主人公ユージは、管理国家ラビリンスの美少女幹部イースに仕え、そして恋する合成人間。イースもユージに対し、無自覚ながら独占欲と親愛の情を寄せていた。
だが古代シャンティア王国の遺跡探索において、イースは事故死してしまう。ユージはシャンティアの王女にして『妖星ギードラ』の力を持つシャロンと契約し、イースを蘇らせる。だがその過程でシャロンとも愛し合う仲に。
二人はラビリンスの総統メビウスを打倒し、更にはユージの恋を叶えるためにイースを快楽で堕とそうとする。しかし強引なやり方は奏効せず、イースの心は頑なになるばかりだった。
数日後、新国家「シャンティア連合共和国」を樹立し、その支配者に収まったユージとシャロン。仲睦まじいその姿に、イースは愛憎半ばの視線を向けていた。
1/4 (エロ無し)
無数の青いクリスタルが、その異空間をゆっくりと浮遊している。
中心には、地面を抉り取ったような巨大な浮遊島。世界の料理を独り占めせんと企む悪の秘密結社、〈ブンドル団〉のアジトだ。
「無事、パルミエ王国からレシピッピを強奪できましたね。我らの団長ゴーダッツ様もお喜びになるでしょう。……てゆーか、これぐらいできて当然じゃね?」
イヤミったらしい口調でそう言ったのは、ジェントル―の上司だった。
ジェントルーは嫌な顔ひとつせず、はっ、と答える。
その上司、セクレトルーという妙齢の女は手元の書類をめくり、そして言う。
「次の任務地はラビリンス改め、シャンティア連合共和国です」
「あのような料理不毛の地に、レシピッピが?」
「最近政変があったようで、新政権がレシピや食材の輸入を始めたようですね。特に嗜好品を優先しているとか…………てゆーか、口答えすんじゃないっての」
ジェントル―は、マントにシルクハットといった、いかにも怪盗という格好をしている。しかし、マントの下は
「はっ、承知しました」
そんな彼女がイヤミな上司に文句ひとつ言わず従う姿は、何とも奇妙だった。
「まぁいいでしょう。とにかく、レシピッピの入手を最優先にして下さい。あと、パルミエ王国の追手も引き受けてもらいますから。…………てゆーか、私の仕事を増やすんじゃないっての」
「はっ! 仰せのままに」
ジェントル―は恭しく礼をした。
それを確認してから、セクレトルーは何故か右手を握り、肩の前に構えた。ジェントル―も同じポーズを取る。
「それでは参りましょう。せーの!」
二人は拳を突き上げ、声を揃えて叫んだ。
「「ブンドルブンドル~!」」
♡プリキュア♧じゃない彼女たち
と
◆世界を征服する話◆
第2話 ごはんはえがお
パラリ、とイースは歴史書をめくる。
「この世界の歴史は、およそ1万3千年前に始まる」
発掘調査から、ヒトと呼べる生物の発生は500万年前ではないかと言われているが、それでも歴史は1万3千年だ。
このことに異論を唱える学者は極めて少数である。様々な研究により、1万3千年前、地球そのものが一度滅亡したと分かっているからだ。
凶悪な病原菌の蔓延によって、全ての命が失われた。人も、動物も、植物も、微生物さえも死に絶えた。いや、大気や海さえ失われ、地球は死の荒野と化したのだ。
「だけど、滅亡から逃れた生命もいた。創世神話では、それらは異世界で数を増やし、地球に帰還したとされている」
イースは次の本を手に取った。創世神話を伝える「はじめの本」だ。
イヴは、神に作られた最初の人間であり、全知全能の神に最も近い存在だ。
しかし、蛇と呼ばれる悪魔を助けたことで、楽園から追放されてしまう。
零落したイヴは、アダムという男性と出会う。
アダムは、知恵の実をイヴに与えた。
これにより、イヴは、アダムを誘惑し、禁断の果実を食べる。
二人は、抱き合って一つになった。これが、現世人類の始まりだという。
その後、アダムはイヴを妻に迎え、エデンの園で暮らすようになる。
二人の間には三人の娘が生まれたが、いずれもアダムの妻となり、子をなして、子孫を増やしていく。
「いやらしい……」
イースは歴史書に戻る。
1万2千年前に、人類は地上の支配者となる。僅か千年で、人類は滅亡前をも凌駕する繁栄の時代を迎えたわけだ。
「シャンティア王国の絶頂期もこの頃……。そして」
そして繁栄の頂点にあった時、それは起こった。
