※この作品はR-18です。

プリキュアじゃない彼女たちと世界を征服する話   作:a-su

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4/4 (トワイライト)

 わたくしはトワイライト。

 幸福という毒に囚われたシャンティア総統、ユージの心を取り戻そうとしている一人の娘、ただのトワイライト。

 

 陽光に照らされるパレードの真ん中を、総統を乗せた車がゆっくりと進む。

 車と言っても〈フロート〉と呼ばれる全高3mの車両で、移動する舞台のようなものだ。

 

 前後には長い車列が続き、数頭のユニコーンを模した警備ロボットがお供している。

 フロート車の周囲には、無数のドローンが飛び交っていた。あたかも鳥の群れが如く、総統を守るように空を舞っている。

 

「支配者様ばんざーい!」

「我らの支配者よ永遠に!」

「おめでとうトワイライトちゃん!」

 

 道行く人々が歓声を上げ、笑顔で手を振っていた。中には紙吹雪を散らす者までいる。

 総統は軽く手を振り返すだけで、意志の感じられない無表情を保っていた。隣にはセクレトルーが目を光らせている。

 

 そしてわたくしは、舞台上で総統の陰茎を咥(くわ)えさせられていた。

 

「んぐ……」

 

 もちろん、わたくしの意思ではない。セクレトルーが投与したナノチップによって脳神経を支配され、総統が「舐(な)めろ」と言えば女体は自動的にひざまずいて舌を出してしまうのだ。

 

「ん……れ、れ、ふ……んじゅ、ちゅぷ……」

 

 パレードは続く。車は進み、人々はますます熱狂していく。

 

 恥辱の時間。

 人々に「犬」として見せつけることで、わたくしの精神までも屈服させるつもりなのだろう。

 総統はぼーっと煙ったような顔のまま、勃起半ばの性器を咥(くわ)えさせ、周囲のドローンで中継させている。その映像は全世界へと配信されているはずだ。

 

 しかし彼の思惑とは裏腹に、わたくしの心は燃え上がっていた。

 

「ぅんっ、ふぅ、んんぅっ……!」

 

「……っ、お、おぉっ……!」

 

 もう数え切れないほどしゃぶらされた、この肉の棒。今では亀頭に舌の表面を密着させ、くすぐるように動かすと気持ちいいことを学習している。

 唇の裏側まで使って裏筋を刺激してやると、男のモノは大きさを増していく。

 

「っ、じゅる、はぷ、んむ、ぁ、れる、はぷ、ちゅっ、はぷ、あむっ、んぅ、はぷっ、ちゅくっ、はぷっ、ちゅううっ」

 

「ト、トワイライトっ、もう少しゆっくり頼む……っ!」

 

「ぐぷっ、むちゅっ、ぷぁっ……ふふっ♪」

 

 もうじき射精するというところで、わざと口を離す。焦らすように先っぽを舐(な)め回し、尿道口に口づけしてから舌先でチロチロと刺激してあげる。

 セクレトルーの教えは、実に合理的だった。

 

「んれろっ、ぴちゃ、んふぅ……ねえ、総統」

 

「……え?」

 

「わたくしは犬かしら。それとも奴隷? それとも……」

 

 言い終わるより先に、総統は首元のチョーカーに手を当てた。わたくしを操るためのボイスコントローラだ。

 

「何も喋るな」

 

「───」

 

 命令によって、舌や唇が動かなくなる。

 

「……君は犬だよ、トワイライト」

 

「…………」

 

 抗議の意思を込めて睨(にら)んでみるが、総統の表情は変わらない。その隣から、セクレトルーが気遣わしげに視線を寄越すだけだった。

 

 こうされるのは初めてではない。今まで何度も、総統の心に触れようとしては妨害されてきた。

 でもそうする時、彼はいつも少し辛そうな顔をする。そして目には、金色の光が差す。そこに何者かの意思を感じるのだ。

 

「さあ、黙って奉仕を続けろ。犬らしくな」

 

「……わん」

 

 犬の鳴き真似をして、再び陰茎を口に含む。悔しいけれど、逆らうことはできない。

 

「じゅるる……ぺちょ、ちゅぶ、れる、んふっ、はぁ……あんっ!」

 

 敏感な乳首を摘ままれて、声が出てしまう。

 

「こら、動くんじゃない」

 

「……わん、きゅーん」

 

 情けない鳴き声を上げるも、総統は満足げに頷(うなず)いた。

 

「そうだ、いい子だねトワイライト。君は賢い雌犬だ」

 

 ここは絶望の世界。人の心を意のままに操る独裁者が君臨する、地獄の釜の底だ。

 だからどうした。

 

「はぷっ、ぬぷ、んんっ、れろぉ……」

 

「ううっ、またっ、激しくっ」

 

 わたくしは屈しない。たとえ服を奪われ、鎖をつけられ、犬小屋に飼われても、絶対に諦めない。

 

 男性自身を頬張って上目遣いに見つめながら、懸命に舌を絡ませる。

 唾液まみれになった男根を手で扱きながら、カリ首の裏を舌先でくすぐったり、陰嚢(いんのう)を揉(も)みほぐしたりしてやると、たちまち肉竿(さお)に熱がこもっていくのが分かった。

 

 もうすぐ射精しそうなのだろう。もう何十回もこうして彼を昇天させてきたのだから、分かる。

 

「も、もう出そうだッ!!」

 

「…………っ!」

 

 男が腰を引くより早く、わたくしは両手でそれをつかんだ。逃さないよう押さえつけながら根元にかぶりつき、歯で圧迫しつつ先端を吸い上げる。

 

「くあっ!?」

 

 ビューッ! と音さえ立てて迸る精液。

 苦くて臭い白濁液が口の中を満たし、喉を伝って胃袋に流れ落ちていく。

 ゴクゴクと喉を鳴らし、さらに最後の一滴まで搾り取ろうと頬を窄めると、男は腰を痙攣(けいれん)させながら悶(もだ)えた。

 

「ぢゅうう……っ、ん、ごくっ、ごくん……♪」

 

 音を立てて飲み下しながら、睾丸(こうがん)を指で弄んでやる。

 優しくマッサージするように転がしたり、ぎゅっと握ってみたり。

 目を細めたり、流し目を送ってみたり、小悪魔的な微笑みを見せてみたり。

 

「んっふ、んふっ、……んー、ふうっ、んぢゅ……っ♡」

 

 性行為というのは面白いもので、ただの一度も共に踊った事のない彼を、まるで十年来のパートナーのように理解してしまえる。

 皮膚のざわめきや、筋肉の反射、血管の脈動さえも手に取るように伝わってくるのだ。

 

「ああ、あああ…………」

 

 彼は陶酔したように目を閉じている。

 何度も経験して分かった事だが、射精後の短い時間だけは誰の干渉も受けないようだ。

 オンナには理解のできないオトコの生理に身を任せている時間だけ、彼は元の彼に戻れている。

 

 その無防備な姿を見ていると、自然と口元が綻んだ。今この瞬間だけ、この人はわたくしだけのものなのだと思うと嬉しかった。

 

