※この作品はR-18です。

プリキュアじゃない彼女たちと世界を征服する話   作:a-su

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3/4 (エロ無し)

『赤ちゃん……♡ 元気な赤ちゃん産むからね……♡ いっぱいセックスして……いっぱいいっぱい赤ちゃん作ろうね……♡』

 

 ユージとイースが睦み合う、公邸の屋上。一人の美女が佇んでいた。

 長い髪が夜風に揺れる。老いた植物を思わせる、ややくすんで灰色がかった緑の髪だ。すっと通った鼻筋の下には真っ赤なルージュのひかれた唇が鎮座しており、その口角はやや上向きに上がっている。瞳は細く切れ長で、理知的な印象と同時に冷酷な光を見て取れた。身にまとう衣服は黒を基調としたロングドレスであり、腰から下のラインを強調するデザインになっている。

 美女は空を眺めていた。輝く月が、徐々に光を失いつつある。それを眺めながら彼女は言う。

 

「ふふっ、イースったら可愛いわねぇ。あんなに幸せそうな顔をして……」

 

 女の瞳は妖しく光り、表情は喜悦に満ちている。

 

「人の不幸は蜜の味……。お前の絶望した顔、早く見たくてたまらないわ、イース」

 

 美女の顔が、悪魔のように醜く歪んだ。目も、口も、人間とは思えぬほど大きく歪み、吊り上がる。そこには邪悪さしか存在しなかった。

 

「GOP-9362061、識別名称ユージ。お前の罪を償う時は近いわ。ク、クク。ヒヒッ」

 

 そう言って美女──上級合成人間、ノーザが笑い始める。その声は夜の闇によく響き渡り、まるで悪魔の笑い声だ。やがて声は聞こえなくなり、辺りは再び静寂に包まれた。

 

 ◆◆◆

 

 絶望の森。その恐ろしさは、何を置いても物量にある。鋼鉄を超える強度のイバラが幾重にも重なり合い、侵入者を阻む。そして森の木々そのものが鋭い刃物となり、攻撃してくるのだ。とうとうホープキングダム全土を飲み込み、パルミエ王国をも侵食しているこの森を止めることは誰にもできないだろう。たとえ伝説の戦士(プリキュア)であっても。

 

「…………ロン! ちょっとシャロン! 聞いてるの!?」

 

「……え?」

 

 耳元で叫ばれて、シャロンはハッと我に帰る。隣を飛んでいるのは、見知った顔の少女だ。パルミエ王国の魔法つかいである。

 

「飛びながらお昼寝なんて、いいご身分ね! 女王様だからって、調子に乗ってるんじゃないわよ!」

 

「あら、ええ、女王です。もう少し敬ってくれても良いのですよ」

 

「ふん、嫌み言う元気があるなら大丈夫ね」

 

 そう言ってそっぽを向く少女。いつも自分に突っかかってくる女の子だ。彼女と一緒に飛ぶ少年にも、何となく見覚えがある気がする。

 

「それで、なにか御用ですか?」

 

「御用も何も、もうすぐ作戦地点に到着するのよ! もう、しっかりしてよね!」

 

 言われて初めて、もう目的地が目の前まで迫っていることに気づく。絶望の森、その中心部に建つ古城が視界に入っていた。

 ここはゼツボーグの発生源にして、かつての王宮があった場所だ。

 

「いよいよ敵の本丸よ! しっかりしなさい!」

 

「…………ええ、そうですね」

 

 頭を振って気持ちを切り替える。そうだ、自分は世界を征服するのだ。その大願を果たすために来たのだから、惚けていてはいけない。気持ちを切り替えなければ。

 絶望の森から、迎撃のゼツボーグたちが飛び出してくるのが見えた。噴射炎を放ちながら突進して来る飛行型ゼツボーグは、あまりにも数が多すぎて砂嵐のようだ。

 

「……あなたは下がりなさい。ちょっと守り切れません」

 

「嫌よ! 私も戦うわ!」

 

「いいえ、下がりなさい」

 

「いやって言ってるでしょ!? いい加減にしないと……」

 

