「お父さんのバカ! もう知らないんだから!」
そう言ってラブが走り去る。今年で十歳になるユージの長女だ。
二つに結んだ髪の毛を揺らしてダイニングを飛び出していく。その後ろをイースが追いかけていった。
「こら、待ちなさいラブ! ニンジンくらいでそんなに怒らなくてもいいでしょう!?」
「やだ、お母さん着いてこないで!」
「いいから来なさい! パパだって意地悪したくて言ったわけじゃないのよ?」
「うるさい、ほっといてよ!」
言い争う声が徐々に遠ざかっていく。それを聞きながら、ユージは空席の多い食卓に座り直した。
別に怒らせるつもりもなく、いいニンジンが手に入ったのでニンジン嫌いの娘に食べさせてやろうと思っただけなのだ。
父親とはなんと難しいものなのだろう。どうして誰か電子マニュアルでも整備しないのだろうか。
「お父さん、元気出して?」
「うん、ありがとうフローラ」
落ち込む父を見て、七女のフローラが心配そうに声をかけた。お団子ヘアにした金髪を揺らしながら、小さな手で頭を撫でてくれる。
「お父さん、見てて。……パクッ!」
フォークにニンジンのソテーを乗せて頬張る。
ユージは少し驚いた。フローラもニンジンは苦手なはずだからだ。
「んぐ……んん……」
目をつむって懸命に咀嚼し、やがて飲み込んだ。そしてぱあっと笑顔になると、
「おいし~い! すごく甘いよ、これ!」
「そうか……よかったね」
嬉しそうに飛び跳ねるフローラに微笑む。
ラブより二つ年下の八歳だが、母のトワイライトに似て向上心が強く努力家だ。お行儀が悪いのはともかくとして、将来どんな大人になるか今から楽しみだと思っている。
(まあ、その時まで俺の命があればの話だけど)
◆◆◆
この十年、自分なりに世界の支配者として上手くやってきたと思う。
もちろんパーフェクトとは言わないが、それなりに世界は秩序を取り戻しつつあるし、ホープキングダムやノーブルタウンといった戦災地域の復興も成し遂げた。
悩みがあるとすれば多忙すぎて家族との時間が取れない事と、世界征服が上手くいきすぎて水面下の動きがどうにも不気味なこと、あとは……
『お前の寿命だなあ、ケッ、いい気味だぜ』
「よう、クローズ。今日の生ゴミは美味かったか? このカラス野郎」
子どもたちのために造らせた小さな庭園のベンチに座っていた時、樹上からカラスが声をかけてきた。かつて戦ったあのクローズ当人である。
『カアッ! テメエ、やるってのか!』
「お前はいつもそうだ。人の事を馬鹿にして見下してばかり。そんなだからモテないんだよ」
『言うことが年寄りくせえなオイ』
「……お前に言われたくないな、一万三千歳のクソじじいめ」
そう言うと、カラスは愉快そうに笑った。
三年ほど前に復活してきた時は本当にうんざりしたものだが、ちっぽけなカラスの姿で戻ってきた根性に免じて殺さないでおいてやったのだ。
それ以来ちょくちょく現れては嫌味を言いにくるものだから鬱陶しくて仕方ない。
『どうだ? もう長くないだろ?』
「どうかな」
短く答える。体調に悪いところはないし、見た目も変わらないように思う。
セックスだって現役だ。そろそろ三十路にさしかかろうかというイースやジェントルーは底なしの性欲で求めてくるけれど、それに付き合った上でピンピンしているから心配いらないだろう。
『合成人間の寿命はせいぜい十年、つまりお前はとっくに死んでてもおかしくねえわけだぜ』
「データ上はな」
だがクローズの言う通り、もう自分はいつ死んでもおかしくない年齢に達している。
ユージは、十四歳だ。最もそれは成長促進ポッドを出た日からの年齢なので、十四年間大人の姿で生きている。
まだ死んでいないのは、ギードラと融合した恩恵に過ぎないと考えられていた。
『カアッ、カカカッ!』
クローズが嗤う。これさえなければ真面目で一本気で憎めない奴なのだが、いかんせん性格の悪さだけはどうにもならないらしい。
『心配すんな。お前が死んだら俺様が責任持って世界を絶望させてやるぜ。安心して逝っちまっていいんだぜぇ?』
「そのナリで何カッコつけてんだ、トリ野郎」
『カアッカカカッ! そうカリカリすんなよ支配者サマ、カルシウム足りてねえんじゃねえのか?』
高笑いするカラスを見てため息をつく。
こいつと関わると疲れる。焼き鳥にしてやるのが一番だと分かっているのだが、どうも気が乗らない。
あるいは自分も心のどこかで仲良くなりたいとでも思っているのかもしれない。
(ありえないけどな)
ふと空を見上げると、灰色の雲が空を覆っていた。今にも雨が降り出しそうな嫌な天気だ。娘を連れて戻ったほうがいいだろう。
「おーい、フローラ。もう戻ろうか」
娘の名を呼ぶと、ぱたぱたと駆け寄ってくる。花を摘みに行っていたのか、手には花束を持っていた。ピンクのバラを三本、黄色いカーネーションを一本、青いアネモネを一輪束ねた可愛らしいブーケだ。
花が好きなフローラはよくこうして摘んできては父親に見せに来る。特に珍しいものではないはずなのだが、娘が選んできたというだけでとても美しいものに……
「はい、お父さん。……あっ、クローズのおじさんこんにちはー!」
『やあ、フローラちゃん。今日も可愛いねぇ』
「あはは、ありがとう♪」
……いや訂正しよう。花の可憐さなどどうでも良くなるほど、我が子はとても可愛かった。たとえ相手が闇の生物であっても笑顔で挨拶ができるほどに素直で明るく優しい娘に育ってくれたことが嬉し……うん?