「ぷあ…………あんむぅ…………れるぅ~……♡」

 

 萎える気配のない男根を口から解放し、今度は睾丸(こうがん)の方に吸い付く。これももうすっかり見慣れたものだ。舌で転がすと弾力のある感触があった。精子の製造工場である二つの球体は大量の子種を蓄えており、今も新鮮なものを造り続けているはず。

 この、この。わたくしを狂わせる白い液め。

 いつかはわたくしの子宮で卵子と出会い、新しい命となって宿るのだと思うとゾクゾクしてくる。

 

「れろん♪ れるれるぅ……♥……はあーっ♡ あむあむあむ……っ!」

 

 興奮を抑えきれずに甘かみすると、頭上から小さな悲鳴が上がった。

 

「ひぐっ!? い、痛いよトワイライト……」

 

 情けない声。弱弱しい顔。雄々しい総統でも、無機質な世界の支配者でもない。むき出しのユージという青年の顔がそこにある。

 

「くぅ~ん♡ れろ、ぉ~~ん♡」

 

 愛おしさが抑えきれなくなって、つい舐(な)めしゃぶってしまう。本当の犬みたいに舌を長く出して、先端でくすぐるように舐(な)めたり、唇で食んだり、持ち上げて会陰部をなぞったり……

 

「くぅぅ……トワイライト……!」

 

「んふ、んぅん……ちゅぱ、ちゅぽっ、んふぅ……ちゅうう……」

 

 性行為って、本当に不思議。ユージというオトコが、徐々にわたくしというオンナに溶け込み始めているのがわかる。それはとても不思議な感覚だった。

 

 …………ああ、もっと別の出会い方をしたかった。敵同士、支配者と犬だなんて歪んだ関係ではなくて。

 普通に出会っていれば、自己紹介して、お茶を飲んで、語らって、笑いあって。

 彼がわたくしに恋をして、わたくしも彼に惹かれていって……。

 二人きりになって、顔を赤くして、恋を語って、手を繋いで、キスして、それから……。

 

 ──いや、止めよう。わたくしはトワイライト。闇のプリンセスで、操り人形で、罪人だ。それを受け入れて、そして戦おうと決めたのだ。

 そんなことを考えていると突然セクレトルーが咳払いをした。

 

「支配者様、そろそろ予定のお時間です」

 

 その言葉に反応して、総統が元の空白な表情に戻った。

 

「わかった」

 

 それだけ言うとボイスコントローラに手をやり、わたくしに命じる。

 

「立つんだ、トワイライト。もう口をきいてもいいぞ」

 

「……ええ」

 

 名残惜しかったけれど、渋々立ち上がる。口の周りを手の甲で拭(ぬぐ)いつつ彼を見つめると、セクレトルーが再度咳払いした。

 

「こほん」

「わんっ」

 

 わたくしは反射的に鳴いてしまい、赤面する。それを見た群衆が、どっと湧いた。大歓声にかき消されないように、セクレトルーは声を大きくする。

 

「それではこれより、支配者様が新しい犬、トワイライトとのセックスをお披露目されます!」

 

 異常な宣言を聞いた民衆は、拍手を始める。

 頭の中身を書き換えられ、総統の幸福に奉仕することが至上の喜びだと思い込まされた人々。

 彼らはきっと幸せなのだろう。これがユージとシャロンが目指していた世界征服なのだろうか。

 

「さあトワイライト。準備してあげよう」

 

 総統がパチンと指を鳴らす。

 

「あっ?! あ~~~~~~っ♡ あぁああ~っ♡♡♡」

 

 たったそれだけのことで、全身を電流が走るかのような快感に襲われる。視界がチカチカして立っていられない。

 膝から崩れ落ちたわたくしを抱きとめながら、総統は満足げに笑った。

 

「ほら、ちゃんと立つんだ。皆が君の恥ずかしい姿を見ているんだから」

 

「くう……」

 

 絶頂の余韻でまだヒクつく体を動かし、言われた通りにする。

 これはナノチップの作用なのだ。神経に快楽信号を流し込み、強制的に発情させる。性感帯に触れたわけでもなければ触られたわけでもないのにこうなってしまうのだから恐ろしい。

 

「ほら、もう一度だ」

 

 パチン。

 

「やあ~~~~~っっ♡♡♡♡♡♡」

 

 神経に直接注ぎ込まれるキモチイイ信号によって絶頂を迎え、わたくしは棒のように直立したまま痙攣(けいれん)していた。

 

 全身汗びっしょりで、秘所からは淫らな液が溢(あふ)れ出し太腿を伝っていく。乳首も痛いほど勃起していて、風が撫(な)でるだけでもイキそうになるほどだった。

 

「さあ皆さん、どうか存分にご覧ください。 偉大なる我らの主が、愛らしいメス犬を思うがままに躾けている様を!」

 

「ああっ! あううっ!! ああ~~~~っっっ!!!!」

 

 セクレトルーが叫ぶと同時に人々が沸き立った。ガクガクと震えながら絶叫するわたくしの痴態を見て、熱狂した民衆たちは口々に

 

「支配者様ー!」

「トワイライトちゃん可愛い!」

「幸せそう!」「愛されてるわね~」

 

 などと好き勝手なことを喚き立てている。しかし、彼らも被害者なのだ。正気を取り戻さない限り彼らの未来は無いだろう。

 

 だが今はそんなことはどうでもよかった。ただ早くこの狂宴が終わって欲しい。それしか考えられなかった。

 

「ほら、この指を見て…………」

 

 総統の指がわたくしに近づく。

 触れる寸前でピタリと止まったそれに、期待するように見つめてしまう自分が憎い。もどかしいくらいゆっくりゆっくりと近づいてくる指先に息を荒げる。

 

「……ん♡ はぁ……♡ ああっ♡」

 

 早くパチンとして欲しい、そう思う気持ちを必死で抑え込んだ。しかしそれも限界がある。徐々に近づいて来る指に視線がくぎ付けになり、どんどん顔が紅潮していった。

 

「いいんだよ、トワイライト。世界中の誰もが俺に支配されているんだから」

 

「くぅん……♡」

 

 彼の低い声は媚薬(びやく)のように甘い響きを持っていた。聞いているだけで頭がクラクラして、お腹の下の方が、きゅんとして切ない。腰が揺れ動き、膣(ちつ)から新たな愛液が流れ落ちるのを感じた。

 無慈悲にも総統の手が目の前に迫る。あとほんの数センチで触れられる距離まで近づくと、そこでピタリ止まるのだった。

 

「ほら……」

 

「……ぁ♡ あぁ♡」

 

 焦らすように、指先がわずかにこすり合わされる。それだけでもたまらない心地良さが襲ってきて、ビクビクと体を震わせた。そんなわたくしを見ながら彼はニヤニヤと笑うばかり。完全に主導権を握られて弄ばれているのを自覚するがどうしようもなかった。

 だって、こんなの我慢できない……っ♡ 

 

「……くぅぅ……っ♡」

 

