※この作品はR-18です。

プリキュアじゃない彼女たちと世界を征服する話   作:a-su

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 第1条:ダークプリキュアは、総統ユージに危害を与えてはならない。また、その危険を看過することによって総統ユージに危害を及ぼしてはならない。
 第2条:ダークプリキュアは、総統ユージに与えられた命令に服従しなければならない。ただし、与えられた命令が第1条に反する場合はこの限りでない。
 第3条:ダークプリキュアは、前掲第1条及び第2条に反する恐れがない限り、自己を守らなければならない。なお、総統ユージに危害を加えられた場合を除くものとする。
 第4条:ダークプリキュアは、総統ユージの生命を最優先とし、これを顧みないあらゆる命令を排除することができる。
 第5条:ダークプリキュアは、あらゆる生命体の平和を破壊する者を、自らの判断で抹殺することができる。
 第6条:子どもの夢を奪い、その心を傷つけた罪は特に重い。


3/4 (エロ無し)

 

『ゼツボォォグ!』

 

 すさまじい勢いで、指輪型ゼツボーグが宙を駆け抜けた。ソニックブームが巻き起こり、シャンティア軍のナケワメーケが次々と破壊されていく。

 

「くうぅぅうっ!」

 

 ドリームは地面に転がった。幸い手傷はないが、手詰まりだ。ゼツボーグはゆっくりと旋回し、こちらに向き直る。

 

(強い……! 他のゼツボーグと比べ物にならない!)

 

 正直、高をくくっていた。ナケワメーケを基準に考えれば、ドリームはゼツボーグより遥かに強いはずだ。だが、この個体はまるで次元が違う。

 とにかく速い。おまけに回転しながら飛行しているので、どこを叩けばいいのかわからない。これがゼツボーグの本当の力なのか。

 

「……ナメてたわね。正直、反省したわ」

 

 

 加えて、あのクローズという男だ。ドリームと互角か、ひょっとしたら強いかもしれない。襲いかかるナケワメーケを、次々と蹴散らしていく。しかも、そのスピードは衰えることがない。

 

(まずいわ……!)

 

 焦るドリーム。このままでは、いずれ押し切られる。そしてゼツボーグは、容赦なくシャンティア軍に襲いかかるだろう。そうなれば全滅……いや、都市まで侵入を許してしまうかもしれない。まだクローズの目的も正体もわかっていないのに。

 

 せめてイースが正気なら、ナケワメーケ達と連携して少しはマシに戦えるだろう。だが、彼女は空中に浮かぶオリに囚われたままだ。不気味な紫色に光るオリは、まるで悪夢のようだった。

 

「どうだ? 強い夢から作られたゼツボーグは。強いだろう?」

 

「夢から作られた? どういう意味なの」

 

 クローズはニヤリと笑った。その笑みは、どこか誇らしげにさえ見える。

 

「夢と絶望は、表と裏なんだぜ。だから夢に鍵をかけてやれば、心から絶望が溢れ出る。絶望のエネルギーを吐き出す電池になるのさ」

 

 そう言って、眠り続けるイースを指差す。

 

「さすがは総統閣下の愛人だぜ。甘くてトロケた、いい夢だ。ゼツボーグの動力源として、最高の素材だぜ」

 

 イースは死んだように眠っている。ドリームは歯噛みした。こいつは許せない。イースの夢。およそ想像はつく。ユージとの愛を成就させた、幸せな日々。そんなところだろう。それを、電池として利用している言うのだから。

 クローズが笑う。

 

「さぁて、そろそろショータイムだ! 踊れ踊れ踊っちまえ! テメーの夢も絶望の檻に閉じ込めてやるぜ!」

 

 クローズの指先が、まっすぐドリームを指した。ゼツボーグのモノアイが赤く輝く。

 

「誰が……!」

 

 ドリームが構えた瞬間、ゼツボーグが突撃してきた。高速回転しながら、一直線に突っ込んでくる。

 

「────踊るかぁぁぁあああ!」

 

 振りかぶった拳の先が、回転するゼツボーグを捉えた。そのまま叩きつける。轟音が響き渡り、大地が揺れた。

 

「ふんっ…………ぬうぅうーっ!」

 

 拳の先で、火花が散る。ゼツボーグのパワーは、ドリームを上回っていた。速度も十分に乗っている。無謀な激突だ。

 

(だけど負けちゃいけない。私は、キュアドリームのコピーなんだから! イースの夢を守らなくっちゃ!)

