※この作品はR-18です。

リアデイルの大地を夫と   作:リュウコウ

2 / 4
『チエーロフルミネピエーディ』
(天雷脚)

ライトノベルと違い、闇魔法もあります

「誓約の鎖」ジュラメント・カテーナ







2 魔法と狩りと発展と井戸

~~~翌朝~~~

2日酔いを示す頭痛で目を覚ましたケーナは、もう2度とと飲酒はすまいと誓った(チカッタ)。

 

「あー......」

 

お酒で身を崩すってこういう意味なのかな?とでも言いたそうな、ウンザリした顔で顔を洗いに井戸まで行く。

そこでリットちゃんが「うんしょうんしょ」と釣瓶(ツルベ)で水を汲んでいた。汲んだ水を小さめの桶(オケ)に移して持ち上げようとした所でケーナに気付く。

桶とケーナを見比べていたが、お客優先と桶を差し出そうとしたので彼女はそれを断った。

 

「いいよーリットちゃんはお仕事でしょ?私は自分でやるから」

「え、でも.....」

「それよりもそれ、着けてくれたんだね。気に入った?」

「うん!」

 

銀ラメでキラキラと輝き、光加減によって青や緑に変化している。

昨日倉庫から持ち出したアクセサリーのひとつで、防御力1点に毒無効の効果を持っている。リットちゃんに似合いそうだったので、お土産(オミヤゲ)として渡したのだ。

オフラインモードの【技術技能(クラフトスキル):アクセサリー】で作る最初のアイテムだ。村娘がこのようなものを手に入れるのは非常に稀(マレ)らしく、昨日は小躍り(コオドリ)するほど喜んでくれたのでケーナも微笑ましく(ホホエマシク)思った。

満面の笑みで頷く(ウナヅク)リットちゃんの頭を撫でた(ナデタ)ケーナは井戸に歩み寄り、するすると縄を引いて水を汲む。

それなりに冷たい澄んだ水を見ていたケーナは「やっぱおお湯かなあ」と呟いて(ツブヤイテ)釣瓶へ手をかざした。

 

【魔法技能(マジックスキル):付加温水:Start】

 

かざした掌(テノヒラ)から注ぎ込まれた不可視の光が、桶の水を瞬時にほんのりと温める。

湯気の立つ桶を見たリットちゃんの目が丸くなり、持っていたタオルを浸した(ヒタシタ)ケーナに惜しみない拍手を送る。

娘の仕事が遅いと文句を言いに来たマレールさんは、2人の間に漂うほんわかとした空気に首を傾げた。

 

「はあ、そんな魔法もあるのかい?」

「すみません。リットちゃんのお仕事の邪魔をしてしまって.....」

 

朝食後の席でリットちゃんが怒られないように頭を下げたケーナに、マレールさんは呆れた返事をする。

一晩経って、ケーナはその容姿とシャイニングセイバー様のお嫁さんということで崇められている。

村人が彼女に会うと「ケーナ様。このパイをお納めください」とか、「ケーナ様。不自由はありませんか?」と、気を遣われていた。

 

ケーナは今、宿屋のカウンターで突っ伏し(ツップシ)、愚痴(グチ)を溢していた。

 

「はぁ。どうして、私が崇められているんだろう?それが、わからない」

「どうしてって、アンタがシャイニングセイバー様のお嫁さんだからだよ」

「偉いのは、夫なのに。.....これは、ハッキリしないとね」

 

私は、村人全員を中央広場に集めて、話し始める。

 

「私のことは、普通の冒険者として、扱って下さい。お願いします」

 

村長を中心に、話し合っている。

 

 

 

~~~15分後~~~

 

「まぁ、ケーナ様がそう仰るなら、そうします」

「様はなしで、ケーナとお呼びください。ねっ♪」

「.....ケーナ...ちゃん?でどうでしょう?」

「.......それで、いいです」

 

村人全員が歓喜した。

村人が彼女に会うと気さくに挨拶(アイサツ)をしてくれる。

若い女性の少ない村なので、年配の人に構われる孫娘といった立ち位置になっていた。

もうキャラの実年齢を口にする気もなくなったケーナ。

病院でお爺さんやお婆さんの話し相手になるようなものである。慣れているので特に悪い気はしない。

 