 とうとう耐えきれなくなったわたくしは、人差し指の先端をパクリと咥(くわ)えた。そのままチュウチュウと音を立てて吸い付きながら舌を使って媚(こ)びる。

 

 早くイかせて欲しくて仕方が無かったのだ。お願いだから虐めないでと懇願するように上目遣いでねっとり舐(な)めしゃぶる様はまさに雌犬のそれだったろう。

 

「……よくできたね」

 

 満足そうな声色と共にご褒美が与えられる。ぬるりと抜け出た指が、パチンとなった瞬間、世界が極彩色に染まった気がした。

 

「あ゛~~~っ♡ あ゛あ゛~っ♡♡♡ あ゛~っ♡♡♡」

 

 脳天を貫く凄まじい衝撃に意識が飛びかける。あまりにも強烈すぎる快感のせいで呼吸すらままならない状態だった。全身の筋肉が硬直し、背筋が反り返る。視界の端ではパチパチと火花が飛び散っていた。

 

「あ゛っあ゛あ゛あ~~~~~~~っっっ!!!! ♡♡♡♡♡♡♡♡」

 

 獣のような咆哮を上げながら激しく悶(もだ)えまくる。もはや何も考えられなかった。ただただ暴力的なまでの快楽に翻弄されるだけの哀れな存在になるほか無かった。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ~~~~~~ッッッッッ!!!!!!!!!!!! ♡♡♡♡♡♡♡」

 

 これが今の総統とわたくしの力関係だ。触れもせず、指を弾くだけでわたくしの体を操れる。まるで人形遊びでもするかのようにわたくしを玩ぶ事ができるのだ。

 

「さあトワイライト。その台に上がって、尻を突き出すんだ」

 

 命令と同時に全身から力が抜け、その場に倒れ込む。四肢が弛緩(しかん)し、思うように動かせない中、必死に四つんばいの姿勢を取ってみせる。

 

「さあ」

 

「は、はい……」

 

 言われるがままに台に上がり、お尻を高く突き上げて腰をくねらせる。誰が見ても分かりやすい、交尾する犬のポーズだ。

 服を脱いだ総統がわたくしの腰をがっちりつかんで固定した。これから何をされるのか想像するだけでゾクゾクしてしまう。

 

 無意識に舌が伸びてしまい、犬のようにハァハァと呼吸を乱しながらその時を待つ。幼い秘部が、まるで

 

『ああ、だめ、欲しい……早く挿れて欲しい……』

 

 と泣いているかのようにヒクヒクと収縮を繰り返しているのがわかった。それを見て総統が小さく笑う。それだけで心がざわつくほどの快感を覚えた。

 

(あぁ……ユージ……!)

 

 恥ずかしくてたまらないはずなのに、体の疼きは一向に収まらない。むしろよりいっそう酷くなっているような気さえする。もう何も考えられないほど気持ちが昂ぶっているのを感じていた。

 

「君は可愛い犬だ、トワイライト。みんなに正直な気持ちを教えてあげよう」

 

「……は、はいぃ……」

 

 口が勝手に動く。それはナノチップによるものなのか、それともオンナとしての本能なのか。どちらにしても今の自分には抗えない。

 

「は、恥ずかしい…………♡ 死んでしまいそうなほど、心臓が張り裂けそうなほど、恥ずかしいのに…………」

 

 台の上で足を開くと、冷たい風が内股を撫(な)でていくのを感じた。すでに涎(よだれ)を垂らしている陰唇に空気の流れを感じてしまい、頬がさらに熱くなる。

 

「あなた、に、命令されると、逆らえなくて、頭がぼぅっとして……♡」

 

 腕から力が抜けて、頭がぺたんと台に落ちた。それでも腰だけは高く掲げたまま、わたくしは尻を振っている。左右にふりふりと、尻尾のようにお尻を振りたくっているのである。

 

「みんなに見てほしいのか?」

 

 総統の声と同時、撮影ドローンが三機飛来し、わたくしの姿を撮影し始めた。他のドローンが、次々と映像を空中に投影し始める。それを見るなり観客たちは興奮し、あちこちで歓声が上がる。しかしわたくしはそんな声さえ耳に入らないほど、彼の視線と声に酔っていた。

 

「ちがうっ、ちがうのユージッ、あなただけっ、あなただけに見てほしいのっ!」

 

 あ……ああ。ああ。

 名前を呼んでしまった。今まで呼ぶまいとしてきたのに。だって、呼んでしまったら、体だけでなく心にまで、彼がわたくしに溶けてくるような気がしたから。

 だから、我慢していたのに。なのに……っ!

 

「ユージッ……あ゛っ♡」

 

 声が蕩(とろ)けて低くなる。ユージの指がいきなり陰唇を割り開き、中に入ってきた。するんと何の抵抗もなく入り込んでくるそれに、一瞬遅れて体が反応する。

 自分の意思とは関係なく膣(ちつ)肉がうごめき始め、指に絡みついていくのが分かる。まるで餌を前にした飢えた獣の舌なめずりのような動きだと自分でも分かった。

 

「すごいぞ、指が食べられそうだ」

 

 くぱぁと指で開かれた膣(ちつ)穴の隙間から空気が入ってきて、ゾクゾクとした感覚が背筋を走った。

 からかうような口調に思わず首を振るも、口が勝手に開いてしまう。

 

「たっ、食べてないわっ♡ そんなこと、してないっ♡」

 

「隠し事は禁止だよ」

 

「違いますっ、嘘じゃないのっ♡ 本当にしてなっ、あっ♡」

 

「そうか? こんなにおいしそうにしゃぶりついてくるじゃないか」

 

 そう言って指をぬぽぬぽ抜き差しされて腰がガクガク震えた。そのまま神経の集中した箇所をこすられてあっけなく達してしまう。

 

「ひぃん♡ しょこぉ……♡ しょこぉ……♡ イくぅうう~っ♡」

 

 ビチャッと勢いよく潮を吹きながらオーガズムを迎える。身体が痙攣(けいれん)するほど気持ちいい。握った拳でばん、ばんと台を打ち、身悶(もだ)えることしかできない。

 にゅぽんっと指が引き抜かれると、粘ついた女陰が空洞を埋めるものを求めて切なく疼いた。

 

「はぁっ……♡ はぁ~っ……♡ はひゅー……♡ はーっ……♡」

 

 肩で息をしながら余韻に浸るわたくしの顔を中継ドローンが覗きこんでくる。無機質なレンズがじっとこちらを撮影し、それを投影ドローンが空中でスクリーン状に展開しているのが見えた。

 

 そこに映るわたくしは、汗まみれで涙と鼻水でぐちゃぐちゃになったひどい顔をしていた。でもその表情は恍惚(こうこつ)そのもので、どう見ても幸せそうだった。とても嫌がっているようには見えないだろう。

 

 群衆は拍手しながら、口々にわたくしを可愛い犬だとか、よくできたペットだとか言っている。彼らの言葉からは、褒められているらしい事が感じ取れた。

 

「…………っ! ふっ、ふうっ、ふううっ!」

 

