※この作品はR-18です。

ガイアセイバーズ5 -歪な虚構の翅-   作:独楽 悠

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第4話_漂う異臭-1

影斗(エイト)と蒼矢(ソウヤ)を乗せたバイクは、ほどなく髙城(タカシロ)邸に辿り着いた。

ヘルメットを影斗へ手渡すと、蒼矢は丁寧にお辞儀をした。

「ありがとうございました」

「もー、お前は毎度…かしこまったのはいいって言ってんだろぉ?」

「だって先輩、帰るのに今来た道ほとんど戻るじゃないですか…あ、葉月(ハヅキ)さんのお宅に泊まっていかれるんですか?」

「いや、今日はあいつは一日外で神事入ってるからいねぇよ。俺は別用――烈(レツ)ん家に酒取り寄せてもらっててさ、受け取りに行ってから帰るわ」

「…そうなんですか」

「! 心配しなくても、あっちがついでだぜ?」

「…はい」

自分の出した話題に蒼矢のわずかな表情の変化を感じ、影斗は即座にさりげないフォローを入れる。が、蒼矢は薄く微笑みつつ、内の読めない返答をしただけだった。

「お前も来るか? 烈(あいつ)ん家」

「いえ…、遠慮しておきます」

「…そっか。じゃぁな…」

そう言いかけた刹那、蒼矢の首が機敏に動き、前にいる影斗とは全く違う方向へ凝視したまま身体を硬直させた。そんな彼の急激な変容に影斗もまた目を見開かせ、しかし落ち着いた口調で彼へ問いかける。

「…出た(・・)のか?」

「……はい」

「丁度良いじゃねぇか。…ったく、晩飯くらい食わせろってな」

そう鼻で笑うと、影斗はスマホのSNSを素早くいじりだす。

「――烈呼んだ。近いのか?」

「ええ、走っていける範囲だと思います」

「了解。お前んちのガレージ貸してくれ、バイク入れる」

影斗がバイクを髙城家敷地内へ駐車している間に、連絡を受けた烈が駆けつける。

「…よう」

蒼矢の立つところから少し手前で足を止めた烈は、軽く手を挙げながら抑揚に乏しい声色で挨拶する。頷いて反応を返す蒼矢だったが、すぐに目をそらしてスマホを手に取る烈の様子に、思わず小さく声を漏らした。

「…悪い、店の途中で呼び出して」

「? …いやそこ気にするとこじゃねぇだろ。母ちゃんももう慣れっこだし」

「…! そう、だな…」

「――お待たせー。葉月は仕事で来れねぇ、陽(アキラ)は…まぁいいだろ。行くかね」

「了解」

「……?」

戻ってきた影斗の声がけに烈が返し、同じく蒼矢も頷きかけたが、ふと眉根を寄せる。

「…なんか…"臭い"がしませんか?」

「あ? …するか?」

「…いや」

自分の嗅覚に起きたわずかな変化に、同調できない2人へ視線を向けてから、内で思考を巡らせる。

甘ったるく、深く脳裏に残るような。人工的とは少し違う…でも何かに例えようのない、別世界のもの(・・・・・・)のような臭い。

「蒼矢?」

「もしかしたら、嗅がない方がいいのかもしれない。…なるべく鼻と口を塞いで下さい」

「…!!」

「急ぎましょう、住民に影響が出る」

「…了解。マラソンも登山もやる予定ねぇってのに高山トレーニングさせるたぁ、ふざけた奴らだな」

影斗はそう悪態をつきながらレザージャケットの襟を立て、フルジップにして鼻まで覆った。

蒼矢も長袖を引っ張って口元へもっていこうとしたが、横から手が伸びる。

「これ使え」

差し出された手拭いに目を落とし、蒼矢は烈へ見上げた。

「…汗っぽいけど、無いよりましだろ」

「でも、烈は…」

「お前の感覚(・・)の方が大事だ。…案内頼む」

「…」

先ほどとは違い、しっかりと見つめ返してきた彼の眼差しを受け止めて頷くと、蒼矢は畳んだ手拭いで顔半分を覆い、2人を"目的の場所"へ導いていった。

 

 

 

3人が辿り着いた場所は、都心のビル群の中にオアシスのように造られた森林公園だった。

「2人とも、気分は?」

「…いつもより余計息切れしてて、単純に調子悪くなってるかわからねぇな。頭痛とか吐きそうとかは無い」

「俺も、多分平気」

息を整えると、それぞれ公園内へ視線を送る。

「……」

遊歩道沿いに続く木々は黒々と奥へ続いているが、陽が落ちている中とはいえ、たった数メートル目先の景色から既にその様相を視認できない。風は無く、園内一帯にだけ霧か靄がたち込めているような、"自然現象"とは形容しがたい空気をまとっていた。

