※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

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久しぶりの煉獄家

【拝啓 煉獄槇寿郎様】

 

 

いつぞやは河原で大変失礼しました。

そしてこれまでの数々の無礼な振る舞い、申し訳ございません。

ですが後悔はしていません。

こちらにお邪魔するのはこれで最後です。

どうかお身体を御自愛下さい。

 

      

      【蓬萊斗和】

 

 

 

 

斗和は、槇寿郎への文を懐に入れた。

 

これから久方ぶりに、煉獄家へ手合わせに行くところだ。

 

河原で槇寿郎に説教をしてから、その後一度も煉獄家には行っていない。

自分には二度と会うなと、槇寿郎が息子達に告げているかもしれないと思っていたからだ。

そう考えると手合わせの文も出せずにいた。

 

その後、霞柱が加入した柱合会議で杏寿郎に会った。

自分に対する態度が変わらないことから、この悩みは杞憂に終わった。

杏寿郎のことだから、そう告げられても態度を変えないのかもしれない。

どちらにせよ最後に一度手合わせし、来たるべき時に備えたいと思った。

 

共闘とは思っていない。

上弦ノ参を倒せるとも思っていない。

 

ただ、生きて欲しい。

 

斗和の願いはそれだけだ。

杏寿郎が生きてまた剣を振るうことができるなら、斗和は自身がどうなってもよかった。

 

 

 

 

───────

──────

煉獄家に行く前に、村田に教えて貰った甘味屋に寄る。

 

斗和は、食材の買い物以外で町へ出掛けることは殆どない。

故に店を知らない。

甘味屋も様々あるが、初めて村田と会った店にばかり行っていた。

種類も多く、どれも美味というのが理由だ。

 

芋羊羹を多めに購入した。

また"わっしょい"が聞けるかと思うと、斗和は自然と顔がほころぶ。

 

 

 

──────

─────

煉獄家に着くと、斗和は門を見上げる。

 

(きっとこの門をくぐるのもこれで最後かな)

 

何度さつまいもを運んだのか、いろいろと懐かしいと思いを馳せる。

すると、千寿郎が箒を携え出てきた。

 

「蓬萊さん!こんにちは、お久しぶりですね。兄上は庭におりますよ。今日は少し風が強いので掃くのは二度目です」

 

「こんにちは、お邪魔します。これ芋羊羹です。以前と違って手作りではないのですが、お茶請けにどうぞ」

 

斗和は持参した芋羊羹を差し出すと、「兄上が喜びます!」と笑顔になる千寿郎。

 

(この笑顔は守らなきゃ…!悲しみの泣き顔にしないように!)

 

門を潜ると、強い風が吹いた。

 

 

 

 

◇

「蓬萊殿、よく来た!手合わせも久方ぶりだな。昨年あたりから随分と忙しくなって、会議でしか会えなかったが息災で何よりだ」

 

「はい、煉獄さんも!私、煉獄さんに会うと元気が出るんです。頑張ろうってやる気が湧き上がります!今日もとことんよろしくお願いしますね!」

 

 

 

互いに木刀を構えると、すぐに打ち合う音が響く。

 

杏寿郎、義勇、実弥。

斗和は柱の中でこの三人と手合わせしてきた。

柱の打撃と速さは、一般隊士とは比べ物にならない。

そして皆、余裕がある。

 

実弥はとにかく容赦ない打ち込みが特徴だ。

手加減は一切しない。

義勇とは一度だけだが、表情を変えないのでかなりやり難かった。

杏寿郎はどこを見ているか分からない目だが、的確な打ち込みだ。

 

(煉獄さんて太刀筋が指導に向いてるよね。しっかりと見えるからお手本みたい…)

 

打ち合いが単調になってきたと感じた矢先、空気が変化する。

 

─炎の呼吸 参ノ型 気炎万象(きえんばんしょう)

 

 

杏寿郎が、上から下へと弧を描くように木刀を振るい、技を撃った。

 

 

─土の呼吸 㭭ノ型 土嚢城壁(どのうじょうへき)

 

斗和は一瞬判断が遅れたが、即座に防御技である土嚢城壁で防ぐ。

 

ぎりぎりだった。

斗和は杏寿郎の撃った型を知らない。

炎の呼吸は不知火、昇り炎天、盛炎のうねり、炎虎、奥義の煉獄。

斗和はこの五つしか知らなかった。

 

