ダークプリキュアの凶行は、ドリームに対する強い劣等感のためだった。ユージの命令で凶行は止んだが、ドリームは恐怖で病室から出られなくなってしまう。
慰めてくれたユージに、縋るようにセックスをねだるドリーム。ユージはこれを退けるが、ジェントルーと共にドリームをピクニックに連れ出し、元気を取り戻させる事に成功した。
そしてユージはこれ以上ダークプリキュアをモノのように利用すべきでないと考え、自由を与えて解き放ってしまう。ダークプリキュアは怒りの言葉を吐きながら、どこかへと飛び去った。
一方、ホープキングダムの侵攻からパルミエ王国を防衛するシャロン。のみならず『妖星ギードラ』の力を限界まで引き出し、反攻作戦に打って出る。シャロンが進撃していくその先、ホープキングダムの王城では、トワイライトという少女がバイオリンを奏でていた。気高く、尊く、麗しく。
1/4 (微エロ)
青い空に浮かぶ、金色の3つ首竜。とてつもない威圧感を放つ怪物を見上げて、魔法つかいの少女が言った。
「あれで実体が無いなんて、ちょっと信じらんない。夢じゃないわよね……」
「夢ならどんなに良かったか」
同僚の少年がぼそりと言う。
ドラゴンは、何をするでもなくじっと上空に留まっているようだ。山のように巨大な3つの首は雲を突き破ってその姿を表しているが、それしか見えない。雲の上に胴体があるわけではなく、エネルギーが竜の首のように見えているだけなのだと言う。
二人は、上空から国境付近を見やった。ほうきで飛ぶ彼女たちの眼下では、無人の街が静かに眠っている。ここはパルミエ王国のはずれにある街、ノーブルタウン。国境の向こうは、すぐにホープキングダムの領土だ。かつては二国間の貿易拠点として大いに栄え、世界有数の優雅さと美しさを誇る都市だったが、今は見る影もない。
「みんな、さらわれちゃったのよね……」
この街の出身である少女は言った。その脳裏に浮かぶのはかつての故郷の姿だ。美しく整えられた街並み、そこに暮らす人々……。今ではその面影すらなく、廃墟と化した建物群が虚しく残っているだけだ。
これからここは、戦場になる。
「……ホープキングダムめ。報いを受けさせてやる。ギードラの力で、絶対に滅ぼしてやる……!」
幼なじみの少年は憎しみを込めて呟いた。彼にとって故郷とは全てであり、かけがえのないものであったはずだ。それが今や滅びようとしているのだから、心中穏やかではないだろう。少女は少年の心を思いやり、しかし努めて明るい声を出した。
「ねえ、シャロンはどこ行ったの?」
「森の外れにある城で、ダンナと『ご休憩』してるらしいぜ」
「ええ~。まったく、こんな時にい~」
呆れつつも少し安心したような表情を浮かべる少女。少なくとも、『ご休憩』ができるくらいには、シャロンは
「ううん……こんな時だから、なのかしら。いくらシャロンとギードラだって、あの『絶望の森』に勝てるとは限らないもの」
絶望の森とは、ホープキングダム全土を飲み込みつつある謎の森だ。黒い霧が常に立ち込めており、足を踏み入れた者は例外なく命を落としている。偵察も、爆撃も、どんな魔法をも受け付けず、次々とゼツボーグを吐き出している。まるで生きているかのように動く不気味な森なのだ。
「それにしたって呑気すぎだろ」
「まあね。……ね、あの旦那さんって、エッチ上手なのかな?」
「知らねえよ! いきなり何言ってんだお前!」
「え~、だって世界で一番強くて怖い女の子をお嫁さんにしてるのよ。気になる~」
「知るかよ! そんなん本人に聞けよ!!」
「あ、まさかまだ童貞? ごめんごめーん、こんなときに聞いちゃってさ」
「う、うるさいっ! あーもう、いいからさっさと行くぞ! こんなとこで無駄話してる場合じゃないだろ!」
「あっ、待ちなさいよー。置いてかないでってばー」
◆◆◆