「……え? クローズ……おじさん? フローラ……ちゃん?」
『ほらフローラちゃん、雨はまだ降らねえぜ! もう少しおじさんと遊ぼうぜぇ』
「ほんと!? お父さん、わたしクローズおじさんと遊んでくるね♪」
ユージの返事も待たず、花が咲いたような笑顔を浮かべるフローラはカラスを肩に乗せながら駆け出していった。
それを呆然と見送りながら、ユージは思った。トリ野郎め、フローラの見ていないところで焼き鳥にしてやる。
『カッ──ハ ハ ハ ! せいぜい長生きしな、支配者サマ! せめてフローラちゃんが大人になるまでなぁ!!』
取り残されたユージだったが、そのうちまあいいかとベンチに戻った。
どうやら自分のアドバイスを活かしたらしいクローズに毒気を抜かれてしまったのだ。意外と柔軟なヤツだと思うと同時に、少しだけ羨ましくも思った。
「あー、長生きしたいなあ」
曇り空に向かって呟く。
夢がある限り、絶望は終わらない。その言葉通り何度も蘇るクローズが羨ましい。
もっと生きたい。妻たちを、健やかに育った子供たちを、そしてこれから生まれてくる子どもたちを残して死にたくはない。
「……ま、だけど」
立ち上がる。心は案外軽かった。
かつて伝説の戦士プリキュアは、滅亡した地球を救い、そして守ってくれた。いわく、絶望がある限り、夢は消えないらしい。
それと同じように、幸せを求める心がある限り、愛が生まれ続けるはずだ。自分はそれをプリキュアじゃない彼女たちから教わった。
いつか来る終わりの時が怖くないと言えば嘘になるが、それは誰にだって訪れる、ありふれた絶望にすぎないのだ。きっと。たぶん。
とりあえず、久しぶりに彼女たちとハーレムセックスを楽しむか。愛の営みこそ、自分にとって最も幸福な時間なのだから。
ユージは歩き出した。きっと自分がいなくても続く、自分がいたい未来に向かって。
♡プリキュア♧じゃない彼女たち
と
◆世界を征服する話◆
完
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。プリキュアの物語はこれから先もずっと続いていくのでしょうが、ユージの物語はここでおしまいです。どうか彼と彼女らに、幸せな未来がありますように。
この小説は令和四年五月二十一日から令和五年一月九日にかけての約八ヶ月間、小説投稿サイト ハーメルン様に投稿させていただきました。
プリキュアが出てこないプリキュアのエロ小説で、しかもストーリーもので約五十五万文字、我ながらよく書き切ることができたと思います。
それもこれも、毎回読んでくださる皆様の応援のおかげです。
本当に、感謝の言葉もありません。
プリキュアのエロ小説は今後も書き続けますので、またお付き合いいただければ幸いです。改めてお礼を申し上げます。本当に、本当にありがとうございました!!
最後になりましたが、投稿の場を提供いただきましたハーメルン管理者の皆様方に、心より御礼申し上げます。
また、いつもTwitterで本作の応援・宣伝をしてくださるフォロワーの方々にも厚くお礼申し上げます。この場を借りて感謝の意を表します。
それでは、他作品で再びお会いできることを楽しみにしております。
令和5年1月9日 a-su