彼らの姿
鴉の令和の羽音で、斗和は顎から滴る汗を手の甲で拭った。
本部に文を届けさせたのは数刻前だ。
戻って来た令和は、足に文を携えていた。
時は少し遡り二十一歳になる前、斗和は耀哉に文を書いた。
以前伝えていた、これから起きる出来事。
それにどう関わるかは、自由にしていいと言われていた。
まずは炭治郎達が参加した最終選別に行く為に、今後の日程を聞いていたのだった。
最終選別は結構な頻度で行われており、斗和は書かれていた日程全てに赴き様子を見た。
だが今のところ彼等は現れていない。
斗和は数日前に誕生日を迎え、いよいよだと思った。
鬼殺隊九年目。
今回こそは彼等の姿を見られるのではと、早速文を読む。
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それから三日後。
斗和は普段使用しない日本刀形状の日輪刀を携え、白いひょっとこの面を着けて藤襲山の集合場所に向かった。
まだ誰もおらず、なるべく端で静かに待っていた。
すると現れたのは、なんと嘴平伊之助だった。
猪の被り物で一発で彼だと分かり、斗和は少し笑ってしまう。
伊之助は落ち着きがないので、山に入ってはすぐ戻ってを繰り返している。
(伊之助君は面白いな)
そうするうちに続々と人が集まって来た。
栗花落カナヲ、我妻善逸、不死川玄弥。
主要人物である彼等は、今はまだ顔見知りではない。
斗和は玄弥が気になり、さり気なく近付き様子を窺う。
まだ成長しきっていないが、やはり兄である実弥によく似ている。
そして狐の面を横に着けた少年が来た。
竈門炭治郎である。
耀哉の娘らの説明が終わり、いってらっしゃいませの言葉で皆一斉に山に入って行った。
斗和は一番最後まで待ち、全員が入ったのを見届ける。
これまで何度か訪れたが、怖じ気付き一人か二人は入れない者がいた。
十三歳で最終選別を受けた斗和は、実際に鬼を見るまでは怖いとは思わなかった。
いざ目撃すると大声で騒いたが、とにかく頸を斬らなければ喰われる。
そこからは死ぬ気で挑んだ。
どうにか七日後の朝を迎えた時は、ボロボロだった。
斗和は懐かしいと思い、藤の花を見つめる。
七日後の朝、斗和は再び訪れなくてはならない。
その時に耀哉の娘は、玄弥から殴られ髪を鷲掴みにされてしまう。
斗和は、どうにか回避できないものか考える。
そこで閃いた。
(あ!お面だ!)
ひょっとこの面を付ければ、髪を掴まれても殴られはしないのではと思ったのだ。
「すいません、お待ち下さい!」
早速斗和は、帰ろうとしている娘達に声を掛ける。
因みに二人には、二度目に待っていた時に即ばれた。
斗和は本部で一般隊服を着ていた。
娘達に会ったのは本部でだけだ。
野良着隊服で面を着けていれば、何度来ようがばれはしないと思っていた。
しかし生き残れば隊士になるわけで、毎回最終選別に参加していたらおかしいのだ。
更に同じ面、同じ野良着なのだから明らかに怪しい。
斗和はそれを、娘達から声を掛けられた時に言われて気付いたのだった。
「お面ですぐ分かりました」と言われ、斗和は苦笑いするしかなかった。
「はい?」
「どうされました?」
「はい、あの…あ!」
斗和はそこでハッとした。
娘が誰なのか分からない。
耀哉の子は五人いて、黒髪の男児・輝利哉だけしか認識していないのだ。
あとの四人は皆同じ髪型で同じ顔なので、斗和は全く分からなかった。
(えっと…ひなき様とにちか様は姉で、かなた様とくいな様は妹のはず…)
四分の一の確率である。
間違ったらかなり失礼だが、斗和は考えても分からなかった。
(やばいやばい!見られてるよ…こうなったら、カナヲさんがいたから似てる名前のかなた様にしよう)
「蓬萊様、具合でも悪いのですか?」
「いえ大丈夫です!…あの、かなた様…?七日後はこの面を着けるといいかもしれません」
斗和は、おずおずとひょっとこの面を娘に差し出した。
すると二人は顔を見合わせる。
「それは蓬萊様の物です。いただくわけには参りません。では」
「えっ、あっちょっと…」
二人はさっさと行ってしまう。
娘は"かなた"と言われ否定しなかった。
どうやら合っていたようで、斗和は胸を撫で下ろす。
面は断られたが、斗和はよく考えたら七日後も使うことに気付いた。
玄弥に声を掛ける時に面は必要である。
やはり渡さなくてよかった、断られてよかったとほっとする斗和であった。
斗和が主要人物に顔を見られたくない理由は、この先を考えてだ。
怪しまれずに行動しなくてはならない。
斗和は、変えることによる反動を危惧していた。
どんなものにも表と裏がある。
表で死ぬはずの人物を救えば、裏で同等の何かが起こる可能性があるのだ。
他の柱を動かせば、本来救えていた命が救えなかったというのが必ず出てくる。
だからこそ、本来は存在しなかった斗和だけが動く。
それが最善であると考え、耀哉にも伝えた。
斗和は、思い立ったら即行動に移すことが多い。
故にこれまで失敗することも多々あった。
だがこの先は慎重に動かねば、急いては事を仕損じる。
七日後の早朝また来ることにし、斗和は山を降りた。