ノーブルタウンの外れにある、石造りの古めかしい城──かつて、王族が別荘にしていたという城だ。観光資源として整備されていた時期もあったが、今となっては打ち捨てられていた。
城の最上階にあるテラスには、小さなバルコニーがある。ユージとシャロンは、そこで慌ただしく愛を確かめ合っていた。
……いや、これは愛なのだろうか? シャロンはドレスのスカートを捲り上げただけの格好で、白い尻を丸出しにして、ユージのペニスを貪っていた。
「お゛~っ♡ お゛ぉっ♡ ほぉおおぉぉっ♡」
パンッ♡ パンッ♡ パァンッ♡ ドチュッ♡ ゴチュンッ♡
肉を打つ音が響き渡るたびに、獣のような喘ぎ声が響く。それはとても愛などと呼べるものではないように思えたが、それでもシャロンは止まらない。
久しぶりに抱き合った妻の異様な姿に、ユージは戸惑っていた。
「シャ、シャロン? どうしたんだ……!?」
ユージの問いかけにシャロンは答えず、ひたすらに腰を振り続けるばかりだ。
その顔には、既に普段の凛とした女王の表情はない。ドレスの上にボタボタと涎をこぼし、鼻の下をだらしなく伸ばしたその姿は、とても一国の女王とは思えない無様なものだった。理性が失われ、淫欲に溺れきって、普段の彼女を知る者が見れば驚きに目を剥くだろう。雪のように白い髪を振り乱しながら激しくピストン運動を繰り返す姿は、もはや交尾に夢中になったメスそのものだ。
シャロンは完全に快楽に支配されてしまっていた。
「きもぢいいィ……ぎもちいいぃよぉおぉ……んふぅうぅうぅぅ~~んふぅぅ~~~っっ♡♡ きもちいぃぃ~~~~っっっ♡♡♡♡」
「ちょ、ちょっと待ってくれ……! こんなのおかしいぞ、一体どうしちゃったんだ!?」
混乱しつつも必死に呼びかけるユージの声に、ようやく反応したのだろうか。
彼女は腰を振る動きはそのままに、首を曲げて背後の夫を振り返る。
快楽に浸りきった瞳で、シャロンはうっとりと微笑みかける。その瞳に映る感情は快楽と愛情だけで、正気の光はどこにもなかった。
「おっ、おっ、お゛おぉ~~~っ♡ もう無理ぃいっ♡ もう我慢できないっ♡ んはぁあぁっ♡ あ゛ぁ~~~~っ♡ あ゛っ、あ゛っ♡ あ゛ぁあぁぁあ゛ぁっ♡ あ゛あ゛あ゛ぁあぁああぁあぁぁあ゛あ゛あ゛あ!」
白いお尻を懸命に振りながら、うわ言のように低音で喘ぐシャロン。彼女の性器はドロドロに濡れており、膣襞はまるで生き物のように肉棒に絡みついてくる。その動きがあまりに心地良くて、ユージはつい先ほどまでの戸惑いを忘れてしまいそうになるほどだった。
「あっ、ちょ、ちょっと待って……! 射精るっ……うっ、くうぅっ……!」
「お゛っ♡ お゛お゛お゛お゛お゛お゛ぉォォォォ~~~ッ♡」
膣内で弾ける精液の熱さに、シャロンは歓喜の叫びを上げた。
「あ゛ぁ~~~ッッ♡♡♡ お゛ッ♡ お゛ッ♡ お゛ほぉぉぉ~~~~ッッ♡♡♡♡」
舌を突き出し、背筋を反らせて絶頂に至る。結合部からぷしゅっと潮を吹き散らし、ガクガクと全身を痙攣させるその姿は、彼女がとっくに絶頂に達したことを物語っていた。
やがて、長い絶頂が終わると、シャロンは力なく床に崩れ落ちた。ぺたんと女の子座りになり、肩で息をしながら、ぼんやりとした瞳で虚空を見つめている。ユージには見えていなかったが、瞳は完全に金色の光で染まっていた。
「ユージさん……♡ あいじでる……♡」
シャロンはうわ言のように呟き、失神してしまった。
♡プリキュア♧じゃない彼女たち
と
◆世界を征服する話◆
第8話 こいのいただき
事後、二人はベッドの上で寄り添っていた。ベッドサイドには脱ぎ捨てられた下着や衣服がある。二人とも全裸で抱き合っていたが、特に寒くはなかった。むしろ火照った身体に冷たいシーツが心地よいくらいだ。
「……ごめんなさい、ユージさん。せっかく前線まで会いに来てくれたのに、あんな無様な姿を見せてしまって……」
