「スクールアイドル同好会……。私、高咲侑です!」
「上原歩夢です。でも、同好会って廃部になったんじゃ…?」
2人の発言に俺はこう返す。
「そうですね……。だから俺たちは同好会の残党と言うか、復活するために再起を図ってるって感じです」
「うんうん、諦めなければ同好会は永遠に続くのです!」
俺とかすみはそう交互に話す。そこでかすみは何かに気づいたのか、目を光らせる。
「お近づきの印に〜、これどうぞ!」
そう言ってかすみはチキン南蛮だろうか、揚げ物にタルタルソースをかけコッペパンで挟んだものを2人に渡す。
「「あーん……。美味しい!」」
コッペパンを口に含んだ2人は、目を輝かせてそう言う。それにしても美味そうだな…丁度小腹も空いてきたことだし……。
「なぁかすみ、俺にも一つ……」
「残念、もうないでーす!これで全部食べ終わっちゃいました〜」
「まじかよ……」
俺は落胆の表情を隠せずそう言う。
「ははは……それより優樹君って、どんなお仕事してるの?」
侑が苦笑いしながら、俺にそう聞いてくる。
高咲侑。
普通科。二年生。『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』の主人公である。
黒髪のツインテールに、先っぽが緑のメッシュ?が入っているのが特徴。上原歩夢の幼馴染で、好きなものはスクールアイドル。自分なりの基準が『ときめき』らしく、それで物事を評価するらしい。ちなみに笑い上戸なのもポイント。一期の最終話で音楽家に転部したらしいが…。
(二期の情報何も知らないから、受かったかどうかすら分からないんだよな…)
せめてpvだけでも見た後に死にたかった。許すまじ、俺を轢いた車。
(おっと…質問受けてたんだよな)
車に恨みを募らせる前に、まずは質問に答えなくては。
「俺はスケジュールを見たり、作曲したりしてるって感じです。あと雑用も…」
俺が侑にそう答えると、かすみは腕を組みながらうんうんと納得したような顔になる。
「えっと、曲も全部1人で作ってるの?」
そして歩夢が質問してきた。
上原歩夢。
普通科。二年生。セミヘアの赤ピンク色の横髪を団子状に編んでいるのが特徴。高咲侑の幼馴染である。真面目な努力家であり、ファンのための努力を怠ることは絶対にしない。性格はおっとりしていて優しいが、侑のことになると多少重い感情を覗かせる。
「歌詞はメンバーと考えて、曲は自分で作ってます。まだせつ菜先輩の曲しか発表していませんが……」
「せつ菜ちゃん!?せつ菜ちゃんの曲を作ったの!?」
侑はいきなり興奮したようにそう言い、俺に近づいてくる。
(男でも距離感近いんだな……)
アニメで散々知っていたが、ここまで距離の詰め方が早いとは思わなかった。しかも異性だと言うのに。これが高咲侑なのか。
「ゆ、侑ちゃん……優樹君に近いよ……」
歩夢が慌てたように侑を抑える。
「はい、一応…。歌詞は一緒に考えましたが……」
「すごいよ!私、せつ菜ちゃんのライブを見て、これ以上無いくらいのトキメキを感じたの!ってことは音楽科?」
侑は羨望の目で俺を見て、そう聞いてくる。
「いえ情報処理学科です。あくまで作曲は趣味で楽しいからやってるので」
「趣味で作曲なんてすごい!」
「ははは……」
「むぅ……だったらかすみんの曲、早く作ってよ!」
俺が何にでも肯定してくる侑に苦笑いしていると、かすみが不満げにそう言ってくる。最近は作曲なんてしてないと思われているからな、それが不満なんだろう。
「はいはい……もう作ってあるぞ」
俺はそう言ってカバンからCDケースを取り出し、かすみに向かって投げ渡す。
「うわっ!って、もう作ったの!?」
「ああ、サプライズプレゼントだ」
俺は昨日侑や歩夢を見た時から、明日2人が来ることを察して、すぐ作曲を開始していたのだった。作曲と言っても、原作にある曲とほぼ同じなんだがな…。かすみはCDケースを持つと、大事そうに抱えこんでいた。
「えっと…ゆう男、ありがとうね!」
「ああ、気にするなよ」
「ゆう男…?」
歩夢は突然のけったいな名前に驚いたのか、そう聞いてくる。
「あー、俺のニックネームみたいなものです」
俺は頭を掻きながらそう言う。流石に他の人の前で呼ばれるのは恥ずかしいな…。
