「よぉ。待たせた?」
「いえ。…すみません、
「別に謝るこたねぇだろ。たまにはいいかってくらいにはお前らのことも気に入ってるぜ」
そのまま2人は影斗を伴って、先ほどまでいたカフェテリアへ戻る。人の少ないテラス席を選んで影斗を座らせ、川崎と沖本は対面に腰かけた。
わりと影斗の機嫌が良さそうだと判断し、早速本題を切り出していく。
「…エイト先輩が、髙城のことを誰よりも大事な"良い後輩"として認めてることを前提に、俺たちからお話したいことがあります」
「!」
妙な言い回しに、影斗は眉根を寄せる。その視線を受け、2人は表情に少し緊張感を帯びながらも先へ続けた。
「俺たちは、髙城のことを良い友達だと思ってます。最初こそあの外見に肝抜かれたわけですけど、知れば知るほど色々レベチ過ぎて、今はもう単純に尊敬してます」
「やたら融通が利かないし、クソがつくほど真面目で、うんざりすることもありますけど、普段から何かと助けられてます。…特に俺は、今の学部結構ギリで入ったんで…、髙城の知識量とか理解力借りて、なんとかやってるくらいです…」
「逆に、学問以外の自分のことには、こっちが心配になるくらい無頓着で。処世術は十分ありそうなのに、なんか放っておけないんですよね…ちょっとずるいなって思っちゃいます」
「でもだからこそ、あいつは"特別"なんです。ちなみにこれは、学部2年の総意でもあります」
「…この先、大学を卒業してそれぞれ就職した後も、ずっと友人関係を続けていくつもりでいます」
「…おぉ」
熱く語り続ける2人に、影斗はやや圧倒されながらも頷いてやる。ひとしきり熱弁をふるった川崎が、クールダウンするように長く息をつくと、ずいっと影斗へ寄った。
「――ここで一旦確認しておきたいことがあります。
「あ?」
「ほら、この前髙城送ってった時に一緒にいた1年生ですよ。ちょっと可愛い感じの…」
「! あぁ、
予想外に下の名前で、更に呼び捨てにしてきた影斗の切り返しに、2人はぎょっとして少しおののくが、呼吸を整えてから問い直す。
「…立羽は、先輩の心に刺さりましたか?」
「さっきっから言い回しが面白いな。…まぁ可愛いとは思ったよ。中身の方は、蒼矢とはタイプがだいぶ…というか、正反対な感じだけどな」
「そうなんですよ、全然違うんです」
影斗の回答を受けて沖本も次いで顔を寄せ、2人は再びヒートアップし始める。
「エイト先輩ならわかってくれると思うんですけど、俺たち"美しいもの"に見慣れてるじゃないですか。だからこそ、立羽が出てきたときにすごい違和感を感じたんです。なんだか、あの姫っぽい感じが受け付けないんですよね」
「いや、あの容姿でそれなりに自己愛があれば、あれが普通だとは思うんですけど…一年余り髙城を見続けてきたせいか、ギャップに引いちゃったというか」
「…あと、これは立羽が入学する前からなんですけど…髙城はああいう性格だから、あまり万人受けする奴じゃないんで、あいつのことをよく知らない他学年・他学部の奴らの一部からは、やっかみもあって」
「顔だけ有名人とか、裏口入学とか…挙句、あの容姿で教授たちに取り入って良い成績貰ってるとか、根も葉もない話を学内にばらまくんです」
「まぁ…表面しか見ねぇんじゃ、そうなっちまうかもな」
「もちろん事実じゃないから、そういう噂はすぐ消えますし、長引くようなら俺たちや他の学部2年で火消しに回ったりもしてます。…本人はわりとどこ吹く風なんですけどね…」
落胆する2人の表情を見、影斗は少し噴き出す。
「お前ら
「それは俺たちも大いに賛成したいところです」
影斗の熟練者風情漂うコメントに深く同意した後、川崎は少し口調を弱めた。
「…確かに、寄せていった方が良い所はあると思います。でも…俺は、立羽自体はちょっと危うい気もするんです」
「危ういって?」
「表情そのものを造ってる気がしてならないんです。…笑顔が自然じゃないというか」
「俺、初見からずっとあいつの目が怖いんですよ。なんかあの、底が知れない人形みたいな感じが…」
「あと、割と他人はすぐ切り捨てたり、都合良い奴に乗り換えてったりするタイプかなぁと。…ちょっと透けて見えますね」
「…ふーん…」
2人の意見を聞き、影斗は腕を組んで低く唸り、思案するように黙り込む。彼らの見解をひと通り受け取ったものの、まだ初見の数分と一昨日の唐突な告白でしか麟とまみえていない影斗としては、判断がつきかねた。
唸ったきり沈黙してしまった彼を見、川崎と|沖本は慌てた風に両手を振る。
「いや、あくまで感想です。俺たちも言うほど立羽と面と向かって話してるわけじゃないですから」
「…すみません、浅見過ぎました。最後のは忘れて下さい」
「まぁ、参考程度に覚えとくよ」
「お願いします。…この間、先輩と立羽が会った時…なんかあいつが先輩に気があるように見えちゃって」
「差し出がましいようですけど、気になって…」
「…ん、いいって。ありがとな」
話がひと段落したところで、川崎と沖本は再び真剣な面差しになる。
「話を戻します。俺たちはエイト先輩のファンであると同時に、髙城のファンでもあります。…そして、エイト先輩が目指してる2人の
「…!」
唐突な話の流れに、影斗は切れ長奥二重の目を丸くする。
「安心して下さい。これは俺たちの間だけの話です。2人で勝手に想像して、勝手に応援してるだけです」
「でも、これだけは伝えておきたくて。多分…今の先輩と髙城のポジションのままじゃ駄目なんです」
「は…」
呆気にとられたように見張る影斗へ、2人は少し強引ながらも、真摯な視線を注いでいた。
「髙城にとってエイト"先輩"である限り、あいつからは関係を縮められない。エイト先輩からもっと踏み込んでもらって…上下関係の殻を取っ払って欲しいんです」
「でないと、あいつには先輩の魅力も…愛情もわからない。俺たちから髙城に言っても伝わらないことなんです」
「…」
「あいつの家庭環境とかも…少し聞いてます。いつも世話になってるし、本当にいい奴だから…あいつの今後が今よりも笑ったり、落ち着いたりできる時間が増えていけばいいと思ってるんです」
「…エイト先輩なら、髙城をそうしてやれるって信じてます。…お願いします!」
揃って頭を下げてくる蒼矢の友人たちの姿を前に、影斗は何も答えられず、腕を組んだままテーブルを見つめていた。
ひとまず彼らの言い分を受け取った影斗は、持ち帰って今一度考えるとだけ返答し、川崎と沖本もこの後講義が控えているため解散となった。
銘々が立ち上がる中、川崎がスマホを確認し、眉をひそめた。立ち尽くす彼へ、影斗が声をかける。
「どうした?」
「…髙城、早退したそうです」
「は、もう帰ったってこと? なんでだよ、講義はどうなったんだ?」
「どういうことだ?」
「…次の講義の準備と予習を兼ねて、今ひとりで助教に個別講義受けに行ってるところなんです。おかしいな…」
「具合でも悪くなったかね」
2人が首をひねる中、影斗はバイクの鍵を手に持ち直す。
「…様子見に行ってみるわ」
「! お願いします、エイト先輩!」
「おう、なんかあったら知らせる。お前らは真面目に授業しとけよ」
「了解です!」
2人に見送られる中、影斗はバイクを停めた正門へと歩いていった。