「ふーん、便利なものなんだねぇ。その魔法ってのはアタシ等にも使えるのかねぇ?」

「【温水】の魔法ですかぁ。えーと、あれはたしか火魔法のイアとイア・ラを覚えて、水魔法のオゥタが必要ですから......」

「分かった分かったから!流石にこの歳で魔法に使える時間もないよ」

 

指折り数えて魔法を幾つか挙げると、マレールさんは手を振ってそれを否定した。

 

(私のスクロール生成を譲って、村人たちでも、魔法って使えるのかな.....よし、試しにやってみる。バグらないかな?むむむ)

 

何やら考えているケーナを苦笑い(ニガワライ)で見たマレールさんは、肩を叩いてその場を離れる。それと同時に開けっ放しの扉から、片手に何かを携えたロットルさんが入ってくる。

 

「おはよう、ケーナちゃん。昨日頼まれた熊の角持ってきたぜ」

「え、いいんですか?この村の貴重な収入源なんじゃないんですか?」

「いいさいいさ。何より仕留めたのはケーナちゃんじゃないか。所有権は君にあるだろう」

 

フェルスケイロ王国でも地図の端にあり、リアデイルの地に於いて(オイテ)外側の交易路に掛かるこの村には、コレといって特筆するものがない。

そのために数ヶ月に1度、定期的にやって来る隊商に穀物や狩りの獲物などを売り、日用品を補充するのだそうだ。

 

「うーん。じゃ、もう1匹狩って来ましょうか?」

「いやいやいやっ、村の者でもないケーナちゃんがそんなことをする必要はないだろう」

「でも、村の皆さんには凄くお世話になっていますし、お礼くらいしたいんです」

 

手渡されたのは縄で縛ってまとめられた2本の角である。それを見ながら提案するケーナの頭にマレールさんの手がポンッと乗せられた。

 

「そんなに気を遣わなくて良いんだよ、ケーナはお客さんなんだから、皆見返りを求めて親切にしたいわけじゃないんだよ」

「そうそう、ケーナちゃんも昨日言ったじゃないか、『困ってる人がいたら助けるのは当たり前』って」

「.....でも、好意を受けるだけなのも申し訳なくて......」

 

誰かに何かをしたい返したいと思うのは、事故で入院してからというもの自分でできることが何もなかった桂菜(ケイナ)の我が儘(ワガママ)である。

叔父(オジ)や従姉妹(イトコ)、看護師(カンゴシ)さんやお医者(オイシャ)さん、同じ入院患者さんの子供たちや年配(ネンパイ)の人たち。暇ができたらゲームの合間に訪ねてきてくれて、あと、相手も入院患者でこんな私だけれど彼氏ができた、名前は確か隆浩(タカヒロ)。今は、フェルスケイロ王国の騎士団長。両親を失った痛みや自身の境遇を呪わずに済んだ。

最早(モハヤ)恩を返すこともできなくなってしまったけれど。

 

「ま、アンタは自分の好きなことをやっていればいいさ。アタシ等はこの村で特に不満はないんだからさ」

「そうそう、流石は年の功、良いことを言......ばぷっ!」

「アンタはさっさも仕事に行きなっ!のたのたしてるんじゃないよっ!」

 

お盆と怒鳴り声でロットルさんを追い出したマレールさんは、一転して笑顔でケーナの背を気にするなというように叩き、中へ戻って行く。

マレールさんの背としぶしぶ狩りに出かけていくロットルさんの背を見比べたケーナは、なんとなく彼の後を追ってみた。

ロットルさんがケーナに気付いたのは、村の外で落ち葉を体に被っている時だった。

 

「それは何をやっているんですか、ロットルさん?」

「ケ...ケーナちゃん!?いきなり声を掛けないでくれ、びっくりすっから!」

「あはは、それはごめんなさい」

 

