璃月港。
璃月七星と言われる有力者と強力な軍隊である千岩軍によって支えられた商売と契約の街。複雑な法により商売の自由、契約の元の自由が守られている国。
そこには国際的に微妙な立場である国家『スネージナヤ』の商人でさえ商売をする事が可能であり、他国への侵攻部隊であるファデュイへ金銭的支援を行なっている北国銀行でさえ何の問題もなく支店を建てることができていた。
「まだかよ……時間過ぎてるぞ……」
その北国銀行は外貨を稼ぐためか、璃月港で商売をしているスネージナヤ人を強力に支援している。どのような支援かと言えば、必ず儲かる商売を斡旋しているのだ。
「あの……こんなに待たされるもんなんですか?」
「いやぁ、普段はこんなことないんだけどね」
その商売は三つの国を跨いで行われる。支店の存在する『璃月港』、璃月から地続きである国『モンド』、そして海を隔てた島国『稲妻』。
「……おっ」
外交組織でもあるファデュイが売った恩でモンドから安く仕入れ、それを鎖国中で物資不足の稲妻に売る。彼らにとって非常に簡単でわかりやすい、右から左へ流すだけの楽な商売。
そしてわざわざ海を越えるのだ。稲妻でも勿論、商品を仕入れる。反物や稲妻独自の食材、小説などの娯楽商品。それらは璃月港の市場でも売れ筋の商品達だ。
「おーい、こっちだこっち。今日はこの埠頭だ」
「来たみたいだね」
「…………」
埠頭に座り込む3人の璃月人、荷下ろしの為に雇われた彼らの視線の先で入港した船にはその売れ筋商品達が積まれている。
「それじゃあ、行きましょうか」
「……は、はい」
「うっす」
眼鏡をかけた彼の一声で男達は立ち上がり、船から降りる屈強な水夫を掻き分け船内へ入っていった。
労働環境が良いのか、船から降りる水夫達は長い船旅の後だというのにスッキリと晴れやかな顔をしている。船旅は娯楽もなく、退屈極まりない物で殺伐とするのが通例なのだが彼らにそんな様子は見られない。十分な娯楽を与えられているようだ。
「………」
「こっちだよ」
「あ、ありがとうございます」
新人が人並みに揉まれ逸れるなんて一幕もあったが、彼等は無事に仕事場となる船内の倉庫にたどり着く。最新のランタンに照らされたそこには数人の水夫と質の良い服を着たスネージナヤ人が待っていた。
「どうも、今回は結構時間かかりましたね」
「いやぁ申し訳ない……嵐で足止めされまして」
「餌は足りましたか?」
「途中で足りなくなりましたが水分は取らしていたので大丈夫です」
「タンパク質もでしょ?」
どっと狭い倉庫の中で笑いが起こる。鉄板のネタだったのだろう。新人の一人だけが何のことかわからない様子ではあったが、倉庫に残っていた水夫も含めて皆顔を歪め楽しそうに笑っている。
「最後に使います?」
「いえ、積荷を降ろしたら直ぐに出港する予定ですので」
「忙しないですね」
「大きく状況が動きまして、すぐに次の『豚』が仕入れられそうなんですよ」
「それはそれは……景気の良い話ですね」
「ええ……それに」
「それに……?」
チラリと倉庫の奥、積荷の木箱を見遣りながらスネージナヤ人が言葉を続ける。
「お別れの挨拶という事で、今日は乗組員全員で使いましたのでね。私も含めてカラッカラなんですよ」
「はははははははは」
またもやどっと笑いが起こる。文字通り明るい職場のようだ。
「では、出港まで休憩したいので失礼しますね」
「はい、どうぞこれからもご贔屓に」
ひとしきり笑い合うとスネージナヤ人の彼は船室に帰っていった。周りにいた水夫達も手伝う気はないようでさっさと倉庫を出ていってしまう。
残されたのは埠頭で待っていた3人だけだ。
「では……運びましょうか」
「うーす」
「はい」
3人はそれぞれに木箱を抱え船から降りた。
そこまでの重さは無いのか、彼等は特に辛そうな顔を見せず北国銀行が抑えている近場の倉庫に運び込んでいく。
一人一つの木箱を持ち、倉庫に置き、また船に乗り木箱を持つ。
そうやって何度か往復し殆どの荷物を倉庫へ運び込み終わった所、残り数箱といった所で、男達の作業が止まる。
「……運ばないんですか?」
「ひひ……いやぁ……ちょっとな」
最後に倉庫に入った男、新人の男が作業を止めた2人を見て声をかける。2人のうち1人、粗野そうな男は残り数個の箱を見てニヤニヤと笑みを浮かべながら答えにならない返事をした。
