鋼の錬金術師 遭難、事故から始まった、不幸街道間、まっしぐらで始まった人生 作:木桜 春雨
優しくて親切なおっさん、いや、おじさんだ、最初のうちは、この人についていって大丈夫なのかと不安に思うところもあった。
外国旅行で日本人が犯罪に巻き込まれる確率は高いと言われているし、死亡率も高い、どうなってもいいやと半ば、そんなことを思いながら、セントラルに行こうと言われて、ここまで来たのだ。
「みさお、変わった名前だね」
「そうですか、ホーエンハイムさんは、長いですね、ここの人は皆、そうなんですか」
「セントラルは都会だし、色々な人が集まっているからね、移民や流浪の人間の仲には名前を持たない人もいる」
「貧しい人って、ことですか」
そうだよと言われて考え込んでしまう。
「ホーエンさんは偉い、何か役職についている人なんですか」
「ああ、まあ、君のような人はたまにいるんだ、事故や色々とあって、全く知らない場所に、それで自分は困っている人をね、仕事なんだ」
家に帰れますかねと訊ねるとホーエンさんは困った顔になった、はっきりとした返事はできないと。
「あーあ、チケットが無駄になってしまったなあ」
自分は芝居やミュージカルが好きで海外の舞台を観るために旅行に来たのだが、何故か、今、こんな場所に来ているのだと話すと事故かもしれないねとホーエンは独り言のように呟いた。
「そうか、じゃ、行こうか」
どこにと聞くと内緒だよと笑いながら、歩き出した。
街中の広場のような場所で着飾った人たちが楽器と歌を披露していた。
東洋の空気を漂わせる芸人の歌や踊りに思わず魅入ってしまった。
踊りもだが、歌声も素晴らしくて終わった瞬間、力一杯拍手をして、素晴らしい、ブラヴァーと大きな声で叫んでしまった。
賢者の石があれば、どんな願い望みも思いのままだと思っていた。
だが、賢者の石が人の命を糧としなければ作られないという真実を知ったリン・ヤオは悩み石を手に入れることを諦めた。
ところが人の命を使わなくても石が作れると聞いて、再びセントラルを訪れたのだが、石を手に入れるのは簡単なことではなかった。
エセ錬金術まがいの人間が石を生成し、不祥事を起こしたことで石の生成に関して管理が厳しくなったのだ。
諦めて国に戻るかと考えた、ところが、不死の人間がいると話を耳にしたのだ。
ようやく見つけたのはイシュヴァールの流浪の民話が聞きたいというリン・ヤオを老婆は窺うような視線で見ていた、沈黙と無言に我慢できず口を開こうとしたリン・ヤオだったが。
「石がなくても不老不死になれる、か」
ヤオは確信した、知っていると、教えてくれないかと頭を下げる青年をじろりと睨みつけた老婆は、シン国の人間かと呟いた。
「ああ、そうだ、俺は」
頷いた瞬間、老婆は無理だと、それは断言するような口調で返した。
「不老不死になることも、力を手にすることはない、シン国の者なら尚更だ」
老婆は、わずかに顔を歪ませた、怒りなのか、それとも別のものなのかわからない。
「賢者を怒らせたからじゃ」
ううっ、涙が止まらない、広場で歌っている一座の踊りや歌に感激してぼろぼろに涙を流してしまった、それだけではない、歌い手に声をかけられて花を手渡されたのだ。
ハンカチで目元を押さえながら隣を歩いている女を横目で、ちらりと見ながらホーエンハイムは思った、すれ違う人の視線が、痛いと、女性を泣かせた、女の敵とか思われているかもしれないと。
目を開けて自分が寝ていたことに気づいた、しかもベッドにだ、思い出そうとして、はっとした。
自分は街で歌と踊りを見ていた筈だと、その後。
「ああ、起きたのかい、気分はどうだい」
男の人の声、顔をそちらへ向ける、ホーエンさんではないが、優しそうな声なので思わず大丈夫です、平気ですと言ったが、全然、そうではなかった。
体を起こして歩き出そうとしたら、くらっと目眩がした、何故か、失恋、結婚、離婚で倒れた時を思い出した。
リン・ヤオ、悪人ではないけど、今回、シン国の人間ということで。
お父様も書きたいわ。