[異形]の蟲の大群が蔓延る中、3人のセイバーたちは無数のそれらを各々の得物で次々になぎ払っていく。中でも先陣を切るロードナイトの火力が冴え渡り、[異形]との相性の良さをうかがわせる。フォローに回るオニキス、アズライトも前方の火炎から逃れたものを確実に捉え、仕留めていく。
「――悪い、撃ち漏らし多くて」
「気にすんな。なんせこの数だ、そのまま無作為にやってくれた方が効率が良い」
彼へ軽く応答すると、オニキスは横目をアズライトへ送る。
「[侵略者]は?」
「…まだだと思います。空気が変わった様子は無い」
「出て来ねぇつもりか? …何しにこんなブヨ共寄越しやがった」
「『
そう返しながら、アズライトは再び意識を集中させ、
「…っ…!」
…まずい、
思考と共に挙動が緩んだアズライトへ、鋭く察した[異形]の一部が塊となって襲撃する。
「!!」
オニキスとロードナイトが異変に気付いた時には、既に[異形]はアズライトの至近距離へ迫り、大きく翅を広げた蝶のように形作られた蟲の群が、アズライトの身体へ被さった。おびただしい数の[異形]に覆われ、その圧力にアズライトの顔がわずかに歪む。
「っく…!」
「アズライト!
[異形]に包まれていく様へ、目を見張りながらそう指示を送りかけたオニキスだったが、後方から緋色の塊がその視界に入り、高速で横切っていく。猛接近したロードナイトは特大の火球をスローイングし、蝶様の[異形]を爆散させると自らその爆心点へ突っ込み、アズライトを抱えて救い出す。
「…!?」
アズライトが驚いて見上げる中、ロードナイトは地に降り立つと彼を降ろし、すぐさま片手を横に滑らせ、熱の防御壁を張った。彼らを追走してきた蟲たちは、その透明な灼熱の壁に当たると、燃える間もなく蒸発して煙に変わっていく。
その光景を背に、ロードナイトはアズライトの両肩に手を置き、真剣な眼差しを送った。
「お前はここにいろ。…あとは俺だけで片付けるから」
そう言うと、彼を残してその場を離れ、紅蓮を一振りし自身の周囲に炎の渦を生みだす。手を広げると放射状に拡散し、またたく間に空間一帯が火の海となる。
「……」
「…おいおい、あいつ単体攻撃専門じゃなかったか? …とんでもねぇ火力だな」
アズライトは壁の中から、ぽかんとした面持ちでロードナイトの火炎攻撃を見守っていた。オニキスも同じく攻撃の手を止め、呆気にとられた風に姿を目で追う。
ほどなくして戦闘は片がつき、緑一面だった地面は焼け焦げた葉と炭化した[異形]の死骸で黒く埋め尽くされ、空は転送されてきた直後のような、何もない明るい空間を取り戻していた。
「……っ」
「
自ら作り上げた焦土を前に、胸を浅く上下させているロードナイトの肩に手を置きながら、オニキスは横に並ぶ。
「いやーすげぇよ、お前。俺たち完全にオマケだったもん」
そう言いつつ後方へ目配せされ、ロードナイトは振り返り、いまだ灼熱壁の向こうで棒立ちになっているアズライトを視界にとらえると、はっと気付いて壁を解除する。やや慌てた風を見せる彼へ、オニキスは苦笑した。
「いいけどさ、全然問題無いけど。…やりすぎ」
「…! あ…」
「『
「わっ…悪い」
「いや冗談だろ。…[侵略者]は出て来ねぇみたいだ、さっさと戻ろうぜ」
オニキスは軽く受け流し、帰還の音頭をとる。距離の空いたロードナイトとアズライトの間に、妙な空気が漂った。
「…アズライトも、悪い…、俺やり過ぎた」
「…いや、助かったし…、いいよ」
『転異空間』が解除され、3人は元いた『現実世界』の、転送地点である自然公園入口へ戻ってきた。
転送前の異様な空気はかき消え、暗がりに虫の鳴き声と風に揺れる木々の音が優しく聞こえてきていた。
「……」
…臭いも…痺れも無くなってる。何か関連はあったのか…?
「しばらく警戒、かな」
「だなー」
軽く言葉を交わす中、黙ったまま下を向いている蒼矢へ、
「? …蒼矢?」
「おい、大丈夫か? 具合でも悪くなったか?」
「! …あ、いえ」
2人からの視線を浴び、蒼矢ははたと気づいてとりなした。
「転送前と『
「…了解、頼んだ」
3人は走ってきた元道を戻り、蒼矢と別れ、影斗は取り寄せを頼んでいた酒を受け取りに烈と
「――なぁ、烈」
バイクを引きながら、影斗は前を向いたまま声をかけた。
「お前、蒼矢となんかあった?」
「……は?」
唐突な話題に、烈は眉をひそめながら影斗へ振り向く。
「何かって…なんだよ」
「俺が聞いてんだろ。ここんとこ、いつもと変わりなかったかってことだよ」
「……ねぇよ」
少し沈黙した後、足許へ呟くように返答した烈へ、影斗はちろりと横目を投げる。
「…お前さぁ、誰かと付き合ったこととかってあんの?」
「はぁ…!?」
いよいよ影斗の会話の流れがわからなくなった烈は、彼へ目を剥いた。声高になる烈のリアクションを受け流すように、影斗は続ける。
「あんの? ねぇの?」
「…ねぇけど」
「じゃ、
影斗は、ややボケたところがある烈の思考回路を見越すような言い回しで、問いかけていく。
彼の質問を受けて、瞬間戸惑った烈は徐々に冷静さを取り戻し、しばし考え込む。
「…わかんねぇ。中高共学だったけど野郎とばっかりつるんでて、女とは授業中とか校内イベントの時とかに話すくらいで、深く絡んでなかったし…、高校じゃ部活も委員会もやってなかったし…」
「あぁ、いや別に"女"に限定してるわけじゃねぇからな?」
思考の渦にのまれていきそうになる烈へ、影斗はごく自然に助言を入れた。
「女でも男でも構わねぇよ。性的に惹かれるとか、自分のものにしてぇとか、そういう風に感じた奴はいねぇのか?」
「――」
烈は思考が止まったのか、呆けた顔を向ける。目が合った影斗は、感情の読めない表情からわずかに烈の内情を探るような、鋭い視線を送っていた。
いつの間にか、二人の足は止まっていた。
「――っ」
「着いたぜ、お前んち」
間隙を経て、影斗は何か言いかけた烈からすっと目を外し、顎で彼の後方を指し示す。
「…!」
「酒、届いてるだろ。いくらだっけー?」
「あ…、えっと…」
「値段くらい頭に入れとけよ、三代目。…金用意してるから、早く取ってきて」
「お、おう」
影斗に急かされ、烈は慌てて店の奥へ消えていく。
「……」
後姿を見送りながら、影斗は真顔のまま、目を細めた。