「侵攻!? パルミエ王国に? 一体どこが…………なに?」
電話機からの声に、ユージはしばし呆然とした。
「バカな! あのホープキングダムが……侵略だって…………?」
◆◆◆
開戦の狼煙は、突然だった。
敵国の名は、ホープキングダム。パルミエとシャンティアに並ぶ、世界三大国家の一つだ。
夢と希望を国是とする、美しき国。平和主義の理想国家。だった。
だが、豹変した。なんの前触れもなく、周辺国家を次々と攻撃し始めたのだ。いずれの国にも宣戦布告はなく、いきなり攻撃してきたと言う。
最初は、隣国であるパンプキン王国。長年の友好国であったが、突如牙を剥き出しにした。
「パンプキン王国の王女、パンプルル姫は行方知れず。情報では、ホープキングダムに拉致されたとか」
パルミエ王国の国王、ココ13世は、ナッツの報告を聞いて口をつぐんだ。
ここは前線から数十キロ離れた場所にある、小さな要塞。その作戦室である。外は雨が降っている。窓の外には灰色の空が広がり、薄暗い室内をいっそう陰鬱なものにしていた。
部屋の中には、数名の人間しかいない。まずは、ココと側近の大臣たち。そして、王族にして宰相、何よりココの親友であるナッツ。
ココは線の細い優男だが、伊達に国王の重責を担っているわけではない。前線であろうと、冷静沈着に振る舞うだけの胆力がある。だが、今は顔色が悪かった。
なぜなら、彼が治めるパルミエ王国は、ホープキングダムの侵攻によって滅亡の危機に瀕しているからだ。
「……シャンティアのシャロン女王に、救援を要請しよう」
「ココ! 俺は反対だ! あんな女に助けを求めたら、どうなるかぐらい想像がつかないのか!」
ナッツは猛然と立ち上がって叫んだ。彼の瞳は怒りに燃えている。
ココは力なく笑う。
「分かっているよ。彼女も世界征服を企む侵略者だ。しかし、話せる相手だよ。少なくとも、今のホープキングダムよりは」
ナッツは拳を強く握りしめ、唇を引き結んだ。
「……プリンセス・トワのことはいいのか。お前の婚約者だろう」
ナッツが口にしたのは、ホープキングダムの王女の名だ。彼女の兄が、現在の国王であるカナタ。トワはこのパルミエ王国に嫁いでくるはずだった。1万2000年続く、友好国の証として。
「最後に会ったのは、もう7年以上前か。あの子が5つのとき……美しい令嬢に育ったらしいけど、僕にとっては妹みたいなものさ。それに…………」
ココは言葉を切り、視線を落とした。それから苦笑する。
「あの子やカナタが生きていたら、こんな暴挙は許さないよ。絶対に止めるはずだ」
死。
それが為政者たちに起こったとしか思えなかった。今のホープキングダムは、明らかにココが知る姿とは異なっていた。
「ココ……」
「とにかく、僕はシャンティアに行くよ。交渉が決裂したら、その時は後を任せる」
ナッツは険しい表情で押し黙った。両手で顔を覆う。苦悩の滲む声が漏れた。
「どうしてなんだ……なぜ、こんなことに」
「ナッツ……」
「俺たちは今までずっと平和だったじゃないか……っ、なのに……っ!」
ココはナッツの肩を抱く。親友の苦しみを分かち合うように。それから、静かに口を開いた。
「他に選択肢はない。倒しても倒しても、あの『ゼツボーグ』は現れる。既に戦線は崩壊しているし、敵は次々と国民を拉致していく。このままじゃ世界中が蹂躙されてしまう。そうなる前に、なんとかしなければならないんだ……」
「ちくしょう……っ、ちくしょぉぉ……っ!!!」
悔しさに身悶えする親友を、ココは突き放した。後ずさったナッツに、すっと右手の指を突きつける。
「……これは決定だ。王としての。パルミエ王国は、シャンティア連合共和国へ安全保障条約の締結を要請し、『ギードラの化身』シャロン女王に救援を求める」
◆◆◆
シャンティア連合共和国、外縁部。旧ラビリンス時代に資源の採掘基地とされ、今はぺんぺん草も生えない荒野となっている。
そんな場所に、戦いのゴングが鳴った。
『ナァケワメェエエエエケッ!』
『ゼェェェェェッッボォグッ!』