玖ノ型まで全て撃てるのは分かるが、目の前で放たれると驚くしかない。

 

「蓬萊殿!手合わせ中に考え事はよくないな!」

 

杏寿郎が目の前に乗り出してくる。

やはり集中していないのはばれるようだ。

 

「すみません!もう一度仕切り直しでお願いします!」

 

慌てて詫びた斗和は、再度木刀を構えた。

 

 

 

 

◇

しばらくして、斗和は最後には体術まで駆使し、杏寿郎の膝を地面に着かせた。

体術というのは、実際は鬼相手には無力である。

だがいざという時、使えるに越したことはない。

 

「蓬萊殿は体術もできるのだな!正直女の打撃ではないぞ!いつぞや不死川に殴られたことを思い出した。かなり力が強いな!」

 

笑う杏寿郎に、斗和は複雑な気持ちになる。

男並の力は褒め言葉として受け取るも、実弥に殴られたことを思い出すとはどういう意味なのか。

 

「ありがとうございました!やっぱり煉獄さんとの手合わせは身が引き締まります!何度でも立ち向かうぞって思います」

 

汗を拭き呼吸を整える。

 

「不死川との手合わせはどうなんだ?よくしているそうじゃないか!」

 

斗和は驚き、固まってしまう。

なぜそれを杏寿郎が知っているのか。

 

「…不死川さんとは…私が不甲斐ないから成り行きでしているだけで、よくという程ではないですよ。殆ど負けていますし…」

 

斗和は実弥の名を出し、胸がキュッと締め付けられた。

 

それにしてもと、訝しむ。

実弥も杏寿郎との手合わせを知っており、杏寿郎も実弥との手合わせを知っている。

いつぞやは行冥までもが、実弥との手合わせを知っていた。

 

(もしかして、柱に稽古だ手合わせだと頻繁に頼むのって私だけなのかな?)

 

「…そうなのか?」

 

杏寿郎にしては珍しく、幾分か間を置き反応した。

斗和を見ていて何かに気付いたのか、僅かに目を細める。

 

「不死川から聞いた時は、二人は親しい仲なのかと思ったが…」

 

「まさか!そんなわけ…」

 

咄嗟に否定するも、斗和は胸の奥が痛い。

うまく笑えているか、それだけが気掛かりだった。

俯きそうになるのを堪えてはいるが、苦しかった。

杏寿郎からそのようなことを言われるなど、思ってもみなかったからだ。

 

「二人とも休憩なさって下さい。冷たい水と茶を用意しました」

 

そこへ千寿郎が盆を持ち縁側に現れる。

斗和は縁側に腰掛け水を飲むと、喉がみるみる潤う。

 

「そういえば、蓬萊さんは柱を退いたそうですね…?兄上から聞きました」

 

千寿郎が控えめに口を開いた。

 

「お館様から聞いた時は驚いたぞ!よもや九人揃うまでと決めていたとは思わなんだ。実力も申し分ないというのに!」

 

「いえそんな、私はこの通りいつまでも未熟者ですよ。あの時は柱も少なくて、私で役に立つならと受けはしました。ですがやはり、私は一般隊士が性に合っています」

 

「蓬萊殿は謙遜ばかりだな!もっと自信を持つべきだ!君は強いのだから」

 

杏寿郎が真っ直ぐ斗和を見つめる。

その眼差しには、これまでとは違う別の感情が含まれていた。

 

斗和は自分を見つめる杏寿郎を見て、右手を握り締める。

考えないようにしていた不安が押し寄せる。

 

(私はこの笑顔を…この人の命を守れるの…?ちっぽけな女の私が尊いこの人を…)

 

斗和はじわっと涙が滲む。

 

「兄上、これは蓬萊さんからいただいた芋羊羹です。蓬萊さんもどうぞ」

 

「…あ、ありがとうございます」

 

千寿郎に芋羊羹を渡され、斗和は誤魔化すように口を付ける。

以前は、畑を管理していた夏世が作った物を持参した。

あの時は畑で穫れたさつまいもを使い、斗和も一緒に作ったのだった。

今日のは甘味屋のものだ。

 

「うまい!わっしょい!」

 

(あ、聞けた!だめだ笑ってしまう)

 

斗和は堪えきれず、ふふっと笑った。

 

「む、そんなに面白いか?」

 

「面白いですよ!煉獄さんがわっしょいと言うと、なんだかお祭りみたいで…」

 