男達が囲むその箱は今までの木箱と異なり一枚板で作られており、今までの木箱より遥かに頑丈そうに見える。側面には『豚』と焼き印が押され、恐らくは豚の肉が入っている事を想像させた。
しかし肉が入っているのだから気密性を考えて一枚板の箱を使っているのかといえばそうではない。密閉されているわけではなく、これ見よがしに蓋には丸い穴があいている。
丸い穴の近くには何か水分が乾いた後のような白い痕跡が残っていた。
「…………?」
その箱が三つ。
全ての箱の穴には同様の痕跡がある。恐らくその穴は箱の中身を手入れするため、もしくは『使用』するための穴で、その結果として痕跡が残ったのだと推察できた。
「そうだなぁ……さっさと倉庫に持ってくか」
「お楽しみはバレない所でやらないといけませんからね」
頭に疑問符を浮かべている新人を尻目に、彼らは残りの箱の一つに手をかける。
「さぁ、運びますよ」
「あっはい」
奇妙な点はもう一つあった。
三つの箱、その全てに写真が貼り付けられているのだ。
一つは黒い髪で面を頭に飾った凛とした表情の女性。
一つは桃色の髪をした蠱惑的な表情の女性。
一つは紫色の髪の冷たい目をした女性。
彼女達はみな絶世の美女と言っていい顔立ちで、スタイルも良い。
黒髪の女性はスレンダーで、紫髪の女性は驚くほど豊満、桃髪の女性はその中間といった所だろうか。
それらの写真が、穴からは丁度反対の位置に貼り付けられている。
例えば、穴のある位置に座り、前屈みになれば、丁度顔の前に来るだろう位置だ。
「うごかねぇけど大丈夫っすかねぇ」
「お別れ会の後ですからね。こんなものですよ」
「………………」
眼鏡の男は桃髪の女性の箱を、粗野な男は黒髪の女性の箱を。
そして新人は残った紫髪の女性の箱に手をかける。
「では、落とさないように気をつけて行きましょう」
さぁ、倉庫まで運ぼう。
その段になって、新人の男はもう一つ、奇妙な点に気づいた。
「…………」
写真の貼られている位置からみて手前の側面、そこにも穴が空いているのだ。穴の空いている周りに白い、白濁とした液体の痕跡が残っていることは変わらない。しかしそこは蓋の穴と違って塞がっていた。穴にピッタリと収まるサイズの、握りのついた棒が生えているのだ。
まるで穴の中にもう一つ穴があり、その穴に棒が突き立っているようだった。
「……ぁ……あの!」
「おぉっ……あぶねぇだろ! どうしたぁ!?」
新人がうわずった声で呼びかける。
振り返ったのは粗野な男だが眼鏡の男も立ち止まる。
少し話がそれるが、スネージナヤの商人達は璃月港の気風に悪い意味で毒されていた。
璃月港は契約の街、つまりは商売の街。
金銭至上主義。詐欺まがいの商売も稼げるのならば躊躇いなく行う。
「あ……あの……これ……中身」
「申し訳ありませんが」
彼らは表で売れる商品の他に、鎖国中で、しかも内乱中でもある稲妻の『特産品』を仕入れていた。その特産品は金銭的に満たされている人間が多い璃月港で人気の商品で、特殊な市場で『娯楽品』や『嗜好品』として販売される事になる。
「その話は倉庫に運んでからにしましょう」
「で、でも……」
「ああ、そうだ」
眼鏡の男が振り返り、にっこりと笑う。
最初は優しい人だと思っていたそれは貼り付けたような笑顔で、実のところ正反対の人間であることを予感させた。
「特別に、味見をさせてあげますよ。その箱の中身」
ゴクリ、と新人が唾を飲み込む。
「あなたも食べたいでしょ?」
ちがう、そんな気で声をかけたわけではない。しかし頭の中をよぎる箱の中身、その想像の姿。紫色の髪を靡かせる、グラマラスな女性。
写真の中のクールな、澄ました表情は……この箱の中でどうなっているのか。
「どれがいい……なんて、聞く必要もなさそうですね」
「しっかり抱え込んじまって……しょうがねぇなぁ」
「ふふふ、あなたも好みの箱を選んだじゃないですか」
「はは……いやぁ、敵いませんなぁ」
そう言って談笑しながら遠ざかる男達を、新人はおぼつかない足取りで追いかけた。
絶対に箱を落とさないよう、しっかりと持ち直して。
どの女の子が酷い目に遭いそうですか?
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エウルア
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ラウマ