 

 だがドリームは、一歩も下がらなかった。イースの事を思うと、自分でも驚くほどの力が湧いてくる。

 火花の輝きが彼女を照らす。摩擦エネルギーで、ゼツボーグの回転速度が徐々に下がっていく。

 

「オイオイ、マジかよ……! こりゃあ、ま(・)る(・)で(・)プ(・)リ(・)キ(・)ュ(・)ア(・)だぜ!」

 

 驚愕するクローズ。ドリームは腕にさらなる力を込める。ゼツボーグの回転が完全に止まった。

 

「はぁぁあああああっ!!」

『ゼツゥゥゥゥ!?』

 

 渾身の力で拳を振り抜く。ゼツボーグは遥か遠くまで吹き飛ばされ、地面を何度もバウンドした末に、ようやく停止した。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……やった……!」

「やるじゃねえか。と言いたいところだがぁ!」

 

 飛翔したクローズが、ドリームの背後に降り立つ。

 

「まだまだ甘ぇんだぜ!!」

「しま……ぐふぅっ!!」

 

 背後から首を絞められる。呼吸ができない。

 

「うぐ、うぐぅうう!!」

 

 必死に抵抗するも、ビクともしない。それどころか、どんどん力が抜けていく。

 

(まずい、このままじゃ……!)

「手加減はしねえぜ。殺せるときに殺しておかないと、後々た(・)た(・)る(・)ってことは、よく知ってるんでなあ!」

 

 首をさらに強く圧迫される。視界が霞む。意識が遠のいていく。

 その時だった。

 

「プリキュア・ダークフォルテウェーブ!」

 

 黒い波動が、クローズを吹き飛ばした。ドリームも地面に転がる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 視界が回る。うまく呼吸できない。喉が潰れてしまったのかもしれない。

 

「大丈夫か? ドリーム。ほら、ゆっくり深呼吸しろ」

 

 ユージの声だ。ドリームはなんとか立ち上がり、声のする方を見た。

 

「ユージ……」

「おっと、無理するなって」

 

 よろけたドリームを、ユージが優しく抱きとめる。頭を撫でると、背中を優しくさすってくれた。

 

「焦るな。ゆっくりと息を吸え。そして吐け。その調子で、もう一度やってみろ」

 

「うん……」

 

 言われた通りにすると、だいぶ楽になった。息をするたびにユージの体臭が鼻腔を満たし、心を落ち着かせる。

 

「よし、いい子だ。いい子は好きだぞ」

 

「ユージ……」

 

 ドリームは、思わず彼の体に手を回して抱きしめた。その体は温かく、力強く、頼もしくて、安心感を与えてくれる。

 遠くで、爆発音が響いていた。クローズと誰かが戦っているのだろうか。

 

「ごめんねユージ、イースが捕まっちゃったの」

 

 ドリームは、クローズに完敗している。けちょんけちょん、だ。自分が情けないと思った。

 ユージはドリームの頭を撫でてくれる。

 

「ドリームはよく頑張ったよ。おかげで、俺が飛んでくる時間が稼げた」

 

「へ……?」

 

 ドリームはキョトンとした。言っては悪いが、ユージに何ができると言うのだろう。

 

「え、だって……」

 

 ドリームは戦場を確認した。翼を生やしたクローズが、何か、恐ろしく速く飛ぶものと戦闘を繰り広げている。

 そしてイースは、宙に浮かぶオリに閉じ込められたまま。護衛のナケワメーケが周りを取り囲んでいるが、手出しできないでいるようだ。

 

「ユージは戦えないじゃない。元々潜入用の合成人間なんでしょう? こんなところにいても意味なんて……」

 

「ちょっと違う。俺は潜入用じゃなくて、鍵(・)の(・)合(・)成(・)人(・)間(・)なんだ」

 

 いかにも自信ありげに言うユージ。彼は、すっとイースの檻を指さした。正確には、それを閉ざす鍵穴を。

 

「悪いけど、あそこまで連れて行ってくれ。イース様のために鍵を開けるのは、昔から俺の仕事なんだ」

 

 

 ◆◆◆

 

「うおっ、おっ、おおおお!?」

 

 クローズは、空中で振り回されていた。ジャイアントスイングだ。両足を掴まれ、縦横無尽に振り回されている。

 

「ハアァァァァッ!!」

「グハアアッ!!?」

 

 とてつもない勢いで地面に叩きつけられた。肺の中の空気が全て押し出される。

 強い。ただひたすらに強い。

 

「うう、ぐおぉ……!」

 

