームは、ステップを踏んでウォーミングアップを始めた。戦闘服のミニスカートが風になびき、ブーツの底が地面の砂利を踏み砕いた。

 不敵に笑う。

 

「そういうことよ。ちゃんと分かってるなら、いいけど」

 

「ちゃんと倒してくるわよ。またイースとキスしたいし」

 

「……ふん。あんなもの、キスとは言えないわ。ただのスキンシップよ」

 

「でも、舌だって絡ませたじゃない。私、まだ忘れられなくてさ……」

 

 舌なめずりして微笑むと、イースが顔を赤く染めて睨みつけてきた。ドリームはにこやかに笑う。今やイースは、ドリームにとって『大好きな人』だ。

 

「分かってるわよ。女の子同士はノーカン、ノーカン。ファーストキスは大好きな男の子にあげるんでしょ?」

 

「う、うるさい……っ! そんなことはどうでもいいのよ! ほら、さっさと行きなさい!」

 

「はいは〜い」

 

 ドリームは笑って駆け出した。目指す敵は、はるか前方。敵陣の真っ只中。地面を蹴り、跳躍。さらに近くのナケワメーケを踏み台にする。

 

『ナァァァァァッ!!』

 

 ナケワメーケは両腕をカタパルトにして、ドリームを空高く飛翔させた。

 10m、100m、1000m、高度はぐんぐん上がっていく。

 気づけば、雲の上だ。戦場はミニチュアのようだった。

 ドリームは地上を見下ろす。眼下では、今もなお戦闘が続いている。ナケワメーケが数を減らし、ゼツボーグが増え続けている。ナキサケーベの投入により一度は優勢を取り戻した。だがゼツボーグは際限なく現れ続ける。いずれ逆転されるだろう。

 ドリームは急降下を始めた。エネルギーを放出し、重力に何倍する加速度での猛進だ。顔が歪む。

 

(男の子には見せられない顔だよね、これ)

 

 だが、耐える。敗北すれば、その男の子も命が危ない。何としても召喚者を倒し、シャンティアを守らなければ。

 

(また、イースとユージとキスしたいもん……!)

 

 ドリームは両手を広げた。胸のクリスタルが輝き、右手にエネルギーが収束していく。

 空気の流れに抗するように、大声を張り上げた。

 

「増え続ける、そのっ、中心にいぃぃぃ! 敵はぁぁっ! いるはずっ!」

 

 放たれたのは、連続エネルギー弾。一発一発の威力は抑えめ、しかし連射性と拡散性に富んでいる。それが、数百発。ゼツボーグが増加する中心を目がけて、流星群のように突き進む。

 

 ─────着弾。着弾。爆発。爆発。

 

 連続的に爆発が起こった。ゼツボーグの密集地帯に爆煙が立ち込める。と、ある場所にまるで台風の目のような空白が生まれた。

 ドリームは、ニヤリと笑った。

 

「見つけた……防御フィールドね!」

 

 台風の目に向けて、ドリームは突撃する。その先にいるのは、フィールドに包まれた一人の男。男は、驚愕の表情でこちらを見上げた。

 

「な……っ!?」

「はあああっ!!」

 

 ドリームは、防御フィールドを思い切り蹴りつけた。落下の勢いとキック力を加えた一撃である。防御フィールドがガラスの割れるような音を立てて砕けた。

 

「くっ……!!」

 

 男が顔を歪めた。顔色の悪い、痩せぎすの男。どうやらかなり消耗しているらしい。

 無理もない。この男はたった一人で、千を超えるゼツボーグたちを呼び出し続けていたのだから。

 

「これ以上は許さないよ……っ!!」

「ちっ……!」

 

 着地の衝撃に踏ん張ると、男の舌打ちが聞こえた気がした。同時に、右腕が跳ね上がる。

 その手から放たれた怪光弾を、ドリームは片手ではねのけた。背後で爆炎が上がる。

 

「げぇっ……」

「これでおしまいだよっ!!」

 

 ドリームは、男の顔面に蹴りを入れた。鈍い音がして、男の首があらぬ方向に曲がる。

 そのまま男の身体は吹っ飛び、背後のゼツボーグたちを巻き添えにして地面を転がった。

 

「……ふぅ。お仕事完了っと」

 

 ドリームは一息つくと、周囲を見渡した。ナケワメーケとゼツボーグが入り乱れ、乱戦となっている。召喚者を倒したことで、戦況は優位に傾いていくはずだ。

 

「もしもし、イース? 召喚者は倒したよ。……もしもし?」

 

 通じない。ドリームは眉をひそめる。腕時計型の通信機は最新型だ。電波障害など起こりえないはずである。

 

「ヤバ……。イースに何かあったんじゃ……?」

 