宇宙の彼方から、地球よりも大きな星が現れたのだ。黄金の光と共に。
「それが、妖星ギードラ……」
イースは歴史書をめくる手を止めた。
「……ギードラの出現は、繁栄を極めて傲慢になった人類に対する、宇宙の警告だった……? ふん、くだらない」
イースは再び本を読み進めた。
世界は再び滅亡の危機を迎えた。ギードラの放つ稲妻のような光線は、地球の文明を次々と打ち砕いた。生き残った人々もギードラの輝きに魅せられ、自ら進んで光線の中に飛び込んでいく者まで現れたという。
人々は、自らの過ちに気づいたが、もはや手遅れだった。だが……
「だが、ギードラの滅びからどうやって逃れたのかは、伝わっていない」
イースは、本を閉じた。そして、ノートに疑問を書き連ねていく。
(ギードラの滅びから、古代人はどうやって逃れた→あの
(『はじめの本』って、変なタイトル)
(「イヴ」「神」「蛇」「知恵の実」「禁断の果実」「エデンの園」 多くの単語が、取って付けたように出てくる。他から借りてきた?)
(アダムの登場が唐突すぎる。あまりにも、イヴに都合が良すぎ。まるでイヴのために作られたよう)
イースは、ペンを置くとベッドに横になる。ふぅ、と息を吐いて呟いた。
「なんだか、誰かを庇っているような」
最近のイースは、こうやって世界の歴史を勉強していることが多い。メビウスの洗脳から逃れ自由を取り戻した彼女は、歴史の中に進むべき道のヒントを探すようになっていた。
ジリリ、と懐中時計が鳴る。
「……そろそろ時間ね」
軍服に着替えながら、そっと盤面を撫でる。かつてユージから贈られたものだった。
(あの時、私はユージになんて言ったかしら。ありがとうなんて言わなかったわよね。そんなだから、あの女に……あの女……!)
イースは、自分の頬をピシャッと叩くと、居住区を出た。
シャロンとユージに嬲られたあの日から、およそ1週間。二人の結婚式から3日が経過していた。
◆◆◆
シャンティア連合共和国の首都〈ローザシャーン〉。ほんの半月前は、管理国家ラビリンスの首都であった都市。〈シャロンの薔薇〉を意味する優雅な名称には似合わない、無骨で無機質な高層ビル群がそびえ立つ。
旧ラビリンス本部は、ほとんどの区画を封鎖した後、臨時の総統官邸として使用されていた。
その前にある広場には、すでに大勢の人々が集まっている。皆、新総統ユージとその伴侶シャロンの姿を見て、口々に歓声を上げている。
「新総統閣下万歳!」
「シャロン女王ばんざーい!」
「シャンティア連合共和国ばんざーい!」
新総統の演説会は、盛大な盛り上がりを見せて終了したようだ。
「……虫酸が走るわ」
官邸に到着したイースは、人々の熱狂ぶりを見て、そう吐き捨てた。
ユージは人々に笑顔を振りまきながら、演説台から降りていく。その隣では、シャロンがユージの腕に寄り添っている。その姿にイースは、はらわたが煮えくり返るような思いがした。
「おーい、イース! 久しぶりだな!」
「相変わらず辛気臭い顔だね、イース。君も新しい世の中を楽しんだらどうだい?」
「ウエスター、サウラー……ちっ」
イースの顔が歪む。だがすぐに困惑した顔になった。
「アンタ達、こんなところで何をしているの。ていうか、何よその格好は」
イースの元同僚である二人は、地味なスーツ姿だった。ウエスターが黄、サウラーが緑のネクタイをしているのが個性と言えば個性だろうか。
「ああ、僕たちは内務に回されてね。ラビリンス……おっと、シャンティア市民の声を集めて新総統に届ける仕事なんだよ」
「そうだぜ。見ろよ、このピカピカの辞令!」
「ふん……サウラーはともかく、ウエスターみたいな筋肉バカに務まるとは思えないけど」
「ああん!? 誰が脳筋だって!?」
「言ってない」
「ははは、ウエスターは子供に大人気だからね。意外と天職かもしれないよ」
「お前もバカにしてないか!?」
イースは苛立ちを押さえきれなかった。かつてはメビウスの走狗として自分と共に闘ったウエスターとサウラーが、今ではユージの手足としてシャンティア連合共和国の一員となってしまったことが許せなかった。
(どいつもこいつも、総統 総統 新総統! あれはユージなのに! 私の……! 私の……!)
