※この作品はR-18です。

ガイアセイバーズ5 -歪な虚構の翅-   作:独楽 悠

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第3話_可憐な美青年-3

「――髙城(タカシロ)先輩!」

合同授業が終わり、座学室から生徒が流れ出ていく中、歩いていこうとする蒼矢(ソウヤ)と友人たちの背中へ少年が発したような呼び声がかけられる。

振り向くと、鱗(リン)が頬を染めながら立っていた。

「今日は教えて下さってありがとうございました」

「ううん。…あまり力になれなくてごめん」

「そんなことありません。先輩のお話の仕方優しくて、僕好きです」

「…ありがとう。次までに復習しておいてくれるかな」

「はい…あっ、」

そう言葉をかけられたところで鱗は目をぱちくりとさせ、次いでにこりと微笑んだ。

「…先輩、この後時間頂けませんか? 今日わからなかったところをもう一度見て欲しいんです」

「! この後…」

友人2人から視線を浴びる中、蒼矢は一瞬思考を巡らせ、授業前に影斗(エイト)と交わした会話を思い出す。

「今日は…、ちょっと人と待ち合わせしてて、もう帰るんだ。別日でいいかな」

「そうですか…わかりました。じゃあ、大学出るところまでついていっていいですか?」

「! えっ…」

「僕、少しでも髙城先輩と一緒にいたくて。…駄目ですか?」

小首を傾げる鱗の奥へ視線を流すと、先ほどグループで一緒だった1年生2人が、こちらの様子を立ち止まって眺めていた。

「…なんかあいつら、あんたと帰りたいみたいだけど?」

同じように視線を送っていた川崎(カワサキ)が、鱗へ注意をやる。しかし、1年生たちは視線に気付いたのか、何か小声で会話をしながら背中を向け、去っていく。

「いいんです、彼らとはいつでも一緒にいられますから」

「……」

そう返された蒼矢は、川崎と沖本(オキモト)へ目を向け、彼らも顎で了承したのを確認すると、軽く息をつく。

「…じゃあ、門まで」

「ありがとうございます。嬉しいです」

蒼矢の返事を聞くと、鱗は顔をほころばせ、彼の腕に自分の腕を絡めて身体をはり付けた。急に距離を縮められた蒼矢は戸惑いを見せるも、引き剥がすことはせず彼のペースに合わせてやる。

「……」

そんな、付き合いたてのカップル並みの様相をかもす2人を見、後ろから続いて歩く友人2人は目を丸くし、顔を見合わせた。

 

 

 

大学正門が見えてくると、脇に黒塗りの750ccが停められ、それにもたれかかるように黒ずくめの男が立っていた。

「あっ、エイト先輩だ」

「伊達男の名を欲しいままにするエイト先輩だ」

「よぅ、蒼矢の友人AとB」

蒼矢が気付く前に友人たちが見つけ、黒い男――影斗へ声をかける。

「そろそろ名前覚えて下さいよ、俺たちあなたのファンなんですから」

「川崎に沖本だろ? ていうか俺いつの間にファンクラブ出来てんだよ」

「学部2年髙城以外全員加入してますよ、俺たちで布教しましたから」

「…肝心な奴が入ってねぇじゃん…」

彼らが挨拶がてら歓談する横で、蒼矢は補習の約束を入れなくて正解だったと内心ほっとしていた。

「やっぱり待ってたんじゃないですか…」

「俺は大学(ここ)で有意義な時間過ごしてたし、待ってたって感覚はねぇぜ?」

少しむくれてみせる蒼矢を笑っていなすと、影斗は彼の横へ視線を移す。

「…あれ? お前」

「初めまして…いえ、さっき振りですね」

お互いに午前中に目が合った相手だとわかり、鱗はにこりと笑った。いつの間にやら蒼矢に蔦のように絡ませていた腕を解いて距離を置いていた鱗は、先ほど初対面の蒼矢に見せた態度と全く同じように口角をあげ、小首を傾げながら影斗の方へするっと近付いていく。

「僕、立羽(タテハ) 鱗と言います。…髙城先輩たちの先輩なんですか?」

「そうそう、エイトね。蒼矢と高校が同じでさ、ココの学生じゃねぇよ」

「そうなんですね。バイク、格好良いですね、あ…エイト先輩もすごく格好良いです!」

「だろー?」

そう軽く言葉を交わし終えると、影斗はポカンとした面持ちで彼と後方の蒼矢を交互に見比べ始めた。

「…なんかお前ら、きょうだいみたいだな」

「え…!?」

「そうですか? 光栄です」

戸惑い顔を紅潮させる蒼矢だったが、鱗は恥ずかしげに肩をすくめながらもますます目を細め、嬉しそうに返した。

「そっすね。実際全然アリです。系統少し違うけどどっちも美人だし」

「…怒るぞ」

影斗の感想に相槌を打つ友人たちを軽く睨むと、蒼矢は鱗へ声をかける。

「じゃあ立羽、俺はここで」

鱗を越し、影斗へ歩み寄っていく蒼矢はヘルメットを受け取ると、慣れた所作でタンデムに腰かける。

「また明日な、髙城」

「エイト先輩、送りお疲れ様ですっ」

影斗は見送る3人へ軽く手を挙げながら、颯爽と大学敷地内から走り去っていった。

その場に残された面々も、それぞれ帰路につき始める。

「――立羽、俺たちも帰るから」

「一緒に来るかー?」

川崎と沖本が鱗へ一応声をかけると、鱗はぼんやりと2人へ視線をやった後思い出したように笑顔を作り、目を細めてみせる。

「――いえ、ひとりで帰ります」

「そっか。じゃあまた来週の合同研究でな」

「はい」

2人は鱗の返答を受けて、彼が後ろから見送る中、正門を抜けて駅へ向かう。

そして鱗の耳に届かなくなった頃合いで、小さく口を開いた。

「…髙城狙いなのかと思ってたけど、切り替え早かったな。…これってもしかして、三角関係始まった?」

「エイト先輩を巡って? いやー、俺はそうは思わんね。お前はあの人を過小評価し過ぎ」

「じゃあどういうビジョンだよ」

「エイト先輩が、どっちも喰う。俺はベッドの上まで想像した」

「…あながちありえない話じゃなさそうなのが、かえって生々しいんだけど」

 

 

 

2年生2人の姿が見えなくなると、ひとり取り残された鱗は、スマホを手に電話をかけ始めた。

「あ、僕。やっぱり迎えに来て」

少し甲高く、可愛らしい少年のような声は相変わらずで、しかしその表情は急激に温度を下げ、長い睫毛の被さる漆黒の眼は無感動に一点を見つめ、真っ赤な唇から抑揚の無い冷えきったトーンが紡ぎ出されていた。

「うん。正門にいるから、3分以内に車で来て。…シート、綺麗にしといてね。僕、汚いの無理だから」

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