「えい♪」

 

 言い募る少女の広いオデコを指で弾く。彼女は面白いようにクルリと宙返りして、目を回しながら吹っ飛んでいく。

 

「ほあっ!? なにすんのよぉおぉ……」

 

「御機嫌よう! わたくしが世界を征服したら、メイドとして雇ってあげますわね!」

 

 少年が大慌てで少女をキャッチし、飛び去っていく。そんな二人を尻目に、シャロンは襲い来るゼツボーグたちを引き連れて上空へ舞い上がる。

 目標は上空およそ5,000メートル。小さな氷のつぶが集まってできた雲の中に突入する。今の彼女にとってはこの程度の高度など大した障害にはならない。翼もないのに悠然と飛んでいる様はどこか幻想的ですらあった。

 

(……寒いと、思い出してしまうわね。ユージさんに出会うまでの1万2千年を)

 

 ギードラにより滅ぼされた母国。ギードラの欠片を取り込み、怪物と化した自分。そして迎えた1万2千年の孤独、あるいは緩やかな死。

 だが彼女は運命に出会い、救われた。今は愛する人がそばにいてくれる。その事実だけで全てが報われたと感じる。

 彼女は待ち焦がれた未来へと想いを馳せる。ホープキングダムを滅ぼせば、この世界に敵は無くなる。永遠に続く、平和で笑顔溢れる国。愛しい人と紡ぐ幸福な日々。

 

 高度が増すにつれ、脳内麻薬が分泌されて思考が溶けていく。

 

(待っててくださいね、ユージさん…………♪ それにイース、ジェントルー、ドリーム……あなたたちにも、永遠の愛と幸せを与えてあげます……♪)

 

 高度を増すとは、地球を離れ宇宙に近づいていくという事だ。宇宙こそ、彼女に宿るギードラの故郷。飛べば飛ぶほど、彼女はシャロンからギードラへ変わっていく。

 

(えへ…………えへへぇ……ユージさぁん……♥)

 

 恍惚とした表情で飛ぶシャロンの姿はとても直視できないほどに禍々しかった。頬は紅潮し、瞳は潤み、表情筋が緩みきっている。もしこの場にユージがいて彼女を目撃したら、卒倒していたに違いない。それぐらいにシャロンの顔はだらしなく緩んでいた。

 彼女の脳内は今や花畑同然だった。かつてないほどの多幸感と万能感が全身を包んでいる。まるで脳髄に直接砂糖水を注がれているかのような陶酔感。少し前、もう少しマシな状態でユージに抱かれたときは、それはもう天にも昇る心地だった。身も心も蕩けてしまいそうで、気を抜くと自我を失ってしまいそうだった。

 危険な兆候である。理性では分かっている。だが後少しで全てが終わると思うと止められない。今だけ、今だけだから、ユージは優しく受け止めてくれるはずだから……そう自分に言い訳しながら、シャロンは欲望のままに飛翔する。

 

(ああ、幸せだわ……本当に幸せ……こんなに幸せなのに、どうして泣きそうになっているのかしら……? ふふ、おかしな話ね……ふふふ……)

 

 雲を突き抜けたところで上昇を止め、より深くトランス状態に入っていくシャロン。両の眼が金色に輝き、周囲を覆う結界のように光輪が現れた。

 

 〈───滅べ〉

 

 その声は彼女のものではない。はるか宇宙の彼方から響く、妖星ギードラの声だ。

 

『ゼェェェツボオグ!』

 

 とうとう追いついてきたゼツボーグたちが、彼女を包囲せんと展開する。その数は数千体にも及ぶだろう。いかに強力な力を誇る戦士であろうとも、この数を相手にするのは不可能ではないだろうか? 

 

 〈───滅べ〉

 

 だがシャロンの心に一切の不安はない。なぜなら、彼女には大いなる力があるのだから。

 

(ああ、なんて幸(・)せ(・)な光景かしら……!)

