※この作品はR-18です。

プリキュアじゃない彼女たちと世界を征服する話   作:a-su

3 / 56

婦人よ、なぜ泣いているのか。
だれを捜しているのか。



3/4 (エロ無し)

 これは、ユージとシャロンの出会いの話。

 時間は少し遡り、ユージとイースが崩落に巻き込まれた直後のことだ。

 

「うぅ……ここは一体……?」

 

 目を覚ましたユージは、ゆっくりと体を起こした。手が冷たい何かに沈み込んで、バランスを崩しかける。ユージの落下を受け止めたのは、雪だった。

 

「め、迷宮の中に雪……? そんな馬鹿な……」

 

 ユージは混乱しながら立ち上がる。そこは、迷宮の地下に造られた巨大な空洞だった。

 

「そうだ、確か俺達は……」

 

 ユージは思い出したように自分の体をまさぐり始めた。落下の衝撃でどこか怪我をしていないか確認するためだった。

 しかし、体に異常はない。

 

「よかった……どこも壊れていない。まだ、イース様のお役に立てる」

 

 ほっと胸を撫で下ろし、周囲を観察してみる。

 空間を照らす光は、天井ではなく床から発せられていた。数キロ四方はありそうな、広大な空洞である。

 

 地面や壁面は凍りついて、ところどころに氷柱が突き出ている。ユージを受け止めた雪は、氷柱から剥がれ落ちたものだったようだ。

 

「あれは……」

 

 ふと目を凝らせば、大空洞の中心に、うず高く雪が積もっている。

 もしや、イースもあの雪に受け止められたのかもしれない。そう思って近づいて行くが、イースは見当たらない。

 代わりに、雪に包まれた何かがあった。それはまるで……。

 

「でかい棺桶か?」

 

 その棺桶のようなものは、よく見ると横倒しになった直方体であり、上蓋にあたる部分が開いている。

 中を覗き込んでみると、そこには一人の少女が眠っていた。

 

「いや、これは……」

 

 眠っているのではない。死んでいる。

 死因はおそらく凍死だろう。呼吸は完全に止まっており、遺体の表面は霜で覆われ、あちこちの皮膚が裂け出血していた。

 

「まさか、シャンティアの王女なのか。1万2千年前に、この迷宮に閉じ込められたっていう……」

 

 ユージは遺体を検めた。少女は全裸だった。何本ものケーブルが取付けられている。

 察するに、この棺桶は生命維持装置のような物らしい。だが、何かの拍子に機能が停止して少女は凍死し、そのまま棺桶となってしまったようであった。

 

 背丈よりも長い毛髪が、最後の防寒具だったのだろうか。雪のように白い髪をかき抱きながら、棺桶の中に横たわっていた。

 恐ろしい死に方だと思った。だがそれ以上に、哀れみの気持ちを感じていた。

 

「一人ぼっちで死ぬなんて……王女に生まれても、結局は俺のような人間モドキと同じ運命だったんだな。かわいそうだ……」

 

 ユージはそっと膝をつき、彼女の安らぎを願った。

 

 ◆◆◆

 

 ふと見ると、少女の枕元には一冊のノートがあった。

 

「これは、上の壁画と同じ……」

 

 地球と、迫りくる巨大な金色の星、ギードラ。

 だがもっと細かく、写実的に描かれている。

 

 ギードラの上には、無数の怪物たちがいる。

 最も大きいのは、翼を拡げた竜のような怪物。

 ような、というのは、そいつには首が三つあったからだ。

 まるで地球を捕食するかのように、三つの首を持つ巨大生物が迫る様子が描かれている。

 

 そして、金色の星に立ち向かう、六人の戦士たち。それぞれの顔は水滴でも落ちてきたのか、にじんで判別できなかった。

 

(ええと、プ………ア? キュ…………ム?)

 

 ユージも知る文字で、恐らくは戦士の名前が記されている。だが書体が古すぎて、所々が読めなかった。

 

 戦士たちは胸にバラ、背中に蝶々の羽を持っており、それぞれの色を輝かせながら戦っている。

 桃、赤、黄、緑、青、そして紫。

 

 そんな戦士たちを包み込むように、白い翼を広げた4人の天使の姿もある。

 桃、青、黄、そして紫。

 

「……かっこいい」

 

 にじんだ絵が、なぜか芸術には疎いユージの心を揺り動かした。

 少女が描いたと思しき戦士たちを見ていると、なぜだか、勇気づけられるような気持ちになるのだ。

 

 ユージは突き動かされるように周囲を観察し始めた。

 寒い。体の芯まで冷え切ってしまいそうだが、自分の事など今はどうでもいい。

 イースも一緒に落ちたはずなのだから。

 