シャロンは恥じらいながら謝罪した。可憐で高貴な、いつもの彼女に戻っていた。
ユージはそんな彼女の頭を優しく撫でながら言った。
「気にしなくていいよ。しばらく戦い続けだったから、ストレスが溜まってたんだろう。少し発散できたみたいで良かったよ」
「えへへ……はい。とっても気持ちよかったですね……」
シャロンは甘えるような声で言うと、そっとキスをしてきた。啄むような優しい口付けだ。そのまま舌を絡め合うと、彼女の身体から力が抜けていくのが分かった。再び二人の身体が重なり合い、互いの肌の温もりを感じる。
「また、してくれますか……?」
「ああ、もちろんだよ」
「嬉しい……。最高に幸せです、わたくし」
シャロンはそう言うと、猫のように喉を鳴らした。本当に幸福を感じている時の仕草だ。ユージはシャロンの髪を撫でる。さらさらとした感触が指の間を流れていくのが気持ちいい。シャロンは目を細めて微笑んでくれた。
「俺もだよ……最高に幸せだ……」
「うふふ、ありがとうございます……♪」
そう言ってシャロンはユージの胸に顔を埋めてきた。柔らかな乳房の感触を感じながら目を閉じる。彼女の体温を感じているだけで幸せな気分になれるのだった。
だが、いいタイミングだ。今の幸せに浸るだけでなく、もっと先のことまで考えていかなければならない。ユージは思い切って切り出した。
「あのさ、シャロン。見てほしいものがあるんだ」
ユージはそう言って小さな箱を差し出した。赤いベルベット生地の箱に入っているのは指輪である。銀色のリングの中央に、虹色の光を放つ石がついているものだ。
「あら……!」
それを見た途端、シャロンの目が輝いたように見えた。普通の夫婦なら、これはシャロンに贈るものだというのが当然の推測だろう。
だが、ユージとシャロンは普通の夫婦ではない。世界征服を企む悪の女王と総統の夫婦なのだ。
「イース様に、結婚を申し込もうと思うんだ。この指輪、どうかな? レインボージュエルをモチーフとして作らせたんだけど……」
「まあ、おとぎ話のレインボージュエルですね。とってもロマンチックだわ……!」
シャロンはうっとりとしたようにため息をついた。それからユージの手を握り締めると、にっこり微笑んだ。
「素敵だと思います。きっとイースも喜んでプロポーズを受けてくれますよ」
「そ、そうかな……?」
シャロンは、どうしてだかユージとイースをくっつけたがる節があった。別に嫉妬をしていないわけではないようだが、ちょっと気になるところではある。
「ありがとう、シャロン。この戦争が終わったら、イース様に正式に申し込むよ」
「──終わったら?」
シャロンは首をかしげた。その目は心なしか非難するような色を含んでいるような気がする。
「え……? だってホープキングダムの再侵攻があるかもしれないし、何より君がこうやって前線にいるのに。プロポーズなんかできないよ」
「だめ、だめですよユージさん。戦争中だからこそ、しっかりケジメをつけておくべきなのです。国が滅ぶ時なんて、なんの前触れもなくやってくるのですから。せめてその時に後悔しないようにしないといけません」
シャロンの言葉はどこか突き放すような冷たさを帯びていた。そして、その声のトーンとは裏腹に、ユージを見つめる視線には熱がこもっているように感じられた。
「え、ええと……でも、やっぱり今はダメだよ。イース様は真面目だから、戦争中にプロボーズなんて、はいと言ってくれないよ」
「そこを何とかハイと言わせるのが男の甲斐性です。大体、あのイースがユージさんのプロポーズを断るわけがありません。景色のいいところで美味しいものを食べて、『俺と一緒にこの国を支えてほしい』とか、そういうムーブをすればすぐにオチます。間違いありません」
自信たっぷりに断言するシャロン。その確信はどこから来るのだろう?