胸を撫で下ろしたロットルさんが落ち葉を体に擦り付けるのを再開する。ケーナは興味深くそれを見つめていた。

なんでも人の匂いを極力誤魔化すための先人(センジン)の知恵だということらしい。

それならばとケーナは【消臭】という魔法を使い、自分の匂いを消してみる。

嗅いでみる(カイデミル)も前の匂いとの差が感じられなくて首を傾げるだけであった。

その後はロットルさんの後を追って森を歩く。

彼の猟師の仕事とは2、3日に1度罠を仕掛けて小型の鳥や小動物を狩るくらいだという。

森での歩き方も慣れたもので、ケーナが目ざとく見つけた獣道へ足を踏み入れようとしたところで待ったをかける。

 

「え、でもこれって獣道ですよね」

「それは肉食獣などの獣道さ。俺らがそこへ足を踏み入れると、匂いを辿られて村に来てしまうかもしれない。俺たちが行くのは此方(コッチ)の細い方さ」

 

と示されたのは道があるんだかないんだか、判別不能の野草雑草生い茂る(オイシゲル)こんもりとした緑色の辺りだ。

ハイエルフの超感覚はそこに道があると教えてくれている。半信半疑でロットルさんの後に続いて足を踏み入れれば、辛うじて(カロウジテ)歩けるだけの道が確かにあった。

種族的な感覚に嘘はないけれども、今までなかった第六感的なものにすんなりとは馴染めない(ナジメナイ)。

それでもここがゲームでない現実の地であるのならば、慣れというのも必要だろう。それも追い追いになるだろうけれども、ケーナは未だに(イマダニ)半人前ハイエルフという立ち位置にあった。

世間一般において世間知らずということになるケーナは、人から見て〝エルフらしからぬ〟部分があると言えるだろう。

ロットルさんの後を付いていけば、すぐにでもそれは露見した。

森での歩き方を分かっていないという点において。

少しでも木々がまばらで開けた(ヒラケタ)所に出れば、落ち葉が広範囲に積もる場所へ一歩踏み出してロットルさんに注意を受ける。

 

「ケーナちゃん、そこは何が潜んでるか分からないから迂回したほうが良いって」

「あ、そうなんですか?分かりました」

 

獲物を捕るなら目標が多い方がいいのではと、鳥が大合唱している方へ足を向ける。

今度はそんな数に襲われればひとたまりもないからと言われ、しぶしぶ離れることに。

ゲームであった頃にはそんな事情など関係なしに森の中なら一直線だあった。遭遇した敵は逃さず(ノガサズ)殲滅(センメツ)するのが通常業務である。

今はロットルさんがいるから彼の流儀に合わせるのは当然である。

無理を言ってくっついてきたという負い目もケーナにはあった。

結局はロットルさんが数日前に仕掛けた罠で数羽の鳥を回収し、罠を再度設置し直す程度で森歩きは終了である。

 

「ケーナちゃんは本当にエルフかい?」

「え...えっと、ハイエルフで王族だったので」

「へー、王族ですか.....?王族?」

「でも、今まで通りでお願いします♪」

「は....はい」

「あと、私は戦闘がメインでしたから」

 