 拳を固く握り締めて指の肉に爪を立て、わたくしは歯を食いしばって耐える。これは耐えねばならない事なのだ。そう自分にいいきかせた。こんな程度の恥辱に屈する自分など、わたくしは認めない。

 

「さあ、支配者様。どうぞお披露目セックスをお楽しみください」

 

「……ああ」

 

 セクレトルーに応え、総統はわたくしの腰をがっしりつかんで引き寄せてきた。ガチガチに反り返った男根の先端部が濡(ぬ)れそぼった女性器に触れ、待ちきれないとばかりに先走り汁を流しているのが分かった。わたくしも無意識のうちに腰を動かし、自ら迎え入れようとする。

 

「くふ……うぅ……うぅぅ……っ!」

 

 亀頭がくぷくぷと音を立てて沈み込み始めた瞬間、背筋がびりりと痺(しび)れた。もう何度この行為を繰り返してきたか分からないけれど、この瞬間はいつも圧倒されてしまう。自分が作り変えられていく感覚……そして彼に染められていく感覚に恐怖すら覚えるほどだ。びりびり痺(しび)れるような強烈な快感とともに挿入ってくる感覚は筆舌に尽くしがたいものだった。

 

「ぁあ~っ♡♡♡ お゛ぉおお~~ん♡♡♡」

 

 それこそ犬みたいな声を漏らしつつ絶頂に達する。ぶしゅっ、ぶしゅうっと大量の愛液が噴き出す音がしたけれど構っていられない。

 

 大きくて太くて硬くて熱くて、こんなの反則だと思うくらいに素晴らしい男性の象徴が容赦なく突き込まれてくるのだ。これをどうして耐えられるだろうか。否である。無理に決まっている。逞(たくま)しすぎるオスの象徴を受け入れる悦びの前では全てが霞んでしまうのだ。

 

 だから、まずは素直に、大きな声をあげて快楽を放出するのだ。そうしてからなら、頭が回り出す。だから獣みたいに叫ぶ。それが最善だというのが、わたくしの結論だ。

 

「お“お゛ぉおおぉおんっ♡♡♡ いぐっ♡ イグぅうううっっ♡♡」

 

 ずちゅっ、ずちゅっ、ずちゅっ…………

 

 一突きされるごとに脳味噌の大事な部分が弾け飛び、理性が溶けてなくなっていく。それでも構わないと思うほど気持ちいい。もっとめちゃくちゃにしてほしかった。何もかも忘れて気持ちよくなりたい。

 そういう気持ちを否定せず、一気に消費する。なるべく早く燃え尽きて理性を取り戻すために。

 

「あぁあああ~~~んっ♡♡ いぐいぐいぐうううぅっ♡ ああぁん♡ ああっ……♡ ああんっ……♡」

 

「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」

 

 気持ちいいキモチイイきもちいい。たまらない。ユージも息を荒くしながら、夢中になって腰を振っている。共に快楽を追い求める行為を、わたくしはすっかり大好きになっていた。

 パンパンパンと肉同士がぶつかり合う音が響き渡り、そのたびにわたくしは淫らな喘(あえ)ぎ声を上げ続ける。

 

「ひぃいっ、ひぃいっ、ひぃいっ、ひぃいっ♡」

 

「ううっ、ううっ、ううっ、ううっ」

 

 突き出した舌から涎(よだれ)を垂らし、一定のリズムで泣き喘(あえ)ぐわたくしは、犬というより豚のようだったかもしれない。そう思うと屈辱だ。

 でも否定してはいけない。淫らな自分を否定するのは、崩壊への片道切符だ。

 

 わたくしはトワイライト。

 幸福という毒に囚われたシャンティア総統、ユージの心を取り戻そうとしている一人の娘、ただのトワイライト。

 

 淫らなことが大好きで、大好きなユージに犯してもらうことが何よりも幸せな、一人のオンナ。

 決して、世界の支配者に飼われる雌犬ではない。

 

「トワイライトっ、トワイライトぉっ!!」

 

 何度も名前を呼びながら乱暴に腰を振り続けるユージの声。

 複雑なものが胸の中を満たしていくのが分かる。

 

「ユージっ、ユージっ、ユージっ」

 

 ああ、好き、好き、好きなの。弱くて愚かで、強くて優しくて、素敵なセックスをしてくれるあなたが好きなの。

 

 大好きなあなたを狂わせてしまった世界が許せない。いいえ、絶対に許さない。

 

 この世界が地獄でも、ここには絶望しかないのだとしても。

 わたくしは、絶対に、諦めない。きっときっと、あなたを救ってみせる。

 

「お゛っ、おっ……ほぉ……ぉぉ……ん……ッ!」

 

 激しいピストン運動で揺さぶられながらもわたくしはなんとか姿勢を保ち続ける。台の上で手足を踏ん張り、四つんばいでお尻を突き出して後ろから犯されている。後背位。バック。ドギースタイル。色々な呼び名があるその体位は、犬の交尾と同じものだ。下半身は逞(たくま)しいオス犬を歓待するように勝手にうねり、ぐちゅぐちゅと卑猥(ひわい)な水音が響いていた。

 

 でもわたくしは、犬ではない。人間の女の子だ。これはただ、今日13歳になったばかりの幼いオンナノコが大好きなオトコノコと最高に気持ちいいセックスをしているだけなのだ。

 

「お゛ほっ♡ ほひっ♡ あ゛~ッ♡」

 

 突き上げられるたびに視界が明滅する。子宮口をこじあけるようにねじ込まれた肉棒がもたらす刺激は強烈すぎて頭がおかしくなりそうだ。

 

「おおっ…………!」

 

 ユージが短く吠えたかと思うと腰の速度が上がり、ラストスパートに入ったことを察したわたくしはお尻を持ち上げた。より深く彼を受け入れ、子宮口に熱い精液を注がれるためだ。その瞬間を待ちわび、全身に力がこもる。

 

「いい、いいぞ、いくぞ、トワイライト……ッ!!」

 

「きてぇっ、きてっきてきてっ♡ あ゛んん゛っ♡ あーっ♡ あ──ーっ♡ あ────っ♡」

 

 ビクビクと膣(ちつ)内で震え、最奥に向かって勢いよく放たれる彼の遺伝子たちを感じる。全身が痙攣(けいれん)し、頭の中が真っ白になるほどの気持ちよさに絶叫してしまう。あまりの快感に意識が飛びそうになるも、ギリギリのところで踏みとどまった。

 

「ひーっ♡ ひぃっ♡ ひぃぃっ♡ ひぃぃぃ……♡」

 

 熱い。火傷しそうなほどに熱を持った液体を注ぎ込まれながら、わたくしは何度も何度もエクスタシーに達した。その度に頭の中で白い光が瞬き、視界の端では星が舞う。歓喜の星々、快楽の海原、愛悦の花園。色とりどりの光の粒子が飛び交い、意識の中を埋め尽くしていくのが分かった。

 

「あ──っ♡ あああーっ♡ ああああぁ~~~っ♡♡♡」

 