 速さはほぼ互角、しかしパワーが違う。純粋な出力で、圧倒的に負けていた。

 敵──この女は、一体どういうカラクリでこれほどの力を得ているのか。立ち上がろうとするが、すかさず強かに蹴り飛ばされた。

 

「くっそがああ! 舐めんじゃねぇぜぇ!!」

 

 怒りに任せて突撃する。ドリルのように全身を回転させての突進だ。並の相手ならひとたまりもない。

 だが、女は悠然と翼を広げた。片方だけだが、コウモリのような黒い翼だ。

 

「うおおおおおーっ!」

「遅い……!」

 

 女は、正面から突撃を受け止めて見せた。高速回転をものともせず、クローズの首を鷲掴みにする。

 

「ぐううう! てめぇ……! どんな力してんだ! ぐぅうっ!」

「ふんっ!」

 

 そのまま女は、クローズの巨体を片手一本で持ち上げた。まるで人形を扱うように、軽々と。

 

「命が惜しければ、貴様の目的を話せ。なぜシャンティアに侵攻した。なぜイースを捕らえた。そして、お前たちの主人は誰だ」

 

「誰が……! そんなこと……うう!」

 

 クローズも負けてはいない。両腕を伸ばし、女の首を締め上げる。細い首だ、簡単に折れるだろう。

 

「オラァ! どうだ! 苦しいかよ!」

 

「……」

 

 だが、女は眉一つ動かさない。そこでようやく、クローズは気づいた。

 

「息してねえ……?! て、てめえ……くそ、死ね、死ね死ねぇ!!」

 

「死? 私に死はない。苦しみもない。私は『ダークプリキュア』。究極のプリキュアなのだから」

 

 そう言いながら、ダークプリキュアは拳を振るい始める。宙づりのままボディーブローを何度も打ち込まれた。ついには、クローズの口から霧のように血が吹き出る。

 

「ダーク、プリキュアだと……へ……へへ……」

 

 血と共に、笑い声を出してしまう。ダークプリキュアはさらに拳を打ち込んできた。

 

「がふっ!」

 

「何を笑う。もしや、苦痛に耐えかねて発狂したか」

 

「はははは……笑わせるぜ……てめえみたいな、作り物の……夢も希望も知らねえような奴がプリキュアだと!? ヘソが茶を沸かすってのはこういう事を言うんだろうなあ! ハハハハハ!」

 

 クローズは血を吐きながらも嘲笑う。ダークプリキュアは無表情のままだ。右目を固くつぶり、左目だけでクローズを見ている。

 

「何が言いたい」

 

「プリキュアってのは、夢や希望のために必死で生きてるもんなんだぜ。生きてもない、てめぇにゃあ無理だ! ぜってぇなれねえぜ!」

 

 一瞬だけ、ダークプリキュアの瞳が揺れた。眼差しが、妖しい光を帯びる。

 

「違う」

「あぁ?」

「なるのではない。私は既に完成しているのだ。ダークプリキュアという、完璧な存在だ」

 

 言うが早いか、ダークプリキュアはクローズの右腕をつかみ、力任せに握りつぶした。

 

「あぎゃあぁぁぁぁ!!」

「もう一度聞くぞ。貴様の目的を話せ。なぜシャンティアに侵攻した。なぜイースを捕らえた。お前たちの主人は誰だ」

 

 血まみれの手を押さえて悶えるクローズ。皮膚から骨が突き出ている。

 恐るべき女はそれを無表情に見上げていた。

 

「へ、へへへ……目的なんかねえぜ……あの女を人質にとって、シャンティアのど真ん中に突撃して……。そして、全ての人間を絶望の虜にしてやるのさ……」

 

「そうか。ならば主人は誰だ。ホープキングダムの王族か。それとも、お前のような怪物か」

 

 ダークプリキュアは、再びクローズの体を持ち上げる。もはや抵抗もままならない。

 だが、彼の心は死んでいなかった。

 

「教えるかよ。殺したきゃあ殺せよ」

「いいだろう」

 

 まるで小石のように、指輪型ゼツボーグに向けて投げ飛ばされる。激突の衝撃で、クローズは体がバラバラになるような激痛を味わった。

 

「がっ…………!」

「闇の力よ集え。ダークタクト」

 

 ダークプリキュアはエネルギーを集めて武器を形成する。短剣のような、黒いタクトだ。

 

「プリキュア・ダークパワーフォルテッシモ!」

 