だがその戦闘力を発揮する機会はすぐにやってきた。帰路についたところでばったりと熊さん(ホーンベアー)にしてしまったのである。

こうなると落ち葉の匂いでの誤魔化しなど利くはずもない。

前足を振り上げてロットルさんに一撃を叩き込もうとしたホーンベアーは、ケーナが咄嗟(トッサ)に放った風魔法の風圧で10数メートルも吹き飛ばされた。

ごろごろとホーンベアーが転がった先は街道である。頭を振って起き上がり、周囲の状況を確認した時点で時すでに遅し。

少しの助走と風魔法の補助による綺麗なフォームの飛び蹴りが、ケーナによって放たれた後だった。

【戦術技能(ウェポンスキル):チャージ】と前回のこともあって、【雷精(シンティラ)】を付与している。上乗せされた蹴りが炸裂する。

「チエーロ(天)フルミネ(雷)ピエーディ(脚)」という掛け声と共に。

もちろん勢いだけで口にしたために、後でロットルさんの存在を思い出して赤面したのは黒歴史決定である。

赤くなった耳を隠すように、倒したホーンベアーを引きずってロットルさんと共に村への道を急ぐケーナであった。

村人たちには2匹目の貴重な食材兼素材と歓迎された。

しかしながら近々(チカヂカ)隊商が来るということで、解体した後は大切に保管して物々交換用にするとのことだ。

ケーナも特に使い道がないということで、村に全部渡してしまったが「どうしてもこれだけは!」と言われ、再び角だけを受け取ることになった。

ケーナも折角渡されたのだからとしばらく悩んだが、2本は二又(フタマタ)の槍へと加工し、もう2本は使い魔を召喚するための触媒(ショクバイ)に使うことにした。

これで召喚できる使い魔は戦力としては20レベル程度で、ケーナにとっては指先でダウンが取れるほどの弱い存在となる。

この世界の人々のレベルはよく分からないが、そのうち何かの役に立つだろうというくらいの備えだ。

 

 

 

翌日は暇で退屈が産まれそうなほど何もない。少し考えたケーナは何かできることはないかと村の中をぶらぶらと散歩をすることにした。

ホーンベアーの角をお手玉風に弄びながらケーナは村をひと周りする。

家屋(カオク)が並んでいる他は畑しかないので、道端(ミチバタ)に置いてあった岩に腰掛けて畑仕事をしている村人を眺めるくらいしかすることはない。

観光地でもない村なので、のどかな光景以外には驚くほど何もない所だ。

ここに来るまでにやったことと言えば、村の中を我が物顔で歩き回る鶏の卵を拾ったくらいだろう。

そんなケーナの視界の端にマップウィンドウが展開表示される。

記されたのは昨日と一昨日にケーナが移動した、銀の塔からこの村へ続く道程(ミチノリ)とその周辺である。衛星写真のように上空から見下ろした形となった村の周辺地図だ。

 

「キーちゃん?」

「辺境ノヨウニマップヲ作リマシタ。後ハ外側ヲ行動範囲ヲ増ヤシテ詳細ナ地図ヲ作リマショウ。ケーナ』

「まあ、そういうやり方しかないかー。それにしてもこの村って何かに似てるなあ?」

 

村の中央に集まる形で立っている家屋。その外側を占める畑。何処(ドコ)かで似た物を見た記憶のあるケーナは、うーんと考え込んだ。程なくして記憶の底から答えを導き出した。

 

「あ、オフラインモードの出発地じゃん」

 

オンオフ両方のモードがあるVRMMORPG・リアデイルは双方で出発地点が違う。

オンラインは所属国の王都で、オフラインは適当に配置された辺境の村だ。

その村に住む者たちの依頼をこなしていくことで、最終的に村を砦のように発展させていくことがプレイヤーの役目だ。

シナリオの経過中に15個の魔法と30個の技能(スキル)を手に入れられるプレイヤーのクエスト登竜門である。

リアデイルの技能(スキル)は基本の7種魔法以外では、クエストをこなさないと1つも手に入らない仕組みになっていた。

4000と+αのクエストを残さず実行した者だけが、スキルマスターの称号を受け取れるのである。

しかし、スクロール生成で得た(エタ)技能(スキル)が1つでもあると資格を失ってしまうという、隠されたデメリットがあった。

その辺り、スキルマスターの存在は運営の罠と言っても過言ではない。

勿論1度取得した技能(スキル)は破棄できないし、そのクエストを受けようとしても技能(スキル)がある以上はクエストが発生しない。

βテストからリアデイルに付き合ったケーナを含む1部の廃人(になりたくて、なったわけではない)はそれを思い知った。しかし軌道に乗った世界へ後から入ってきた者はそれを知らずに脱落していった。

ちなみにこの事実は運営側がネットに挙がり次第消しているので、1期の登録者以外で知る者は少ない。

運営はその労力をもっと別のものに使えと、古参(コサン)のプレイヤーはよく嘆いていた(ナゲイテイタ)ものだ。

ケーナの脳裏(ノウリ)にそんな言葉が浮かんだ。

 

「しかしそれでまた迷惑になるのもどうかなぁ......」

 