 

 満面の笑みを浮かべて両手を広げ、全ての敵を包み込むように両腕を広げるシャロン。直後、四方八方から降り注ぐレーザーが彼女に直撃した。雷が落ちたような轟音が響き渡り、閃光が弾ける。

 

 〈───滅べ〉

 

 光の奔流が収まった時、そこにいたのは黄金の竜。三頭首を持つ邪悪な竜の王。そのように見えるエネルギー体が、シャロンを包み込んでいた。

 三つの口から、電子音にも似た咆哮が迸る。

 

『QuOooooooonN!!』

 

 それは怒りか憎悪か、それとも歓喜なのか。いずれにせよ、そこには邪悪さしか感じられなかった。

 

『QuoOOoon!』

 

 次の瞬間、放たれたのは三筋の光条だ。金色の、稲妻にも似た光線はゼツボーグたちを粉砕しながら、絶望の森に降り注ぐ。引力崩壊の光が当たった箇所が無に帰すさまに、絶望の森が悲鳴をあげるように蠢いた。

 やがて光が晴れると、そこはもはや絶望の森ではなかった。木々は消失し、むき出しになった大地には巨大なクレーターが出来上がっている。草一本残っていない不毛の荒野が広がっているだけだ。

 しかし絶望の森が持つ質量はまだまだ尽きていない。シャロンではない、おぞましい女の声が森全体を震わすかのように響き渡った。

 

 〈絶望セヨォォォォ…………! 〉

 

 同時に地面が揺れ始める。森全体から無数のツタが伸びてきて、高空を征く三つ首竜へと絡みついた。

 

 〈絶望セヨォォォォ…………! 〉

 

 ツタの数は更に増えていく。竜の姿が見えなくなるほどに巻き付き、締め上げていく。それに伴って森全体が脈動し始め──最後には弾け飛んだ。いや、正確には膨張だった。風船か何かのように急激に膨れ上がり、ついに限界を迎え破裂したのだ。そしてその勢いのまま木々の破片を撒き散らしながら、空を覆い尽くすほどに枝を広げていく。

 

 〈絶望セヨォォォォ…………! 〉

 〈───滅べ〉

 

 竜もさるもの、破壊光線を放ってツタを焼き払う。しかしすぐに新たな芽が生えて来るためキリがない。それでも何とか脱出し、今度は自ら地表めがけて降下していく。そして、地上から這い上がってくるイバラを踏み潰しながら着地する。衝撃で周囲のイバラを粉々に消し飛ばしながら。

 

『QuOooooooonN!!』

 

 両の翼から、紫の稲妻が放たれる。それは地中にまで浸透していき、反重力によって地中の根や球根を浮かび上がらせていく。空中に浮かび上がった植物たちが一斉に枯れ始めた。そしてそれらは急速に腐敗し、黒ずんでいく。植物の死骸は次々に灰になって崩れていった。

 地表のゼツボーグたちは恐れおののき逃げ惑うが、黄金の竜はそれを許さない。翼を広げ、ゼツボーグたちを次々と踏みつぶし、燃やし尽くし、破壊する。まるで蟻の群れを殺す象のように、圧倒的な力で以て絶望の森を押しつぶしていった。

 

 ◆◆◆

 

 シャロンが進撃する先にある、ホープキングダムの王城。そのテラスからは、今まさに絶望的な戦いが繰り広げられている光景が見える。

 

「まるで蟻の群れと戯れる象のようね。見苦しいこと」

 

 見下したように言うトワイライトが、手に持っているカップを傾ける。その仕草は優雅で美しい。戦場の喧騒を余所に紅茶を嗜む姿は一枚の絵画のようだ。

 

「クローズ、おかわりを用意してちょうだい」

「はい」

 

 背後に控えていたクローズに空のティーカップを渡すと、彼は一礼して下がる。それを見届けたあと、トワイライトは再び戦場に視線を戻した。

 

「……愚かな。絶望の森(ディスピア)を枯らすことなどできるはずがないのに」

 

「ええ、その通りですぜ」

 

 独り言ちた言葉に返事が返ってきて、トワイライトは少し驚く。もうクローズが戻ってきていた。

 

「どうぞ」

 

