「……朝か」
目が覚めると、俺の布団の中にかすみがいた。おそらく、夜中に目覚めてそのまま俺の布団に入ったのであろう。
「ふわあぁ……」
大きなあくびをしながら伸びをして、体を起こす。すると目の前にはまだ眠っているかすみの姿があった。
「よく寝てるな……」
気持ち良さそうに眠るかすみの顔を見つめる。普段は元気いっぱいな彼女だが、寝ている時は赤ん坊のようにあどけない表情で、普段とはまた別の可愛らしさを感じることができた。
(可愛い……)
思わず見惚れてしまうほどに、寝ているかすみは魅力的だ。俺はしばらくの間、彼女の寝顔を眺め続けた。
「んぅ……」
するとかすみが、寝返りを打って目を擦る。どうやら目を覚ましたらしい。
「おはよう、かすみ」
「ふぁ……ゆう男……?」
かすみはまだ寝ぼけた様子で、ボーッとした目でこちらを見る。その様子はとても愛らしく、つい頭を撫でたくなってしまう。
「早く起きろよ、もうすぐ学校だぜ?」
「んー……おきる……」
かすみは大きな欠伸をしてから、ゆっくりと身体を起こした。そして大きく背筋を伸ばす。
「ふぁ……んっ……」
(なんかエロいな)
声が色っぽかったせいで、俺は変なことを朝から考えてしまった。
「かすみ、もう準備しないと遅刻しちゃうぞ」
「わかってるよぉ……」
かすみは眠そうな声で返事をした後、ベッドから出て服を着替え始める。俺が部屋を出て朝ごはんを作ろうとすると、かすみに呼び止められた。
「ゆう男……一緒にご飯食べようね」
「ああ、わかった」
俺とかすみは恋人同士なのだから、一緒に食べるのは当たり前なのだが…。
(流石に俺も、かすみを置いて1人で食べるほど白状じゃないぞ?)
一体かすみは俺をなんだと思っているのか。後で問いただす必要がありそうだ。
「よし、じゃあさっさと作るか!」
俺は自分を鼓舞するようにそう言い、朝食作りに取り掛かるのだった。
「ゆう男、ぎゅ〜」
「え?ちょ、おい!?」
突然、かすみがそんなこと言って抱きついてきたものだから、俺は焦ってしまった。
「どうしたの、ゆう男〜?」
「どうしたのはこっちのセリフだ。料理中に抱きつくな、危ないだろ」
「ごめんなさい……」
しゅんとして謝ってくるかすみ。しかし、すぐに笑顔に戻って言う。
「でも、ゆう男に抱きつきたかったんだもん」
「だったら、せめて料理中以外ならいいけど……」
「やった!ありがとう、ゆう男!!」
嬉しそうにそう言って、さらに強く抱きしめてくる。
「はぁ……」
結局、危ないと思いながらも許してしまう俺なのだった。
「ゆう男、今日は何作ってくれるの?」
「朝だから、大したものじゃないぞ」
朝なのだから、軽めの和食がちょうどいい。俺はそう思い、鮭を使った焼き魚を作ることにした。後はご飯に、豆腐とわかめの味噌汁、卵焼きと、おまけに漬物でも置いておけばいいだろう。
(それに楽だしな)
鮭以外は昨日から準備していたので、そこまで手間はとらない。
「いただきます!」
さっそくかすみはそう言って、口に鮭を運ぶ。口に合うといいんだが…。
「美味しい……」
どうやらお気に召したようで、かすみは頬に手を当てて幸せそうにそう言った。その顔を見ると、こっちまで幸せな気分になる。
「ゆう男、ありがと……」
「ああ、よかったよ」
そうして俺達は食事を済ませていくのであった。
「「行ってきまーす」」
食事を終えたあと、俺とかすみは家を出た。ちなみに璃奈には遅く行くと伝えているので、先に学校に行ってるはずだ。
「えへへ、2人きりだね」
かすみは満面の笑みを浮かべてそう言ってきた。可愛いと思うと同時に、俺の心の中で不安感が現れる。
(だけど、この光景を他の奴らに見られたら面倒なことになりそうだな)
