※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

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※斗和視点


どうしようもなく─斗和─

渡された木刀を構え、一度振り下ろす。

 

腑抜けていられない。

何度も手合わせしている不死川さんには、些細な変化も気付かれる。

二度目以来、私は彼を無惨だと思って対峙してきた。

 

強くなければ上弦の鬼は倒せない。

 

煉獄さんを救えない…!

 

先手必勝とばかりに、私は真正面から打ち込む…と見せかけ左に回り込んだ。

木刀を素速く真横に振る。

バキッと音がし、不死川さんがそれを受け止めた。

私は咄嗟に姿勢を低くし、彼に足払いを仕掛ける。

跳んで躱されるのは想定内で、すぐさま木刀を下から上に振り上げる。

 

 

─土の呼吸 玖ノ型 蚯蚓破裂(みみずばれ)

 

「!」

 

不死川さんは木刀を真横にし防ごうとしたが、咄嗟に仰け反り後方に下がる。

私が低姿勢から技を撃つとは思わなかったのだろう。

蚯蚓破裂は一直線に斬り裂く技だ。

躱さなければ顎に当たり怪我をしていたはずだ。

判断の早さはさすがだと思ったが、柱ならば当然

である。

今度は不死川さんから向かってきたので、そこから本格的に打ち込みが始まった。

 

打ち込みは鍛錬の基礎だ。

まずは素振りで太刀筋を真っ直ぐにし、あらゆる角度で振る。

そして鍛錬用具に打ち込みをし、相手と打ち合いをするのが基本の流れだ。

打ち合いで差が出るのはブレだ。

一打一打をしっかり打ち込めば、自ずと相手を押すことができる。

この打ち込みにブレが生じると、瞬く間に下半身も崩れ叩きのめされるのだ。

どんなに速く打ち込もうが、意味がない。

 

柱同士の打ち込みは速さも加わり、おそらく他の者なら目で追えない程だろう。

いつもなら押され気味だけど、今日は互角にやり合っている。

途中途中で揺さぶりをかけ、奇襲攻撃もする。

 

どうしても技を撃つ時は隙が生じる。

だから撃つように見せかけ再び打ち込んだりし、的を絞らせないようにした。

 

 

────────

───────

数刻後、初めて不死川さんを吹っ飛ばした。

駆け寄ると、彼は驚いている。

 

「すげェ威力だなァ。受け身は取ったはずだが…木刀にひび入ってんじゃねェのかァ?」

 

「真っ向から受けたらそうなるかもしれませんが、不死川さん、咄嗟に木刀を振りましたよね?発生した風がいくらか盾になったんですよ」

 

「気休め程度になァ。お前は技の繋ぎが速いんだよォ」

 

不死川さんはコキッと肩を回しながら言う。

彼の体は屋敷の塀に当たり止まったが、塀がなければ更に先へ飛ばされていたかもしれない。

土の呼吸 弐ノ型 土石流は、上半身の力を全て使い一方向に押し出す。

体幹がしっかりしていなければ、本来の威力は出せない。

ブレを一切なくすことで最大限の力を発揮する。

木刀での威力は私の日輪刀の七割程度だが、それでも非常に大きいのだ。

対抗するならば、同じような技でないと打ち負かされる。

 

不死川さんは対抗せずに逃れようとしたのだが、間髪入れずに撃ったので間に合わなかったのだ。

結果的に受け身を取るも当たり、吹っ飛ばされたというわけだ。

 

四度目にして、やっとまともな手合わせになった気がした。

この技、悲鳴嶼さんならどうなるかな?

弾き返されそうな予感はするけれど、やっぱり一度は手合わせしてみたいと思った。

 

「木刀、寄こせェ。井戸使っていいから終わったら縁側で待ってろォ」

 

木刀を持ったまま呆けていると、手から抜き取り不死川さんは玄関に歩いて行った。

 

言われた通り井戸で顔を洗い、汗を拭き取る。

手拭いは常に腰に携帯しているし頭にも巻いているので、拭くのには困らない。

頭の手拭いを取り団子にしていた髪紐を解けば、頭に風が入ってきて気持ちがいい。

 

そこで先程見た女の隠が、髪を結わえる姿を思い出す。

背中まである黒髪を纏め、頭巾を受け取り微笑む横顔。

それを見る彼の横顔は、とても穏やかだった。

 

ああだめだ、また考えている。

お茶を飲んだらさっさと帰ろう。

 

縁側に腰掛け、髪を纏めず風を受けていると、足音がし不死川さんが盆を持って現れる。

 

「…髪紐、切れたのかァ?」

 

「いえ、風が気持ちいいからしばらくこのままでいいかなって…。お茶ありがとうございます」

 

差し出されたおしぼりと水、茶、そして自ら持参した栗羊羹に手をつける。

同じくおはぎに手をつけた彼を横目で見ながら、思い切って聞いてみる。

 