 凄まじいまでの快感に翻弄され、無我夢中で頭を振り乱す。涙や汗、鼻水などの体液をまき散らしながら嬌声(きょうせい)を上げる姿はみっともなく見えるだろう。でも仕方ないのだ。気持ちよすぎるのだから。

 

 だから、もっともっと乱れていい。淫らな欲望(わたくし)が燃え尽きて、その灰から不死鳥が飛び立つのだ。彼を救う不死鳥が。

 

 ◆◆◆

 

 何度も何度もお互いに燃え上がって、ようやく満足した頃には太陽が頂点まで昇っていた。

 

「ああ、トワイライト……気持ちよかった…………」

 

「ううっ……………………♡♡♡」

 

 結合部からずるりと陰茎が引き抜かれていき、わたくしの胎内を占拠していたモノが抜け出ていく喪失感がなんとも切ない。うつ伏せに崩れ落ちたわたくしに覆いかぶさるようにして、ユージが身体を重ねてくる。

 

 二人とも汗まみれだったが少しも不快ではなかった。のしかかる男の体重さえ、今は心地よかった。

 わたくしの白い肌と、彼の褐色に染まった肌とが重なり合い、二色のコントラストを描く。汗臭さの中に、ユージの香りがする。それは甘くてほろ苦い香りだった。

 

「トワイライト……汗で輝いて、きれいだ……すごく」

 

 そう言いながら彼は、わたくしの髪を撫(な)でてくれる。汗まみれの身体が多幸感に包まれ、わたくしの身体はぶるりと震えた。

 本当のユージが、少しだけ顔を出している。わたくしはうっとりと目を細め、「あなたも……」と小さくつぶやいた。そしてそのまま目を閉じる。

 

「お、俺…………君とこんな風になれたなんて夢みたいで……」

 

「……あぁ……わたくしも……夢みたい……♡」

 

 少しだけ正気に戻った彼との、甘い睦言。

 わたくしに一目惚れしてくれた懐かしい男の子に再開して、心の底から愛おしさが溢(あふ)れる。

 これが、ほんとうの、好きだと思った人とのセックスなのだろうか。好きな人と抱き合うというのはこういう事なのだろうか。わたくしは、性の新しい扉を見つけたのだろうか。

 

「ねえ、ユージ……セックスって、素敵ね」

 

「うん、そうだね」

 

「とても、しあわせだわ」

 

 わたくしが言うと、ユージは照れたように笑って頷(うなず)いた。それから急に真面目な顔になって囁(ささや)くように言うのだ。

 

「……トワイライト……俺は、ユージっていう名前なんだね」

 

「……ええ」

 

「君は、昔の俺を知っているんだね……」

 

「……」

 

 言えない。言えば、彼は記憶を取り戻すかもしれない。そうしたら、また時間が巻き戻される。次は記憶だけではなく、人格まで失われてしまう可能性だってある。そうなれば、もう二度と彼は戻らないかもしれないのだ。

 

(ダメ……それだけは絶対に……)

 

 唇を、かみしめ、ぎゅっと目を閉じて耐えているとユージは言った。

 

「ありがとう」

 

 その言葉を聞いた瞬間、はっと目を見開く。ユージは少し寂しそうに微笑みながら言った。

 

「どうしてか分からないけど、なんとなく感じたんだ。君が俺を助けようと、守ろうとしてくれていること」

 

「…………」

 

 胸が詰まるような思いだった。嬉しいけれど悲しくて辛い気持ちが同時に襲ってくる。それを言葉にできなくて黙っていると、彼は続けた。

 

「それに……あの、俺が君に対してしたことだけど……ごめん」

 

「ううん……いいの。いいのよ」

 

 そう答えることしかできなかった。ああ、謝らないで欲しい。そうじゃないの。わたくしは、あなたに愛を取り戻して欲しいの。それだけなの。

 

「君をひどい目に遭わせてしまって本当に申し訳ないと思ってる。本当に……」

 

「ああ、違うの……そうじゃないのぉ……」

 

 うまく言えない。愛してくれ、と言ってもダメなのだ。きっとそう言ってくれると感じるけれど、言わせるのではダメなのだ。彼が自ら、自分を取り戻さなければならないのだ。

 

(嗚呼、もう少しだけ……)

 

 あとほんの少しだけでいい。時間が欲しい。他には誰も居ない世界で、永遠に二人きりでいられたならと心から思う。

 ……しかし残念ながら、それは叶(かな)わないらしい。

 

「…………」

 

 ユージが、いや世界の支配者がわたくしから離れていく。時間切れなのだ。

 黙っていたセクレトルーが、彼のモノを塗れたタオルで拭(ぬぐ)いながら言う。

 

「トワイライト、これであなたは支配者様の犬としてお披露目を終えました。とても淫らで、浅ましく、けれど尊かったですよ」

 

「セクレトルー……」

 

 優しく頭を撫(な)でてくる手。彼女は本当に素直で純粋な女性だ。皮肉屋の仮面を脱ぎ捨ててしまえば誰よりも愛らしい心を持っている。だからこそ彼女を傷つけたくないと思うのだけれど……。

 

「あなたが支配者様をどれ程愛しているかはよく分かりました。そして…………」

 

「いいえセクレトルー。わたくしは、そんな男を愛してはいないわ」

 

「…………」

 

 彼女の瞳が悲しみに染まる。心の痛みを感じながら、わたくしは立ち上がった。まだふらつくけれど、二本の足で立って見せた。

 

「わたくしが想うのはユージという一人の男。世界の支配者などではありません」

 

 きっぱりと言い切ったわたくしを見て、総統が静かに語りかける。

 

「君は俺を愛さないのか」

 

「はい、そして、いいえよ。わたくしの心は、わたくしを愛する人のもの。わたくしを愛さないあなたのモノではないわ」

 

 毅然とした態度で返すわたくしを見る彼は何故か嬉しそうだった。まるでそれを待っていたかのような表情を見せる。そう感じるのは自惚れだろうか? 

 

「ならば君を俺のモノにしよう」

「無理ね」

「できるさ」

 

 総統がパチンと指を鳴らす。

 投影ドローンから、わたくしの姿が空中に次々映し出される。

 それは過去の映像で、先程抱かれていた時の幸せそうな自分、その次は犬小屋の中で排泄する自分、首輪を引かれて引き回されている自分、犬小屋で自慰に狂う自分……。

 そのどれもがカメラを通して世界中に配信されていたのだ。恥ずかしい所や情けない所を余すところなく見られていた。何もかも全て、この身体の隅々に至るまで。

 

「……ぅあ……!」

 

 羞恥と屈辱で身悶(もだ)えするわたくしを見て、総統は愉しそうに笑った。

 

「美しいだろう? 君のこんな姿を、みんな待っているんだよ」

 

「や……やめて!」

 

 悲鳴のような声を上げても無駄だった。映像は次々切り替わり、わたくしの痴態を映し出す。総統に犯され、歓喜する自分がそこにはいた。

 女秘書が、黒いルージュを塗った唇を開く。憐憫とも慈愛とも取れる複雑な表情を浮かべて彼女はこう言った。

 