シャンティアの主力はナケワメーケ。ホープキングダムの主力はゼツボーグ。合わせて1万を超える怪物たちが、一斉に雄叫びを上げた。
大地を揺るがすほどの轟音に、黒い戦闘服姿のドリームは思わず耳を押さえた。
「もう! うるさいなぁっ!」
言っても仕方がない。ドリームから見て左右に10km、前に1km。それほどの範囲で、ゼツボーグとナケワメーケがひしめき合っているのだ。
太陽の光が怪物たちを照りつけ、そのシルエットをくっきりと浮かび上がらせていた。
ナケワメーケの姿は、千差万別。鳥型、戦車型、スピーカー型、バイク型、人魚型など、多種多様の個体がいる。それが何千と集まっているのだから、まさに圧巻であった。
対するゼツボーグは、まるで没個性だ。どれも同じ見た目をしている。2mほどの人型で、頭は南京錠にも似ている。内部のモノアイには、赤々とした光が灯っていた。それぞれが異なる武器を握っているのが、唯一特徴と言えるかもしれない。
「静かにしなさい、ドリーム。私が制御をミスったら、ナケワメーケに頭から噛じられるわよ」
そう言ったのは、軍服姿のイースだ。彼女は百を超えるナケワメーケを一人で制御している。旧ラビリンス幹部の面目躍如というところか。この場にはいないが、彼女の元同僚であるサウラーやウエスターという男たちも戦場にいるらしい。
全面戦争であった。侵略を繰り返すホープキングダムは、ついにシャンティア連合共和国にも牙を剥いたのである。ドリームとイースは今、最前線にいるのだ。
開戦。大地を揺るがすナケワメーケたちの足音が響き渡る。ナケワメーケたちは、嵐のようにゼツボーグ軍団に襲いかかった。
爆音、轟音、破裂音。
数の暴力である。ゼツボーグの数が減らない。いや、増えている。一体倒す間に、二体増えている。
イースの苛立った声が聞こえる。
「事前の情報通りね! 夏場の蚊みたいにうじゃうじゃ湧いてきて、鬱陶しいったらないわ!」
戦いの天秤は、徐々に傾いていく。ナケワメーケの攻撃が二体のゼツボーグを吹き飛ばす間、五体のゼツボーグが三体のナケワメーケを破壊する。シャンティア側に勝ち目はない。
かに思われた。
『uwalalalalalallala────!』
言葉に表せないような、苦悶の呻きが戦場にこだまする。それと共に、ゼツボーグが数十体、まとめて吹き飛んだ。
ナケワメーケの群れから、突如として巨大な影が飛び出したのだ。身長15m、全幅6m。真っ黒な巨人が、その剛腕を振り回すたびに、数十のゼツボーグたちが宙を舞う。
ドリームは目を丸くした。
「す……すごくデカい! すごく強い! あれが『ナキサケーベ』?!」
「もう……何をしていた! ナキサケーベよ、愚かなホープキングダムに恐怖と絶望を与えるのだ!」
『aaahhhahahahaha…………!!』
苦悶の呻きは、ナキサケーベの咆哮だ。
黒い巨人の頭部にある、黄色い単眼が光った。その巨体に似合わぬ速度で、ナキサケーベは駆ける。
風を切って疾走しながら、左右の拳を繰り出す。ゼツボーグが何十体も巻き込まれ、空中を舞いながら粉々に砕け散っていく。
「あははははは! すごい! これなら勝てるかも!」
ドリームは大声で笑った。イースはムッとした様子で振り返る。
「調子に乗るんじゃないわよ。いくらナキサケーベが強くても、アンタの仕事がなくなるわけじゃないのよ」
ナキサケーベは強い。ただし、数十人の召喚者を必要とする。加えて活動時間も短い。
それは、召喚者に苦痛を与えて精神エネルギーを吸い取るという特性ゆえ。一人で召喚すれば最悪死に至るという、ある意味では欠陥兵器とも言える代物なのだ。
「分かってるわ。長持ちしないナキサケーベが力尽きる前に、ゼツボーグの召喚者を倒せばいいんでしょ?」
ドリームは、ステップを踏んでウォーミングアップを始めた。戦闘服のミニスカートが風になびき、ブーツの底が地面の砂利を踏み砕いた。
不敵に笑う。
「そういうことよ。ちゃんと分かってるなら、いいけど」
「ちゃんと倒してくるわよ。またイースとキスしたいし」
「……ふん。あんなもの、キスとは言えないわ。ただのスキンシップよ」
