★R18表現あり
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大きく肩を上下し興奮冷めやらぬ耳に、苦しそうに咳込む呼吸音が聞こえてくる。
「…!
振り返り、駆け寄ろうとした烈の足がすくむ。
「……」
視界に入った蒼矢は髪を乱し、痩せた上半身を汗まみれにしながらベッドの上に倒れ込んでいた。
左胸の青い刻印には、上から深く引っ掛かれたような赤い筋が彫られ、腹には赤黒い大きな痣が出来ていた。ベッドの
烈はその凄惨な姿を、呆然と眺めていた。
…一体、何が起きてるんだ?
…なんで、こいつがこんな目に遭わないとならねぇんだ…?
…俺はどれだけ、こいつに降りかかってた悪夢を知らなかったんだ…?
「そ…」
「…るな…っ…」
手を伸ばしかけると、倒れる痩躯から声が漏れる。
「…見るな…っ…!」
腕で顔を隠し、か細く震える声が、怒りにも似た感情をぶつけてくる。
「……」
立ち尽くしていた烈はゆっくりと蒼矢へ歩み寄り、ベッドに手を置くと、横たわる彼を正面から見下ろした。
「蒼矢」
「…っ」
至近距離で届いた声にびくりと揺れ、蒼矢は身体を丸める。その姿を見つめる烈はごく落ち着いた表情のまま、彼の肩に優しく手を置く。
「蒼矢、顔見せてくれよ」
「…っ…!」
「…お前がこんなにされて、俺がどうとも思わねぇと思ってんのか?」
静かながらも、表層に別の感情を滲ませる低い声が、蒼矢の耳に流れていく。
烈がそっと腕に触れ、持ち上げると、抵抗することなくゆっくりと剥がれていく。白い肌を火照らせ、弱々しく浅く息をする横顔は、彼をなおも拒むように視線をベッドへ落とす。
その横顔を見つめたまま、烈は彼の頭と腰に手を回した。蒼矢の身体は、烈の腕だけで簡単に持ち上がる。
「一回起きろ。その体勢じゃきついだろ」
「…!? 嫌だ、やめろ…!」
腕の中でもがき始める彼を、烈は支えながら身体に寄せる。
「落ち着けって、余計痛いだろうが。…大丈夫だ、寝かせるだけだから」
「嫌だっ…嫌だ!! 触るな!!」
声を荒げてわめく爪が、烈の肩口にくい込んでいく。
その痛みを受け入れ、烈はベッドに膝をつくと、全身で拒絶する蒼矢を両腕で包み込む。
「…俺は、これ以上お前に傷ついて欲しくない。傷つけたくないだけなんだ。…わかってくれよ」
「…っうぅ…っ…!」
蒼矢は声を震わせ、嗚咽し始めた。
烈は耳のそばで繰り返されるしゃっくり声と、零れ落ちる涙を受け止めながら、彼の身体を優しく抱きしめた。
「ごめん。…遅くなってごめんな…」
きちんとベッドに寝かされ、ひとしきり涙を流した
下半身は、興奮するうちに
烈は、蒸しタオルで汗をかいた上半身を拭いてやる。怪我を負った箇所は、慎重に表面を滑らせるだけに留めておいた。
「――ごめん…」
「? なんだよ、これくらいどうってことねぇよ。そのままじゃ気持ち悪いだろ?」
お湯に浸したタオルを絞りながら烈は返すが、蒼矢は首を振る。
「…ごめん…何も言えなくて」
そう重ねて小さく漏らしながら、蒼矢は泣き腫らした目で烈を見上げた。
「…そうだな。一昨日、お前が何か言いかけてた時…もっとちゃんと聞いとけば良かった。そしたら、こんなことになってなかったかもしれねぇな」
そう答えると、蒼矢は頬を染め、眉根を寄せながら視線を外す。隠せない痩躯を晒しながら、両手でシーツを握り締める。
その仕草を見、烈は手を止めて視線を落とす。
「お前が打ち明けられない気持ちはなんとなく解る。解ってたから…今までずっと、遠くから眺めるしかできなかった…影斗みたいに、お前に踏み込んで関わったりできなかった。…同じ苦しさを味わったことが無い俺が何言ったって、慰めにならねぇと思ってたから」
烈はタオルを持った手を握り締め、横たわる身体へ再び伸ばす。
「…けど…、さっきお前に触れて、そんなのただの言い訳だったってことにやっと気付けた。俺は、苦しんでるお前に否定されて、嫌われたくなかっただけだった。…自分が傷つきたくないだけだったんだ」
…俺の目に映る蒼矢は、いつからか変わってしまった。
でも、蒼矢は昔から、何ひとつ変わってない。
変わってたのは、蒼矢を映す俺の目と、思う俺の感情の方だった。
「これからは、お前のこと全部をきちんと見る。この先もう、怖気付いたりはしねぇ。俺が何も出来ないせいで、お前ひとりが自分の中に溜め込んで苦しむのはもう嫌なんだ。…同じ傷つくなら、お前が負う傷を真正面から受け止めたい」
…蒼矢はもう、俺にとってただの"幼馴染"じゃない。
なににも代えられない、大事な
「お前が俺のことを一番近くでずっと見守ってくれてたように、俺もお前が一番に心を許せる存在でいたい」
…蒼矢が好きだ。
「…今まで態度がおかしくて悪かった。俺は、覚悟が決まった。自分の想いに、もう迷わない」
そう言い、身体を拭き終わった烈は、肌掛けで首元から覆ってやった。
「……」
外されていた視線はいつの間にか再び見上げていて、その戸惑いの混ざる眼差しに、烈は微笑ってみせた。
「――今日はすげぇ疲れたろ、ゆっくり休めよ。…安心して寝てていいぞ、俺ずっとここに居るから」
「…うん」
彼の言葉に、蒼矢はこくりと頷くと、言われた通り目を閉じる。烈はタオルと洗面器を拾い、部屋を出ていった。
ドアの開閉音がし、部屋から生活音が消える。もう夕方なのか、少しだけ開く窓から日暮れの涼しい風が届き、秋の虫の鳴く声が聴こえてくる。
「…」
蒼矢は一度大きく深呼吸をし、眠りに入っていく。
意識が薄れていく少し手前で、再びドアが静かに開かれる音がした。烈が部屋に戻ったとすぐに察せた。
沈黙が流れ、ふと瞼を閉じる視界が暗くなる。
その変化に意識が呼び戻される中、自分の唇に何かが重なった感触が伝わった。
数秒ほどでそれは陰と共に離れていき、再び瞼越しの視界は明るくなる。
「……」
自分の今までの経験の中で感じたもの、それら全てのどれとも違う、不慣れで控えめで、優しい感触。
はっとするようなその心地良さが肌と記憶に残り、頬が染まる。
その余韻に浸りながら、蒼矢は深い眠りへ落ちていった。