そんなこんなでダラダラと昼食が済み、おやつも食べ終えて銘々にまったりし始めた頃、再びインターホンが鳴る。
「あれ。…今日はお客さん多いなぁ」
「俺が出ます」
「ごめんね、多分宅配じゃないと思うけど」
食器の後片付けをしていた
引き戸を開けると、半袖Tシャツとジーパンに前掛けを着け、無造作に伸びた猫っ毛の襟足をひとつに縛った長身男が立っていた。
「
「! …よぉ」
想定外の人物の出迎えに言葉を詰まらせかけたが、前掛け男・
蒼矢の方も少し虚を突かれてしまったが、彼の両手にぶら下がる酒瓶の束に気付いて手を伸ばす。が、烈は手渡すことなくスニーカーを脱ぎ始める。
「あー、いい、いい。重いから」
「…あぁ、烈。そっか、今日は納品日だったね。配達ありがとう」
「ちわっす、こちらこそ毎度あり。いつものトコでいいすか?」
「うん、宜しく」
後から出てきた葉月へ軽く挨拶をすると、烈は蒼矢を端へ追いやるようにしてあがり、片手の酒瓶の束を玄関に置き去りにして葉月の後に続いていった。彼らの背中を見送り、息をつくと蒼矢も居間へと戻っていく。
蒼矢と同い年で先述の幼馴染である烈は、家が祖父の代から続く酒屋で、今は3代目になる烈が継いで母親と二人三脚で店を切り盛りしている。烈の役目は主に仕入れと配達で、日中はこうして酒や調味料・飲料などを納品して回っている。店を継いでからまだ1年強しか経たないが、高校生の頃から特定の部活には入らず家の手伝いをちょくちょくしていたからか、手慣れるのも早く、母親の支えもあって日々少しずつ板につき始めている。
ここ
なお、
「烈くん! 久し振りっ」
「おー、
「あ、わかる? 烈くんはますますがっちりしてきたねぇ…! 筋トレ順調?」
「そんなに根詰めてしてはねぇけどな。
居間で鉢合わせた栞奈と会話しつつ、キッチンの床下収納に神酒をしまい込んだ烈が立ち上がる。
「あとは納屋っすね。葉月さん鍵借ります」
「うん。ありがとう、助かるよ。終わったら少しお茶でも飲んでいかない? みんな揃ってるし」
「いやまだ配達残ってるから、遠慮しときます。またの機会に!」
「そっかー、残念」
そう葉月と言葉を交わし玄関へと引き返す烈の後を、二人の様子を目で追っていた蒼矢がついていく。
「…家でゆっくりしてろって。
「今休憩中なんだ。陽寝ちゃったから」
「そっか。…とにかくいいって、ついて来なくて。酒しまったらすぐ出てくんだから」
そう言いながら先ほど置いていった酒瓶を手に引っ掛け、烈は手早く玄関を出ていく。一瞬立ちすくんだものの、蒼矢は慌てた風に靴を履き、彼の後を追いかけていった。
すたすたと足早に本殿の裏手へ歩いていく烈を、蒼矢は小走りに追い、追いつくと数歩後ろからついていく。
「…忙しいんだな、店」
「まぁな。馴染みの計らいでお客さん紹介してもらえてさ。まだ赤字だけど、これから注文本数増やしてもらえそう」
「おばさんは元気か?」
「相変わらず息子を顎でこき使ってるよ。たまには会ってやれよ、お前来ると機嫌良くなるし」
「…うん」
納屋に酒を納めるその背中を、蒼矢は小さく返事をしつつ眺めていた。
鍵をかけ、向き直った彼と玄関で会ったぶりに目が合うが、烈の視線はすぐに逸れていく。
「丁度いいや、鍵返しといてくれ」
「! …あぁ」
「宜しくな」
すれ違いざまに鍵を手のひらに載せ、烈は後ろ手を振りながら玉砂利を引き返していった。
彼の姿を追うように振り返ったものの、その場に立ち尽くしたまま動かないでいる蒼矢の耳に、やがて軽トラのエンジン音が聞こえ、遠ざかっていく。
「……」
手渡された鍵へと目を落としてから、無音になった境内を葉月宅へと引き返す。
居間へ戻ってきた蒼矢にお茶を飲んでいた葉月が気付き、座布団を枕に寝息をたてている陽を揺り起こす。
「陽、蒼矢戻ってきたよ。そろそろ起きなさい。――烈はもう行ったの?」
「…はい」
「お兄ちゃん、今日の夕飯何? 私お買い物行ってこようか?」
「! あぁ、じゃあお願いしようかな」
鍵を受け取った葉月は、なんとなく気落ちした様子の彼にぱちくりと目を留めるが、栞奈の呼びかけへすぐに視線を移した。
目を覚ました陽は兄妹の会話をぽかんと聞いていたが、なにやら重大なことに気付いたのか頭を抱え始めた。
「!! そっか…、俺今日ここ泊まっていけねぇじゃんか…!!」
「え、なんで?」
「あら、そんなつもりだったの? まぁ別にいいわよ、客間のひとつくらい空いてるんだし」
「よかねぇだろっ…! お前正気じゃねぇだろ!?」
「!? あんた本当に失礼ね…」
「とにかく、予定変更だっ…帰るー!!」
「夕飯は食べていきなよ。栞奈も帰って来たし、今日はちらし寿司と唐揚げにしようね」
再び騒がしくなってきた