それから七日間、斗和は任務と鍛錬とを繰り返す日々だった。
本格的に近付くその日の為、一刻たりとも無駄にできない。
ひたすらに鍛え極限まで強くならねばと、斗和はそれだけに固執していた。
そして体を動かしていれば、余計なことは考えずにすむ。
今の斗和には丁度良かったのだ。
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そして七日後。
斗和は警備区域の見廻りを終え、藤襲山へ走った。
今回最終選別に赴いた目的は、炭治郎たちを実際に確認することである。
そして斗和には、どうしても接触したい人物がいた。
不死川玄弥だ。
玄弥のことは気掛かりだった。
この最終選別に来るまでの経緯を知りたかった。
玄弥の過去は当然ながら知っている。
この先、斗和が何もせずとも、玄弥は決戦まで生き抜く。
だが、それでもどうにか関われないか、力になれないかと考えていた。
選別後はどこで暮らし、任務をこなしていたのか。
どのような経緯で、岩柱・悲鳴嶼行冥の弟子になったのか。
知りたいことはたくさんある。
解散した後だと困るので、見廻りも早く切り上げたせいかまたもや誰もいなかった。
と言うよりまだ夜が明けていない。
斗和は、見つからないよう木の陰に隠れ時を待った。
腹が減ったので、携帯している握り飯を一つ食べた。
(うーん…早すぎたかな?)
斗和はやはり早すぎたかと思っていると、一人転げるように集合場所に戻って来た。
伊之助である。
すると周りを見た後、さっさといなくなってしまう。
説明も聞いていないのに帰っていいのか。
引き止めた方がいいのかと考える。
そこで斗和は、あることを思い出した。
伊之助が隊士になった経緯は特殊だった。
山で暮らしていると隊士が来て、刀を奪いそこから伊之助の道は拓けた。
そして結局、伊之助は戻らなかった。
鴉や隊服はいつ支給されたのか、不思議である。
そのうち朝日も顔を覗かせ、輝利哉とかなたも現れた。
すると善逸、玄弥、炭治郎、カナヲの四人が戻って来た。
カナヲは着物も大して汚れておらず、一週間も山にいたとは思えない程に小綺麗だ。
斗和はそれを見て自らの過去を思い出す。
転んだり鬼の爪で裂かれたりで、三日後には野良着がボロ雑巾のようになった。
同じ女でこうも違うのかと、苦笑いするしかない。
(あ、あー…やっぱり殴ったか…)
そしてやはり、玄弥はかなたを殴った。
この喧嘩っ早いのは、兄譲りなのかもしれない。
実弥も杏寿郎に殴りかかっていた。
だが、本来の不死川兄弟は心優しいというのも斗和は知っている。
解散となるのを見届けた斗和は、帰って行く玄弥の後を追う。
「あの!そこのあなた!」
斗和が呼び止めると、玄弥は振り返り鋭く睨む。
面を着けているせいで、不審に思っている可能性がある。
実際玄弥は当然の反応をした。
「誰だよてめーは!ふざけた面着けやがって、何か用か!?」
玄弥は大分苛立っており、右腕を押さえていた。
おそらく先程、炭治郎に腕を折られたのだ。
「その腕、折れているようです。応急処置しかできませんが、腕を見せて貰えますか?それから、お腹が減っていたらこのお握りを食べて下さい」
斗和は握り飯の包みを差し出すが、玄弥は受け取ろうとしない。
怪訝な顔を色濃くし、益々睨みつけてきた。
「私は鬼殺隊の元柱です。理由があって一般隊士に戻りましたが、柱の方々とは面識があります。…あなたに似ている柱を知っているんです。もしかしたら親類かと思い声を掛けました」
斗和がそう言うと、玄弥はみるみる表情が変化する。
「元柱?…なら兄ちゃん、不死川実弥を知ってるか!?」
「…はい、風柱様ですね。存じております。もしかして弟様でしょうか?よく似ていらっしゃいます。…少し座りましょうか」
玄弥は斗和の言葉に素直に従った。
道から外れ、木の下に並んで座る。
斗和は手頃な太い枝を見つけ、玄弥の右腕に添えて手拭いで縛り固定した。
あくまでも応急処置だ。
その後水筒の水で濡らした手拭いで左手を拭いてやり、握り飯の包みを解き玄弥の左手に一つ乗せる。
玄弥は意外にも嫌がらず、黙っていた。
「このお握りは、あなたのお兄様が美味しいと言って下さったものです。食べて下さい」
「………」
玄弥は、握り飯を恐る恐る口に入れ咀嚼する。
すると勢いよく食べ始めた。
斗和が水筒を差し出せば受け取り、喉を鳴らして飲んだ。
斗和はそれを見てそっと微笑む。
「…うまかった。…ありがとう」
「どういたしまして」
玄弥は恥ずかしいのか、小さな声で礼を言う。
兄の実弥もだが、不死川兄弟は常識人だ。
思春期の照れや恥ずかしさで分かり難いが、きちんと礼は言うし元来優しい。
母親に似たのだと斗和は思った。
「なあ、兄ちゃんに会うにはどうしたらいい?」
玄弥は、ぽつりと口に出した。
(やはり聞いてくるか)
この質問は斗和が予想していたことだ。
玄弥が鬼殺隊に入った理由を考えれば、すぐに分かる。
「隊士はおいそれと柱には会えません。柱は多忙を極めていますから、柱同士でさえたまにある会議でしか会わないんです」
「じゃあ柱になれば会えるのか!?」
玄弥は身を乗り出し、興奮しているのが見て取れる。
「まあそうですね。ですが柱になるには階級が一番上の甲であり、鬼を五十体以上倒すか十二鬼月を倒さなくてはなりません。…道は険しいですよ?」
「それでも俺は、兄ちゃんに会わなきゃならない。どうしても会って…!」
その表情と声から、玄弥の必死さが伝わってきた。
玄弥は呼吸が使えない。
それでも早く柱になり、実弥と会って話しをしたい…その一心で鬼喰いをしてしまう。
玄弥のこの能力により、上弦ノ肆・半天狗を倒すことができる。
そして無限城で上弦ノ壱を倒すことができる。
それは斗和も理解している。
(だけど…!)
玄弥には鬼殺隊を辞め、平和に暮らして欲しいのだ。
それは実弥が願っていることだ。
斗和も同じくそう思っており、和解して欲しかった。
だがそれは玄弥が納得しない。
兄・実弥に幸せになって貰いたい気持ちが強いから、ここにいるのだ。
お互いを想っているからこそなのは、痛い程分かっていた。
どうするのが最善なのか、斗和はずっと考えた。
だが答えは出なかった。
「何か事情がおありのようですね…。私は風柱様にはたくさんお世話になりました。もう柱ではないから会うこともないですが、あなたは必ず会って目的を果たして下さいね。…お名前を聞いてもいいですか?私は蓬萊斗和です」
「…不死川玄弥。なあ、元柱なら強いんだろ?俺に教えてくれよ!早く強くなって柱になりたいんだ!」
玄弥の必死な表情が、数年前に継子志願に来た佳成とだぶる。
理由は違えど、強くなりたいと教えを請う姿は同じだ。
斗和は、手を差し伸べたいというのが本音だった。
しかし、それはできなかった。
「それはできません、申し訳ございません」
そう告げ、斗和は去った。