最後のつもりで行った煉獄家では、楽しいひとときを過ごすことができた。
槇寿郎が手紙を読もうが変化がなかろうが、斗和がやれることは全てやった。
あとは本人次第だ。
帰宅後、斗和は夕刻からの任務までの間自室に籠もった。
まずは耀哉に文を書く。
斗和は先が分かっていても、それらが起こる明確な日にちまでは分からない。
杏寿郎、炭治郎、善逸、伊之助、禰 豆子が無限列車へ乗り込む日を教えて貰う必要があった。
炭治郎が入隊してから無限列車まで、どのくらい期間があるのかも気になるところだった。
三人組はもう既に合流したのだろうか?
斗和の記憶では、鼓屋敷の任務から那田蜘蛛山の任務は割とすぐだった。
その後に柱合裁判と会議がある。
炭治郎は正式にここで義勇を含む柱の存在と、杏寿郎を知る。
初対面での杏寿郎は、隊士として至極当然のことを言っていた。
実弥の行動と耀哉の意向により、一定以上の反論はしなかったが納得いっていない。
そこから無限列車の任務を経て、杏寿郎の考えは変わる。
斗和はそこまで考え我に返る。
最近は考え込むことが増えた。
とにかく確実な日にちが不明では何もできない。
無限列車の任務を杏寿郎に頼むのは、耀哉である。
その耀哉からの文だけが頼りなのだ。
斗和は幾度も計画を練った。
様々何通りも考えた結論はこうだ。
無限列車には乗客を装い乗り込み、猗窩座が現れるまで車両内で待機する。
炭治郎達が魘夢を倒すまでは、一切何もしない。
杏寿郎にばれないよう、車両は善逸と禰 豆子が来る前方三両のどれかに留まる。
斗和は実際のところ、無限列車の細部の記憶が曖昧だ。
彼等は知っているのと同じ行動をするのかどうか、それも分からない。
魘夢を倒せば猗窩座は間違いなくやって来る。
ここが肝心なのだ。
だが、後輩が必死で戦っているのに何もしないのはどうなのか。
斗和はそれも考えた。
しかしとにかく一に杏寿郎、二に杏寿郎なので、そこは四人に頑張って貰うしかないと結論付けた。
斗和には、猗窩座と対峙する為に万全の状態で臨む必要があるからだ。
本当は斗和の他にも柱を投入すべきだが、それをしない理由は反動を恐れているからだった。
変えることによる反動、もしかしたらその日違う柱が死ぬ可能性もある。
それでは元も子もない。
柱は動かさず、決まっていた任務へ行かせるのが最善だと判断した。
斗和が柱を退いた理由は、実はこれが大きい。
規定の九人の定員を変えない。
柱でない一般隊士が動く。
更には元は存在しない斗和が動くことで、反動を極力無くそうと考えたのだ。
耀哉にも伝えてあり、だからこそ斗和に命運がかかっていると言ってもいい。
反動があるかないかは、終わってみないと分からない。
だが、不安要素を極力減らすことはできる。
斗和は書いた文を鴉の令和に頼み、本部へ届けさせた。
そしてもう一枚紙を用意する。
次は育手の師に文を書くのだ。
実は斗和は、毎年一度は必ず育手に文を書いていた。
鬼殺隊に入り目まぐるしい日々を送る中、師への文は本音を吐き出せる唯一の場所だった。
当然ながら、斗和の持っている記憶を話したわけではない。
ただ出来事を書いているだけだが、それでも誰かに聞いて貰えるのは嬉しかった。
返事も寄越すので、豪快な師が文机に座る姿が想像できず斗和は毎回笑っていた。
【拝啓 師匠
元気ですか?
私は二十一歳になりました。
師匠は何歳になったのでしたか?
何歳になろうが元からおじさんでしたね。
前回、柱を退き一般隊士に戻ったことは伝えましたよね。
警備や任務は、そのまま柱同様のものに赴いています。
これまで死にかけることなく何とか生きてきましたが、今後どうなるか分かりません。
こんなに不安な気持ちになるのは、鬼殺隊に入ってから初めてです。
だけど私は悔いなく生きているので、何があっても受け入れます。
それでは、体に気をつけてお過ごし下さい。
蓬萊斗和】
いきなり今後どうなるか分かりませんと書いたのはおかしいが、拭い去れない不安な気持ちが筆を動かしてしまった。
これを読み、師はどう思うのか。
斗和は普段、心配かけまいと弱音を吐くことはしなかった。
今回だけは大目に見て欲しい、そう思い筆を置く。
斗和は、書いた文をそっと折り畳み文机の引き出しに仕舞った。
育手への文は、無限列車に乗る直前に届けて貰うことにした。
何も書いていない紙はあと一枚ある。
斗和はもう一人、文を出そうか頭を掠めた人物がいた。
実弥だ。
思いがけず口付けをした時から、斗和は実弥への想いを封じた。
紙を前にしばらく悩むも、終ぞ筆を取らないまま任務へ向かった。