初任務から半年経過し、願いが聞き届けられたのか斗和は単独任務だけが与えられていた。
日帰りできることもあれば、数日かかることもある多様な鬼退治。
藤の家に世話になることもあった。
斗和は幸いまだ大きな怪我もしていないが、いつどうなるかわからない身だ。
鍛錬を怠らず、日々精進あるのみ。
隊士専用の鍛錬場にも何回か足を運んでいた。
常に十人程いて、各々木刀を振るっている。
斗和は普段は野良着隊服だが、この鍛錬場では一般的な隊服を着て木刀を使っていた。
その方が目立たないからだ。
そうして一人で鍛錬するうち、何人かに声をかけられ手合わせをしたりした。
強くなりたい、その一心で鍛錬に明け暮れた。
一方で土の呼吸が未だ肆ノ型までしかできておらず、焦りも感じていた。
この先強い鬼と戦う上で、呼吸の型は必要不可欠である。
だが斗和は、半年経っても新しい技を生み出せないままだった。
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地方程ではないが、東京も冷え込みが厳しくなってきた頃。
斗和は首に襟巻きをし、目的地へと赴いた。
入隊し早七ヶ月が過ぎた。
斗和はこれまで単独任務だけだったが、この日は初めて共同任務を言い渡された。
昔の関所があった場所で、そこまで行くには山を一つ超えねばならない。
もう一人は前の任務から直接向かうことになっており、現地集合する。
斗和は初めて誰かと共闘する緊張と不安で、眠れなかった。
そして土の呼吸も肆ノ型までしかできておらず、焦りを感じていた。
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うっすら雪をかぶった山を一つ超えると、谷合に朽ち果てた関所が見えた。
日暮れ間近、急いで山を駆け上がりよかったと安堵する。
斗和はそこに立つ、一人の男の隊士に走って声をかけた。
男は斗和と同い年で、階級も同じ
あちらも緊張しているのが見て取れる。
互いに挨拶し、鬼の情報を確認する。
二手に別れ付近を見廻ることにした。
ここは元・関所ということもあり、今も人の往来がある場所だ。
しかし、二週間前からここを通る筈の人が何人も消えているとのことだった。
暗くなった辺りは、おどろおどろしい雰囲気である。
その時うわあ!という悲鳴がし、斗和は走る。
声の方向へ一目散に走ると、男が足を抱え蹲る姿が見えた。
斗和がどうしたのか聞くと、突然ふくらはぎを斬られたのだと言う。
音もなく、いつの間にか斬り裂かれたと。
斗和はよくよく耳を澄ますと、風を斬る音がする。
その瞬間、鬼の気配がし男を抱えて横に転がった。
(いる…!)
咄嗟に振った日輪刀が、ヒュッと空を斬る。
「ああ遅いのう。人間は笑える程にのろまだのう。のろのろと歩くということは、儂に喰われてくれと言ってるようなものだ」
しわがれた爺の声だった。
しかし、その姿が全く見えない。
高速で移動しているのだろう、ザッザッと体が草木に当たる音だけがする。
(姿を捉えられない…!どうする!?)
斗和は必死に辺りを見回すも、鬼が見えない。
「儂がお前らの首を斬ってやろう」
いきなり目の前で声がし、咄嗟に刀を首を守るように立てる。
そして頭を低くしようとしたが、間に合わなかった。
顔面に痛みが走り、斗和は目を瞑った。
「ああ儂としたことが!首はもう少し下だったのう」
口内に鉄の味が広がり、ペッと吐き出した。
斬られた断面から血が流れているのが分かった。
斗和は自らの顔がどうなったか、すぐに理解する。
(目の下が、顔が焼けるように熱くて痛い…)
後方から自分を呼ぶ声がし、斗和は振り返る。
ドクンと心臓の鼓動がやけに大きく聞こえた。
(速すぎる…倒せない!奴の動きを捉えなければ勝機はない…)
焦りだけが支配していく。
闇雲に刀を振り下ろしても、空しく宙を斬るだけだった。
いつの間にか左腕も斬られており、野良着隊服に血が滲む。
「のろまだなんだと、老人を邪険にする若い者を嬲り殺すのは楽しいのう。ほれ見い、のろまはお前のほうじゃ」
鬼はヒョッヒョッと笑うが、相変わらず姿が見えない。
この鬼は、人間だった頃に若者に馬鹿にされていたと思われる。
それを今も酷く恨み、鬼になったら異常に速く動けるようになったのかもしれない。
斗和はふとそう思ったが、鬼になれば人間の記憶は消えるはずだと訝しむ。
怨みが強いと稀に残っている者もいるんだな、と思った。
そんなことを考えているうち、鬼の気配が後方に廻った。
(まずい!彼がやられる!間に合って…!)
斗和は、気配を頼りに念じるように日輪刀を鬼に振り下ろした。
すると、鬼の背中に刀が刺さる。
(捉えた!)
「早く逃げて!」
斗和の声に、男は弾かれたように四つん這いで離れる。
ゆっくりと振り返る鬼の姿をまじまじと見ると、背中と腰が曲がったガリガリに痩せた老鬼だった。
その人差し指の爪は鎌のようになっている。
斗和は我に返り、刀を構えた。
また動き出す前に頸を斬らなければならない。
自ら目掛けて伸びる鎌のような爪を切っ先で弾き、腕を斬り落とす。
細い腕だが、すぐに生えてくる為、たたみかけるように技を放つ。
柄を持ち替え、ぐっと力を込めた。
─土の呼吸 弐ノ型 土石流
真横に振り下ろした刀は、鬼の体を真っ二つにした。
上半身が斜め上空に吹っ飛び、地面に落下する前に頸を跳ねた。
(終わった…やっと倒した!)
斗和はしばし呆然としていると、ふいに名前を呼ばれた。
四つん這いでこちらに向かってくる男は、酷く顔を歪めている。
足の怪我は大丈夫かと駆け寄ると、男は斗和の顔を凝視し嘆く。
「そっちが大丈夫かよっ!?顔を斬られたんだぞ!?顔面血塗れにして、腕も怪我してるじゃねえか!女なのに…ごめん!俺っ…なんもできなくて、戦えなくて!蓬萊の顔に傷つけて…ごめんなあっ!!」
男は泣いて斗和に詫びた。
(何で謝るの?怪我は私が弱いから…それに、私だって両方のふくらはぎを斬られたら戦えないよ)
斗和は男に謝られ、居心地の悪さを感じた。
男の斬られたふくらはぎの方が心配だった。
手当てしたらまた歩けるだろうか、走れるだろうかと不安がよぎる。
頭に巻いていた手拭いで顔の血を拭き取り、それを男の足にきつく巻いていると隠が二人現れた。
隠に背負われた男は、心配そうに斗和を見ている。
大丈夫だから自分の心配をしてくれと言いながら、斗和は任務地を後にした。
その後斗和達は、近くの藤の家に行き手当てを受けた。
まずどうにか鬼を倒せてよかったと、顔は痛むが安堵し眠ったのだった。