イースの頭の中で、怒りの感情が渦巻く。
「……イース。君は、新総統に不満があるのかな。部下としてずっと君に尽くしてきた、あのユージじゃないか。君も総統の直属として重職を与えられると聞いている。一体、何が不満なんだい?」
「そうだぞイース! ユージはメビウスの支配から俺たちを救ってくれた英雄だ。お前も、本当は感謝してるんだろうが」
「……うるさい」
イースの言葉は小さかったため、二人の耳には届かなかったようだ。
背中を向けて去って行くイースを見て、二人は首を傾げた。
「なんだぁイースのやつ。生理か?」
「デリカシーを身に着けたまえよ、ウエスター君。もう洗脳も解けたんだから、少しは気を遣ってあげたらどうなんだい」
◆◆◆
「失礼します」
イースが訪れたのは、ユージの執務室だった。
「はい、お入り下さい」
扉を開けると、そこには書類に目を通すユージがいた。
「ご足労いただいてすみません、イース様」
「……奥様は?」
「え、シャロンですか? あいつならもう出発しましたよ。外交は女王の大事な仕事だそうで」
「そうですか」
「あ……お、お茶でも飲みますか? ちょうど休憩しようと思っていたところなんです」
ユージの執務室は、本人の人柄を現すように質素な作りだ。ただ、部屋の隅に置かれたソファだけは場違いだった。金色の素材がふんだんに使われた豪華な品で、人間二人が並んで寝転べるほどのスペースがあった。
(ここで、あの女と楽しむための……)
イースは思わず歯ぎしりした。だが、表情には出さず、ユージの前に立つ。
「いいえ、結構です。辞令をいただければすぐに退散致します、総統閣下」
そう言うと、ユージは悲し気に目を伏せた。
「イース様……。どうして、ユージと呼んでくれないんですか? 俺は、イース様が俺のことを『ユージ』と呼べば、いつでもあなたの傍に行きます。あなたは、俺にとっての全てなんです」
「……今の言葉、奥様にも聞かせたいわね」
「もう言いました。シャロンは分かってくれています。俺は、イース様もシャロンも愛しています。二人と一緒に幸せになりたいんです」
「ふざけないで!!」
イースは、ユージの胸倉を掴んだ。
「よくも……よくもそんな……!」
イースの瞳から涙が流れ落ちる。
「しっかりしなさいよ……お前は新総統で、あの女は共和国の女王なのよ! いつまでも、私なんかを想っていないで、もっと現実を見るべきでしょう!」
「……」
「お前があの女と結婚したのは、国を安定させるためでしょ! それなら、国のことを考えなきゃダメじゃない! 総統になった以上、国民に尽くす義務があるのよ!」
ユージは、ぐっとイースの腕を握り返した。
「確かに、イース様の仰ることは正しいと思います。俺は、総統になったからには、シャンティアの未来のために生きるつもりでいます」
イースは、胸が締め付けられるような苦痛を覚えた。
「だけど、俺がシャロンと結婚したのはシャロンのためです。新総統になったのもシャロンのためです。シャロンの願いを叶えたのは、イース様を救うためです! シャンティアのためじゃありません!」
(彼はあなたの命を救うために、全てを投げ出したのです)
イースの手から力が抜けていく。あの時、シャロンは確かそう言ったと思う。
ユージの手を離すと、力なく呟いた。
「ユージ……私は、あの迷宮でどうなったの。お前は、私のために何をしたの」
「…………知りたいですか?」
ユージは真剣な眼差しで、真っ直ぐにイースを見た。イースは、無意識にユージがくれた懐中時計を握りしめていた。
「知りたくない。けど、知らなくちゃ、ありがとうも言えないから」
「……イース様は、一度死んだんです。俺はシャロンを起こして、イース様の命を救ってもらった。言葉にすれば、たったそれだけのことなんですよ」
言葉を選びながら、ユージは語った。
「質問の答えになってないわ。お前は、私の命と引換えに、あの女に何を差し出したの」
「全部です。シャロンと共に生きて、シャロンと共に死にます」