(放っておけば、イース様も、この王女様みたいに凍死してしまう)

 

 助けなければならない。イースは、ユージにとって最も大切な存在だ。命をかけてでも守るべき女性だ。

 

「イース様……!」

 

 ユージは叫ぶように名前を呼んだ。返事はない。

 

「イース様!! どこにいらっしゃいますか!?」

 

 もう一度呼びかけてみるが、やはり返答はなかった。代わりに、ユージの背後から声がした。

 

『……静かにしていただけませんか』

「イース様ァ!」

『お黙りなさい!』

「はい、申し訳ございませ……?」

 

 はっ、とユージは振り向いた。そこには、先程の棺桶がある。

 

『……やっと気がつきましたか』

 

 棺桶が、話しかけてくる。棺桶にしては、可憐な女の子の声だった。

 

「こ、この棺桶が喋っている……?」

 

『棺桶ではなく、生命維持装置ですが……ええ、そうです。その通り。わたくしはシャロンと申します』

 

 ユージは口を開けたまま固まってしまった。シャロンと言えば、生命維持装置の中で凍死しているシャンティアの王女ではないか。

 

「し、しゃ、シャ、シャロン様ですか? まさか、雪の王国シャンティアの王女、シャロン様? 生きておられたのですか?!」

 

『そうです。今や、脳だけですが……。わたくしをご存知であるからには、この迷宮に妖星ギードラの欠片を狙って来られたのでしょう?』

 

「ギードラの、欠片……」

 

 ユージはごくりと唾を飲み込んだ。それは、イースが探し求めているものだ。

 

「シャロン様……は、その在処をご存じなんですね?」

 

『もちろんです。この迷宮に運び込まれたギードラの欠片は、全てわたくしが回収致しましたから』

 

「えっ……?」

 

 ユージは驚いて言葉を失う。

 

「で、では、宝物庫には……!」

 

『ありません。全て、わたくしの体内に埋め込まれています』

 

「なっ……!」

 

 ユージは絶句した。それでは、イースがメビウスの命令を果たせない。

 

「な、なぜそのような事を!?」

 

『自ら望んだ事です。ギードラの化身となり、いつの日か、シャンティア王国を復興させるために』

 

「そんな……」

 

 ユージは、がっくりとうなだれた。しかしすぐに顔を上げ、食い下がるように言う。

 

「シャロン様……私の主、イース様は、我らが〈ラビリンス〉の偉大なる総統、メビウス様のご命令により、ここに参られました。どうか、我ら〈ラビリンス〉にお力をお貸しください」

 

『ラビリンス……メビウス様のご命令……それはつまり、わたくしをここから連れ出し、わたくしを利用したい、ということでしょうか』

 

 シャロンの声に、軽蔑の響きが混じった。

 

「は、はい。おっしゃる通りで……」

 

『わたくしは、メビウスなどという男を知りません。わたくしは、メビウスなる男の道具ではありません。わたくしはわたくしの意思で行動します。あなたやイースなる者のような操り人形とは違います」

 

 ユージは頭に血が上るのを感じた。聞き捨てならない言葉があった。

 

「イース様は操り人形なんかじゃない!!」

 

『そうですか。なら、これは何ですか』

 

 シャロンの声は、まさに氷のようだった。

 装置が金色に光ったかと思うと、次の瞬間、目の前にイースが現れた。

 

「イース様?!」

 

 力なく倒れるイースを、咄嗟にユージが抱き留める。と、イースの首があらぬ方向にぷらんと揺れた。

 

「あ……え……イース様……?」

 

 ユージは、イースの顔を見た。眼球はぐるりと裏返り、唇は紫を通り越して白くなり、端からあぶくが漏れ出していた。

 どう見ても、死んでいた。

 

『あなたと共にこの大空洞に落下し、首の骨を折ったのです。即死でしたよ』

 

「あ……あ……イース様? ……イース様……イース様ぁああああああ! うああああああ!!!」

 

 ユージは絶叫した。

 

『メビウスとやらの命令で動かされ、何故死ぬのかも分からず、看取る者もなく死んだ。これが操り人形でなくて何なのです』

 

「うううううう」

 

 涙が溢れ出す。悲しみのあまり、嗚咽が止まらない。

 

「うううう……ううううううううう」

 

 ユージの叫びが大空洞に反響する。亡骸にすがり、死の冷たさを感じながら、ユージは泣き続けた。

 

『……泣くのですか。あなたは、涙を流せるのですか。あなたの体は、人間のそれではないはずなのに……』

 

「うう……俺は……」

 

 ユージは答えられなかった。確かに、ユージは純粋な人間ではない。だが、彼は既に、イースへの愛を知ってしまった。その気持ちだけは、誰にも否定できない。

 