かすみはスクールアイドルだ。今はほぼ無名に等しいが、原作通りに行けばすぐに有名になるだろう。そうなった時のことを考えると、俺は嫌な予感がするのだった。
「ゆう男、どうしたの?」
「別に……大丈夫だぞ」
考え事をしていると、心配になったのかかすみが顔を覗き込んでくる。俺は慌てて思考を中断し、何でもないことを伝える。
「ふぅん……困ったら、かすみんに言ってね!」
「ああ……わかったよ」
(覚悟、決めるしかないかもな……)
かすみは俺のことを信頼してくれているんだ。だったら俺も何かあってもいいように、覚悟を決めるべきだろう。
「それじゃあ行こうぜ」
「うん!」
こうして俺は新たな悩みに見舞われつつも、かすみと一緒に仲良く登校するのだった。
「優樹くん、おはよう」
「ああ、おはよう璃奈」
俺が席に着くと、隣に座っている璃奈が挨拶をしてきた。
「ねぇ優樹くん、はんぺんのことなんだけど……」
「はんぺん?璃奈ってかまぼこ好きなのか?」
璃奈は普段から無表情なので、あまり好き嫌いがわからない。だが、まさかかまぼこ系が好きとは思わなかった。
「違う、そうじゃない…。こないだ写真で見せた、白い子猫のこと」
「ああ、あれのことか」
ああ、そっちか。てっきり俺はかまぼこのことかと…。しかし子猫のほうのはんぺんなら、つい三日前に璃奈が写真で送ってきたのが記憶に懐かしい。
「で、そのはんぺんがどうかしたんだ?」
「うん。はんぺんって野良猫だから、生徒会に目付けられてるみたいで……」
(あったな、そういえば……)
菜々が虫取りを持ってはんぺんを捕まえようとしてるシーンは、妙にシュールで強く印象に残ってる。
(はんぺんってことはもうすぐせつ菜が関わってくるのか……)
俺ははんぺんのおかげで、思わぬ収穫を得てしまう。
「とりあえず、放課後にでも様子を見に行こうぜ?」
「うん……」
今日は色々と用事があったのだが、璃奈の頼みなら仕方ない。後で埋め合わせするとしよう。
そんなことを話しているうちにチャイムが鳴る。俺は慌てて鞄から教科書を取り出し、つ授業の準備をするのだった。
そして時は流れ放課後。俺は璃奈と共に外に出た。どうやら璃奈は愛とも待ち合わせをしているらしく、もうすぐ来るようだった。
「それで、どこに行くんだ?」
「ここ……」
そう言って、璃奈がスマホに表示された地図を見せてくる。そこは学校内で、体育館に近い場所だった。
「ここに、はんぺんがいるはず」
「なるほどな。でも、なんでこんな場所に?」
「それは着いてから話す……」
そうして、俺達はその場所に向かうのだった。
「お〜い!りなりー、ゆっきー!!」
目的地に着いた時、ちょうど愛の声が聞こえてきた。どうやら、俺達より早く来たようだ。
「皆んな遅〜、今後見直そう〜。なんてね!」
「はいはい、悪かったな」
ここは他の生徒が少ないため、愛にタメ口でも大丈夫だ。それより、愛は相変わらず微妙なダジャレを言ってくる。まぁ、いつものことなのだが……。
(なんか、俺と2人きりの時はあんまりダジャレ言わないんだよな…。今度理由でも聞いてみるか)
一体なぜなのだろう。俺は疑問に思って、心の片隅に入れていつか聞くことにする。
「それよりはんぺんはどこに行ったの、愛さん?」
「いや〜、それがわからなくって……」
その時、ある女子生徒の声が聞こえてきた。
「そういえば、さっき生徒会長、猫を虫取り網で追っかけてなかった?」
「見た見たー。猫にあんなことする必要あるのかな〜?」
「猫に、虫取り網……」
2人の会話を聞いた璃奈は、ゾッとしたような顔でそう言う。
「とりあえず、生徒会長を探そうぜ」
「そうだよ、早く探さないと!」
「うん……」
こうして、俺達の捜索が始まった。しばらく歩いていると、猫の鳴き声と大きい女性の声が聞こえてくる。声のする方へ行くとそこには、1匹の白い子猫と、それを虫取り網で捕まえようとしているジャージ姿の菜々がいた。