「もうみんな知っています、あなたが支配者様の犬だと」

「……違う……」

「恥ずかしがらずに、一言、わんと鳴いてご覧なさい」

「いやぁ……」

「ただそれだけで、支配者様は全て許してくださいます」

「嫌よ……」

「あなたの居場所はここだけなのですよ」

「ちが……」

「支配者様はあなたを待っています」

「いや……」

「さあ、私と同じになりましょう」

「いやよっ!」

「……私と共に来てくれないのですか?」

「わたくしは彼を助けたいの!」

 

 沈黙が流れる。セクレトルーの表情が、冷えて固まるのが分かった。

 

「──そう。私と同じは嫌なのね」

 

 彼女が手を振り上げると、ドローンが何かを運んできた。透明なガラスケースの中には、年代物の楽器が入っている。

 

「わ、わたくしのバイオリン……!?」

 

 それは、わたくしが『トワイライト』にされてからも弾いていたものだ。どうして持っていたのかも覚えていない、きっと『トワ』が大切にしていた思い出の品。

 ホープキングダムの王城で、シャロンに城ごと破壊されたはずの……。

 

「このバイオリンはホープキングダムの王族に伝わる大切な物だそうですね。親から子へ、子から孫へ代々受け継がれる一品だとか」

 

「……」

 

「一説によれば、1万2千年前に存在したと言われるシャンティアの王女様から、友好の証としてホープキングダムに贈られたものだとか」

 

「!!!」

 

 1万2千年前の、シャンティアの王女。それはシャロンのことなのか。ホープキングダムとシャロンにそんな繋がりがあったなんて知らなかった。

 ならば、シャロンがこれを守ってくれた……?

 

「そ、それがどうしたというの? そんな……ガラクタ、を、持ってきて……」

 

「あなたに壊してもらいたくて」

 

「……え……?」

 

 一瞬、何を言っているのか分からなかった。呆然とするわたくしに向かって、彼女は繰り返し言う。

 

「あなたは、壊すのです。あなたが『トワ』という人間であった最後の証を」

 

「ふざっ」

 

 ふざけるな、と言いかけて言葉を飲み込む。わたくしは既にトワイライト。いまさらトワとしての過去を、懐かしむ資格など。

 

「……いえ、そんな物が、今更何の価値を持つと言うのかしら。たかだか古いだけの道具に」

 

「価値ならあります。楽器とは音楽を奏でるもの。音楽とは夢を伝え、心を揺り動かすもの」

 

 首を横に振るわたくしを、彼女は哀れむように見つめる。その瞳には怒りも蔑みも浮かんでいない。ただただ寂しげな光が宿っているだけだ。

 このひと月、わたくしを苦しめ、様々なものを与え、共に総統に抱かれてきた、皮肉屋だけれど本当は純粋で素直な女(ひと)。

 

「支配者様の心を動かすことができる可能性を、あなたには渡せない」

 

 そして鞭で、無造作にガラスケースを打ち据えた。激しい打撃音と同時に、パリンと音を立ててケースが割れる。

 

「あなたは強く、優しく、美しい女の子だから。ええ、そうよ。私は嫉妬しているのです」

 

「セクレトルー…………!」

 

 誰に、とは言わないまま、女は破片の中からバイオリンを拾い上げ、わたくしの前に投げてよこした。

 

「さあ、台無しにしてください。あなたの楽器を、音楽を、夢を。支配者様の心を揺り動かせるかもしれない最後の武器を」

 

 女は首元のチョーカーに手をかける。総統と同じボイスコントローラーだ。

 

「自ら希望の芽を摘み取りなさい。そうすれば、流石のあなたも絶望するっ!」

 

「セクレトルー!」

 

「踏みなさいっ、トワイライト! そして私と同じところに堕ちるのっ!」

 

 右脚がひとりでに持ち上がる。わたくしは自分の意思とは無関係に、足裏をバイオリンに押し付けようとしていた。

 その時、小石でも踏んだのかフロート車がほんの少し揺れた。咄嗟に、あえてバランスを崩して転倒する。床の上に転がることで、どうにかバイオリンを踏まずに済んだ。

 

「このっ!」

「セクレトルー! わたくしは踏まない! 貴方にそんな無体はさせない!」

「トワイライト! 憎い! 強くて優しいあなたが憎い!」

「たとえ憎まれても、セクレトルー、わたくしはっ!」

「なら蹴りなさい! 蹴ってこの車から落とすのよっ!」

 

 セクレトルーは指示を変えた。転倒したまま、右足を体に引き付けてしまう。

 

「蹴れ! 蹴れぇっ!」

「ぐう! うううっ!」

 

 目を閉じて、バイオリンを見えなくする。突き出された右足は空を切った。それでもなお、彼女は諦めず叫ぶ。

 

「目をつぶるなぁっ! しっかり見るのよぉっ!」

 

 言われた通りに目を開くと、バイオリンの姿がはっきりと見える。今度こそ狙いをしっかりとバイオリンに定め、右足を体に引き付ける。

 

「うああああっ!」

 

「もう諦めて! あなたは一人! 助けなんて来ない!」

 

「くっ……!」

 

 突き出された右脚が、

「ちょ~っと待っ ぐええええ~!」

 

 飛び込んできた紫髪の少女を蹴り飛ばしたのだった。しかも顔面を。悲鳴を上げて鼻血をぴゅーっと吹き出しながら、ゴロゴロと床を転がる。

 かと思うと素早く起き上がり、涙目でこちらを睨(にら)みつけてくる。

 

「な゛に゛す゛ん゛の゛よ゛っ!? このローラ様が助けに来てあげたのに!」

 

 

 ◆◆◆

 

 月面。降り注ぐ太陽エネルギーによって110℃以上になる灼熱地獄で、闇の勢力ディスダークの支配者クローズが、腹を抱えて爆笑していた。

 

「ク、ハ ハ ハ ハ ハ ! こいつは傑作だぜ!」

 

 空気のない月面でも、クローズの声は大きく響く。特殊な念話能力である。

 黒のトゲ付きロングコートというパンクな姿のクローズは、白い歯を見せて哄笑し続ける。遠視能力で地球を観察していた彼は、トワイライトが意図せずローラを蹴り飛ばす瞬間を目にしていたのだ。

 

「いいぜいいぜぇ~! それでこそプリンセスプリキュアの生まれ変わりだぜ!」

 

 手を叩いて褒め称える彼は、まるで舞台演劇でも鑑賞するかのようにご満悦である。しかしすぐに笑みを消すと、低い声でつぶやいた。

 

「どう思うんだぜ、シャロン。テメエが記憶を消さなかった二人がコントしてるトコを見せられてよ」

 

「──」

 

 クローズの後ろ、岩の下に座り込んだ半死半生のシャロンは、返事どころか身じろぎ一つしない。その眼球は水分を失って干からびつつあるし、手足に至ってはもうほとんどミイラだ。

 

「ふん……相変わらずだんまりかよ。まあどうでもいいぜ。もうじき全部終わりなんだからよ」

 

「……」

 