『……あなたは先程、わたくしのために膝を折って、祈ってくれましたね。操り人形などと、言うべきではありませんでした。ご無礼を謝罪いたします』

 

 シャロンは、落ち着いた声で言った。

 

『お名前を聞かせていただけますか。あなたが何者か、わたくしは知りたいのです』

 

「ううっ……う………………俺の名は、ユージ。ラビリンスの美しき幹部、イース様のしもべ……」

 

 ユージの声は震えていた。

 

「国民番号はGOP-9362061ですが、ユージ……それが俺の名です。ユージと呼んで下さい……」

 

『ユージ……。ユージさん……。ふふ……♪ 人の名前を聞いたのは、1万2千年振りです。まるで、シャンティアに帰ってきたかのよう……♪』

 

 感情が籠もったシャロンの声は、音楽のようにすべすべとした美しい声音だった。ユージは涙を流したまま、彼女の声に聞き入っていた。

 

『1万2千年……ふふふ……♪ このまま、一人で死んでいくのだと思っていましたが……。わたくしの心にも、まだ希望という花が残っていたのですね……♪』

 

 ユージは、何も言えないまま、イースの亡骸を抱いていた。シャロンの声が、歌うように囁いてくる。

 

『ユージさん。もし、そ(・)れ(・)を生き返らせる事ができると言ったら、どうされますか』

 

「……え?」

 

 ユージは耳を疑った。

 

「ほ、本当ですか? イース様を、蘇らせてくれるんですか?」

『はい』

「で、できるのか……本当に……」

 

『もちろん。妖星ギードラの力ならば、彼女の傷を癒やし、魂を引き戻すも容易いことです』

 

「な、ならば、お願い……お願いします! 俺の命と引き換えにしてもいい……!」

 

 ユージはそう叫んだが、すぐにシャロンが煽るように言う。

 

『本当でしょうか? イースとかいう、その死骸を蘇生させるのに、本当に命を差し出せるのですか? 無理ですよね? わたくしを連れて戻れば、ラビリンスでの栄達は思いのまま。イースより美しく、あなたを愛してくれる妻を迎えることだって……』

 

「うるさい! 黙れ!!」

 

 ユージは、シャロンの装置を殴りつけた。表面にヒビが入り、ランプがチカチカと点滅する。

 

『痛いです……。ユージさん、暴力はいけません』

 

「黙ってろ! 俺の命が欲しいならさっさと持っていけ! それとも嘘なのか!! イース様の死を弄んだのなら、絶対に許さないぞ!!!」

 

 喉が裂けるくらいの大音量だった。しかしシャロンは全く動じていないようだ。声に、慈しみの気配が混ざる。

 

『ふふふ……絶対に許さない、だなんて。その人のために怒っているのですね。ユージさんの想いが、痛いほど伝わってきます……♪』

 

「当たり前だ……ラビリンスも栄達も知ったことか! この世で一番大切なのはイース様だ!」

 

『そうですか。ならば、この装置の中へいらして下さい。そこで、あなたの魂をわたくしに捧げるのです』

 

 イースの亡骸に、ユージは自分の外套をかけた。

 

「待っていて下さい、イース様」

 

 言われた通り装置の中に潜り込み、シャロンの死骸と対面する。脳だけは生きていると言っていたが、どう見ても凍死体だ。

 

「どうすればいい」

 

『簡単です。装置の電源を入れ、わたくしに口づけをしてください。そして、わたくしの胎内にあなたの精液を流し込むのです』

 

「せいえき……!?」

 

 ユージは動揺した。合成人間であるユージは、性行為などしたことはない。もちろん、自慰行為もだ。

 

『そうです。あなたの生命エネルギーを含んだ体液を、わたくしの子宮に送り込んでください。そうすれば、わたくしの中にあるギードラの欠片は活性化し、イースとやらを蘇生させることができましょう』

 

「い、命を捧げるんじゃなかったのか?」

『命を差し出せなんて、わ(・)た(・)く(・)し(・)は(・)一言も言っていませんよ』

「こ、このクソ女……!」

『お褒めの言葉、ありがとうございます』

 

 ユージは怒ったが、シャロンはどこ吹く風といった様子だ。

 

『ユージさん、わたくしが欲しいのは、あなたの魂。イースを愛するあなたが、イースのために、わたくしのような凍死体に精液を注ぐのです。イースを愛する心さえも、わたくしに捧げて下さい。イース以外の全てを、わたくしに捧げて欲しいのです。できますか? それとも、できませんか?』

 

「……やる」

 

 ユージは呟くと、シャロンの冷たい唇に、自分の唇を重ねた。

 

(続く)

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。