「でも、舌だって絡ませたじゃない。私、まだ忘れられなくてさ……」
舌なめずりして微笑むと、イースが顔を赤く染めて睨みつけてきた。ドリームはにこやかに笑う。今やイースは、ドリームにとって『大好きな人』だ。
「分かってるわよ。女の子同士はノーカン、ノーカン。ファーストキスは大好きな男の子にあげるんでしょ?」
「う、うるさい……っ! そんなことはどうでもいいのよ! ほら、さっさと行きなさい!」
「はいは〜い」
ドリームは笑って駆け出した。目指す敵は、はるか前方。敵陣の真っ只中。地面を蹴り、跳躍。さらに近くのナケワメーケを踏み台にする。
『ナァァァァァッ!!』
ナケワメーケは両腕をカタパルトにして、ドリームを空高く飛翔させた。
10m、100m、1000m、高度はぐんぐん上がっていく。
気づけば、雲の上だ。戦場はミニチュアのようだった。
ドリームは地上を見下ろす。眼下では、今もなお戦闘が続いている。ナケワメーケが数を減らし、ゼツボーグが増え続けている。ナキサケーベの投入により一度は優勢を取り戻した。だがゼツボーグは際限なく現れ続ける。いずれ逆転されるだろう。
ドリームは急降下を始めた。エネルギーを放出し、重力に何倍する加速度での猛進だ。顔が歪む。
(男の子には見せられない顔だよね、これ)
だが、耐える。敗北すれば、その男の子も命が危ない。何としても召喚者を倒し、シャンティアを守らなければ。
(また、イースとユージとキスしたいもん……!)
ドリームは両手を広げた。胸のクリスタルが輝き、右手にエネルギーが収束していく。
空気の流れに抗するように、大声を張り上げた。
「増え続ける、そのっ、中心にいぃぃぃ! 敵はぁぁっ! いるはずっ!」
放たれたのは、連続エネルギー弾。一発一発の威力は抑えめ、しかし連射性と拡散性に富んでいる。それが、数百発。ゼツボーグが増加する中心を目がけて、流星群のように突き進む。
─────着弾。着弾。爆発。爆発。
連続的に爆発が起こった。ゼツボーグの密集地帯に爆煙が立ち込める。と、ある場所にまるで台風の目のような空白が生まれた。
ドリームは、ニヤリと笑った。
「見つけた……防御フィールドね!」
台風の目に向けて、ドリームは突撃する。その先にいるのは、フィールドに包まれた一人の男。男は、驚愕の表情でこちらを見上げた。
「な……っ!?」
「はあああっ!!」
ドリームは、防御フィールドを思い切り蹴りつけた。落下の勢いとキック力を加えた一撃である。防御フィールドがガラスの割れるような音を立てて砕けた。
「くっ……!!」
男が顔を歪めた。顔色の悪い、痩せぎすの男。どうやらかなり消耗しているらしい。
無理もない。この男はたった一人で、千を超えるゼツボーグたちを呼び出し続けていたのだから。
「これ以上は許さないよ……っ!!」
「ちっ……!」
着地の衝撃に踏ん張ると、男の舌打ちが聞こえた気がした。同時に、右腕が跳ね上がる。
その手から放たれた怪光弾を、ドリームは片手ではねのけた。背後で爆炎が上がる。
「げぇっ……」
「これでおしまいだよっ!!」
ドリームは、男の顔面に蹴りを入れた。鈍い音がして、男の首があらぬ方向に曲がる。
そのまま男の身体は吹っ飛び、背後のゼツボーグたちを巻き添えにして地面を転がった。
「……ふぅ。お仕事完了っと」
ドリームは一息つくと、周囲を見渡した。ナケワメーケとゼツボーグが入り乱れ、乱戦となっている。召喚者を倒したことで、戦況は優位に傾いていくはずだ。
「もしもし、イース? 召喚者は倒したよ。……もしもし?」
通じない。ドリームは眉をひそめる。腕時計型の通信機は最新型だ。電波障害など起こりえないはずである。
「ヤバ……。イースに何かあったんじゃ……?」
敵がこちらと同じ戦術を考えないとは限らない。イースたち召喚者を守りきらなければ、ドリームの活躍も無意味だ。
「待ってて、イース。すぐ行くから」
ドリームは駆け出す。戦いの天秤を傾けるため、さらなる強敵を打倒するために。
◆◆◆
『ナァーケワメーケ!』
『ナケワメーケ!』
『ナケワメーケ!』
『ナケワメーケ!』