「あちゃ〜、これはマズイね」
「ああ、かなりヤバいな」
「ねぇ、優樹くん……」
「ああ、わかってる」
俺たちは、虫取り網を今にも振り下ろしそうな菜々へと駆け寄る。
「もう逃げられませんよ……」
「ちょっと待ってください!」
「はんぺん、危なかった…」
そう言って菜々が虫取り網を振り下ろそうとした直前、璃奈がはんぺんを抱き抱える。
「貴方は……情報処理学科一年、天王寺璃奈さん。それに坂下優樹さんも…。その猫を離してください」
「ダメ……」
璃奈は断固と言った様子で反対する。そんな璃奈を、菜々が見つめる。俺が緊迫したその状態に、思わず肩を震わせた時だった。
「その子、学校の近くで捨てられてたんだよね…。どっちの家でも飼えなくてさぁ」
ちょうどいいタイミングで、愛が話しかける。
「しかし、動物の放し飼いは校則で禁止されています…」
菜々は少し迷った様子で、はんぺんを見つめている。
(チャンスだ……)
俺はそう思い、一歩前に出る。
「あの……、生徒会長……」
すると菜々は俺の方を見る。その目は、どこか怯えている様な気がした。
「実は……この猫なんですけど……」
そう言って、俺は鞄からあるものを取り出す。それは……
「かまぼこ……ですか?」
「そう、かまぼこって名前なんですよー。可愛いですよねー」
俺は棒読みで言いながら、かまぼこと書かれたシールを見せる。購買にシールが売っていたから、思わず買ってしまった…。
「だから、この子は生徒会で預かってくれませんか?」
「もちろん、餌とかはちゃんとやります…」
璃奈と俺は必死になってお願いをする。すると菜々は目を閉じて、静かに言った。
「わかりました。その子は……かまぼこは天王寺さんのことが大好き見たいですし、検討してみます」
「はい、ありがとう…。それと名前、かまぼこじゃなくてはんぺん……」
璃奈はお礼を言いながらも、しっかりと訂正を入れる。
「えっ!?だ、騙したんですか、坂下さん!?」
「ははは、バレてしまいましたか……」
「まったくもう……じゃあ、帰りますね」
菜々は俺にジト目でそう言ってくる。
「はい、ありがとうございました」
「それより優樹くん」
「どうした?」
璃奈が俺を見てくる。一体どうしたのだろうか。
「今日も帰れないの?」
「あ〜、ちょっと用事があってな」
同好会のことは、二人には秘密にしている。
「そんなに大事なことなの?」
「まさかゆっきー、隠し事とかじゃないよね?」
二人はそう言って詰め寄ってくる。
(これ以上はマズイな…。一回撤収するか)
「そういえば今日急ぎの予定あってな…。じゃ!」
「ちょっ……!」
「まって……」
俺はそう言うと、学校の中に向かって走り出す。後ろを振り向いたが、幸い2人は追ってこない様子だった。
(2人には悪いことしたな……そろそろ2人も入部する時期だし、後で説明するか)
原作では、せつ菜の次に入部するのが2人だった。まぁせつ菜のライブを見た後だろうし、すんなり入ってくれるだろう。
(そういえば……早く音楽室に向かわなくちゃな……)
今日は、侑と音楽室で待ち合わせをしている。時間は少し遅れているから、急いで向かわなくては。
5分後、俺は音楽室の前に着く。急いで俺はドアを開けた。
「遅れてすみません、侑先輩」
俺は音楽室の前でそう言う。
「もう、遅いよ優樹くん!」
侑はピアノに座っており、頬を膨らませながら、こちらを見てくる。
「本当にごめんなさい……」
俺は素直に謝る。すると、侑は笑って許してくれた。
「ふふ、冗談だよ。ちょっとからかっただけ」
「勘弁してください……」
「だったら、『CHASE!』を弾いてみてよ!作曲したの優樹くんだよね?」