ブツブツと考え込むケーナに畑仕事をしていた者から声が飛ぶ。

 

「よう、ケーナちゃん。畑にまで何の用だい?」

「.......え?ああ、ええと、何かこの村のお役に立てないかなあ、と思って」

 

ケーナの言葉に畑仕事をしていた村人たちは、顔を見合わせて笑い出した。

 

「え、ええっ。なんですかその反応っ?」

「いやいや、ケーナちゃんはこの村のって言うか、宿屋の客だろう」

「そーそー、村のことは村に住む俺たちの仕事だしさー」

「アンタがそんなことを気にする必要はないんだよー」

 

わはははーと、朗らか(ホガラカ)に笑う皆に口々に言われてしまっては、流石に口を出すわけにはいかない。

頭を下げて一旦そこを離れ、腕組みをしながら頭上を見上げて脳内を流れていく技能(スキル)を1つ1つ確認していく。

これにもピンからキリまで多種多様あった。

そのクエストで1度使えば後は全く使わない奴だとか。先程(サキホド)の【魔法:温水】がそれに当たる。

その後に続く上位の技能(スキル)を得るために必要で手に入れたものの、1度も使ってないモノも多い。

あるけれども早々使うにはやや問題があるモノ。【技術技能(クラフトスキル):建築:城】とかがいい例だ。

後々まで頻繁に使うモノなど全体の半分以下である。

そこでまたしても釣瓶(ツルベ)で水を汲んでいるリットちゃんを見掛けた。マレールさんから娘の仕事を奪わないようにと厳命されているため、見ているだけしかできない。

小さな体で一生懸命に釣瓶の縄を引っ張る彼女の姿にハラハラしっぱなしだ。

【筋力(STR)増強】の効果を持つ腕輪でも渡すよりは、まず井戸の構造から変える必要があるなー、と思ったケーナの脳裏に丁度良いものが閃いた。

村を砦に進化させる途中で、砦内の彼方(アチ)此方(コチ)にスキルで設備を作る過程がある。

その中の、台所の井戸に設置する水汲み機を付けてはどうかと思った。形状は木組みのキャタピラみたいなとのである。

単純な手押しボタンがこの場合適切なのだが、金属系の材料が足りないので却下された。

該当物(ガイトウブツ)の形状は手回しハンドルを動力にして、歯車で駆動させるキャタピラである。

数ヶ所に枡(マス)がついており、水を汲んで樋(トイ)に流す装置だ。

作成には少量の金属と大量の木材が必要になる。これなら現状の井戸の上に台を組んでのせてしまえばいいので、設置も楽だ。

 

「よし!悩むよりは先ず行動。マレールさんに許可を取ろう」

 

いきなり飛び込むように戻って来たケーナに「井戸を改造したいんですわー!」と詰め寄られ、マレールさんは困惑して。

 

「ですわー?」

 

理由を聞くとリットちゃんだけでなく、誰でも簡単に水が汲める装置を作るとのこと。身振り(ミブリ)手振り(テブリ)で説明されても全く理解不能だ。

最初は戸惑っていたマレールさんだったが、朝方とは違い妙に活き活きとしていて楽しそうなケーナの様子についてOKを出してしまう。

 

「マレールさんの許可ゲットーッ!ひゃっほー!」

「あ、ちょっとケーナ!昼飯を食いに来たんじゃないのかい!?」

 

水を得た(エタ)魚のように飛び跳ねて(トビハネテ)出て行こうとしたケーナは、マレールさんの呼び掛けに我に返る。

1泊(イッパク)に付属しているのは朝食と夕食だけで、昼食は別料金だ。

面倒になったケーナは、当初に提示した銀貨にじゅうまいを渡して、「村を出る時に差額を返してくれれば良いです」と言ったら「だったらキチンと昼食も食っていきな」と言われてしまったのである。

妙な醜態(シュウタイ)を見られてしまったため、ケーナは赤くなったまま昼食を終えた。その後は井戸の周りをぐるぐる周りながらアイテムウィンドウを睨んでいた(ニランデイタ)。理由は手持ちの材料不足で、例の物を作成するのに量が足りないといった悩みである。

