「!?」
突如現れた斗和に、炭治郎は驚く。
猗窩座が空中で攻撃をしようとする時、それは放たれた。
─土の呼吸 玖ノ型
斗和が走りながら刀を振り上げると、空中に亀裂が入り猗窩座目掛けて伸びる。
杏寿郎に気を向けていた猗窩座は、突然のことに対処できず左腕が切断された。
(何だ!?)
「蓬萊殿!?」
攻撃を止め地上に下り立った猗窩座は、斗和を見てあかさまに不機嫌になる。
「女、戦いの邪魔をするな」
元通りになった腕をひねると、猗窩座は杏寿郎に目を向ける。
「とんだ邪魔が入った。杏寿郎、さあ続きをしよう」
猗窩座は斗和を無視すると、再び杏寿郎へ攻撃をし始める。
すかさず斗和は二人の間に割って入り、猗窩座の頸目掛けて刀を振る。
斗和の特殊日輪刀は、刃先が鍬のように曲がっている。
そこに鬼の頸を引っ掛け、抉り斬ることができる。
過去に何度もこうして頸を斬って来た。
斗和が猗窩座を捕らえれば、杏寿郎が頸を斬れる。
ガシッ!
猗窩座は当然のようにそれを両手で受け止めた。
白刃取りである。
「くっ!」
その時、杏寿郎が猗窩座へと迫り攻撃する。
猗窩座は斗和の刀を離し、杏寿郎の攻撃を避けた。
杏寿郎は逃さないと一気に間合いを詰め、更に攻撃する。
「この素晴らしい反応速度」
猗窩座が嬉しそうに笑う。
そこから二人は激しい戦いへと突入する。
炭治郎には目に追えず、ただ見ているしかできない。
いつの間にか伊之助も来ており、あまりに別格の戦いに呆然としていた。
二人は押して押されての攻防を繰り返す。
斗和は必死で今後の動きを思い出す。
(撃ち合いの最中に炭治郎君が動いて待機命令…そうだその後だ!)
「この素晴らしい剣技も失われていくのだ杏寿郎!悲しくはないのか!!」
猗窩座が叫ぶ。
「誰もがそうだ、人間なら!!当然のことだ」
杏寿郎が反論すると、炭治郎が動いた。
すかさず杏寿郎は叫ぶ。
「動くな!!傷が開いたら致命傷になるぞ!!待機命令!!」
炭治郎はビクッと動きが止まる。
激しい撃ち合いの最中でも、杏寿郎は周りに目を配っている。
「弱者に構うな杏寿郎!!全力を出せ、俺に集中しろ!!」
猗窩座の攻撃は更に激しくなる。
杏寿郎が技を撃つ体勢に入ろうとした時、斗和はその傍へ瞬時に向かう。
─炎の呼吸 伍ノ型 炎虎!!!
─土の呼吸 弍ノ型 土石流!!!
─破壊殺・乱式!!!
三つの技が同時にぶつかり合う。
斗和の撃った土石流は、上半身の全てを押し出す力にするので、威力が大きい。
右足をダン!と着き、盛大に刀を振るう。
杏寿郎の撃った炎虎を後押しするように、土の粒子が横一面に形成され、猗窩座へと襲いかかる。
大きな衝突が起き、噴煙が落ち着くと三人は姿を現す。
「ハァハァハァ…」
「………っ…」
斗和はすぐに左にいる杏寿郎に目を向けた。
「煉獄さん!」
杏寿郎は斗和に顔を向ける。
左目から血を流していた。
猗窩座の攻撃が当たったのだ。
斗和は体は無事なのかと確認する。
「目がっ…体は!?他は無事ですか!?」
「ああ。君も目の横が…!」
斗和は左目の横から血を流していた。
目には当たらなかったが、その傷は縦に深くパックリと割れていた。
血は左目に入り、視界を滲ませた。
「こんなのかすり傷です!」
「また邪魔が入った!女、杏寿郎との戦いに水を差すな…!」
猗窩座は胸に杏寿郎からの傷を、腹は斗和から深く抉られたが、何でもないというように元に戻っていく。
(土石流でも真っ二つにできなかった…)
炎虎に加え土石流を撃ったが、猗窩座の力は相当だ。
猗窩座は斗和を見て、怒りが湧き上がる。
その時、斗和の血が頬を伝い口に流れた。
それは口端から顎へと更に流れる。
「!」
それを見た猗窩座の脳裏に、一人の女の姿が浮かぶ。
ぐったりした体で、口の両端から血を流している。
(誰だ…!?何だ…!?)