 差し出された新しいティーカップを受け取り、一口飲む。香りも味も申し分なかった。

 

「上達しましたわね。味もそうですが、段取りが良くなりましたわ」

 

「光栄ですぜ、トワイライト様」

 

「でも言葉遣いは相変わらずね」

 

「へ、へへへ……」

 

 悪びれずに笑うクローズ。それにつられて、思わず笑みを漏らすトワイライト。彼女は再びカップに口をつけた。それからゆっくりと目を閉じる。瞼の裏に映るのは、今もなお暴れまわる竜の姿だ。

 

「ダークプリキュアとやらも凄まじい強さでしたが、ありゃあ別格ですぜ」

 

「確かにそう……あれが妖星ギードラの化身、シャンティアの女王シャロンなのね。絶望の森(ディスピア)ですら抑え込めないほどとは……」

 

「ディスピア、ですか」

 

 怒りを隠したクローズの声に、トワイライトは首を傾げる。見れば彼は眉間に深い皺を寄せていた。

 

「どうかしたのかしら?」

 

「……いえ、何でもありませんぜ」

 

 そう言って目を伏せる彼だったが、それで誤魔化されるほど甘くはない。

 

「言いたいことがあるなら、おっしゃいなさいな」

 

「……トワイライト様は、ディスピア様(・)について何かご記憶ですか?」

 

「…………様? ディスピアとは、森の名前でしょう。様付けなんてする必要はないわ」

 

 そうは言うものの、トワイライトはわずかに動揺していた。まるで自分の記憶が間違っていると指摘されているような気分になったからだ。だがすぐに平静を取り戻し、毅然と言い放つ。

 

「……いずれにせよ、わたくし達の目的は絶望の森(ディスピア)を全世界に広げること。世界を絶望に包むことよ」

 

 その言葉に対し、クローズは深々と頷いた。

 

「もちろん承知しておりますぜ、闇のプリンセス。世界を絶望に包むことこそ、我らディスダークの最終目標ですからな」

 

 彼の瞳には、燃え盛る野心の炎が宿っているように見えた。

 そして、トワイライトに賛同するものがもう一人。

 

「このノーザも同感ですわ、トワイライト様」

 

「ノーザか。てめえ、何しに来たんだ? シャンティア側の転移ゲートは設置できたんだろうな」

 

 いつの間にか現れたノーザを見て、不快そうに舌打ちをするクローズ。そんな彼に向かってノーザが言う。

 

「訂正しなさいクローズ君。シャンティアではなく、ラビリンスよ。間違えないで頂戴」

 

「ふん、下らねえ事に拘りやがって。そうやって製造目的に囚われてっから、テメエら合成人間はダメなんだよ」

 

 ノーザの言葉に苛立ったのか、嫌味たっぷりに言い返すクローズ。その態度にノーザの頬が引きつる。彼女の怒気が膨れ上がった瞬間、トワイライトがそれを遮った。

 

「お止めなさいノーザ。安い挑発に乗るのは、淑女として恥ずべき事よ」

 

「……失礼いたしました、トワイライト様」

 

 素直に謝罪するノーザを見て、クローズは小さく鼻を鳴らす。それが更にノーザの神経を逆撫でしたようだが、二人は一顧だにしない。クローズのみならずトワイライトもノーザに対しては隔意があるのだ。

 紅茶を飲み終わった頃合を見計らって、クローズが再び口を開く。

 

「さてと、そろそろ頃合いでしょうぜ」

 

「そうね。それでは──」

 

 トワイライトの言葉の途中で、突如城の一角が爆発した。轟音と共に粉塵が舞い上がり、視界を覆う。紅茶のカップにヒビが入ったのを見て、トワイライトが顔をしかめた。

 

『QuOoo……』

 

 電子音にも似た呻き声が響き渡った。それを聞いたノーザは、忌々しげに顔をしかめる。

 

「シャロンめ、もう城の結界を破ったのね。どこまでも腹立たしい女だこと」

 

「……それでは、参りましょう。この城も用済みだわ」

 