 敵がこちらと同じ戦術を考えないとは限らない。イースたち召喚者を守りきらなければ、ドリームの活躍も無意味だ。

 

「待ってて、イース。すぐ行くから」

 

 ドリームは駆け出す。戦いの天秤を傾けるため、さらなる強敵を打倒するために。

 

 

 ◆◆◆

 

『ナァーケワメーケ!』

『ナケワメーケ!』

『ナケワメーケ!』

『ナケワメーケ!』

 

 護衛のナケワメーケが、イースの周りで円陣を組む。その数は十体。イースは、その中央に立つと、小さく息を吐いた。

 

「……そろそろね」

 

 イースは呟いた。視線の先で、ナキサケーベが力尽きようとしていた。いくら強くとも、ナキサケーベの召喚時間は限られている。あと数秒といったところか。

 好機と見たのか、ゼツボーグたちがアリのように群がっていく。

 イースは襟元の通信機に告げた。

 

「こちらイース。もう限界よ、自爆させなさい」

 

『了解した』

 

 通信の相手は、ナキサケーベを喚び出した後方部隊だ。彼らは、苦痛に耐えてナキサケーベに精神エネルギーを注いでいた。だが、それももう終わりだ。

 次の瞬間、ナキサケーベが苦悶の雄叫びを上げる。そして、はじけ飛んだ。

 

『ualalalalalala……!』

 

 強烈な閃光。爆炎と衝撃波。多数のゼツボーグどもが粉々になって吹き飛んだ。

 ナケワメーケ達がイースの盾になる。イース自身も、肉体を強化する赤いフィールドで自分を包む。はためく髪を抑えながら呟いた。

 

「よく戦った、ナキサケーベ。お前は使命を立派に果たしたのだ」

 

 想定内の出来事だ。限界が来たら自爆させる前提で設計されている。

 とは言え、感傷的な気分もある。戦場で共に戦えば、たとえ兵器であっても感情移入してしまうものだ。特にメビウスの洗脳が解けてからは、悲しむ兵が増えて軍でも問題になっていた。

 

「…………」

 

 だが、感傷に浸るのはここまでだ。まだドリームから連絡がない。敵のど真ん中に飛び込んだのだ。最悪の事態だってあり得る。

 イースは通信機を起動させた。

 

「イースよ。戦況は?」

 

『ご報告します。敵、ゼツボーグの増加は停止。既に残存兵力の掃討に移行しています。また、ドリームが召喚者を撃破しました』

 

 イースは口元に笑みを浮かべる。作戦成功だ。

 

「そうか。ならばいい。ドリームはどうしている」

 

『それが、消息不明です。恐らくゼツボーグと交戦中と思われますが、位置を特定できません』

 

 イースは目を見開いた。

 ドリームは強い。ナケワメーケよりも、ゼツボーグよりも。ひょっとしたらナキサケーベにも勝てるかもしれない。だが、無敵ではない。

 

「もう、世話の焼ける子ね!」

 

 そう言って、イースが鳥型ナケワメーケに飛び乗った時だった。

 

『緊急警報! 緊急警報! 敵が接近しています! 総員、警戒態勢に入ってください! 繰り返します! 敵が接近中! 総員、警戒体制に入ってください!!』

「何だと!?」

『あ……! イース様、敵、上空! 急降下! 高度100m! 数1! 来ます!!』

「ちっ……!!」

 

 イースはナケワメーケの背を蹴った。空中で一回転して着地する。

 

『ナァァケ……!?』

 

 ナケワメーケが絶叫する。翼を裂かれ、たたき伏せられてしまった。

 

「何者……!?」

 

 イースは身構える。砂煙の向こうから現れたのは、全身妙に刺々しい一人の男。

 

「てめぇがシャンティア総統の愛人、イースだな? 会いたかったぜ」

「……」

「おいおい、だんまりかよ? 寂しいぜぇ」

 

 男はわざとらしく肩をすくめた。紫色のジャケット、鋲付きのベルトに革製のブーツ。顔には派手なメイク。胸元には、錠前が取り付けられていた。

 

「まぁ、そんなに怖がらなくてもいいぜ? 俺の名はクローズ。ディスダークの三銃士だぜ」

 

「ディス……ダーク……?」

 

 イースは眉根を寄せた。人名か。組織名か。聞いたことがない。

 男はニヤリと笑うと、イースを指さした。

 

「難しく考える必要はねえぜ? いま大事なのは、お前に夢があるってことだぜ。総統の子供を産むっていう、くだらねえ夢がなぁ」

 

「くだ……下らないだと」

 

「そうさ! 女に生まれたからって、男のために子供産んで幸せになれると思ってんのか? 馬鹿だぜ、テメェ」

 

 クローズは笑う。心底見下したような笑い方だ。

 イースは歯ぎしりした。殺意が溢れる。心を覗き込まれたような不快感。この男を生かしてはおけない。

 

「殺せ、ナケワメーケ! その勘違い男を八つ裂きに……!!」

「遅いぜ! テメエの夢を見せな!」

 

 クローズの右手が、まっすぐイースを指差す。瞬間、イースの心に穴が空いた。

 

(な……な……?!)

