鋼の錬金術師 遭難、事故から始まった、不幸街道間、まっしぐらで始まった人生 作:木桜 春雨
「スカー君じゃないか」
振り返った男は立ち止まると声をかけてきた小柄な男を見た、いつ、セントセラルへ戻って来たんだいと屈託なく声をかける相手に昨日だと男は小声で答えた。
軍の関係の仕事をするようになったが、元々、無愛想な自分に声をかけてくる人間は多くない、そんな中でティム・マルコーは数少ない人間だ。
「今から昼を食べに行くところなんだが、よかったらどうだい、奢るよ」
一人で食べるのは味気ないしねと笑う男と並んでスカーは歩き出した。
イシュヴァールで医者として働いていた筈の彼が、こちらにいることにスカーは不思議に思いながら、いつ、こっちに来たんだと訊ねた。
「医者の数が足りないらしい、友人まで非常勤として駆り出されているんだ、だが」
マルコーは周りを見ながら小声で呟いた、セントラルでは最近、ホムンクルスをよく見かけるらしいと。
「悪いことをするわけではないので今のところは黙認状態だが、何かあってはまずいということで殆どの錬金術師は、ここ、セントラルにというわけだ」
てっきり軍の建物内の食堂で食べるのだと思っていたスカーだが、外に出たことは以外だった。
大きくない食堂だったが、男性客が多い、好きなものを注文していいからと言われてスカーはメニュー表を見るとランチを二人前、注文した。
「向こうで何かあったのかね」
皿の上のものを殆ど食べ終わる頃、マルコーが訊ねた。
ここにホーエンハイムという男は来ているかとスカーが聞くと、不思議そうな顔をしながらもマルコーは思い出したように頷いた。
「確か、エドワード兄弟の父親だったね、いや、見てはいないが、もしかして向こうで会ったのかね」
頷きながら、スカーは自分が山で怪我をしたこと、そのとき、女に助けられたことを話した。
最後まで聞いていたマルコーは不思議そうに、その女性は山の上から降りて来たのかいと訊ねた。
「その女性がホーエンハイムに連れて行かれたというのか、で、君は探していると」
荷物、スーツケースは、その女の持ち物なんだと言われてマルコーは訊ねた。
「外国人が山の上から降りて来たというのかい」
どこか、釈然としない言い方だ。
ホーエンハイムという人物のことはあまり知らない、だが、軍関係の仕事をしているからといって、居場所がすぐに分かるとは限らないとマルコーから聞かされてスカーは、そうなのかと相手の顔をまじまじと見た。
「常時常勤のような立場ではないのなら、上の人間に聞いた方がよくないかい」
大佐とか、その名前を聞くとスカーは眉間に皺を寄せた、仲がよくないからだろう。
食事が終わり店の外に出た、どうやって探すつもり代とマルコーに聞かれてスカーが何か言いかけたとき、楽器の音が聞こえてきた。
「最近は移民の見せ物、芝居の一座がセントラルにも来るんだよ」
以前なら考えられなかった、色々な人種が集まってね、その言葉にスカーは答えなかった。
民族衣装だろうか、シンこくのような衣装だが、衣の色や髪飾りからして色々な国の寄せ集めたようにも見える。
着飾った麗人が楽器の音色にあわせて踊りながら歌うのだが、不思議な言葉だ。
「聞いたことのない音楽だな」
マルコーが不思議そうにスカーを見た。
「俺も、初めてだ、流れ者の一座か」
足を止める見物人もいるが、興味がないのか立ち去って行く人間も多い、踊りが終わり、一人の女が歌い始めた、だが、歌が終わった瞬間。
「ブラヴァーッ」
叫ぶような声と拍手の音が響いた、スカーとマルコーは思わず視線を向けた。
思いっきり、いや、力一杯、拍手をしている女の姿にスカーは凝視した。
「スカー君、えっ」
スカーは女に近づこうとした、だが、女の隣に自分と同じくらいの長身で金髪の男が立っていることに気づき足を止めた。
ティッシュを受け取る女の涙と鼻声に金髪の男は苦笑しながら、近づいてきた少女が皿を持っていることに気づき、素敵だったよと言いながら金を入れた。
「そろそろ、行こうか」
男に促されて立ち去ろうとしたときだ。
お待ちください、静かな声で呼び止められた。
セントラルにスカーは戻ってきました。
登場人物も色々、増えていくと思います。
来週、ハガレンの後編が公開、楽しみ。