護衛のナケワメーケが、イースの周りで円陣を組む。その数は十体。イースは、その中央に立つと、小さく息を吐いた。
「……そろそろね」
イースは呟いた。視線の先で、ナキサケーベが力尽きようとしていた。いくら強くとも、ナキサケーベの召喚時間は限られている。あと数秒といったところか。
好機と見たのか、ゼツボーグたちがアリのように群がっていく。
イースは襟元の通信機に告げた。
「こちらイース。もう限界よ、自爆させなさい」
『了解した』
通信の相手は、ナキサケーベを喚び出した後方部隊だ。彼らは、苦痛に耐えてナキサケーベに精神エネルギーを注いでいた。だが、それももう終わりだ。
次の瞬間、ナキサケーベが苦悶の雄叫びを上げる。そして、はじけ飛んだ。
『ualalalalalala……!』
強烈な閃光。爆炎と衝撃波。多数のゼツボーグどもが粉々になって吹き飛んだ。
ナケワメーケ達がイースの盾になる。イース自身も、肉体を強化する赤いフィールドで自分を包む。はためく髪を抑えながら呟いた。
「よく戦った、ナキサケーベ。お前は使命を立派に果たしたのだ」
想定内の出来事だ。限界が来たら自爆させる前提で設計されている。
とは言え、感傷的な気分もある。戦場で共に戦えば、たとえ兵器であっても感情移入してしまうものだ。特にメビウスの洗脳が解けてからは、悲しむ兵が増えて軍でも問題になっていた。
「…………」
だが、感傷に浸るのはここまでだ。まだドリームから連絡がない。敵のど真ん中に飛び込んだのだ。最悪の事態だってあり得る。
イースは通信機を起動させた。
「イースよ。戦況は?」
『ご報告します。敵、ゼツボーグの増加は停止。既に残存兵力の掃討に移行しています。また、ドリームが召喚者を撃破しました』
イースは口元に笑みを浮かべる。作戦成功だ。
「そうか。ならばいい。ドリームはどうしている」
『それが、消息不明です。恐らくゼツボーグと交戦中と思われますが、位置を特定できません』
イースは目を見開いた。
ドリームは強い。ナケワメーケよりも、ゼツボーグよりも。ひょっとしたらナキサケーベにも勝てるかもしれない。だが、無敵ではない。
「もう、世話の焼ける子ね!」
そう言って、イースが鳥型ナケワメーケに飛び乗った時だった。
『緊急警報! 緊急警報! 敵が接近しています! 総員、警戒態勢に入ってください! 繰り返します! 敵が接近中! 総員、警戒体制に入ってください!!』
「何だと!?」
『あ……! イース様、敵、上空! 急降下! 高度100m! 数1! 来ます!!』
「ちっ……!!」
イースはナケワメーケの背を蹴った。空中で一回転して着地する。
『ナァァケ……!?』
ナケワメーケが絶叫する。翼を裂かれ、たたき伏せられてしまった。
「何者……!?」
イースは身構える。砂煙の向こうから現れたのは、全身妙に刺々しい一人の男。
「てめぇがシャンティア総統の愛人、イースだな? 会いたかったぜ」
「……」
「おいおい、だんまりかよ? 寂しいぜぇ」
男はわざとらしく肩をすくめた。紫色のジャケット、鋲付きのベルトに革製のブーツ。顔には派手なメイク。胸元には、錠前が取り付けられていた。
「まぁ、そんなに怖がらなくてもいいぜ? 俺の名はクローズ。ディスダークの三銃士だぜ」
「ディス……ダーク……?」
イースは眉根を寄せた。人名か。組織名か。聞いたことがない。
男はニヤリと笑うと、イースを指さした。
「難しく考える必要はねえぜ? いま大事なのは、お前に夢があるってことだぜ。総統の子供を産むっていう、くだらねえ夢がなぁ」
「くだ……下らないだと」
「そうさ! 女に生まれたからって、男のために子供産んで幸せになれると思ってんのか? 馬鹿だぜ、テメェ」
クローズは笑う。心底見下したような笑い方だ。
イースは歯ぎしりした。殺意が溢れる。心を覗き込まれたような不快感。この男を生かしてはおけない。
「殺せ、ナケワメーケ! その勘違い男を八つ裂きに……!!」
「遅いぜ! テメエの夢を見せな!」
クローズの右手が、まっすぐイースを指差す。瞬間、イースの心に穴が空いた。
(な……な……?!)