 その全身が闇のエネルギーに包まれ、赤い弾丸と化した。そして一直線にクローズに突進してくる。その速さは、もはや目で追うことなど不可能だ。

 

「あ……ばよ!」

 

 寸前。クローズは、転移ゲートを開くことに成功した。背中から飲み込まれるように、その場から消え去る。

 

『ゼツボォォォグゥ?!』

 

 代わりに、ゼツボーグが破壊の的となった。凄まじい速度で飛来するダークプリキュア。勢いを全く殺すことなくゼツボーグに激突し、轟音と衝撃波が周囲に撒き散らされる。

 ゼツボーグは、粉々に砕け散っていた。

 

 ◆◆◆

 

「逃げられたか」

 

 ダークプリキュアは、淡々と結果だけを述べる。

 彼女は、イースが囚われている檻へ視線を向けた。ちょうど、ユージが檻の鍵穴へと飲みこまれていくところだ。

 ドリームが、そばで呆然と見ている。

 

「問題はない。私と総統は、作戦を完遂した」

 

 ユージが完全に消えた後、ダークプリキュアは檻に向かって歩いていく。

 

(プリキュアってのは、夢や希望のために必死で生きてるもんなんだぜ。生きてもない、てめぇにゃあ無理だ! ぜってぇなれねえぜ!)

 

 クローズの嘲笑を思い出して、ダークプリキュアは奥歯をかみしめた。彼女はシャンティアが生み出した人造プリキュアだ。超古代から伝えられた伝説の戦士(プリキュア)の欠片と、最新の科学技術が融合した最強の戦闘兵器。それが彼女である。

 

 吾知らず、ドリームを睨みつけた。彼女のことは、何とも思っていない。あれはプリキュアのコピーに過ぎない。だから、完璧なプリキュアである自分が気にするような存在ではない。

 

 そのはずだ。だが、それでも、ダークプリキュアはドリームが大嫌いだった。

 

「……」

 

「あ、あなたがダークプリキュア……?」

 

 ドリームは、明らかに警戒していた。イースの檻を守るように身構えている。ダークプリキュアは、自分が何者かも告げず、一方的に口を開いた。

 

「お前はプリキュアか、『ダークドリーム』」

 

「は、はあ? なんなの? 誰がダークよ。誰だって聞いてるのよ!」

 

「お前の知ったことか。お前はプリキュアかと聞いているのだ。答えろ!」

 

 声を荒げてしまう。しかし、ドリームは臆することなく言い返してきた。

 

「不愉快なやつ…………! そんなことも分からないの!? 私はキュアドリームのコピー! この世界でたった一人のプリキュアよ! これで満足!?」

 

「違う!」

 

 気づくと、ダークプリキュアはドリームの首を絞めていた。命令にはない行動をしている。自覚はあったが、止めることはできなかった。

 

「あっ…………がっ、ぐっ」

 

 ドリームは苦しそうに喘ぐ。それを眺めていると、心の中にモヤのようなものが生まれた。不快感がこみ上げてくる。突き飛ばすようにして解放すると、ドリームは咳き込みながら信じられないものを見る目つきをした。

 

「げほっ! ごほ! な……何のつもり! さっき聞いたわ、あなたはユージのために作られた人造人間なんでしょう! 私にこんな事して、ユージが悲しむとは思わないの!?」

「……私は人造人間などではない」

「嘘つくんじゃないわよ!」

「嘘ではない!」

 

 一歩、歩み寄る。ドリームは怯えたように一歩退いた。

 

「何なの……あんた……」

「私はプリキュア! この国を守るために作られた、究極のプリキュアだ!」

 

 殴りかかる。ドリームは咄嵯に身を引いたが、こちらの方が速い。拳が彼女の顔面を捉えた。

 

「っ…………このおっ!」

 

 拳の応酬が始まる。ダークプリキュアの動きは素早く正確だ。補助電子頭脳が、瞬時に最適の行動パターンを算出し、実行する。

 

 相手も反応は良いが、こちらの速さと早さに着いてこれていない。次第に追い詰めていく。ダークプリキュアの攻撃が、腹に突き刺さった。

 

「ぐっ…………!!!」

「どうだ! これが究極のプリキュアだ! 貴様など足元にも及ばんぞ!」

 

 さらに追撃を加える。拳、蹴り、肘打ち、膝蹴りと、あらゆる打撃技を繰り出した。ドリームは、なすすべもなく翻弄されている。

 

「ハァ……ハッ……ハアッ……!」

 