ユージは迷いのない口調で言った。
「それは、私のため?」
「いいえ、俺のためです。俺がイース様と幸せになれるのは、この道しかないから」
ユージは、イースをそっと抱きしめた。
イースは抵抗しなかった。ユージの胸に顔をうずめ、静かに涙を流した。
「……馬鹿ね。本当に、大馬鹿」
「俺が馬鹿なのは、イース様が一番よくご存知ですよ」
一番と言われて、ついつい吐息を漏らしてしまう。
「……この部屋だけよ。この部屋でだけ、昔の私に戻ってあげる。外では、駄目だからね」
「はい、イース様。……今は、それで我慢します」
イースのくすんだ銀髪に、ユージが指を通す。そうされると、男が自分を欲しがっている事がよく分かる。胸の痛みは、すっかり無くなっていた。
「お茶、淹れてくれる? その後、私の仕事について聞かせてちょうだい」
「はい!」
◆◆◆
「ブンドル団? なにそれ」
「最近、シャンティアに侵入してきた怪盗団だそうで……」
ユージは、困り顔で言うと、イースに紅茶を勧めた。
「ん、美味しい。どこから仕入れたの?」
「ホープキングダムです。お口に合ったようで良かった」
ユージは嬉しそうだ。
「イース様と一緒に国外の任務に行けて、幸運でした。ラビリンスには無いものをたくさん経験できて……シャンティアのみんなにも、いろいろ楽しんでほしいですね」
「そうね。ウエスターなんか、デザート王国のドーナツに夢中だったわね」
「ウエスター様らしいです」
思い出語りに、イースの顔が少しだけほころぶ。
「それで、その怪盗団がどうかしたの?」
「そいつらはどうも、食べ物の味、そのものを盗むとか。襲撃を受けた倉庫では、食料がまずくなっていたとの報告があるんです」
「まずくなるって、それが何か問題なの?」
「問題大有りですよ。メビウスがいなくなって、みんな味わうって事を覚え始めたところなんです。食べる喜びを少しずつ覚えていこうって時に嗜好品をまずくされたら、下手をしたら暴動が起きかねません」
シャンティアと名を変えたかつてのラビリンスには、お茶を飲む習慣が無かった。飲み物と言えば蒸留水、食べ物と言えば栄養ブロックにビタミンペースト、娯楽などあるはずもない。
嗜好品の輸入は、新政権肝いりの政策なのだ。
「ふん。どうせあの女の受け売りでしょ」
「まあ、そうです。あいつ、ラビリンスの食事を見て唖然としてましたからね」
イースは、紅茶をすすった。彼女が腰かけているのは、シャロンのソファだ。
(この紅茶をぶちまけてやったら、少しはスカッとするかしら。ううん、ユージが悲しむだけか…………)
「それで、私にどうしろって言うのかしら。泥棒なら警備隊の出番でしょう」
「奴らはナケワメーケのような自律兵器を召喚できるらしいんです」
イースは眉間にシワを寄せた。
ナケワメーケは、ラビリンスの幹部に与えられていた自律戦闘兵器だ。手のひら大のデバイスを適当な物体に貼り付けるだけで、二足歩行型から戦闘機型まで様々な姿に変化させられる。テロ活動には最適な装備だ。
「ナケワメーケくらい、お前の奥様ならちゃちゃっと焼き払えないの?」
「シャロンが町中で戦ったら、どれだけの巻き添えが出るか分かりません。それに、味を元に戻す方法も聞き出さなくては」
「……面倒な仕事になりそうね」
イースはため息をつくと、脚を組み替えた。ショートパンツがずれて、白い太股が露になる。
視線を感じて顔を上げると、ユージがこちらを見ていた。
「……なによ」
「いえ、なんでも」
ユージは目を逸らすと、窓の外を見た。
(……こいつ)
「最初は、奴が自律兵器を召喚した際にナケワメーケを使って警備隊を援護して下さい。今は相手の出方待ちですが、分析が進めばこちらから仕掛ける事もできるはずです」
「分かった。やってあげるわ」
イースは、前かがみになってカップをテーブルに置いた。重力に従って、胸元が少し緩みかける。
「ユージィ、お前はどこを見ているの?」
ユージは慌てて目をそらした。
(続く)