金曜日の午後八時。思い立って家を出て、近所のコンビニまで歩いて向かった。視線を上げれば空を覆う分厚い雨雲。しかし、今日の降水確率の低さを鵜吞みにしていた俺は、身軽さを優先して傘を持って行かず、しかし足早に歩を進めた。
日中の夏らしい茹だるような余熱を十分に残し、まだ暑い夜の街を歩く。
「ありがとうございましたー」
店員の間延びした声を背に受け、買ってものを鞄に入れた俺はコンビニを出た。足を一歩前に踏み出そうとしたとき、空から降り注ぐ雨粒に気がつく。一瞬躊躇ってから身を引いた直後、機を見計らったかのように雨脚が強まった。家まで駆け抜けることもできそうだが、服は無事では済まなそうだ。
「しまった……」
傘は持ってきていない。ちょうどコンビニにいるからビニール傘を買う手もあるが、コンビニの傘は高い。必要なときならば多少高くても客は買ってくれるだろうという意図が見え見えで、思惑通りに傘を買ってしまうのは何だか屈辱的に思えた。
「すぐには止みそうにないよな」
こんなことだったら、折り畳み傘でも持ってくるんだった。
後悔しつつ、できれば無傷で帰宅する希望を捨てられず、俺はしばらく雨宿りすることに決めた。
コンビニの
「あ……」
一本吸い終えて二本目に火を点けてから、俺は声を上げた。
最近禁煙していたのだが、それすらも忘れて自然と煙草を吸っていた。本当に俺は長続きしないな。ちょっとだけ自分に失望したが、また今後から頑張ろうと思い、開き直って二本目を味わっていた。
「いた、プロデューサー」
二本も三本も変わらないだろう。もう一本煙草を取り出した瞬間、声を掛けられた。
視線を右にずらし、そこに立つ夏服姿の女子高生を目にし、俺はほんの少しだけ驚いた。
「
差していた傘を畳み、俺に声を掛けてきたショートヘアの女子高生は、これから俺と会う予定になっていた少女だった。落ち合う場所は俺の家のはずで、まだ約束の時間よりも早い。念のために時計を確認しても、八時半にもなっていなかった。
「早いな」
「待ちきれなくて」
「なんでまだ制服着てるんだ?」
「制服でしたいって、この前言ってたから」
「言ったっけ?」
「言った言った」
俺の横に立ち、柔和に笑みを見せる少女、
「煙草」
乱れつつもさらりとした髪を耳に引っ掛け、透は興味深げに煙草に視線を送っていた。咎める意図があるわけではないようだが、透の視線にいたたまれない気持ちになって、俺は煙草をそっと箱の中に戻した。
「吸わないの?」
「禁煙する」
「ポケットに煙草入れてたのに、禁煙してたんだ?」
「事務所では吸ってないだろ?」
「うん。吸ってない。なんで?」
「いや、事務所にはアイドルがいっぱいいるだろ」
「あー」
言われてようやく、透は納得した様子を見せた。
俺はプロデューサーだ。
横にいる浅倉透も、そんなトップアイドルの一人だ。俺がプロデューサーになってから最初に担当を受け持ったアイドルで、それなりの苦楽を共にしてきた。今は俺の担当から外れて新人の女性プロデューサーに引き継いだが、俺たちの関係はまだ続いている。
プロデューサーとアイドルとしてではなく、男と女として。
「家、戻らないの?」
「雨止んでからな」
「傘あるけど? 私のだけだけど」
「あ、そっか。でもなぁ」
「相合傘で帰ろう?」
透は傘を差して外に躍り出ると、躊躇いを抱く俺を振り返った。期待に満ちた眼差しに晒されて居ても立っても居られなくなるまでに時間は掛からず、俺は仕方なく誘われるままに透の傘下へと加わった。
「そう言えば、用事があってコンビニに寄ったんじゃないのか?」
「あれ? うん。なんだっけ?」
「忘れたのか」
「プロデューサーの顔見たら、全部吹き飛んだ。学校の宿題のことも」
「宿題は今覚えてるだろ。ちゃんとやれよ」
「はーい」
横を歩く俺の顔を見上げ、のんびりと答える透。
車の通りもそれほど多くなく、雨が傘や地面を叩く音が響いている。解放的な外のはずなのに、閉鎖的な場所にいるように感じられた。雨音を背景音にして、少しゆっくりとした足取りで、俺と透は家へと真っ直ぐ向かった。