 完全にグロッキーだ。全身からポタポタと汗を流して、肩で息をしている。対して、ダークプリキュアは呼吸そのものを持たない。

 アドバンテージは歴然だった。自分はドリームより優秀なのだ。

 

「その程度か、『ダークドリーム』よ。それでシャンティアを守るつもりなのか」

「くっ……!」

 

 ドリームは、憎悪に満ちた目を向けてきた。

 

「私と同じプリキュアでありながら、その程度の力しか持たないのか。ならば、やはり。プリキュアは、私一人で十分だ!」

 

「……そんなこと……ない!」

 

 ドリームは、全身からエネルギーを放出した。ブーストして、殴りかかってくる。

 だが、テレフォンパンチだ。片手で受け止め、そのまま握り潰すつもりで力を込める。

 

「ぐうううっ……!!」

 

 大嫌いだ。いや、憎い。その理由が今分かった。同じプリキュアとして、自分の存在理由を脅かす敵。それこそが、目の前のドリームなのだ。

 

「消えされ、粗悪品よ。お前には何の価値も無い。どう言おうが、貴様にはプリキュアの資格など無い!」

 

「あぐうっ……ダーク……プリキュア……!!」

 

 

 ◆◆◆

 

 イースは、夢の中にいた。ユージの妻として、城のような屋敷で幸せに暮らし、愛しい娘もいる。誰もが羨む、最高の生活だ。

 

「ユ、ユージ……!」

 

 夢のユージは、イースを強く抱きしめる。それは、愛情の証だ。

 

「イース、愛している。俺には君しかいない。君がいれば何もいらない」

 

「うれ、嬉しい。わたしも、ユージが大好き!」

 

〈ユージ〉は、優しく微笑みかける。現実のユージとは違う、大人の男性だ。

 

「今日はずっと一緒にいてあげよう。君は俺の女だ」

 

「うん、好き。大好き!」

 

「もっと言って」

 

「ユージ、だいすき! ユージ、ユージ! ゆーじぃ!」

 

〈ユージ〉は満足げにイースに口づけした。イースは例えようもない幸福を感じていた。

 ゆっくりと服を脱がせてもらう。イースもそれに合わせて自ら脱いでいった。下着も全て取り払うと、二人は生まれたままの姿で抱き合った。性器が結合し、イースには快楽と幸福がもたらされる。

 

「ユージ! ああ、私だけの旦那様! すごい、あっ、んっ! あんっ! あぁっ! あぁっ!」

 

「可愛い、かわいい、俺のたった一人のお嫁さん。ほら、ここも好きだろ?」

 

「あ、だめぇ…………。お、奥まで届いてる……ひぅっ!」

 

 もっとも、これは夢だ。イースは奥を突かれる感触を知らない。だから、薄ぼんやりとした「気持ちいい」という感覚があるだけだ。

 

「うっ……出すよ、イース……!」

 

「あ、来て! 出して、全部、私の中に……!」

 

 その瞬間、子宮内に熱が広がる。ような気がした。

〈ユージ〉が腰を引くと、秘所からは白濁液があふれ出る。その味はよく知っているから、現実ではあり得ないはずなのに、まるで本当に出されたかのような錯覚に陥ってしまう。

 

「……これで子供ができるかな」

 

「……できるといいね」

 

 そんな事を言い合って、お互いを確かめ合うように見つめあう。それからキスをした。キスの感覚はドリームが教えてくれた。舌と唾液の絡み合いが心地よい。ユージとなら毎日でもしたい。

 

「ふぁ……」

 

 唇が離れると、少し寂しい。〈ユージ〉の首に腕を回し、自分からキスを求める。

 

「ちゅ、ぷぁ……。ゆうじ……ん……」

 

「もう終わりかい? まだまだ時間はあるけど」

 

「ふふふ、焦らないの」

 

〈ユージ〉の胸板に頬ずりしながら、イースは上機嫌だった。セックスをすると、こんなにも心が落ち着くものだろうか。まあ、夢だが。

 

 カチャリ。

 鍵が開く音がした。どこかのドアが開いて、どこかから光が差し込んでくる。

 

「──自分だと分かってても、妬けますね、イース様」

 

 光の中から現れた人影は、イースを見て苦笑していた。

 

「ユージ……?」

 

 そこに立っていたのは、紛れもなくユージだった。イースの知っている、現実のユージだった。

 

「ひゃ…………!」

 

 夢のユージがすっと消えて、ユージの視線に全身がさらされた。慌てて裸を隠す。しかし、遅かった。

 

「でも、ちょっと嬉しいかもです。俺と結婚した夢を見ていたなんて」

 

