名門トレーナーズスクールの教育法 作:お隣の池の中のプラナリさん
赤煉瓦であしらわれた西洋風の建築。等間隔に幾重にも貼られた窓、建物の中央に鎮座する時計。その他数多の共通する特徴からして、ここは見紛うことなく学校である。
荘厳な作りのそれを前にして、一歩を踏み出せない少女がいた。
華奢な身体全体をゆったりと覆う黒のパーカーを羽織る彼女。タイツで細さをこれでもかと強調されているせいで、服装に反して全体的に細身の印象を受ける。
そして最たる特徴は、背中まで覆う透き通るほどの白い髪。前髪は目元ギリギリまで不恰好に伸びている。肌も不健康さを感じさせるほどの白さで、かろうじて乳白色と呼べるほどである。
そんな人形のように生気のない顔に不釣り合いな、鮮血のように真っ赤な瞳がツリ目の瞳孔に嵌め込まれ輝いているのだ。近寄りがたい鋭い目付きと陶器のような繊細さ、儚さを待ち合わせた神秘的な彼女だが、僅かに全身が震えている。
「......。」
少女は無言で、ただただ目の前の建築物を仰ぎ見る。その表情には陰りが窺え、「用はあるが入りがたい」という心境なのだろう。
無理もない。ここはかの名門、フルベルト学院(トレーナーズスクール)なのだから。
それも普通の街中にあるトレーナーズスクールなどではなく、トレーナーを志し、旅に出た者をはじめ10歳以上であることを条件にした名門なのである。世界各地で活躍する"タイプマスター"を排出する名門校として、知る人ぞ知るエリートの集いのような場所になっている。
当然それを受け入れる為にも不恰好なところは見せられない。学院のそれはそれは気高い振る舞いに怯んでしまうのも、致し方ないことである。
「おや、入学希望かい?」
「.....!!」
モノは試しと私は少女に声をかける。返ってきた少女の反応は酷く怯えていて、言葉をまともに発することなくこちらをただ涙目で睨んでいる。
性格は臆病といったところだろうか。少々過度な反応にも見えるが、自分を守るための行動であることはこの私には理解できる。
「少し腰を落ち着けるとしよう、キミもそういう言葉がほしかったのではないかね。では、"入りたまえ"。歓迎するよ。」
私はそう言い、学院への扉を開いた。少女も数秒間の動揺の後、恐る恐る私の後ろへと着いて歩きだした。
さて、そろそろ私の正体がいかなるものか気になっていることだろう。私はこのフルベルト学院を取りまとめる学長、フンベルンである。
私は応接室へ少女を案内し、軽く面接を行うことにする。基本的に来るもの拒まずのスタンスなのだが、少なくとも人と成りを知っておきたいというごくごく普通な理由だ。
「う....あ...初めまして....レ、レンです。」
彼女、レンは名前を名乗るのもやっとといった様子でたどたどしい口調で話す。普段から寡黙で口走らないのが原因のコミュ難である。
私はコミュ障という言葉が嫌いだからそう言わせて貰う。話すのが苦手、人と接することが苦手なだけで、失語症のようにコミュニケーションが不可能に近いわけではない。彼らは環境がそうしてくれなかっただけで別に病気でもなんでもない普通の者なのだから障害だと決めつけるのはいささか不愉快というものだ。
「ポケモンは、持たなかったのかい?」
「っ.....ポケモン....苦手です.....」
私の言葉にレンはより一層肩を強張らせ、怯えたようなひきつった顔を向けてきた。人とポケモンが共存して暮らしている環境、といっても人間嫌いのポケモンがいて、ポケモン嫌いの人間もまた存在する。彼女のようなトレーナーもいて然るべきなのだ。
「そうか。ここでゆっくり慣れて行きなさい。」
「.......はい。」
そう言葉を掛けてやると、心なしかレンは安心した様子を見せる。ここは名門と謳っているが、どんなトレーナーにも成長する可能性があると私は信じているので等しく入学の機会を与えている。一人の教育者として、彼女のような存在を前提から否定するのは大人としてやっては行けないことだと思っている。
例えレンを含めた生徒達が10歳を越えて成人していようと、彼らはまだ精神的に幼く弱いのだ。
それ故私含めフルベルト学院は純粋な彼らを受け入れる。例えレンのようなコミュ難だろうが、一度悪の道に堕ちかけた者だろうが。ポケモントレーナーという無限の可能性に、経歴や性格は大きく作用しない。
「それじゃあ、キミにあったポケモンを探そう。と、いいたいところだが既にこちらで用意している。」
「..........。」
私は水色であしらわれたスーパーボールを手に取り、その場に軽く放る。まばゆい光と共に、黒い体毛と青い皮膚を持つ小型のポケモンが現れた。
目元は彼女に似て隠れ、少女の白と赤に対して黒と青という反対の色をもっており、獣のごとく四本足で立っている。
このポケモンはモノズだ。イッシュ地方をはじめとした地域の主に洞窟に生息する。視力が退化している代わりに、目の前にあるもの全てを噛んで確かめるほどの凶暴性、攻撃性を持っているのが本来のこのポケモンなのだが。
『モノゥ......』
声も弱々しく、立つ足はぷるぷると震えておぼつかない。そう、このモノズは我がフルベルト学院にて保護という名目で連れてきたポケモンなのだが、あまりの臆病さに誰も迂闊に触れることができなかった。辛うじて食事だけは慣れさせたため何とか生きているというところだ。
「ひっ.....モノズ??」
レンもまた、震えながらモノズも向き合う。スッとポケモンの名前が出た辺り、彼女のポケモンに対する知識はかなりあるようだ。(偶然自分の地域にモノズがいただけの可能性もあるが。)
「そう、キミの性格とぴったり合いそうな子を持ってきた。ポケモンの知識があるならわかるだろうが、この子は普通のモノズとは明らかに違うだろう。生まれた直後に人間に何かされたのか、詳しい経歴はわからんがこの有り様だ。」
「確かに....」
臆病な様子のモノズを見て、レンは優しくモノズの頬に触れる。頭から覆い被さるように撫でない辺り、ポケモンの扱いは手慣れているのか。モノズが触られてから特に暴れる様子も無くとりあえずは一安心といったところだ。
「それじゃあ、教室見学の後キミの寮へ案内するよ。」
「はい、わかりました。」
私はソファーから立ち上がり、彼女を教室へと誘導する。レンもまたバタバタと慌てた様子でこちらに着いてくる。その様子はまるでワンパチのようであった。
...我がフルベルト学院の教育方針と有り方にそぐう子であればいいのだが。