見慣れた我が家。一軒家の二階建て。今日も当たり前のように、アイドルを連れ込む。
良いか悪いかで言えば、俺は良いプロデューサーではないだろう。良いプロデューサーは俺のようにアイドルに恋愛感情を抱かないし、肉体関係を築かないし、アイドルを抱いて溜まりに溜まった情欲を発散するなんてこともしない。
俺が悪いプロデューサーなら、透も悪いアイドルだろう。
玄関の扉を開き、家の中に入ってすぐ、透が俺の下腹に手を移動させた。半袖から覗く白く細い腕はそのまま下へと移動し、下から手の平で包み込むように俺の股間を覆う。撫でられただけで股間の膨らみがビクリと震える。
「手元狂うんだけど」
「あ、ごめん」
透から濡れた傘を預かって玄関の隅に広げている最中だった俺に、透は謝罪を述べる。しかし、その手は止まらない。指の腹でじっくりと這い回る動きに応じて中に包まれた俺の肉棒は敏感に反応し、透を楽しませている。
「帰宅して早々かよ」
玄関の鍵を閉めてから、俺は透に向き直った。
「先週も相手しただろ?」
「なんていうか、欲求不満?」
「嵌りすぎだろ」
言いながら俺が透の頭を手で撫でてやると、嬉しそうに目を細めた。
「私にセックスを教えたの、プロデューサーでしょ」
「まあ、そうだけど」
「じゃあ触っててもいいよね?」
「その理屈は意味わからん」
「そう?」
「ああ」
「そっか。脱がしてもいい?」
「人の話聞いてる?」
相変わらずマイページな奴だ。少し呆れつつ、俺は透の頭から手を離し、頬に手を当てる。「熱い」と声を上げる透の柔らかい頬をぷにぷにと弄んだ後、そこからさらに手を下げていく。細い首から鎖骨を辿り、ボタンを外して開いた白いブラウスの胸元から覗く肌を経て、ブラウスに包まれた胸に指が移動した。
スレンダーな体付きだが、揉むにはちょうどいい。布越しの美乳を手の中ですっぽりと覆い、鷲掴みにする。乳房の肉にゆっくりと指を沈ませ、弾力すらも押し返して透の乳房を自分の支配下に置くように。
透は頬をほんのりと赤らめ、口の両端を微かに吊り上げ、俺の股間を握る。
「触りながら、キス、しよう?」
「触りながらする意味ある?」
「あるよ。たぶん」
と言って、透は背伸びをした。
透の目蓋が閉じて、長い睫毛が重なり合う。母親譲りの美麗な顔が迫ってくるのを俺はただ待ち、ぷるぷると瑞々しい唇の感覚を唇で受け止めた。触れ合う唇からじわじわと熱が伝わってくる。深く繋がる。角度を変えて、もう一度。今度は目を開けて、互いを至近距離で見つめ合って、もう一度。
啄むような軽いキスから、徐々に舌を絡ませていく。ぴちゃぴちゃと唾液の音が鳴る。どれだけ卑猥な水音が鳴っても、声が漏れても、透はキスを止めない。自分の物であるとでも言うように俺の肉棒をガッチリと掴んだまま、俺の唾液を貪り食らう。
高校生の子供には相応しくもない、舌と舌を交わらせるねちっこいキス。息継ぎのタイミングを逃して呼吸が乱れる。それでも俺たちはなるべく長く、濃密に相手を感じようと、舌を擦りつけ合った。
そんな時間もやがて終わる。
離れる透の顔と唇。俺の唇と透の唇の間に唾液の糸が伸び、橋を作る。
途中で弛んで千切れた唾液が落下する中、俺たちは視線を逸らせずにいた。
透の手に力が入っていく。ジーンズとその中の下着に覆われた肉竿に透の手が食い込む。透によって体のあらゆる場所を使って可愛がってもらったことのある肉棒は、愛する彼女の貪欲な掌握に晒されて完全形態へ移行しつつある。
このままでは窮屈で、不自由だ。
最適な場所で、解放的な恰好で、透と交わりたい。
「寝室、行くぞ」
「うん」
俺は透に口を寄せて唇を舌で舐めた後、透の肩を抱き寄せた。力を入れてしまえば壊れてしまいそうな華奢な体。もう何度、この体を抱き、隅々まで味わい尽くし、自分の女である証と尽きない愛情を刻みつけただろう。
それでも全く飽きない。これからも、決して飽きることはないだろう。
今夜も長く、熱い夜が始まろうとしていた。