千寿郎は「僕はもう慣れました」と言いながら笑う。

 

「煉獄さんは本当にさつまいもが大好きなんですね。こうやって加工して食べられるっていいですよね。そういえば昔の話しなんですが、私は東北の田舎から東京まで歩いて来たんです。その時に、家の畑からさつまいもを掘りたくさん持って来ました。何日ももたせるために、ずっと生のまま囓っていたんですよ」

 

あれは忘れられないな、と苦笑いする斗和はまた一口芋羊羹を頬張る。

すると視線を感じ二人を見れば、煉獄兄弟は信じられないと驚愕して固まっていた。

 

(しまった!こんな話しをしたら誰でも驚くよ…!)

 

斗和は言わなきゃよかったと後悔するも、時すでに遅し。

煉獄兄弟はただでさえ大きな双眸を、更に見開いている。

 

「なんと!東北から歩いて東京まで来たのか!?しかも芋を生で食べるとは、蓬萊殿は相当に逞しいな!よもやよもやだ!」

 

「かなり大変だったでしょうね…想像がつきません!僕はできるでしょうか…」

 

二人は同じ顔、同じ表情をして斗和を凝視している。

 

「私、十二歳で奉公に出されたんです。実家は農村の外れでしたし、駅なんて近くになくて。それに汽車代も足りなかったので、結局殆ど歩きま

した。いろいろあり鬼殺隊に入りましたが、さつまいもを生で食べていたのは懐かしい思い出です」

 

斗和が奉公に出されたというのは嘘だが、歩いたのもさつまいもを生齧りしたのも本当である。

今思えば、十二歳の小娘がよく東北から一人で歩いて来たものだ。

以前の記憶を戻し、どうしても杏寿郎を救いたい一心で歩いた。

鬼殺隊に入る為とはいえ、斗和は自分の行動力に驚くしかない。

 

その長年の目的を遂げる時が差し迫っていた。

 

「…あの、厠をお借りしてもいいですか?」

 

 

 

 

 

◇

斗和は話しを切り上げ、千寿郎に厠を案内して貰い戸を開け中に入る。

 

様子を窺い千寿郎の姿が見えなくなると、急いで厠を後にし槇寿郎の居室へと向かう。

 

足音を立てず素速く移動し、目的地に着くと懐から文を取り出し襖の隙間から中に入れた。

ストンと小さく音がしたので、中に入ったのは確実だ。

そしてまた素速く厠へと戻った。

 

 

気配に気付いた槇寿郎は、襖の下に落ちた文を拾いしばらく立ち尽くしていた。

 

斗和が厠へ行っている間、煉獄兄弟は今しがたの話しの続きをしていた。

 

「兄上、東北とは遥か北にありますよね?十二歳でそんなところから歩いて来るなど、蓬萊さんはすごいです」

 

「うむ。なかなかできることではない。さつまいもを囓り、飢えを凌いで長い距離を歩いて来たのだろう。蓬萊殿はなんとも気概のある強い女性だ…!決して強さに驕ることもなく、柱も退いた。受けた恩を忘れず、我が家に何年もさつまいもを届けてくれた」

 

「兄上は三年目ぐらいから楽しみになっていましたからね。蓬萊さん、俺に稽古をつけてくれた時……」

 

千寿郎は稽古の時に、斗和に抱き締められたことを思い出す。

よく頑張っている、尊敬すると言われた。

口に出せなかった気持ちを理解してくれたような、とても不思議でそして嬉しかった。

 

【私なんか炊事もまともに出来ず、鼻をほじっているような小娘でしたよ】

 

そのあとに斗和が言ったことは、とても面白かった。

思い出し笑ってしまうと、隣の杏寿郎が「どうした?」と覗きこんでくる。

 

その時、角を曲がり厠から斗和が戻ってきた。

千寿郎が笑っている姿を見て慌てる。

まさかあの話しをしてしまったのか、と。

 

「あー!だめです!鼻をほじる話しはだめですよ!」

 

「蓬萊さん!?僕は何も言ってません!今ご自分で言ってしまってますよ!」

 

「あー!!無し!今のは無しです!煉獄さん忘れて下さい!」

 

顔を真っ赤にした斗和が叫ぶ。

 

「鼻をほじるとは何だ?」

 

杏寿郎が首を傾げる。

 

穴があったら入りたいと、真っ赤な顔で嘆く斗和だった。

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