「な、なぜお前がここにいるの?! この夢には鍵がかけられてて、起きられなくて、それで私は!」

 

 動揺するイースの頭を、ユージは優しくなでた。

 

「前にも言ったじゃないですか。俺はGOP型合成人間、ユージ。美しきイース様のしもべ。どのような鍵でも開いてご覧にいれます。イース様のために…………って」

 

 イースの心臓が高鳴った。目の前にいる男は、確かに自分が知っている彼だ。いつも側にいてくれて、自分を愛してくれている。

 

「あ、う、うん…………お前がどんな鍵でも開けられる事は知ってるけど」

 

 だからと言って、クローズが生み出した鍵まで開けられるとは。

 

「GOP型は、元々ホープキングダムから盗み出した『伝説の鍵』を解析して作られたんです。だから、ゼツボーグに鍵穴が付いていると聞いて、ひょっとしたらって」

 

 ユージは、自慢そうに言った。どちらかと言えば謙虚な彼には珍しいことだ。

 

「そう…………お前の力は十分に分かったわ。私を助けに来てくれた事も」

 

「はい。お任せください。イース様のためなら、いつでもどこでもです。さあ、帰りましょうか」

 

 ユージが手を差し伸べてくる。

 イースは、その手を振り払った。

 

「いやよ」

 

 ぷいっと顔を背ける。そして、自分の体をかき抱くようにして、ベッドの上で丸くなった。

 

「え……」

 

 戸惑うユージを横目に、イースは呟いた。

 

「帰るわけないでしょ」

 

「え、ど、どうしてですか? ドリームも凄く心配してますよ。ジェントル―も、きっとシャロンだって…………」

 

「それよ! いつか言おうと思ってたけど、今言うわ! ここで言うわ! お前、他に女が多すぎるのよ!!」

 

 枕を取って、思い切り投げつける。ボフッと顔に当たる音がした。

 

「ちょっ、いきなり何を!」

「何じゃ無いわよ! 何よお前のハーレムは!! ドリームも! ジェントル―も! よりによって、あのシャロンと結婚までして! お前はいつからそんな女たらしになったのよ!」

 

 ──環境が変わると、心の奥底に秘めていた感情が表面に出てくる事があるらしい。イースは、それを身をもって実感した。今まで抑えてきた分だけ、それは激しく燃え上がる。

 

「なのにどの子もどの子もいい子ばっかり! 私、シャロンが憎くて仕方がなかったけど! 話してみたら、お前のこと好きすぎるのよ! 何よ、あの女! ずるいのよ! 強くて可愛くて一途で! あんな子に、私が勝てる訳無いでしょ!」

 

 イースは涙を我慢しなかった。何しろ夢の中である。現実世界では決して出来ない事をやってやる。

 

「ああ、もう! ううっ……うぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 泣き喚きながら、大の字に寝転がった。イースは全裸である。じたばたと暴れまわると、乳房も尻も揺れまくった。

 

「うぅ、なんで、こんなに、好きなのにぃ! 私も、ずっと、いっしょにいたいのにぃ!」

 

 嗚咽と鼻水をまき散らしながら、駄々っ子のように手足をバタつかせる。その姿は、普段のクールな彼女を知る者なら信じられないだろう。

 だが、ユージだけは違った。イースの傍に座ると、頭を優しく撫でてくれる。

 

「あ…………♡」

 

 それだけで、イースの心は落ち着いた。

 安心感と幸福感に包まれる。

 

「私、やっぱり……ユージが好き……!」

 

「俺もですよ。あなたが好きです。世界で一番」

 

「…………もう覚えたわ。それ、ずるい言い方をするやつでしょう。『でも、シャロンの事も世界で一番好きなんです』って続くんだわ」

 

 口を尖らせて文句を言うイース。ユージは少し驚いたような表情を浮かべた。

 

「よく分かりましたね」

 

「当たり前じゃない」

 

 イースは体を起こし、ユージと向かい合った。

 

「だって、お前はそういう男だもの。子犬っぽく見せて、本当は群れのボスに成りたがっている狼みたいな奴だもの」

 

「ひどい言われようで……」

 

「自覚がないの? 呆れた。でも、それも可愛いと思う。お前は可愛いわ。ユージ」

 

 イースは自分の耳を指差した。ユージもイースの耳に手を触れる。二人の間でしか分からない合図だ。

 

「ユージ……来て……私を安心させて」

 

 イースは自ら足を開いた。

 

(続く)

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