※この作品はR-18です。

ガイアセイバーズ5 -歪な虚構の翅-   作:独楽 悠

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第13話_遠方からの帰還者

1週間後の日曜日、テスト期間を終えた陽(アキラ)が、愛車のロードバイクを立ちこぎしながら楠(くすのき)神社へ滑り込む。

いつも通り肩にかついで石段を飛び上がり、玉砂利に停めると、やはりインターホン無しで参道脇に構えた住居の引き戸を景気良く開いた。

「月(ツキ)兄っ、おわったぞー!!」

家主が応答する前に靴を脱ぎ捨て、何か洗い物の最中だったのか髪をお団子にし、たすき掛けしたまま出迎えた葉月(ハヅキ)の鼻先に、しわくちゃになった答案用紙を突き出す。

「全教科赤点、回避!!」

「そっか、良かったね…! よく頑張りました」

得意気にふんぞり返り、鼻の穴を広げる陽を見、葉月も自分のことのように喜んだ。

「もっと褒めて褒めてっ」

「うんっ、偉い偉い」

「へへっ。今回はどの科目も調子良くてさ、ヤマはほぼ当たるし苦手な所もあんま出なかったし。これで前回テストから順位うなぎのぼり!」

「ねぇ、僕が教えたところは出た? 出来た?」

「出た出た! やっぱ漢文捨てなくて良かったわ。言われたポイントばっちり!」

満面の笑みを浮かべながらぱちぱちと手を叩く26歳・宮司へ、陽はVサインをして見せた。

「! そういえば、兄貴たちは? 今日みんなココに集まるみたいなこと話してなかったっけ?」

「ああ、それが…予定と違っちゃってね」

キョロキョロと楠瀬(クスノセ)邸内を見回す姿を見、葉月ははたと気づき、すまなそうに眉毛を下げた。

「烈(レツ)は先週の一戦で店に穴開けちゃったから、お母さんに仕事もりもり任されたみたいで。元々来れるか微妙だったけど、やっぱり忙しくなっちゃったって、直前でキャンセル」

「ああ…ちょっと聞いた。ったく、間が悪いよなぁ…俺も参戦したかった!」

「それを回避しての、今回の結果だと思えば。ね」

「まぁねー。じゃあ、蒼兄(アオにい)と影兄(カゲにい)は?」

「天気がいいからって、さっき2人で出掛けたよ」

「えーっ、なんだよぉ…折角報告に来たのにぃ…」

軒並み不在と知り、先ほどまでとはうって変わり、頬を膨らませてむくれる。

「まぁまぁ、みんな夕飯はここで食べる予定だから、その頃にはまた集まってくるよ」

そんな彼を困ったように葉月がなだめる中、玄関のインターホンが鳴る。

「あっほら、誰か来たよ。烈かも」

ぶう垂れる陽を伴い、玄関へ向かった葉月は引き戸を開ける。そして、目の前に現れた予想外の人物に一瞬固まり、目を丸くした。

玄関には、葉月を背格好そのまま小さくして、ひと世代ほど若返らせたような容姿の少年が立っていた。

葉月と、彼の傍らにいた陽が、同時に声をあげる。

「…苡月(イツキ)…!?」

「……ただいま、…お兄ちゃん」

"苡月(イツキ)"と呼ばれた中学生くらいの少年は、やや居心地悪そうに縮こまりながら、上目遣いに兄を見つめていた。

「どうした、急に!? ひとりで来たのか?」

「…うん」

「栞奈(カンナ)と言いお前と言い、驚かせる姉弟だなぁ…俺、お前が元気ねぇって話聞いたから、今度月兄(ツキにい)にそっち連れてってもらおうとしてたんだぞ?」

言葉を詰まらせる葉月(ハヅキ)の代わりに、陽(アキラ)に声高に問われ、苡月はびくりと肩を上げてから足元へ視線を落とし、ふるふると頭を横に振った。

「? おい…」

「…もう、あっちの家には帰らない」

「はん?」

「お父さんとお母さんには、許して貰ってきました。…お兄ちゃん、僕をこの家に住まわせて下さい」

苡月は通学バックと思しき肩掛け鞄から、白い封筒を取り出し、頭を下げながら葉月に差し出す。

「……」

封筒を受け取ると、葉月は静かな面持ちでそのつむじを見やった。

「学校はどうするの?」

「…保健の先生が学校にお願いしてくれて、こっちの学校に来月から転入させて貰えることになったんだ…。あとは受験だけだから…、環境が変わっても、なんとかなるよ…」

口下手なのか、詰まらせながらも懸命に話すと、苡月は顔をあげる。

「僕、こっちの…東京の学校に通いたいんだ。どうしても、行きたい高校があるんだ」

「……」

「お兄ちゃんの負担にならないようにする。寝る場所さえもらえれば部屋なんていらないし、仕事の邪魔にならないようにもする…!」

そう苡月が精一杯訴える中、葉月は視線を落としたまま沈黙する。あまりに反応の無い彼に、陽も焦った風に口を開く。

「おい、月兄っ…」

「お願いします。ちゃんとひとりで起きるし、家の手伝いもします、…だからっ…」

緊張に声を震わせ、溢れる感情で涙目になる苡月の頭に、ふと大きな手が被さる。

見上げると、葉月は穏やかな表情で微笑んでいた。

「そんなことは考えなくていい。…楠神社(ここ)からちゃんと学校に通って、しっかり勉強して、自分が望む高校に入りなさい」

「…!」

「部屋は元々お前と栞奈で使ってた一室をそのまま残してあるから、そこを使うといいよ。…後で新しい寝具を買いに行こう」

「…ありがとう、お兄ちゃん…!」

「! 良かったな、苡月!!」

許しをもらい、目を輝かせながら頬を染める苡月を、陽は肩に手を回しながら引き寄せた。

そしてそのまま玄関を上がらせ、家主宜しく中へといざなっていった。

「これからは、俺がお前の勉強見てやるぞ! 何せ俺は、今回のテストで今世紀最高の快挙を成し遂げた男だからな!」

「そ…そうなの?」

「おう。大船に乗ったつもりで俺に頼ってこい!」

「う、うんっ…」

賑やかに言葉を交わしつつ居間へと歩いていく2人を後ろから追い、葉月は両親からの封筒へ再び視線を落としながら、目元を緩ませた。

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