 優雅な所作で立ち上がったトワイライトは、二人を従えてテラスを後にする。目指す先は玉座の間──そこに仕掛けられた転移ゲートだ。

 もうホープキングダムに用はない。絶望の森が侵食し尽くしたからだ。次の標的は、シャンティア連合共和国。

 

(そう、もうホープキングダムに用は……ホープキングダムには……)

 

 トワイライトの、その美しい両の瞳から、一筋の涙が流れていた。

 

 それを見たクローズは、顔をしかめていた。やれやれ、と言いたげな様子だ。

 それを見たノーザは、嘲笑っていた。実に愉快そうだった。

 そして──トワイライト自身は、何も感じなかった。何も感じないのが正しい反応だと、植え付けられていたからだ。

 

 ◆◆◆

 

 シャンティア連合共和国は、お祭りムードだった。総統ユージと、その側近で常々愛人と噂されていたイースの婚約が発表されたからである。ゴシップに飢えていた民衆は喜び勇んでユージを讃え、祭りの準備を始めた。ユージの花嫁候補を探すという名目で開催されるお見合いパーティー(一般参加大歓迎)の準備も着々と進んでいるらしい。

 シャロン女王がいるのに、などという声は皆無である。なんと言っても、メビウスを倒してシャンティアに恋愛や結婚という概念を取り戻したのは当のユージなのである。こと色恋沙汰において、ユージはもはや神にも等しい存在として国民から崇められていたのだ。

 浮かれきった雰囲気の中、「まだ戦争中だ」という冷静な、空気の読めない意見はかき消される。誰もが平和と幸せを満喫していた。

 

 そのユージは、執務室で着せ替え人形と化していた。記念パーティー用の衣装合わせの最中なのだ。今は軍服風の礼服を着たユージに対して、ジェントルーとドリームがあれこれ試行錯誤を繰り返していた。

 

「やはり白だな。純白のタキシードが良い。金刺繍を入れて華やかにするべきだ」

 

「えー! 黒の方がかっこよくない? 白も王子様みたいで素敵だけど、やっぱり黒でビシッと決めた方が絶対いいよー!」

 

 好き勝手なことを言う二人に挟まれて辟易しながらも、ユージは黙って立っているしかない。しかしふと思いついたことがあったので、二人の会話に割り込んだ。

 

「あの……二人とも、俺とイース様の結婚を祝福してくれるのか?」

 

 すると二人は顔を見合わせた後、揃って言う。

 

「何を今更。イースの幸福を妬むほど私は狭量ではないさ」

 

「そうそう! 大好き同士で結婚するんだから、最高じゃない!」

 

 そう言って笑う二人を見ていると、なんだか胸の奥が熱くなるのを感じた。

 

「……ありがとう」

 

 そう言って頭を下げた時だった。部屋の扉をノックする音が聞こえた。どうぞと言うと、イースが入ってくるところだった。

 

「みんな……ここにいたのね」

 

 そう言いながら歩み寄る彼女に、ユージは思わず見とれてしまう。ドレスは赤を基調としており、大胆に肩を露出させたデザインだった。豊かな胸の谷間が露わになっているが、不思議といやらしさは無い。むしろ神秘的な美しさがあった。化粧のせいもあるかもしれない。いつもの怜悧な印象とは違っていて、温かい優しさを感じさせる美貌だった。

 見惚れていると、彼女が微笑んだ気がした。途端に顔が赤くなるのが分かる。

 恥ずかしさのあまり顔を背けたその時、背後から衝撃を感じた。振り返ると、そこにはニヤニヤ笑いを浮かべたドリームが立っていた。

 

「褒めてあげれば〜? とっても綺麗だってさぁ」

 

 完全に面白がられていることは分かっていたが、ここは乗っておくことにする。

 

「あ、ああ。イース様、すごく綺麗です……」

 

「うふふ……ありがとう、嬉しいわ。ジェントルーとドリームも、今日はおめかししているのね」

 