「…まぁ、いる(・・)んだろうけど」

影斗がじっとりと眺めながら呟くと、3人の胸元が淡く輝き始める。そしてその発光元へ目を落とした直後、葉が擦れる音と共に黒い木々から一斉に無数の塵のようなものが舞い上がった。

「…っ!?」

「なんだ? 落ち葉…いや、灰か…!?」

「移動しましょう」

おびただしい何か(・・)に薄闇が黒く塗りつぶされていく光景に目を見張る中、蒼矢はカットソーの中から銀色のペンダントを引き抜き、トップに輝く青い鉱石を握った。

刹那、その場の空間がねじれるように歪み――3人の姿は消え、公園はいつもと変わらない、夕暮れの静寂に包まれていった。

 

 

 

一瞬後、3人はうって変わって黄色めいた明るい空間の中にいた。さっきまで目の前に広がっていた公園の木々は消え、空一面は太陽光の明るさとは違う、無数の電球がちりばめられているように発光している。地面は深緑の落ち葉で埋め尽くされ、地平線の彼方まで何もない同じ景色が続いている。

そんな"別空間"とも言えよう場に降り立った彼らもまた、先程から装いを変えていた。銘々の私服は、首元から下をポイントカラーだけを別にした揃いの全身スーツに変え、様変わりした視界を前に、落ち着いた様子で辺りを眺め回している。

軽く状況を確認する中、烈と影斗はふと眉を寄せた。

「…! 臭うな、何か」

「…あぁ。これ(・・)か?」

2人からの問いに、蒼矢は黙って頷き返し、面差しに緊張感を滲ませる。

…『ここ』に移ってから、臭いの濃さが増した…

「どうやら長居はできねぇな。さっさと終わらせちまおうぜ」

彼の心情を察するように声掛けし、影斗がプロテクトグローブをはめた両腕に、闇色の鉤爪を呼び出し数歩前へ踏み出すと、烈も片手に炎を纏った太刀を呼び出し、前へ歩き出ながら横に振るう。

臨戦態勢の整った彼らに周囲一帯の落ち葉が湧き立ち、地中から黒い塵に似た"怪異"が宙に舞い上がった。

 

この異様な空間は『転異空間』と呼ばれ、普段生きている世界――『現実世界』とは次元を異にする場所である。

そしてここに降り立った彼ら烈・蒼矢・影斗と、加えて今回は参加見合わせの葉月・陽の合わせて5人は、『ガイアセイバーズ』という、現実世界を外敵から護る使命を持つ存在で、二世界とはまた異なった次元にある[異界]から何らかの悪意を持って現実世界に侵入する[異界のもの]を、討伐あるいは[異界]へ還すことを目的に活動している。

ここ『転異空間』はセイバーたちが造る、いわゆる戦闘フィールドであり、彼らが現実世界へ影響が及ばないこの空間へ[異界のもの]を呼び込んで対峙することにより、危害を最小限にくい止めている。

 

踏み出した二人の背に守られるように位置する蒼矢――『セイバーアズライト』は、胸の前に青白く光る短剣の装具『水面(ミナモ)』を呼び出すと両手に取り、眼の前にかざすように構える。

その挙動に反応するように、ドーム状に取り囲んでいた無数の塵が一斉に襲いかかるが、彼らに届く寸前で突如生まれた炎の渦にまかれ、火の粉に包まれ消し炭に変わりながら地に落ちていった。よく目を凝らすとそれら一つひとつに脚があり、背に黒く小さな羽が生えている。

「……!」

「アズライト、弱点(・・)は多分『俺』だ」

片手から火柱をあげ、そう短く告げると、烈――『セイバーロードナイト』は太刀の装具『紅蓮(グレン)』を両手で握り直し、空間へと跳び上がっていく。

「いいなー、俺苦手(・・)かも。…お前どうする?」

「…」

影斗――『セイバーオニキス』に振られ、少し逡巡するように固まっていたアズライトは、『水面』を眼から下ろしてかき消すと、代わりに身体の前に刀身の透き通った巨大な剣『氷柱(ツララ)』を呼び出した。宙に浮かぶその柄を握り、オニキスの横に並ぶと、藍色の静かな視線を注いだ。

「…フォローくらいなら」

「頼むわ。むしろオニキス(俺)よりアズライト(お前)の方がやれそう」

彼の返答ににやりと笑うと、オニキスは両篭手の装具『暗虚(アンキョ)』を広げ、極小の[異形]の大群に突っ込んでいく。

「基本固まって撃破だ。状況次第で陣形変えるぞ」

「了解」

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