「ああ、そう言う…」
「かすみんが付けたかっこいいニックネームですぅー!」
(いやどこがだよ…)
俺はそう思うが、言ったら面倒なことになる未来が見えているので、何も言わないことにする。
「それより先輩方〜、かわいいかわいいかすみんと、スクールアイドル一緒にやりませんか?」
かすみは2人に肩を近づけて勧誘を始めた。
「大丈夫かな……」
歩夢は心配そうな目で、侑を見ながらそう言う。
「大丈夫です!かすみん、最強に可愛いスクールアイドル同好会にして見せますから!」
かすみは自信満々にそう言う。その発言が功を制したのか、少し考えた後歩夢はこう言った。
「可愛い……だったら、やろうかな」
「入部決定ですね!」
「あ、ちなみに私はアイドル志望じゃないから。歩夢を応援したくって」
侑はそう言って歩夢の方を見る。
「えぇ〜!こんなに可愛いのにマネージャーなんて、勿体ないですよぉ〜!」
確かに俺もそう思う。だが、侑がアイドルをやることはないだろう。なぜなら彼女はスクールアイドルを見ることにトキメキを感じる、俗っぽい言い方をすれば見る専なのだから。
「ありがとう。でも私は歩夢の手伝いがしたいんだ」
「侑ちゃん……」
歩夢は感激したような顔で侑を見つめる。
「歩夢の為なら頑張れる気がするからさ。それに……スクールアイドルにトキメキを感じたからね!」
侑は笑顔でそう言い、右手の親指を立てる。
「侑ちゃん……大好き!!」
そして歩夢は、侑に飛びつく。
(なんだこの光景……)
俺はこの状況に少し困惑していた。でも2人が入ってくれたから、とりあえず良しとするか。
「でもマネージャーするんでしたら、かすみんのサポートもしてくださいよ!スクールアイドルとしては、かすみんが先輩なんですからね〜?」
「わかったよ、中須さん」
「もっと気軽に呼んでくださいよ〜」
かすみは駄々をこねるように、侑にそう言う。
「だったら、かすかすだね」
「かすかすはやめてください!」
歩夢の笑顔で言ったあだ名に、かすみは慌ててそう返す。
「中須かすみだから、かすかすかなって」
「もう、二度も言わないでください!かすみんって散々アピールしてるんだから、それで呼んでくださいよ!」
「アピールだったんだ……」
(かすかす可愛いと思うんだけどなぁ……言ったら拗ねるから、ほどほどにしなくちゃな)
俺がそんなことを思っていると、かすみは何か思い出したように俺に話しかけてくる。
「そうだ、ゆう男。今日は何の練習をするの?」
「ああ、今日は軟体だったけど……」
そう言って俺はカバンからノートを取り出す。ノートには『スクールアイドル同好会練習ノート』と書かれていた。
「そこに練習メニューが書いてるの?」
「はい、そうです」
このノートには、せつ菜や皆へのアドバイスや、練習メニューやその種類などが、事細かく書かれている。
「ですが、今日やるのはここに書いているメニューじゃありません」
「えっと…じゃあ何やるの?」
俺はかすみにサインを送ると、2人に移動することを伝える。
「ついてきてください、とっておきの練習場所があるんです」
俺とかすみは、2人をいつもの練習場所へ連れて行く。
「あれ……誰もいない?」
歩夢が不思議そうにそう呟く。
「この時間帯は、運動部はしっかりしたところで練習してますからね。辺鄙な公園になんて誰も来ないんですよ」
俺とかすみが屋外で活動する時は、ここの公園を使うようにしていた。理由は単純、人がめったに来ないからだ。
「じゃあ、自己紹介動画を撮りましょう!」
かすみがそう言うと、2人は首を傾げる。
「自己紹介動画?」
「それって何?」
2人ともわからないようだったので、俺は説明する。
「簡単に言えば、自分たちの好きなものや特技を紹介する映像のことです」
「へぇー」
「それを撮ってネットにアップするんですよ。もちろん、本格的なダンスなんかはまだまだきついですけどね」
俺は苦笑いしながらそう言う。すると侑がこんな提案をしてきた。
「せっかくだし、歩夢もやってみない?」
「うん、面白そうかも」
歩夢もそれに賛成する。よし、これなら……。
「わかりました。では早速始めましょう、かすみ」
「うん!」
俺がカメラを構えると、かすみは公園の中心まで走り出し、あざといポーズを取る。
