1週間後の日曜日、テスト期間を終えた
いつも通り肩にかついで石段を飛び上がり、玉砂利に停めると、やはりインターホン無しで参道脇に構えた住居の引き戸を景気良く開いた。
「
家主が応答する前に靴を脱ぎ捨て、何か洗い物の最中だったのか髪をお団子にし、たすき掛けしたまま出迎えた
「全教科赤点、回避!!」
「そっか、良かったね…! よく頑張りました」
得意気にふんぞり返り、鼻の穴を広げる陽を見、葉月も自分のことのように喜んだ。
「もっと褒めて褒めてっ」
「うんっ、偉い偉い」
「へへっ。今回はどの科目も調子良くてさ、ヤマはほぼ当たるし苦手な所もあんま出なかったし。これで前回テストから順位うなぎのぼり!」
「ねぇ、僕が教えたところは出た? 出来た?」
「出た出た! やっぱ漢文捨てなくて良かったわ。言われたポイントばっちり!」
満面の笑みを浮かべながらぱちぱちと手を叩く26歳・宮司へ、陽はVサインをして見せた。
「! そういえば、兄貴たちは? 今日みんなココに集まるみたいなこと話してなかったっけ?」
「ああ、それが…予定と違っちゃってね」
キョロキョロと
「
「ああ…ちょっと聞いた。ったく、間が悪いよなぁ…俺も参戦したかった!」
「それを回避しての、今回の結果だと思えば。ね」
「まぁねー。じゃあ、
「天気がいいからって、さっき2人で出掛けたよ」
「えーっ、なんだよぉ…折角報告に来たのにぃ…」
軒並み不在と知り、先ほどまでとはうって変わり、頬を膨らませてむくれる。
「まぁまぁ、みんな夕飯はここで食べる予定だから、その頃にはまた集まってくるよ」
そんな彼を困ったように葉月がなだめる中、玄関のインターホンが鳴る。
「あっほら、誰か来たよ。烈かも」
ぶう垂れる陽を伴い、玄関へ向かった葉月は引き戸を開ける。そして、目の前に現れた予想外の人物に一瞬固まり、目を丸くした。
玄関には、葉月を背格好そのまま小さくして、ひと世代ほど若返らせたような容姿の少年が立っていた。
葉月と、彼の傍らにいた陽が、同時に声をあげる。
「…
「……ただいま、…お兄ちゃん」
"
「どうした、急に!? ひとりで来たのか?」
「…うん」
「
言葉を詰まらせる
「? おい…」
「…もう、あっちの家には帰らない」
「はん?」
「お父さんとお母さんには、許して貰ってきました。…お兄ちゃん、僕をこの家に住まわせて下さい」
苡月は通学バックと思しき肩掛け鞄から、白い封筒を取り出し、頭を下げながら葉月に差し出す。
「……」
封筒を受け取ると、葉月は静かな面持ちでそのつむじを見やった。
「学校はどうするの?」
「…保健の先生が学校にお願いしてくれて、こっちの学校に来月から転入させて貰えることになったんだ…。あとは受験だけだから…、環境が変わっても、なんとかなるよ…」
口下手なのか、詰まらせながらも懸命に話すと、苡月は顔をあげる。
「僕、こっちの…東京の学校に通いたいんだ。どうしても、行きたい高校があるんだ」
「……」
「お兄ちゃんの負担にならないようにする。寝る場所さえもらえれば部屋なんていらないし、仕事の邪魔にならないようにもする…!」
そう苡月が精一杯訴える中、葉月は視線を落としたまま沈黙する。あまりに反応の無い彼に、陽も焦った風に口を開く。
「おい、月兄っ…」
「お願いします。ちゃんとひとりで起きるし、家の手伝いもします、…だからっ…」
緊張に声を震わせ、溢れる感情で涙目になる苡月の頭に、ふと大きな手が被さる。
見上げると、葉月は穏やかな表情で微笑んでいた。
「そんなことは考えなくていい。…
「…!」
「部屋は元々お前と栞奈で使ってた一室をそのまま残してあるから、そこを使うといいよ。…後で新しい寝具を買いに行こう」
「…ありがとう、お兄ちゃん…!」
「! 良かったな、苡月!!」
許しをもらい、目を輝かせながら頬を染める苡月を、陽は肩に手を回しながら引き寄せた。
そしてそのまま玄関を上がらせ、家主宜しく中へといざなっていった。
「これからは、俺がお前の勉強見てやるぞ! 何せ俺は、今回のテストで今世紀最高の快挙を成し遂げた男だからな!」
「そ…そうなの?」
「おう。大船に乗ったつもりで俺に頼ってこい!」
「う、うんっ…」
賑やかに言葉を交わしつつ居間へと歩いていく2人を後ろから追い、葉月は両親からの封筒へ再び視線を落としながら、目元を緩ませた。