いざ列車へ
野良着隊服に着替え、頭に手拭いを巻く。
刀は柄まで隠れるように麻袋に入れ、斗和は家を出た。
耀哉から文の返事を貰い、無限列車に乗る日時が判明した。
ついにその日が来たのだ。
◇
町へ行き目的の駅に着けば、懐かしさが込み上げる。
今は亡き継子の佳成と、夫婦を装い任務に就いた時にも列車を使った。
着物で化粧をした姿で、実弥に駅を尋ねたこともあった。
その時と同じ場所、同じ駅だ。
脳内に記憶が鮮明に蘇る。
斗和はまず全集中の呼吸を意識的に止め、通常の呼吸にした。
列車に寄生する鬼・魘夢に、鬼殺隊だと気付かれないようにである。
斗和は切符を買い、前方に【無限】と書いた汽車を確認し乗り込む。
前方三両のどれかにいれば、杏寿郎は来ないはずだ。
斗和は万が一に備え、ひょっとこの面も持参していた。
いざとなればそれを着ければいいと思った。
乗り込み、乗客に杏寿郎がいないのを確認する。
席に着かず、左右を見ながら炭治郎達が来るか確認していると、ピピーッという笛の音がし騒がしくなった。
外を見れば、猪頭と黄色い頭と耳飾りの少年達が後方に走って行く。
(あ!炭治郎君たちだ!じゃあ煉獄さんも既に乗っているはず)
そうこうするうちに列車は動き出した。
斗和は二両目前端の窓際、周りに誰もいない席に着いた。
まずは腹拵えをしようと、持参した握り飯を食べる。
今頃杏寿郎も、大量の駅弁を食べているはずだ。
車掌はどちらから来るのだろうと、緊張にそわそわしながら待つ。
車掌が切符を切っていけば、皆が眠らされてしまう。
斗和は、眠ったらどうなるのだろうと考えた。
魘夢が見せるのは、その者が幸せだと思う夢だ。
自分は一体どんな夢を見るのかと思った。
この世界で記憶を戻した斗和がこれまで見た夢は、ここでの出来事ではない。
おそらく前世の記憶である。
幾度もみたぼんやりとした記憶。
それは幸せな夢なのだろうかと考えた。
必ず気分が悪くなり、頭痛を起こし目覚める。
いつも同じ場面、映画館の独特の証明。
白い紙、斗和を見据える嫌な目。
どう考えても、いい記憶ではないのは確かだ。
だとしたら、魘夢が見せる斗和にとって幸せな夢とは何なのか。
そこでふと脳裏をよぎるある人物の顔。
(…………)
この世界で一度たりとも見なかった、ここでの夢を見られるのだろうか。
まだ見ぬ幸せな夢を見ることができるのかもしれない。
斗和は、まやかしの幸せな夢でもみたいと一瞬思った。
すぐに一蹴するも、片隅には消えずに残る。
問題は、魘夢が斗和の存在に気付き、精神の核を破壊しに来るかどうかだ。
もし夢の最中に破壊されたら死を意味する。
斗和は一人離れた車両で、完全に全集中の呼吸を止めている状態だ。
おそらく気付かれないと踏んでいる。
今のところ、無限列車の出来事に大きく介入していないからだ。
歪みや反動が生じなければ、斗和が知っている通りに進むはずなのだ。
それは過去の自身の行動で分かっている。
斗和は、物語内で描写されていた人物の会話や行動に関与したことはない。
その場にいても、何もせず黙っていた。
それにより、これまでは物語と全く同じ流れになっていた。
(大丈夫…眠らされてるだけなら問題ない。列車の横転時に必ず目覚める…)
斗和は幾度も考えた結果、魘夢が倒されるまでは一切何もしないことにしたのだった。
しばし考えていると、後ろの車両の扉が開き車掌がやって来た。
斗和は一気に緊張が増し、切符を取り出す手が震える。
一人一人切符を切っていく音がする。
「切符を拝見致します…」
「お願いします」
パチン…
斗和の意識はそこで途絶えた。
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