「やっほー!みんなのアイドル、かすみんだよー!かすみん虹ヶ咲学園のスクールアイドル同好会の部長になったんだけどー、そんな大役が伝わるかとっても不安…、でも応援してくれるみんなのために、日本一可愛いスクールアイドル目指して、頑張るよっ!」
「は?」
「うわぁ!」
「はは…」
歩夢は意味が分からない表情、侑は感激したのか目を輝かせている、対して俺はこう考えていた。
(やっぱりかすみは素のほうがかわいいよなぁ…)
普段ぶりっ子をしている時よりも、たまに見せる普通の時の方がかわいい。これはギャップ萌えという奴なのか。いや、同好会で普段ぶりっ子かと言うと違うかもしれないな…。しかし、きっと素の面を見せた方が人気ももっと出るのだろう。だからと言って、素をファンに見せて欲しいなどとは到底思わないが。
(かすみの素を知れるのは俺たちだけでいいんだよ)
かすみのアイドルじゃない素の表情、あいつが同好会にしか見せない感情は、俺たち同好会のものだ。
不特定多数のファンたちは、あいつのアイドルとしての面だけ見てガチ恋でもしてればいい。俺はつい黒い感情を募らせてしまう。
「ゆう男!どうしたの?」
侑から散々誉められたからなのか、俺の顔を見てそう聞く上機嫌なかすみに、俺は笑顔でこう答える。
「なんでもねぇよ、それより自己紹介かわいかったぞ」
「えへへ、ありがと!」
「…ああ」
俺に対する不信感を1ミリも感じさせないその笑顔に、俺は少し優越感を感じる。
(かすみが今一番信頼してるのも、この笑顔を向けてくれるのも俺だけなんだ…)
そう思うと、更にかすみの色々な面、具体的に言うと色欲に溺れる様を早く見たくなってしまう。
(ただ、今は我慢だ。かすみが一番幸せそうな時に堕とすんだ)
果実が熟した時が一番美味しいように、女の子もしっかりと待つことが重要だと俺は知った。だからそれまでは、焦らずじっくりと待とう。
「次は歩夢先輩の番ですよ。今みたいな感じでお願いしますね」
「えっ、えぇぇ…むりむり、むりだよっ…恥ずかしいよぉっ!」
そう言いながら顔を赤くする歩夢の可愛さに、俺は危うくノックアウトされそうになる。
「何が恥ずかしいんですか、自己紹介はスクールアイドルの第一歩ですよ!」
「目が怖いよかすみちゃん…」
「大丈夫です。かすみんほどじゃないですけど、歩夢先輩も十分可愛いんですから。はりきっていきましょ〜!」
かすみは歩夢にそう言って詰め寄る。
「わ、わかったよ…。あ…えっと、虹ヶ咲学園、普通科2年の上原歩夢です。私…スクールアイド…」
「声が小さすぎます!」
かすみがそう指摘すると、歩夢は慌てて口を塞ぐ。そして俺の方を見て助けを訴えてくるが、俺は目を逸らす。
「だってぇ……」
「じゃあもう一回やりますよ?今度はもっと大きな声で、自信を持ってください」
「うぅ……」
かすみの言葉を聞いた歩夢は、深呼吸をしてから自己紹介を始める。
「虹ヶ咲学園、普通科2年の上原歩夢です!私スクールアイドルやりたくて!」
「今度は声が大きすぎます!」
「っ…ははは…」
かすみがまた注意するが、一々極端な歩夢に俺は思わず笑ってしまう。笑い声が聞こえたのか、歩夢から非難の目が飛んでくる。
「なんで笑うの!?」
「ごめんなさい、でもおかしくって」
「もう……」
歩夢がこっちを見て、少し頬を大きくし睨んでくる。が、全然怖くない。むしろ可愛いくらいだ。
「もっと可愛くしなきゃ、ファンの心は掴めませんよ!」
「ファン……」
「仕方ないですね〜、それでは両手を頭の上に」
「えっ?」
そう言いながらも歩夢は、両手を頭の上に付ける。
(やっぱり真面目だな……というか、あれが見れるのか!)
俺は、アニメで見た展開と同じなことに感動をしていた。
「語尾にぴょんを付けてみましょう」
「ぴょ、ぴょん……?」
そう言った瞬間、歩夢の頭の上の手がピクッと動いた。まるで本物のうさぎのようだ。
「おおっ!」
侑も興奮したのか、目を輝かせている。
「あ、歩夢だぴょん……」
「ぷふ……」
「声が小さい!」
「あ、歩夢だぴょん!」
「ふふっ…」
俺は顔を赤くしてあゆぴょんになっている歩夢を見て、少し脇腹が痛くなってくる。
(ここで笑ったら好感度がまずい……耐えろ、耐えろ!)