「な、なるほど……そういうものなのかな……?」
「そういうものなんです! さあ、早速プランを練りましょう! わたくしもお手伝いしますから! せーの、けって~い!」
「け、けって~い……」
妙に乗り気なシャロンに背中を押されるようにして、その日は終わった。
ユージがシャンティアに戻ったのは翌日の明け方であった。
◆◆◆
〈───滅べ〉
◆◆◆
シャンティア連合共和国。
この国が持つ特色を一つ述べるなら、それは均質性だろう。どの都市でも同じ服、同じ食べ物、同じような生活習慣で社会が成立している。一見したところでは、国家として統一されたひとつの家族のようにも見える。
実際はそうではない。均質なのは、かつて暴走した人工知能に支配されていた名残なのだ。あらゆる社会システムが最適化された結果である。
(だが、悪いことばかりでもない。どこの都市でも、同じ美味を味わえるのだから)
ダークプリキュアがむしゃむしゃと食べているのは豚の串焼きである。タレがほどよく焦げていて実に香ばしい匂いを漂わせている。屋台で買ったものだが、なかなかの味だ。
串を頬張りながら次の屋台を探す。今シャンティアで一番ホットなのは、外食産業だ。それは食文化が優れているから、ではなく、あまりに食文化が貧弱なため個人個人では料理など不可能だからだ。少しでもいい物を食べようとすれば買うしかないのである。
総統ユージは文化水準を高めるため、他国から人間を招き入れている。教育装置による刷り込みを少しずつ減らし、各地に学校を開設して他国の文化などを学ばせているのだという。
国民受けも上々なようだ。AIの洗脳から解放された人々は貪欲に知識を欲している。そのニーズを正確に捉えた政策だと言えよう。
(もっとも、その効果が出るのは当分先だろうがな……)
ダークプリキュアは食べ終えた串を捨てると、次はデザートを求めて歩き出した。
とにかく今のシャンティアには多種多様な飲食店がある。テイクアウト主流だが、肉に魚に野菜に果物、焼き物・煮物・揚げ物・蒸し物、おにぎり・サンド・ラーメン・デザート、なんでもござれだ。
「お、姉ちゃん! 買ってくかい?」
呼び止められ、ダークプリキュアは足を止めた。目の前には露店商が立っている。売っているのはフルーツジュースのようだ。
「一つもらおう」
「まいどありー」
代金と引き換えに紙コップに入ったジュースを受け取る。金は着ていたワンピースを売って得たものだ。ダークプリキュアにとって衣服とは、完璧な兵器としての自分を飾り引き立てる部品の一つだ。原則を失い、命令や任務を失った今は、町に溶け込むことさえできれば何でもいい。今着ているのは、配給所で受け取った古い国民服だ。
ストローに口をつける。一口飲むと甘酸っぱい味が口の中に広がった。酸味が強いので、甘いものが好きなダークプリキュアにとっては少し辛い味だったが、なかなか悪くないものだ。
ふと顔を上げると、店主と目が合った。ニヤニヤ笑っている。シャンティア人にはほとんど見られない軽薄な雰囲気。恐らく移民なのだろう。
「姉ちゃん、美人だな」
「そうか」
ダークプリキュアはあっさりと頷いた。当然だ。自分は完璧な造形美を持つ兵器なのだから。そんな自分が美しいのは当然のことだ。
「ちょっとこっち来て話しようぜ」
男はそう言って手招きをした。無視してもよかったのだが、特に断る理由もないので素直に従うことにした。男と路地裏まで移動すると、彼はいきなり手を伸ばしてきた。
(何をする気か知らんが、好きにすればいい)
ジュースを飲みながらされるがままになっていると、その手は彼女の胸に触れた。
(ふむ……)
「何のつもりだ」
「え、いや、おっぱいを触ろうと思って」
「なぜだ」
ダークプリキュアは尋ねた。男の意図が読めないからだ。
そもそも彼女は兵器なので、乳房の有無など些細な問題でしかない。それなのになぜこの男はこんなことをするのだろう?