 

 穴が空いた、としか表現のしようがない。肉体が言うことを聞かなくなり、猛烈な喪失感に襲われる。脳裏に映る光景が、唐突に切り替わる。

 

 どこかの屋敷の中。豪奢な家具に彩られた部屋で、豪華なソファに座っている。

 

(私……何を……?)

 

 イースは自分の手を見た。真っ白な細い腕。左手の薬指には、指輪が光っている。

 

(ああ─────ユージがくれた結婚指輪だ。結婚した時、二人で選んだものだわ……。あの日のことを、今でも鮮明に覚えている……。夢がかなった日を……)

 

 そして。気がつくと、イースの腕には赤子が抱かれていた。明るい茶色の髪に、赤い瞳の元気な女の子だ。イースはその髪を優しく撫でる。愛おしくてたまらない。

 

(ああ……。この子は私の宝物だ。ずっと大切に育てよう。ユージとの愛の結晶だもの……)

 

 幸福だった。何しろ、イースの心は夢の中に浮かんでいるのだから。

 

「あ……あはは……ユージ……♡」

 

 荒野の戦場で、呆然と立ちすくむイース。ナケワメーケ達も硬直している。

 クローズが悠然と近づいてくる。

 

「おぉ、すげえすげえ。総統閣下との甘い恋、気持ちいいセックス、幸せな家族! ハハハ、反吐が出るような夢と希望のパレードだ!」

 

 クローズは嘲笑う。

 イースは反応できない。ただ、自分の頭の中に響く声を聞いているだけだ。

 

 私はユージの妻、イース。彼は素晴らしい人だ。いつも一緒にいてくれて、愛してくれて、私のわがままも聞いてくれる。彼のいない人生なんて考えられない。私はユージの妻、イース。私はユージの妻、イース。私はユージの妻……私は……

 

「その夢、絶望の檻に閉じ込めてやるよ。『クローズ・ユア・ドリーム』……!」

 

 クローズが両手を広げる。胸元の錠前が、独りでに外れた。

 

「行け、ゼツボーグ!」

 

 そう、この錠前こそ、ゼツボーグの本体なのだ。

 どこからともなく現れた檻が、イースの体を捕らえた。ゼツボーグの錠前が、その檻を閉じてしまう。

 

『ゼェェェェツボォォォォグ!』

 

 錠前は、一瞬にして巨大化した。体が生える。直径10mはあろうかというリング状の胴体、全周の噴射口、頭部の鍵穴から覗くモノアイ。

 空を飛ぶ、指輪型のゼツボーグだった。

 

 ◆◆◆

 

「イースゥッ!!」

 

 ドリームは、空中でその光景を見ていた。

 パンクロッカー風の男に、イースが囚われるのを。続いて現れた、指輪型のゼツボーグを。

 彼女は、間に合わなかったのだ。

 

 

 ◆◆◆

 

 ユージは空を飛んでいた。

 正確には、飛行する「彼女」に抱きかかえられている。

 

「もっと飛ばせないのか!? もっと飛ばせ!」

 

 大声で叫ぶ。だが「彼女」は冷静だ。そうであるように作られたのだから。淡々と答える。

 

「これ以上速度を出せば、お前が耐えられない。合成人間とは言え、所詮は生物だ。私とは構造が違う」

 

 ユージは舌打ちする。確かにそうだ。しかし。

 

「イース様が捕らえられてるっていうのに!! このままじゃ、イース様に何かあったら……」

「お前は総統でありながら、私情のためにその身を傷つけるのか? それは許されないことだろう」

 

 即答されて、ユージは唇を噛んだ。正論だ。何も言い返せない。

「彼女」は紺色の瞳でユージを見つめる。値踏みするように。

 

「事態を打開できると言うから、足手まといのお前を運んでいるのだ。そこに私情を挟むことは適切ではない。作戦遂行のため、最善を尽くすべきだ」

 

 そう言って、「彼女」はユージの頭を抱きかかえた。自分の胸元に引き寄せ、ユージの顔を押し付ける。

 黒いワンピース越しに、柔らかさが伝わってくる。だが体温はない。心音もない。心臓も血液も備わっていないからだ。

 

「う……」

「落ち着いたか? 人間はこのようにすれば落ち着く。私にはそうプログラムされている」

 

「…………ああ。ごめん。いや、ありがとう」

 

「礼は不要だ。私はダークプリキュア。お前とシャンティアのために作られた、究極のプリキュアなのだから」

 

(続く)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。