 ジェントルーは黒の燕尾服を見事に着こなし、ユニセックスな雰囲気を出していた。ドリームも紺のボーイッシュなパンツドレスだ。ちなみにどちらも、サイズ調整の魔法をかけて体にピッタリと合わせている。そのためボディラインが強調されていて、下手なドレスより艶めかしい。

 

「うむ、今日は正装だからな」

 

「うんうん! あ、でもこれ窮屈だから早く脱ぎたいなー……」

 

「こら、レディとしての自覚を持ちなさい」

 

 そう言うイースは嬉しそうだ。きっと普段から自分を気にかけてくれる友人と妹分が祝ってくれて喜んでいるのだろう。そう思うとユージは微笑ましい気分になった。

 

 ◆◆◆

 

 官邸のホールでパーティーが始まった。夜だというのに煌々とした明かりに照らされる中、多くの招待客が思い思いに歓談を楽しんでいる。立食形式なので、料理に舌鼓を打つ者も多いようだ。

 無論、主役であるユージとイースの周りには人だかりができている。いずれも諸外国からの外交官や移民の代表者などで、今や世界の支配者に上り詰めつつあるユージに興味津々のようだった。

 中には露骨にアプローチしてくる者もおり、そういった者たちは決まってユージに握手を求めたり、ハグを求めたりする。ユージはそれを邪険にせず、求められるままに受け入れた。だがそれを見る周囲の視線はあまり好意的とは言えない。

 ユージは合成人間である。いくら人間と寸分違わぬ見た目をしているとはいえ、人造生物であることは変わらない。つまり本質的には機械と同じであり、人の手で製造された道具に過ぎない、それを忘れてはならない──という戒めを込めたつもりの差別的な眼差しだった。

 最も当の本人は慣れっこだったし、傍らのイースも若干14歳でラビリンスの幹部にされていた俊英である。そつなく受け流して見せた。

 やがて挨拶ラッシュが終わり、ようやく一息つけるようになった時のことだ。

 

「パルミエ王国 国王、ココ=デ=ドリーム=パルミエ13世陛下の御成りぃ!!」

 

 司会役の女性の声で、会場全体が静まり返った。直後、盛大な拍手が起こる。まるで主役が登場したかのような盛り上がりぶりだ。

 そんな中現れたのは、シンプルな礼服に身を包んだ甘いマスクの青年だった。控えめながらもセンスの良い服装だと言えるだろう。彼は優雅かつ軽やかな足取りでユージの前に来ると、恭しく跪いた。

 

「本日はご機嫌麗しゅう、総統閣下。この度は御婚約おめでとうございます」

 

「ありがとうございます、ココ陛下。さあ、立ってください」

 

 そのやり取りを聞いて、周囲からどよめきが起こった。それも無理のないことだろう。世界三大国家の王にして国家元首たるココが、一介の成り上がりでしかない、しかも合成人間のユージに膝をついて敬意を表したのだから。

 そんな驚きをよそに、ユージが感じていたのは優越感だろうか。いや、そうではなかった。

 劣等感だ。それは嫉妬に近い感情だったかもしれない。ココの一挙手一投足から、生まれついての貴種が持つ気品を感じ取ってしまったからだ。自分には一生かけても出せないであろうオーラを前に、ユージは圧倒されていた。

 

 そして、気に入らない点はもう一つある。

 

「ココ陛下! 久しぶりね、お元気だったかしら♪」

 

 随分と楽しそうに声をかけたのはドリームだった。彼女は満面の笑みで駆け寄り、あろうことかそのまま抱きついたのである。ココが独身だからか周りもざわついている。しかし当のココはまったく気にした様子もない。

 

「やあドリームさん。今日も可愛いですね。僕のお嫁さんになってくれませんか?」

 

「うーん……私は先約があるから♪ それにココなら、私なんかよりもっと素敵な人が見つかると思うよ?」

 

「そうですか……残念です」

 

 そう言って苦笑するココを見て、周りの者は一様に驚いているようだった。どうやら彼のこんな顔を初めて見たらしい。そんな周囲の反応などどこ吹く風とばかりに、二人は楽しげに談笑していた。

 

(なんだあれ……)

 