「まぁそうですけど…」
『CHASE!』とは、せつ菜が歌詞を、俺が曲の部分を担当して作った曲だ。
俺は渋々と言った感じで鍵盤に手を置く。そして『CHASE!』を弾き始めた。鍵盤に手を置くと、自然とどこを押せばいいのかわかる。俺はその感覚のまま、ピアノを弾いていった。
「ふぅ……」
5分後、俺は曲を弾き終えた。能力を使っているため頭は疲れないが、それでも指は疲れるものだ。そのため俺は少しため息をつく。ふと隣を見てみると、目をキラキラさせている侑がいた。あ、目が合った。
「うわ〜!これが生CHASEなんだ!!トキメいた!すっごくトキメいちゃったよ!!」
「はは、よかった……うわ、ちょっ!?」
侑はそう言って俺に抱きついてくる。侑の胸や息が当たって、俺の別の部分がトキメキそうになる。
(抑えろ、抑えろよ……)
「あんなに綺麗なピアノ、初めて聞いたよ!」
「ありがとうございます。でも、頑張ればすぐですよ」
実際すぐにピアノ弾けたし。まぁ、特典の影響なんだけどな…。
「だったら私も弾いたり出来るかな……」
侑がボソッと言ったその言葉を、俺は聞き逃さなかった。
「できますよ!侑先輩なら絶対出来ます!」
「うわわっ!?」
俺は思わず大きな声を出してしまう。すると、驚いた様子で侑がこちらを見てくる。
(しまった……。つい興奮してしまった……)
「そんなに大きな声出さなくても…。でも、できるのかな?私にも…」
侑は少し不安そうな顔で言う。
「大丈夫です、俺が手取り足取り教えますから」
「…うん、私にいっぱい教えてね!」
「はい…」
(可愛すぎるだろ、本当に……)
笑顔でこっちを見ながら言ってくる侑が可愛すぎて、俺は悶絶しそうになる。すると侑は、何かを思い出したような顔をする。
「そうだ!せっかくだから、一緒に弾こうよ!」
「えぇ……」
(俺が教えるってそういうことなのか?)
「ほら、いくよー?」
侑は座って俺に催促してくる。
「はぁ……わかりました」
(仕方ない……。俺が教えるか)
仕方がないと思い、俺は侑の隣に座る。
「じゃあ、最初は……『CHASE!』の最初の部分を弾いてみましょう」
「うん!」
(よし、やるぞ……)
俺は心を落ち着かせて、ゆっくりと侑の手を掴み、鍵盤にのせる。
(柔らかいな)
侑の手は柔らかく、そしてあたたかい。さらに、肩が触れるほど近いため、侑の髪からシャンプーのいい匂いが漂ってくる。
(あー、マズイなこれ。いますぐエッチなことしたい)
しかしここで抱くなんてしたら捕まってしまうため、俺は理性で本能を抑えつける。
「じゃあいきますね……」
「うん!」
「せ〜の……」
俺は侑の手を導いて、少しずつ一緒に『CHASE!』を弾いていった。
「はい、これで一番は終わりですね」
「うん!優樹君の説明がわかりやすいから、すごく弾きやすかったよ!」
「それは良かったです。じゃあ次は2番いきますか?」
(それにしても上達早いな……)
正直俺は侑のピアノの上達スピードにビビっていた。いや、前世でわかっていたことなんだが、実際に目で確かめると異常さが際立つ。これで音楽未経験ってマジなのだろうか…。
「ん〜……優樹くん、時間大丈夫なの?」
「今日は大丈夫ですよ」
少なくとも今日は何も予定はない。
「そっか…。ならお願いしようかな」
「わかりました!」
俺たちがピアノを弾くのを続けようとした、その時だった。
「何でその曲…」
そう言って、菜々が音楽室に入ってくる。
「うわっ!?、生徒会長!?」
「どうしたんですか?」
侑は菜々の顔を見て驚く。
「高咲侑さん、それに坂下さんも…。2人とも音楽室の許可は取ったんですか?」
「ははは……」
「侑先輩?」
(原作では許可取ってなかったけど、今は後輩を呼び出してるんだ。許可ぐらい取ってるよな?)