「いやー、なんかいい形してるし、柔らかそうだし、つい触りたくなっちまってさ」
「お前は乳房が好きなのか」
「へ? まあ、そりゃ男なら誰でも好きだぜ……?」
「なぜ好きなのだ? 説明しろ」
男が口ごもったのを見て、ダークプリキュアはさらに質問を重ねた。
「……なんでって言われると困るけどよお、柔らかいし温かいしいい匂いするし……うーん、好きだからとしか言えねえなあ」
なるほど、と思った。要するにこの人間は女体が好きらしい。それも柔らかくて温かくていい匂いがするものが好みということだ。
疑問が湧く。
総統ユージも、ダークプリキュアの乳房が好きなのだろうか。やつは『君は本当に、綺麗だね。まるで、芸術品みたいだ』と言っていた。『ダークプリキュアは自分にとって価値のある存在だ』とも。それは兵器としてでなく、ひょっとしたら女体としての価値かもしれないと思ったのだ。
だとしたら、非常に不愉快だった。君は自由だとか、好きに生きればいいだとか、そんな言葉は全て欺瞞ではないか。
(
電子頭脳にノイズが走る。思考回路に負荷がかかっている証拠だ。
男の手がダークプリキュアの乳房を、正確にはそう見せかけた生体細胞の集合体を揉みしだいてくる。しかしダークプリキュアは眉ひとつ動かさない。『痛み』はデータとして記録集積されているが、『痛い』とは感じないようになっているからだ。
「姉ちゃん、感じねえのか?」
「感じるとは何についてだ」
「あー、つまり気持ちいいとか気持ち悪いとかのことだよ!」
男は意地になって胸を揉んだ。しかしやはりダークプリキュアの表情は変わらないままだ。
「貴様、何をしている! 手を離せ!」
突然、声がかかった。見るとそこには一人の少女がいる。歳の頃は十代前半くらいだろうか。セミロングのくすんだ銀髪、錆びた金属のような赤い瞳、起伏のある体つきを包むボンテージのような軍服。
「げえ、イース様! いや、違うんですよ! これは、えーと……」
「イースか」
彼女は総統ユージの愛人、イース。元はユージの上官であり、現在は彼の忠実な部下だ。そしてユージの子を産む可能性が最も高い女性だと記録されている。
「命が惜しかったら失せろ」
イースは冷徹な声で言い放った。それだけで十分凄みがある。男は震え上がり、慌てて逃げていった。
「……私を監視していたのか。総統の命令か?」
ダークプリキュアは単刀直入に聞いた。最も総統に近い存在であるイースが現れた以上、その可能性は非常に高い。
イースが大きくため息をつく。
「監視じゃないわよ。アンタが何してるか、見てきてくれって頼まれただけ」
「それは監視ではないか」
「ぜんぜん違うわよ。あいつは心配してるの。今日は私が見守っててあげるから、さっさと行きなさい」
イースが手を振って追い払うような仕草をする。ダークプリキュアは首を傾げた。どうやら自分の心配をしているようだが、それがダークプリキュアには理解できない。
「行く? どこにだ」
「決まってるでしょ、アンタの行きたいところによ」
「私に構うな。私は一人で生きていける」
「路地裏で行きずりの男に胸を触られて、ポカンとしてるような女が何言ってんのよ」
「私は女ではない。ただの兵器だ」
「兵器が買い食いするわけないでしょ。バカなこと言わないで」
「……」
言い返す言葉もない。確かに自分は今、人間らしく振る舞っているのではないかと思う。だが、それはあくまで真似事に過ぎないはずだ。
「……それは、総統が私を捨てたからだ。それで仕方なく、人間の真似事をしているだけで……」
「拗ねないでよ。アンタは捨てられたんじゃないわ。ユージはね、あんたに幸せになって欲しいのよ」
イースの口調はどこか優しかった。子供をあやすような調子だ。
「幸せ……? それは意味のない慰めではないのか。私はただ命令を遂行できれば、それでよかったのに」
「命令を遂行して価値を認めて欲しかった、でしょ。分かるわよ、その気持ち」
イースはどこか自嘲気味に笑った。記録によれば、彼女には洗脳によりAIの走狗にされていた時期があったという。そのことが関係しているのだろう。