猗窩座は激しく動揺した。
斗和の顔を見れば、またもや"あの顔"とだぶる。
ブチンと猗窩座の中で弾けた。
「女は邪魔だ…」
そして瞬時に斗和の目の前に迫り、構えていた日輪刀を掴んだ。
「蓬萊殿!」
「え」
「消えろ」
一瞬だった。
斗和は刀ごと猗窩座に投げ飛ばされ、林の中に消えた。
物凄い力で飛ばされ、斗和は木々に体をぶつけ落下した。
「うわっ!」
何が起きたのか分からない程だった。
まさか刀ごと体を投げ飛ばされるとは思わず、斗和は唖然としてしまった。
(早く戻らなきゃ!)
猗窩座は怒りに震えていた。
どうしてか女は殺せなかった。
女が血を流す姿を見ると、言いようのない感情が込み上げ制御できなくなる。
「杏寿郎、なぜ女を連れてきた?女は弱者で邪魔になるだけだ」
猗窩座は杏寿郎を強く見据える。
「蓬萊斗和は弱者ではない」
杏寿郎はきっぱり否定した。
猗窩座は目を見開き更に否定する。
「いいや。女は弱者だ。俺は強い男と戦いたい。杏寿郎、お前のような」
刀を構えた杏寿郎は、猗窩座へと突進した。
左目は完全に潰れている。
不利な状況下、それでも倒さなければならない。
─炎の呼吸 弍ノ型 昇り炎天
下から上へと炎を纏った刀が振るわれる。
だがそれは空を斬り、猗窩座はひょいっと簡単に避けてしまう。
─炎の呼吸 参ノ型 気炎万象!!
杏寿郎は次々技を繰り出す。
右目だけだが素速さは変わらない。
─炎の呼吸 壱ノ型 不知火!!
幾度も立ち昇る炎、素速い攻撃が猗窩座に迫る。
バシュッ!
猗窩座の手が杏寿郎の左肩を深く抉る。
鮮血が吹き出た。
「煉獄さん!!」
鮮血を見た炭治郎が叫ぶ。
隣にいた伊之助は、隙のない二人の速さについていけないと感じていた。
斗和は一瞬で投げ飛ばされた。
気付いたら二人しかいなかった。
それすら目で追えなかったのだ。
迂闊に間合いに入れば、死しかないのを肌で感じていた。
助太刀は足手まといにしかならず、できるわけがなかった。
「片目だけで変わらぬ速さはさすがだ。だが今度は左肩だ。…ああ血が地面に流れているぞ」
杏寿郎は左目、そして左肩を負傷している。
戦えば戦う程傷が増えるのは分かっていた。
「全て無駄なんだよ、杏寿郎。お前が俺に喰らわせた素晴らしい斬撃も、ほらこの通り完治した」
猗窩座はつまらないといった風に目を細めた。
「だがお前は左目は潰れ肩は抉られた。もう取り返しがつかない。戦えば戦う程お前は傷を増やす。次は足か肋か…どう足掻いても人間では鬼に勝てない」
猗窩座はニヤリと笑い、即座に構えた。
「もっと楽しませてくれ、杏寿郎」
─術式展開 破壊殺 乱式
─炎の呼吸 伍ノ型 炎虎!!
猗窩座は再び同じ技を撃つ。
杏寿郎は炎虎で対抗するしかなかった。
だが左肩の負傷により、先程と同じ威力では撃てない。
どう考えても不利であった。
そこへ、林から全速力で斗和が向かって来る。