俺は侑先輩の顔から答えを探る。あ、これ反応的に取ってない奴だな…。
「いや〜、ごめんなさい!どうしても弾いてみたくなっちゃって!」
「許可ぐらい取ってると思いましたよ…」
「うぅ〜、ごめん優樹くん…。ところでさっき、せつ菜ちゃんの曲知ってるみたいな感じだったよね!?」
侑はそう言いながら、菜々に詰め寄る。
「動画とか見たの!?もしかして、会長せつ菜ちゃんのファン?もう、そうならそうと早く言ってくれればよかったのに〜。せつ菜ちゃんのこと色々話そう?そうだ!CHASEの他に、オススメの動画あったら教えてくれない?探してるんだけど全然見つからなくって〜!」
「ち、近いです!」
「あ……ごめんごめん」
そう言うと、侑は菜々から離れる。
(凄かったな……これがオタク特有の早口ってやつか)
スクールアイドルオタクな侑らしい。それより、よくあんなに喋れるな…。
「侑先輩、生徒会長困ってますよ。それにCHASE!以外にも曲はあります。よかったら後で教えましょうか?」
「本当!?、教えて、教えて!?」
「後でですよ…」
すると菜々はゴホンと息をし、侑に向かって喋りかける。
「そういえば、先日お会いした時も優木さんに会いたがってましたよね?」
「うん、大好きなんだ!」
侑の曇りないその言葉に、菜々はハッとした表情になる。
「この前ライブやっててね、凄かったんだよ〜。せつ菜ちゃんの言葉が、胸にズシンってきたんだ。歌であんなに心が動いたの、初めてだった!」
侑の言葉を、菜々はただ無言で聞いている。
「私あの日からスクールアイドルにハマって、今すっごく楽しいんだ!歩夢と一緒に同好会に入ってね?!」
「同好会ですか…」
菜々は俺を見ながら、ポツリとそう言う。
(そう言えば、菜々は俺かすみが同好会を始めたことを知ってるみたいだったな…)
愛と璃奈と一緒にいた時、菜々は俺に同好会は大丈夫なのかと聞いてきた。原作だと、同好会を作ったのは知らなかったはずなのだが…。
「そう!かすみちゃんと優樹くんが誘ってくれたんだ!あ……」
侑はこちらを見ながら申し訳そうな顔をする。恐らく、勝手に部活を始めたことを怒られないか心配なのだろう。
「大丈夫ですよ侑先輩、それに5人集まれば同好会になれるんでしょう?」
「そうですね…。同好会を新しく立ち上げることがダメだという校則はありませんし、5人集まったらいつでも申請しに来てください」
「そうなんだ…」
「優木さんが聞いたら、きっと喜ぶでしょうね」
菜々はそう言うが、後ろ向きになっているため表情はわからない。
「だったら、嬉しいなぁ〜。何でやめちゃったんだろ、せつ菜ちゃん…」
「……」
「こんなことを思っても仕方がないってわかってるんだけどね…。きっとせつ菜ちゃんも色々考えてたことだろうし」
「そうですね。せつ菜先輩は、身勝手な理由で辞める人じゃありませんよ」
「ッ!」
俺は菜々がせつ菜だと知っててわざとそう言う。俺の言葉に、菜々は一瞬だけ肩を大きく震わせる。
「でも、本当にそう思うんですか?」
「え?」
菜々は強い口調で俺の方を見て、そう尋ねる。
「だって、同好会がしっかりしてきた時に、いきなり辞めるような人ですよ?」
「それは……!」
侑は何かを言い返そうとするが、菜々に遮られる。