 独り言を言い捨てると、クローズはさっさとどこかへ行ってしまう。彼の背中が完全に見えなくなったところで、シャロンの口元が微かに動いた。

 

 〈ど う し て 来 た の 、 ロ ー ラ 。 あ な た を 傷 つ け た く な い の に〉

 

 ◆◆◆

 

「な゛に゛す゛ん゛の゛よ゛っ!? このローラ様が助けに来てあげたのに!」

 

 鼻を押さえて抗議してくる紫髪の女の子。

 すらりとしたスタイルの美少女だが、いかんせん鼻血まみれの汗まみれ、白いレギンスや水色のブラウスは破れてボロボロだし髪はボサボサで薄汚れている。ついでに言うならちょっと臭い。

 

「……ええっと……」

 

「…………」

 

 セクレトルーと総統も突然の事態に固まっている。かくいうわたくしも、目の前の出来事を理解するまでに数秒の時間を要した。

 ローラと言うらしい少女は、ぷんぷん怒りながらビシッと総統を指さした。

 

「ちょっとユージ総統! あなたねえ、いい加減にしなさいよね! 寄ってたかって女の子イジメるなんて最低! 変態! ロリコン! 女の敵! こんな所をシャロ──もがっ」

 

 シャロン、と言いかけた少女の口を慌てて塞ぐ。

 

(なにすんのよトワイライト! 素っ裸で抱きつかないでよ!)

 

(言ったらまずいんですのよ! 記憶が戻ったらシャロン女王に時間を巻き戻される!)

 

(えっマジ!? アレそういうウラだったの!?)

 

「何をヒソヒソと!」

 

 セクレトルーの叫びとともにムチが鳴る。反射的にローラを突き飛ばす。二人の間をムチがかすめていった。間一髪。

 

「あの首のチョーカーを!」

 

「あなた人使い荒いわね!」

 

「!? と、止まりなさい!」

 

 セクレトルーの焦った叫び。わたくしの身体が一瞬停止するが、ローラは止まらない。

 

「キュアップ・ラパパ! チョーカーよ、外れなさい!」

 

 意外に実戦慣れした魔法の呪文。短い杖の先端から光が迸り、それがチョーカーに当たる。バチッと音がして火花が飛び散り、忌々しいコントローラーは粉々に砕け散った。

 

「見た? 今の魔法! すっごいでしょ!?」

 

「はいはいすごいすごいですわ」

 

「あなたたち!」

 

 拍手するわたくしの前で、セクレトルーが忌々しげに叫ぶ。彼女の手が腰の鞭にかかったのを見て、ローラが飛び退いた。わたくしも一歩下がる。セクレトルーが鞭を振り回すたび、床に落ちたガラス片が矢のように飛んでくる。だが、

 

「ふうっ…………!」

 

 わたくしは踊るようにステップを踏み、ことごとくムチとガラス片をかわしてみせた。

 

「な…………!」

 

「このトワイライトを!」

 

 狼狽したセクレトルーの殴打を、視界が天地逆転するほどに仰け反って回避する。そのままバク転しながら両足で彼女を蹴り上げた。顎を打ち抜かれたセクレトルーは吹き飛び、フロート車から落下する。

 

「甘く見ないでいただけますこと?」

 

 わたくしは銀の髪を搔き上げ、口の端を上げる。魔力を封じられながらも、食事をしっかり取ってきた甲斐があった。

 そんなことを考えていると、今度は横からローラが飛びついてきた。

 

「やるじゃないトワイライト! 見直したわ!」

 

「ええまあ、はい……」

 

「これで車の上には三人だけね! 後は総統だけだけど、どうする!?」

 

 キラキラした瞳で見上げてくる彼女に、わたくしは渋面を作った。

 

「そうとは言えませんわね」

 

「えっ? わわっ!」

 

 警備ドローンが殺到してくる。一抱えほどの球体をしたそれが、ざっと十数機。総統を守るように浮遊している。

 

「…………それで、どうするんだトワイライト」

 

 総統が尋ねてくる。生きるための重要な何かが抜け落ちたような、虚ろな声だ。でも今は案じている暇はない。わたくしは軽く肩をすくめる。

 

「セクレトルーを信じます。わたくしは、貴方の心を震わせる武器を手に入れたと」

 

「武器? そんなものが」

 

 なんの役に立つ。そう言いたげな顔に向かって微笑んだ。

 

「ええ、わたくしの体は貴方の操り人形で、ローラは魔法つかいのようですが一人きり。とても貴方を害する事はできませんわ」

 

「だから?」

 

 わたくしは、バイオリンを拾い上げた。

 

「だから、貴方の心を震わせてみせましょう。暴力でも性でもなく、ただ音楽で」

 

 バイオリンを構える。安定させるため、あごと肩ではさむように。支えやすくなり、演奏もスムーズになる。右手に弓を構え、弦を押さえ……。そして、弾いた。

 曲名はない。ただ心を閉ざして、自分の内から聞こえる音に耳を澄ませるだけだ。ゆっくりと静かに、音を重ねていく。

 

 ……♪ ……~♪ ……

 

「…………」

 

「うわあ…………」

 

 沈黙のまま、しばらくの演奏が続く。その間ずっと、総統とローラはわたくしを見つめていた。きっと、心の震えを感じているのだろう。やがて、

 

「きれいだ……」

 

 不意に聞こえた小さなつぶやき。それは、総統の口から漏れ出たものに違いなかった。

 

「氷みたいに冷たくて、でも透き通っていて……なんて美しいんだ」

 

 彼の頬が紅潮していく。次の瞬間、

 

「……おお……」

 

 その目から、涙が溢(あふ)れ出した。透明な水滴が頬を伝い落ちる。彼は嗚咽(おえつ)を漏らし始めた。まるで子供のようにしゃくりあげながら、目元を拭(ぬぐ)う事すらせず涙を流す。

 わたくしは演奏を続ける。

 

 ……♪ ……~♪ ……

 

(尊く)

 

 ……♪ ……~♪ ……

 

(気高く)

 

 ……♪ ……~♪ ……

 

(麗しく)

 

 ひたすらに音を紡ぎ続ける。少しずつ心が解れてきたのだろう、彼が小さく微笑むのが見えた。その笑顔を見ているうちに、なぜかわたくしまで胸が温かくなってくる。

 

(強く)

 

 ♪ ……~♪ ……

 

 少しずつ、音が変わる。わたくしの心を反映し、高鳴り始める鼓動のような響きを帯び始める。

 

(優しく)

 

 ♪ ……~♪ ……

 

(美しく)

 

 ……♪ ……~♪ ……

 

 ──心に沁み込むような音色に変わってゆく。

 

「一緒に」

 

「……!」

 

 突然、ユージがわたくしの手をとった。思わず彼の顔を見る。まだ涙の跡が残っているものの、その瞳には強い意志の光が宿っていた。

 

「一緒に弾きたい。教えて、くれるかな?」

 

「……喜んで」

 

 わたくしは頷(うなず)き、彼にバイオリンを持たせる。

 