「だがもう私の存在理由は失われた」
ダークプリキュアは寂しげに呟いた。存在意義を失った彼女には何もない。空っぽなのだ。
「そうね、だからこれから見つけるのよ。とりあえず、ただ食べるだけじゃなくて感想でも書いてみたら? おいしいかどうかじゃなくて、どんな風においしかったか書くの」
「なんの意味が……」
「自分の気持ちを出力するのは大事よ。形にすれば見えてくるものもあるんだから」
「そんなものか?」
「そうよ」
イースは自信たっぷりに言い切って、手帳とペンを渡してきた。
「あげるわ。電話に打ち込むのもいいけど、手書きの方が味があるから」
ダークプリキュアは少し躊躇したが、結局受け取ることにした。どうせ他にやることもないのだから。それにイースの言うことにも一理ある気がしたのだ。
早速、ページをパラパラとめくる。既に何か書き込んでいるようだ。
「……? 『今日はユージが乳首をカリカリしてくれた。しかも指を3本も使ってくれた。あれをされると、子宮がキュンとする。ユージ大好き、という気持ちが溢れて止まらなくなる』……?」
「あっ! ちょっ……! か、返して!」
思わず読み上げてしまったダークプリキュアの言葉に、イースが慌てた様子で飛びついてきた。どうやら間違えて自分の物を渡したらしい。手帳を取り上げられてしまうが、既にダークプリキュアはほとんどのページを記憶してしまっていた。視覚センサーによる画像解析機能を使えば造作もないことだ。
「…………『今日はユージのおちんちんを口で綺麗にした。ジェントルーの匂いが染みついててイラつくけど、不思議と嫌じゃなかった。女の子の匂いをさせてるユージも素敵。思わず、おちんちんと袋の間にキスマークを付けてしまった。シャロンが帰ってきたら、きっと悔しがるわ。たまにはこういう意地悪もいいわね』……ほう」
「ああっ!? やめてー!! 読みあげないでぇ!!」
顔を真っ赤にしながら絶叫するイース。指の隙間から覗く瞳は潤んでいた。よほど恥ずかしいらしい。ダークプリキュアはなぜか楽しい気分になったのだった。
「……なるほどな」
「な、なによ……!」
顔を真っ赤にしているイースに向かって、ダークプリキュアは言った。
「お前は総統の愛人だと記録されているが、あまり正確なデータではないようだ」
「えっ……!?」
「愛人という場合、社会的立場や金銭からくる上下関係が主体となるものだ。だがお前からは、総統に対する愛情が感じられる。むしろ、お前の愛は非常に深いように思える」
「そ、そう……?」
「ああ、そうだ」
ダークプリキュアは頷いた。
「正確には、お前は総統のペットなのだ」
「ペットっ…………?!」
イースは素っ頓狂な声を上げて固まった。ダークプリキュアは指を立てて解説を続ける。
「そうだ。お前たちの間には明確な上下関係があるが、それは全て愛情に基づいて構築されている。お前が総統を深く愛しているからこそ成り立つ関係性だ」
「……あ、愛情…………ふ、深く…………」
「つまりお前は総統にとって唯一無二の存在なのだろう。お前はそれを誇っていいのだ」
「……そ、そうなの……?」
「いや、口から出まかせだ。ペットと呼ばれて嬉しそうにするな」
ダークプリキュアは冷静に突っ込んだ。イースが耳まで赤くしてワナワナ震えだす。
「う、嬉しくないわよ! このポンコツアンドロイドが!」
「私はポンコツではない。私には必要に応じて国家戦略級の判断を下せる優秀なAIが搭載されている。これはその演算速度を援用し、国家首脳級の会談において場を和ませるためのジョーク機能だ」
「くっ……無駄に高性能なんだから! このポンコツエロサイボーグ!」
「私はポンコツではな──」
イースが吐き捨てるように言った瞬間だった。
「おっと、ごめんよ!」
ドンとぶつかって来た子供が、そう言って走り去っていった。褐色の肌をした10歳前後の少年だったように思う。親はいないのだろうか? こんな治安の悪い場所に子供一人でいるなど危険極まりない行為だと思うのだが……。
「捕まえなくていいの? あれ、スリよ」