「優木せつ菜はあそこで辞めて正解だったんです。あのまま続けていたら、彼女は部員の皆さんをもっと傷つけて、再起不能になっていたはずです」
菜々は暗い口調で、しかしはっきりとそう言う。
「え?そんなことは……」
「高咲さんは、ラブライブというものをご存知でしょうか?」
「スクールアイドルの、全国大会みたいな奴だよね…」
概ねその通りで合っている。ただ他のスポーツとは明らかに力の入れようが違い、決勝戦はテレビ中継されるという、まるで前世の甲子園のようなものだ。
(ただ、この世界では甲子園の注目度が前世より低いんだよな……)
高校生のスポーツなど、所詮大人は一つにしか注目しないのだろう。まったく世知辛い話だ。
「その通りです。ラブライブは、スクールアイドルやファンにとって最高のステージ。あなたも優木せつ菜にファンなら、そこに出てほしいと思うでしょう」
「せつ菜はグループを作り、ラブライブを勝ち抜こうとしました。メンバーが勝つには一つの色になることが必要です。しかし、まとめようとすればするほど、メンバーの衝突は増えていって…」
「その原因は、全部自分にあることに気付きました。せつ菜さんの大好きは、自分本位のわがままに過ぎませんでした。そんな彼女がスクールアイドルになろうとしたことが、間違いだったのです。幻滅しましたか?」
菜々は自分の正体を隠す気も無くなったのか、自分の本心を全て俺たちに言ってくる。
原作ではここで話は終わっていただろう。しかし、俺は黙っていることが出来なかった。
「幻滅なんて……しませんよ。だってせつ菜先輩は…頑張ってたじゃないですか!必死に自分のだいすきを届けようと、誰かに喜んでほしいって、努力してたじゃないですか!それなのに、間違ってるわけない!」
(せつ菜がどれだけ頑張ろうとしていたのか、一番知っているのは俺だからな)
視聴者という神の目線からだが、彼女が自分のだいすきを伝えるために努力していたのは、他ならぬ俺自身が知っている。それに、転生してからもだ。
俺の口から建前なんかじゃない本心が次々に飛び出てくる。
「せつ菜ちゃん……」
侑は何か言おうとするも、口に出ないようだ。菜々は少しの間沈黙した後、口を開いて喋ろうとする。
「……でも私はっ!私は……、すいません……帰ります」
菜々は何か言いかけたがすぐに口を閉ざし、音楽室を出ていこうとする。
「せつ菜先輩!?」
「待ってよせつ菜ちゃん!」
俺と侑はすぐに追いかけようとするが、菜々の足は早く追いつけない。
「はぁ、はぁ……くそっ!」
結局俺たちは菜々に追いつくことが出来ず、帰ってしまった。
(あそこで言わない方が良かったかもな……。でも、喋ったら口が止まらなかったんだ)
「侑先輩、とりあえず今日はもう帰りましょう。この話はまた後で…」
「うん…」
こうして俺達は、後悔を残したまま帰路に着くのだった。
活動報告でリクエスト募集してます!
かすみん回とは一体…? せつ菜ちゃん回終わったら、エロ補充しなくては。
ところで侑ちゃんがこのまま行くと、7人目ぐらいで堕とされそうです。扱いが難しい…。
新作投稿するとしたらどういうの見たい?
-
貞操観念逆転世界でアイドルハーレム
-
ふたなり虹ヶ咲に死ぬほど犯される俺君
-
この作品のリメイク(いつかは出す)
-
ラブライブ!の短編集
-
他の二次作品(エロ)