俺はハーレム計画のため、何が何でもここで笑ってはいけない。
「もっとうさぴょんになりきって!」
「うさぴょんだぴょーん!」
「ぶははっはは、はははは!」
うさぴょんには勝てなかったよ…。
「ゆう男……笑い過ぎだよ……!」
「優樹君……」
歩夢は、顔を真っ赤にして俺に抗議をしてくる。が、そんなことは気にせず俺は大爆笑する。
「だ、だって……はははっ!!あー腹痛い……」
(やべぇ……こんなの耐えられるわけねぇよ)
今までの歩夢のキャラとのギャップもありすぎて、面白すぎる。前世で見た展開とはいえ、思っていたより10倍は面白かった。
時刻は夕方になり、俺たちはベンチに腰掛けて休憩をしていた。
「はぁ……。ゆう男、次笑って邪魔したら許さないからね?」
「わ、悪い……」
かすみに釘を刺され、流石にふざけすぎたかと思い、俺は歩夢先輩に謝ろうと話かける。
「歩夢先輩、その……」
「カワイイコワイ、カワイイコワイ、カワイイコワイ……」
が、どうやら聞こえていなかったようだ。
(完全にさっきのがトラウマになってるな…。ほとぼりが冷めてから謝るとするか)
俺は心の中でそう決めた。
「ねぇ、優樹くん」
突然侑が話しかけてくる。一体どうしたのだろうか。
「どうしたんですか?」
「気になってたんだけど、何で同好会って廃部になったの?」
「ああ、それは……」
そういえば、まだ説明していなかったな。
「まぁ、方向性の違いみたいなものですよ」
「へぇー、そうなんだ」
「元はといえば、せつ菜先輩がいけないんです…」
かすみがそう、ポツリポツリと話始めた。
「グループを結成して、作曲してくれるゆう男も入ってきて、絶好調だったのに、お披露目ライブが始まったあたりから妙にピリピリし出して…」
「……」
俺たちは無言でかすみの話を聞く。
「こんなパフォーマンスでは、ファンの皆に大好きな気持ちは伝わりませんよ!って…。だから、かすみんもムッキー!ってなっちゃって……」
かすみはせつ菜の真似をしながら、当時のことを思い出しているのかプンスカ怒っている。
「そして、そのまま活動休止に……」
「かすみちゃんもせつ菜ちゃんも、ファンに届けたいものがあるんだね」
「当たり前ですよ!スクールアイドにとって、応援してくれる皆が一番大切なんですから!」
侑の言葉に、かすみは力強く答える。
「お互いアイドルのイメージが違ったんだもん、仕方ないよ」
歩夢はそう言って優しく微笑む。
確かに、アニメでもせつ菜は自分の理想を押し付けていた節があった。だが、それを理解していて何もしなかった俺にも、問題はあるかもな。
(俺も……ここで一応なんか言っておくか)
「俺も……俺が悪いんですよ……」
「え?」
突然の俺の懺悔に、三人は首を傾げる。
「2人のなりたいスクールアイドルが違うのはわかってた……。先輩が自分の「大好き」を押しつけすぎていることも!でも俺は何も指摘しなかった……俺が何か言ったら、2人は妥協点を見つけれたかもしれないのに!」
これは俺の責任でもある。もしあの時、原作知識がある俺が行動すれば、結果は明らかに変わっていただろう。まぁ原作からズレすぎるのが怖くて、結局ひよって何もしなかったのだが……。
「もしかして……かすみんも同じことしてる……?」
「かすみちゃん?」
かすみの顔を見てみると、はっとした表情になっていた。恐らく自分の「かわいい」を、歩夢に押しつけていたことに気付いたのだろう。
(計画、成功だな)
俺は内心ニヤッとする。わざわざ懺悔のようなことをして、恥を晒した甲斐があったというものだ。
その後、2人は用事があるとのことで先に帰り、ベンチには俺とかすみが残されていた。
「ねぇゆう男、かすみんって部長向いてないのかな……」
かすみは落ち込んだ表情を隠さず、俺の聞いてくる。
「向いてないってことはないだろ、ただ目標のイメージ像が違うってだけで」
かすみは「かわいい」パフォーマンス、せつ菜は「大好き」を伝えるかっこいいパフォーマンス、お互い完全にジャンルが違うのだから難しい話だ。
「かすみん、歩夢先輩にかわいいを押しつけちゃった。自分がされて嫌だったことを人にしちゃった……」
かすみは俯きながらそう言う。顔ははっきりと見えないが涙目になっていて、今にも泣き出しそうなのが感じられた。
「かすみ、明日ちゃんと謝ろうぜ。あんな風になるのはもう嫌だもんな」
「うん…。ううっ……うっうっ……うわーん!!」
俺はそんなかすみを見て、頭を撫でながら話す。するとかすみは、堰を切ったように泣き出した。
(やっぱりかすみって原作より泣き虫になってないか?)
原作だと、落ち込みはすれど泣くことなんて無かったのだが…。同好会に俺という異分子が存在することが原因なのだろうか。
(でもまぁ、泣いてるかすみを慰めるのも悪くないな)
俺はそんなことを考えつつ、しばらく彼女の肌触りのいい髪を撫でるのだった。
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