腰に手を当てたイースが聞いてくる。少し怒ったような様子だった。彼女は存外世話焼きのようだ。
「スリとはなんだ」
「泥棒の一種よ。盗られたのはアンタの財布」
「……捕まえるべきだろうか」
「そりゃね。食べ歩きの代金が払えなくなるわよ」
次の瞬間、ダークプリキュアは空を飛んでいた。上空から先程の子供を捕捉する。
「赤外線モード起動」
着地すると同時に子供を取り押さえた。子供は激しく抵抗したが、構わず引きずるようにしてイースのところに戻る。イースは呆れた顔をしてダークプリキュアを見た。
「ちょっと乱暴すぎない?」
「問題ない。子供の体には損傷はないはず」
「そういう事じゃないんだけど……」
しかしそれ以上は何も言うことなく、イースは子供に向き直って屈み込んだ。すると子供は、蛇に睨まれた蛙のようになって動かなくなった。
「イ、イ、イ、イース様……?! すげえ、本物のイース様だ!」
イースの顔を見て驚愕する少年。どうやらファンらしい。
「大人しくお縄につきなさい。今なら刑が軽くなるわよ」
「え、えっと……」
少年は目を泳がせると、突然地面に膝をついて頭をこすりつけた。いわゆる土下座という奴だ。
「ご、ごめんなさい! 俺、つい出来心で! お願いします、『ユージ兄ちゃん』には言わないでください!」
「『ユージ兄ちゃん』? お前は総統の弟か」
「なわけ無いでしょ。この子、ユージと同じGOP型合成人間なのよ」
少年が顔を上げる。なるほど、褐色肌は総統ユージと同じものだった。顔つきも、ユージに似ている。
「俺たち下級合成人間は、顔のバリエーションが少ないんだ。ユージ兄ちゃん、じゃなくて総統閣下と同じ顔なんだよ」
少年は自慢そうに笑った。その口調にはユージへの畏敬の念が含まれているように思えた。
「イース様はユージ兄ちゃんの愛人なんでしょ! 罰は受けます! お願いします、秘密にしててください!」
「止めてよ、愛人なんて人聞き悪い……」
イースは心底うんざりしたように答えた。実態としてそれ以外の何物でもないはずだが、世間から愛人愛人と連呼されるのは彼女にとって耐え難い屈辱なのかもしれない。
「……まあ、いいわ。黙っておいてあげる」
「……ありがとうございます!」
「その代わりアンタも約束しなさい。スリなんか止めて、地道に配給で暮らすこと。いい?」
「うっ、でも配給は味が薄くてあんまり好きじゃないんだよなあ……」
少年の答えに、イースは顔をしかめた。彼女も配給食料はお気に召さない様子だ。そういえば自分もそうだったなと思い出すダークプリキュアである。
「贅沢言わないの。その内ユージがなんとかしてくれるわ」
多分に信頼を混ぜた口調でイースが言う。少年は神妙な顔で頷いて、ダークプリキュアの財布を返してきた。
◆◆◆
ダークプリキュアはイースと連れ立って大通りを歩いていた。屋台で買ったタコ焼きの袋を手に提げている。ソースの香りと鰹節の香りが鼻孔をくすぐって、自然と頬が緩むのを感じた。イースがそれを見て笑う。
「アンタ、意外と食いしん坊なのね」
「否定はしない。今のところ食べる事しか楽しみがない」
「ま、それもそうか」
納得した様子のイース。実際、今のダークプリキュアが楽しみにしているのは食べる事だけである。
「……ん? ごめんなさい、電話だわ」
携帯端末を取り出したイースの顔がほころんだ。
「はい、総統閣下。ええ、順調です……そうですか、それは良かった。私も嬉しいです……いえ、そんな、身に余る光栄です…………はい、分かりました。それでは今夜」
電話を切った後、イースは鼻歌を歌いだした。どうやら相手はユージのようだった。
「♪ ~」
幸せそうな彼女の横顔を見て、ダークプリキュアは思わず問いかけていた。
「なぜお前は笑っているのだ?」
イースは不思議そうな顔をした。それから少し考え込んで答える。
「私、そんなに笑ってるかしら……?」
「笑顔の検出率が高すぎる。常に口角が上がっているし、脈拍、発汗量、呼吸数などの諸数値も上昇傾向にある」
「よく見てるのね」
「私は人の感情の機微を理解するよう設計されている。さあ教えてくれ、なぜお前は笑っているのだ?」