必要な材料の大半は材木で、農村なら材木イコール薪になるだろう。だとすると、自力(ジリキ)でなんとか都合しなければならない。

 

「うーん、切り倒すしかないか?」

 

昨日の森の感じからすると、樹木たちに断り(コトワリ)を入れても切り倒せるかどうか果てしなく疑問が残る。

 

そこまで考えて、はなと気付いた。

 

「あ、そうだ!切り倒さなくてもへし折れたのがあるじゃん」

 

ケーナの予想を越えた勢いで飛んで行った熊が作り出した、無惨な光景を思い出す。

善は急げとばかりに、昨日の現場へ行ってみることにした。

昨日の現場にはドミノ倒しみたいに木が折り重なって倒れていた。

手前側の1本が消えているのは村人が持って行ったらしい。おそらく数量的には1本丸々で事足りると思うが、他に何か使うかもしれない。

後々こんな機会もあるか分からないので、全部加工してしまうことにした。

 

【技術技能(クラフトスキル):木材加工:Lv.3:start】

 

ケーナの周りから強風が巻き起こり、倒れた3本の木の枝を纏めて(マトメテ)打ち払う。

そして皮がかつら剥きにされ、輪切りになった物が眼前にドンドンドンッ!と積まれる。強風に揉まれて葉ズレの音でざわめいていた森は、風が収まってやっと静けさを取り戻した。

ケーナは予想外の工程を、唖然として眺めていた。

おもむろに肩を落として溜め息(タメイキ)をひとつ。

 

「いや、確かに必須事項に風魔法が要るけど(イルケド)さあ。実際に目にするとまさかこんなんだったとは......」

 

植物系材料の場合、種族デメリットでハイエルフでは採ってこられない(トッテコラレナイ)。

お店で買ったり夫(オット)やギルドメンバーに頼んだりしてはいたが、初めて目にする加工方法に目が点である。

技術技能(クラフトスキル)には前提条件として、地水火風氷光の初期魔法が必要だ。

初期魔法には、闇魔法もあるが、技術技能(クラフトスキル)には必要ではない。

今のように木材は風魔法で製材するが、ゲーム画面上ではここまでの工程はされない。

精々(セイゼイ)対応する魔法のエフェクトがデフォルメされて発生するくらいだ。今の奴だと小さい竜巻がくるくると表示されるだけである。

でき上がった輪切りのひとつ分の大きさがトラックのタイヤくらい。

それを1ダースを一纏めにして、合計14個をアイテムボックスへ放り込む。10トントラック1台分の容量が綺麗サッパリ消え去った。

 

「......考えるな私。考えたら終わりだから、うん」

 

物理法則なんぞ軽く超越する出来事に(自分が仕出かしたことだけれど)額(ヒタイ)に手を当てて頭痛を抑える。

アイテムボックスからネタ武器を抜く。

【恐怖】(敵の行動を一時的に止める)と【威圧】(敵の回避を大幅に下げる)を内包した惨劇の夜(ジェイソンブレード)。一見するとただの鉈(ナタ)だ。

打ち払った枝の細かい枝葉を削ぎ落とし、ロープで纏めてこれもアイテムボックス内へ放り込む。

 

「これはマレールさんに渡しちゃえばいいや」

 

今更野宿をする必要もないので、薪とかは持ち歩かなくて済む。

後は大掛かりな物を組むために、技能(スキル)のウィンドウを表示して各材料を確認した。

各々(オノオノ)の部品はある程度作っておいて現場で組み上げてしまうために、今此処(ココ)で部品毎(ゴト)に加工しておく。

そして再び強風が吹き荒れ、切り株が空を舞う。

 

「気にしない気にしない」と呟きながら、ケーナは大量の汗をかきつつ作業に没頭した。

 

 

 