 その光景を見ながら、ユージは胸を掻きむしるような思いに囚われていた。

 後ろから、ジェントルーがそっと囁いてくる。

 

「気にするなよ、ユージ。あれは肉親、または親戚に対する態度というものだ。君には分かりづらいかもしれないが」

 

「うん……」

 

 ココ=デ=ド(・)リ(・)ー(・)ム(・)=パルミエ13世。ドリーム。

 つまりココは、ドリームとは血縁関係にあるのだ。正確には、ドリームのオリジナルである女性と、パルミエ王国を建国したココ1世の子孫なのである。

 

「悲観せずとも、ドリームの心はもう君のものだ。パーティーの主役として、堂々と話したまえ」

 

「……そうだな」

 

 そうだ、自分はもう過去の自分とは違うのだ──そう思い直し、顔を上げる。二人のもとに歩み寄り、そっとドリームの腰を抱き寄せる。

 

「やあん、もうユージったらぁ♡ ココの前で恥ずかしいよぅ♡」

 

 ユージの独占欲を心地よく感じているのか、頬を赤らめて体をくねらせるドリーム。

 それを見たココも微笑みを絶やさない。

 

「あはは、見せつけてくれますね」

 

 三人は和やかなムードで笑い合う。

 一方、その様子を見ていた他の出席者たちの反応は様々であった。ある者は眉をひそめ、またある者は称賛の眼差しを向けている。特に女性陣からは黄色い歓声が上がった。

 

 気遣わしげにイースを見る者もいたが、彼女はユージを惚れ惚れと見つめていた。

 

 それからしばらく歓談した後、三人は連れだってテラスに出た。夜の冷たい風が心地よい。ドリームはユージの腕を取り、しなだれかかるように寄り添っている。ココは少し離れたところで、その様子を微笑ましそうに眺めていた。

 

「ユージ、幸せ? 今、幸せ?」

 

 不意にそんなことを聞かれ、一瞬言葉に詰まるがすぐに答える。

 

「ああ……幸せだよ」

 

 それを聞いてドリームの顔がパッと輝く。あまりにも魅力的で、ついユージは口を滑らせた。

 

「この幸せを、いつか君にも分けてあげたいな……」

 

 それを聞いたドリームは一瞬目を丸くし、次いで悪戯っぽく笑った。獲物を狙う蛇のような目だ。子供という殻に隠れた、女としての本性が垣間見える。

 

「じゃあさ……私にも指輪ちょうだい? それで私も幸せになれるから……そしたら今度は私が、私の幸せを分ける番だね!」

 

 その言葉に、胸が熱くなるのを感じた。やはり彼女には敵わないな……と思う。するとココが咳払いして言った。

 

「あー……盛り上がっているところ申し訳ないが、お話が」

 

 そこで改めて向き直ると、まず口を開いたのはココの方だった。

 

「改めまして、誠におめでとうございます。つきましては僕の方からもお祝いの品を献上させていただきたく存じます」

 

 そう言うと、控えていた侍従から木箱を受け取ると、その中から小さな宝石箱を取り出した。そして蓋を開ける。そこにあったのは──

 

「……電話?」

「ケータイだね」

 

 思わず呟いた2人に対し、ココは小さく頷いた。

 

「はい、そうです。これは遠く離れた相手とも会話ができる魔法のアイテムなのです」

 

「それは知っておりますが……しかもその……古臭いデザインにも見えますが」

 

 その電話は、中央からパカリと開くタイプのデザインだった。現在主流の板状のものから見ると、幾分古臭い。

 ひょっとして、からかわれているのだろうか。まさかココがそんな事をするようには思えないのだが……そんな思いが顔に出てしまったのか、ココは慌てて言い繕った。

 

「決してそのような意図があるわけでは……これは、僕たちの国に伝わる伝説のアイテムなのです」

 

「伝説……?」

 

「ええ、これの名は『キュアモ』。僕の先祖であるキュアドリームが持っていた、変身アイテムなのです」

 

(続く)




次回は木曜の06:30と致します。よろしくお願いいたします。
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