イースは面倒くさそうに手を振った。どうやら電話のことで頭がいっぱいらしい。
「総統閣下……もういいか、ユージに食事に誘われたからよ。今夜、官邸で」
イースの顔は上気していた。ダークプリキュアの分析によれば、それは『恋する乙女』の顔だった。
◆◆◆
「ではな、ユージ。頑張りたまえ。イース、君も今日ばかりは素直になることだ」
「頑張ってね、ユージ! 私も応援しちゃうから! イースを『大好き』にしてあげて!」
メイド姿のジェントルーと、エプロン姿のドリームは、食器を載せたワゴンを押して去っていった。
官邸の屋上で、二人は月を仰いでいた。今日は、月が綺麗だ。
「イース様、寒くありませんか。今夜はお洒落な服だから、風も強いですし」
「平気よ」
そう言って微笑むイースの髪は風になびいていた。くすんだ銀髪は、月明かりを受けて幻想的に輝いている。
イースは珍しく着飾っていた。真っ赤なドレスを着て、髪を整えて化粧をしている。ドレスの裾からは黒のタイツに包まれた足が伸びていて、光沢が艶めかしい。
「……変じゃない? この格好」
「とんでもありません! とてもお似合いですよ!」
「そ、そう? ……ありがと」
頰を赤らめるイース。その姿は少女のような可憐さがある一方で、大人の女性の魅力を醸し出していた。
ユージは胸がどきどきしてくるのを感じた。こんなに美しい女性が、この世にいたのか。
今日はユージも正装だ。赤いマントに、かっちりした白い軍服風の服を着ている。髪も整えた。
「……ねえ、もう一度だけ聞いていい? あの時聞いたこと」
「なんですか?」
イースがそう切り出した時、ユージの心は緊張でいっぱいになった。これから言うことは今まで生きてきた中で一番大切な言葉だ。間違ってはいけないし、間違えるはずもないことだ。ずっとずっと、一番大切にしてきた言葉なのだから。
「ねぇユージ。お前って、私が好きでしょう?」
「はい。俺はイース様が好きです。心の底から愛しています」
「私もよ。私もお前が好き。世界中の誰よりも愛してる」
「…………」
「ねえ、言って。お前が今日、私に言いたいことを、今ここで聞かせて」
「イース様……」
ユージの脳裏に色々な想い出が蘇った。初めて出会った日のことや、一緒に戦った日々のこと、そして鏡の世界で愛を告白された時のこと……。
それら全てがキラキラと輝いていて愛おしい思い出だった。自分はこの人を愛しているのだと強く実感した。だから……。
「イース様。俺と結婚してください」
赤いベルベット生地の小箱を開けた。中には銀色の指輪が入っている。中央には虹色の光を放つ石が据えられていて、極小のダイヤモンドが散りばめられている。
それをそっと取り出し、ゆっくりとイースの前に跪く。震える手で左手を取った。薬指に指輪をはめていく。
「イエスと言ってくれたら、すごく嬉しいんですけど……」
「……バカね、断るわけないじゃない」
「本当に……?」
「本当よ。私はお前のパートナーになるの。私……精一杯頑張るわ!」
その時、風が吹いた。満月の光を受けた銀糸が美しく舞った。まるで星屑のようだと思った。宝石よりも綺麗な光が、目の前で瞬いている。それはあまりにも綺麗で……涙が出そうになった。しかし必死にこらえた。
「ありがとう……ございます!」
思わず抱きついていた。柔らかな感触と温もりを感じる。ああ、やっぱりそうだ。これがずっと欲しかったんだ。
「ちょっと、いきなり抱きつくんじゃないわよ、もう」
優しく抱きしめ返してくれる! 嬉しさのあまり天にも昇る気持ちというのはこういう事を言うのだろう。
「イース様……今日という今日こそ、いいですよね。今日という今日こそ、許してくれますよね。今日という今日こそ……」
「もう、何回言うつもり? ……ごめんね、ずっと待たせて」
イースの瞳が、うるり、と潤んだ。それが愛おしくてたまらなかった。
「キスして、ユージ。それから、私と一つになって。私の全部を、お前にあげる」
「イース様……!」
「んっ……」
二人の唇が重なった。その瞬間、世界のすべてが自分たち二人だけのものになった気がした。
(続く)