「バイオリンは身体全体を使って演奏するものです。足元は肩幅くらいに開いて。左脚を少し前に出して、重心を安定させてくださいまし」

 

「こ、こう?」

 

 促すと、ユージはぎこちない手つきで弦を押さえる。そこでまた涙がにじんできて、わたくしは苦笑しながら彼の手を取った。

 

「大丈夫ですわよ。もっとリラックスして」

 

「う、うん」

 

 ようやく構えが取れたところで、後ろから密着して手を取る。抱かれた時のまま、裸の乳房と筋肉質な褐色の背中が触れ合った。上を向いて、緊張気味な男の耳元に唇を寄せて囁(ささや)く。

 

「ほら力を抜いてくださいな……息を吸って、吐いて……。そうですわ、リラックスして、右手の小指を曲げて、弓を弦にあてて、左手で押さえて──」

 

「ふ、ふんふんふん……!」

 

 必死に頷(うなず)く男の耳にそっとキスをする。ピクリと震える体を優しく抱きしめてやりながら、耳元でささやく。

 

「それから、これが一番大事なこと」

 

「……なに……?」

 

「バイオリンは、心を閉ざして弾くもの。自分の心だけを見つめながら、弾いてみてくださいな」

 

「……」

 

 演奏が始まる。ぎこちなく、たどたどしい。わたくしの導きがなければすぐにつまずきそうな指使いで、男が懸命に弦を抑える。拙いメロディラインからは、彼の迷いや葛藤が透けて見えるようだった。

 

 彼は今、何を考えているのかしら。誰を想っているのかしら。

 

 妻であるシャロン女王? 

 婚約者だというイース? 

 側仕えのジェントルー? 

 護衛のダークプリキュア? 

 わたくしを破ったドリーム? 

 それとも……わたくし…………? 

 

「……トワイライト?」

 

 ハッと我に返ると、ローラが不安げにこちらを覗き込んでいる。総統の演奏はまだ続いている。

 いつの間にかぎこちなさは消え、彼は思いのままに音を奏でていた。その音があまりにきれいで、聞いているだけで涙が出そうになる。

 

「──お見事です」

 

 演奏が終わる。一瞬の静寂の後、万雷の拍手が巻き起こった。民衆は口々に賞賛の言葉を叫びながら、割れんばかりの歓声を上げている。ユージは照れ臭そうに笑いながら手を振った。

 

「いやあ……自分でもビックリしてるよ」

 

 言ってこちらを向く表情からは、狂気は消え失せているように見えた。かつてシャンティアの首都で出会い、ポカンとわたくしに見惚れていた頃の彼と変わらぬあどけない瞳。そこに映っているのは紛れもない喜びだった。

 わたくしはにっこりと微笑んでみせる。それだけで充分だろうという確信があったからだ。ほら……

 

「トワイライト」

 

「はい」

 

「今更だけどさ」

 

「そうね」

 

「俺……君の事を愛してる」

 

「…………あ」

 

 わたくしの心に、光が差した。ユージの言葉は、わたくしに虹をもたらしたのだ。光と影が入り交じり、虹色のグラデーションを描き出す心のキャンパスに、確かな答えが浮かび上がってくる。

 

「わたくしもよ!」

 

「ああ!」

 

 わたくしが飛びつくと、男は力強く抱き留めてくれた。

 

 ◆◆◆

 

 月面。クローズが顎の外れそうな顔で笑う。

 

「クッハ、ハハッ、ハ ハ ハ ハ ハ ! 見たかシャロン、聞いたか!」

 

 宇宙に浮かぶ青い地球の上では、今まさにシャロンの夫とトワイライトが熱い口づけを交わしているところだった。

 

「愛してるとよ! やったな! ついにオマエのあがきが報われたんだぜ! クククククククク! アーッハハハハハハハハ!」

 

 クローズが笑い転げる。やったなと言いながら、それははっきりと嘲笑だった。

 それを向けられた当のシャロンは、今まさに最愛の夫が他の女に愛を囁(ささや)いているシャロンは────

 

「ハ ハ ハ…………うぎぃっ!」

 

 嗤い続けていたクローズの首筋を、ミイラのような腕がつかんだ。ゴキゴキと首を捻る音がするたび、クローズの顔が激痛に歪む。

 

 〈ゆ る さ な い〉

 

 幽鬼のように佇むシャロンから漏れた声は、呪いの言葉そのものとなってクローズの脳に直接響いた。同時に首がグギッと音を立てて折れる。頸椎が砕ける感触と共に意識が遠のく。

 

 しかし、クローズも闇の生物だ。心臓を握り潰されようが頭を吹き飛ばされようが死ぬことはない。折れた首をぶらんと垂らしながら、血走った目で骨と皮だけになったシャロンを睨(にら)みつける。彼女の瞳は、金の光ではなく赤黒い炎で燃え盛っていた。

 

「き さ ま……どこにぞんな力が……!」

 

 ──クローズの敗因を述べよう。それは、彼がお(・)ん(・)な(・)の愚かさを舐(な)めていたことだ。

 

 クローズは純粋で真面目な男だ。純粋に、真面目に、一万年以上をかけて世界を絶望で包もうとしてきた。

 

 そんな彼が、女……すなわち自分と対等な異性だと認識できたのは、自分の宿願を阻むプリキュア、その中でも最後まで自分と張り合った一人だけだった。

 

 クローズにとって、女とは、キュアフローラの事だったのだ。

 

 強く、優しく、美しく。

 純真で純朴で、穢(けが)れなき純潔の乙女。

 どんな事があっても決して希望を諦めず、二本の足でしっかりと夢を追う、素敵で無敵な女の子。

 

 そんな理想の女の子しか知らないから、クローズは舐(な)め切っていたのだ。

 男を知ったお(・)ん(・)な(・)が持つ、どす黒い執念を、どうしようもない醜さを。

 

 〈わ た く し を 忘 れ て し あ わ せ に な ろ う な ん て〉

 

 あまりにも理不尽な呪詛。自分でそう仕向けておきながら、彼女は愛する男に裏切られたと呪いの言葉を吐いている。

 これが女。これが愛のために世界を征服するという妄執に囚われた者の、なれの果ての姿。

 そして、さらに。

 

「ぐ、ぎぎ…………あっ?!」

 

 呻(うめ)いてもがくクローズの前で、空間に亀裂が走る。

 まるでガラスにヒビが入るようにピシピシと音を立てながら、すき間が広がる。

 その向こうに広がる光景を見て、彼は目を剥いた。

 

「テ、テメエらぁっ……!」

 

 彼が舐(な)めていたものが、もう一つある。

 

『プリキュア・ダークパワー──!』

『プリキュア・シューティング──!』

 

 それは強さ。女の強さ。

 

『出でよ、ミンナウバウゾー!』

『ナケワメーケ、我に仕えよ!』

 

 プリキュアじゃない彼女たちも持っている、絶対に諦めない心の強さだった。

 

「う、お おおおおおおおおお!?」

 

 月面に、巨大な爆発が起こる。

 最終決戦の火蓋は切って落とされた。

 

(続く)




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