その1時間後には宿屋の裏にある井戸の周囲に、手の空いた(アイタ)村人が数人集まっていた。

宿屋の住人を中心として輪を作り、井戸に奇妙な木組み細工を設置するケーナを物珍しそうに眺めている。

ケーナはまず井戸に掛ける土台部分を置き、車輪みたいに2個連結した歯車を軸とした。

そこに等間隔(トウカンカク)で枡(マス)のついたキャタピラをくっつけて連結させる。幅は40センチメートルくらいだ。

最後に手回しハンドルのついたギアボックス機構を軸と繋げ、回ってきた枡が水を落とす所へ樋(トイ)を設置して終了である。

ケーナは先ず自分でハンドルをくるくる回して、誤作動がないのを確認してからその場所をリットちゃんに譲った。

説明もなしに場所を譲られたリットちゃんは困惑気味だ。

 

「え?えっと、どうすればいいの?」

「そこのハンドルを右回りに回せばいいのよ。がーって回しちゃって」

 

リットちゃんは言われた通りに右ハンドルを回してみた。最初に少し力を入れてみたものの、わたらと速く回ってしまう。

キャタピラ部分がガラガラと音を立てて回転し、汲み上げられた水が樋(トイ)を伝わって桶へと流れ込む。

みるみるうちに水が溜まっていき、桶から水が溢れ(アフレ)出た。

これには周囲で見物していた村人も歓声を上げる。我も我も押し寄せて、1人ずつハンドルを回転させて喜んでいた。

 

「おおっ!ロクに力を入れていなくても水がたくさん汲めるじゃないか」

「なるほどこりゃ便利だ!凄いなケーナちゃん。こんなモノを作れるなんて」

「こりゃあウチの婆さんでも楽に水が汲めるじゃないか!」

 

マレールさんや夫のガットさんもしきりに感心して頷いている(ウナヅイテイル)。村人たちの好感触にガッツポーズを取ったケーナに村長が詰め寄った。

 

「すまんがケーナちゃん。村の中央にある井戸にも同じものを置いてくれんかの?」

「ええ別に構いませんよ。直ぐ作れますし」

 

この村には3つの井戸があって、宿屋の裏の井戸は村の南側が使う割り当てとなっているようだ。中央の井戸は北側の割り当てになっている。もうひとつの井戸は村の外側の柵近くにあり、かなり昔に崩れて使えなくなったらしい。掘り直しても良いのだが、水の匂いで魔物が寄ってくるかもしれないので、封鎖されたままにしておくのだとか。

 

「後は最後の仕上げ!」

 

村人たちにちょっと下がってもらって、脳内から術を2つ選択する。

瞬時に足元から3メートルの高さまで燃え上がった炎が、ケーナの頭上で火の粉を散らす。

効果アップを示す赤い光が霧のように彼女の周囲を舞う。コレには村人たちもたじろいたが、神秘的な光景にあっさりと静かになった。

 

【魔法技能(マジックスキル):炎系自己付加:増幅(ブースト):start】

【魔法技能(マジックスキル):付加保存Lv.9:幾千の夜(エンドレスナイト):start】

 

続いてかざした掌から黄金色の粒子が放出されて、水汲み機にキラキラと纏わり付く。

しばらく金色に染まったように輝いていたが、ケーナが深呼吸をして姿勢を戻すと同時に消えさっていた。

先に唱えたのが、次の魔法の効果を1・3倍に引き上げる【増幅(ブースト)】の魔法。

後に唱えたのが術者のLv×魔法Lv分の日数だけ、錆びない腐らない壊れないコーディングをする魔法である。

つまり12870日分、約35年にに渡りこの水汲み機は新品状態(シンピンジョウタイ)のまま保存される。

その後は日が沈む前に、中央の井戸にも水汲み機が設置され、村人に歓声をもって迎えられた(ムカエラレタ)。

そしてまた『ケーナちゃんの偉業を称える会』という宴会が催される(モヨオサレル)ことになった。

昨日と同じように酒を勧められたケーナだったが、断固として断ったら場が静かになって村人の視線が突き刺さった。

結局泣く泣く酒を飲む羽目(ハメ)になったのは言うまでもない......。

次の日にまた飲むまいと誓ったのだが、マレールさんの「なあに酒なんて飲み続ければ慣れるもんさ」という言葉に戦慄(センリツ)を覚えたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 















  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。