「そのおはぎ、前回と同じ店から買ったんですけれど味はどうですか?」

 

不死川さんは少し考えた後、照れくさそうに口を開いた。

 

「…うめェ」

 

「よかった!村田さんが紹介してくれたお店なんですけど、みたらし団子と栗羊羹が美味しいと評判らしくて。他のはどうかなと思ったんです」

 

「村田ってあの雨の日山にいた奴かァ?」

 

「そうです。村田さんとは同い歳で何度か任務も一緒になったんです。あ、不死川さんとも同じ歳ですね。あとは…伊黒さんと冨岡さんも同い歳らしいですよ」

 

「へェ…」

 

不死川さんは、どうでもよさそうな返答だった。

 

あ、そうだ。

せっかくだから令和に話しかけて貰わなきゃ。

 

「ちょっと聞きたいんですけれど、不死川さんの鴉って話しかけると喋りますか?」

 

「何だァその質問。当たり前だろうがァ」

 

彼は怪訝な顔でこちらに目を向ける。

 

「任務の伝令以外にですよ?例えば岩柱様ってどんな人?わかる?とか聞いたら答えます?」

 

「鴉とそんな雑談したことねェんだが、つーかんなこと気にしたこともねェなァ」

 

「んー、じゃあ私の鴉に話しかけてみて下さいよ。任務伝令以外は話しかけても全く反応がないんです。八年も一緒にいるのにおかしくないですか!令和ー?令和ー?いたいた、ちょっと来て」

 

庭の枝に止まっていた令和を呼びどうぞ、と手を向ける。

 

「…おい令和、主の名前と俺の名前は?」

 

「蓬萊斗和、芋娘ッ!不死川実弥、風柱!」

 

えー!!喋った、返答した!

私は令和がすらすらと答えたことに、そりゃあもう驚いた。

 

「こりゃたまげた!なしておらが聞くと答えねんだ?芋娘って言わねえでけろ!笑われるでねえが…(えー驚いた!何で私が聞くと答えないの?芋娘って言わないでよ!笑われるじゃないの…)」

 

令和の傍に行きしゃがんで文句を言うと、ふいっと顔を背けられた。

 

私がいくら話し掛けても答えないのに、不死川さんには一発で即答するなんて随分な差ではないか。

このっこのっと羽根を人差し指で軽く突くと、うざったそうに飛んでまた木の枝に止まった。

 

まったくもう、と振り返ると不死川さんが後ろを向いて背中を震わせている。

 

えっ…?まさか笑ってるの?

 

そっと縁側に手を付き、肩を震わせる彼を覗き込んだ。

腕で目元を隠しているから見えないが、口は明らかに笑っている。

 

あの不死川さんが笑っている…しかも相当に。

 

ドクンドクンと急に胸が高鳴る。

 

どんな顔をして笑うの?

 

笑っている顔を見たいと、四つん這いで真横から凝視してしまう。

すると動きが止まり、下を向いていた不死川さんが顔を上げこちらを見た。

 

「!」

 

「!」

 

至近距離で目が合った。

目を見開いた彼の顔があまりに近すぎる。

するといきなり立ち上がろうとした不死川さんに驚き、体が崩れ倒れ込んだ。

 

「きゃあっ!」

 

ひっくり返ると思ったその瞬間、右腕を掴まれ背中を支えられ抱き留められた。

 

ドクン ドクン

 

さっきから鼓動がうるさい。

自分の心臓の音なのか、彼の心臓の音なのか分からないくらい入り乱れている。

 

掴まれた腕がゆっくり引き寄せられ、背中の手が肩にまわる。

 

「斗和…」

 

「!…」

 

初めて斗和と名を呼ばれ、胸の奥がキュッと鳴いた。

名前を紡ぐ声があまりにも柔らかで優しい。

 

不死川さんに熱の籠もった目で見つめられ、顔が近付いてくる。

私は何も考えられなくなり、そっと目を瞑った。

口唇に柔らかな感触と共に、熱い吐息が重なる。

 

ああ…なんて心地良いの…

 

私の手首を掴んでいた彼の手がゆっくりと上に移動し、互いを求めるかのように指と指が絡まり合う。

不死川さんは舌を割り入れ、私の口内を侵食する。

戸惑いながらもそれに応えると、彼は更に深く貪る。

 

「っ、は…」

 

 

どうしようもなく苦しくて

 

どうしようもなく胸が高鳴り 

 

どうしようもなくときめいている

 

 

今ならまだ間に合う?

 

気持ちに蓋をする?

 

できない

 

できるはずがない

 

こんなにも心が、体が、彼を好きだと訴えているのに。

 

 

口唇が離れた瞬間、私は逃げるように風柱邸を後にした。

 

 

 

 

 

 

涙が溢れ止まらなかった。

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