穴が空いた、としか表現のしようがない。肉体が言うことを聞かなくなり、猛烈な喪失感に襲われる。脳裏に映る光景が、唐突に切り替わる。
どこかの屋敷の中。豪奢な家具に彩られた部屋で、豪華なソファに座っている。
(私……何を……?)
イースは自分の手を見た。真っ白な細い腕。左手の薬指には、指輪が光っている。
(ああ─────ユージがくれた結婚指輪だ。結婚した時、二人で選んだものだわ……。あの日のことを、今でも鮮明に覚えている……。夢がかなった日を……)
そして。気がつくと、イースの腕には赤子が抱かれていた。明るい茶色の髪に、赤い瞳の元気な女の子だ。イースはその髪を優しく撫でる。愛おしくてたまらない。
(ああ……。この子は私の宝物だ。ずっと大切に育てよう。ユージとの愛の結晶だもの……)
幸福だった。何しろ、イースの心は夢の中に浮かんでいるのだから。
「あ……あはは……ユージ……♡」
荒野の戦場で、呆然と立ちすくむイース。ナケワメーケ達も硬直している。
クローズが悠然と近づいてくる。
「おぉ、すげえすげえ。総統閣下との甘い恋、気持ちいいセックス、幸せな家族! ハハハ、反吐が出るような夢と希望のパレードだ!」
クローズは嘲笑う。
イースは反応できない。ただ、自分の頭の中に響く声を聞いているだけだ。
私はユージの妻、イース。彼は素晴らしい人だ。いつも一緒にいてくれて、愛してくれて、私のわがままも聞いてくれる。彼のいない人生なんて考えられない。私はユージの妻、イース。私はユージの妻、イース。私はユージの妻……私は……
「その夢、絶望の檻に閉じ込めてやるよ。『クローズ・ユア・ドリーム』……!」
クローズが両手を広げる。胸元の錠前が、独りでに外れた。
「行け、ゼツボーグ!」
そう、この錠前こそ、ゼツボーグの本体なのだ。
どこからともなく現れた檻が、イースの体を捕らえた。ゼツボーグの錠前が、その檻を閉じてしまう。
『ゼェェェェツボォォォォグ!』
錠前は、一瞬にして巨大化した。体が生える。直径10mはあろうかというリング状の胴体、全周の噴射口、頭部の鍵穴から覗くモノアイ。
空を飛ぶ、指輪型のゼツボーグだった。
◆◆◆
「イースゥッ!!」
ドリームは、空中でその光景を見ていた。
パンクロッカー風の男に、イースが囚われるのを。続いて現れた、指輪型のゼツボーグを。
彼女は、間に合わなかったのだ。
◆◆◆
ユージは空を飛んでいた。
正確には、飛行する「彼女」に抱きかかえられている。
「もっと飛ばせないのか!? もっと飛ばせ!」
大声で叫ぶ。だが「彼女」は冷静だ。そうであるように作られたのだから。淡々と答える。
「これ以上速度を出せば、お前が耐えられない。合成人間とは言え、所詮は生物だ。私とは構造が違う」
ユージは舌打ちする。確かにそうだ。しかし。
「イース様が捕らえられてるっていうのに!! このままじゃ、イース様に何かあったら……」
「お前は総統でありながら、私情のためにその身を傷つけるのか? それは許されないことだろう」
即答されて、ユージは唇を噛んだ。正論だ。何も言い返せない。
「彼女」は紺色の瞳でユージを見つめる。値踏みするように。
「事態を打開できると言うから、足手まといのお前を運んでいるのだ。そこに私情を挟むことは適切ではない。作戦遂行のため、最善を尽くすべきだ」
そう言って、「彼女」はユージの頭を抱きかかえた。自分の胸元に引き寄せ、ユージの顔を押し付ける。
黒いワンピース越しに、柔らかさが伝わってくる。だが体温はない。心音もない。心臓も血液も備わっていないからだ。
「う……」
「落ち着いたか? 人間はこのようにすれば落ち着く。私にはそうプログラムされている」
「…………ああ。ごめん。いや、ありがとう」
「礼は不要だ。私はダークプリキュア。お前とシャンティアのために作られた、究極のプリキュアなのだから」
(続く)