その日の未明。
蝶屋敷を訪れた人物に、しのぶは声を掛けた。
杏寿郎と斗和、二人の部屋の前に静かに立つ男。
【殺】の字を背負う風柱・不死川実弥だ。
「…不死川さん?任務お疲れ様です。私の分までいろいろとご迷惑おかけしています。すみません」
二人が運ばれて以来、しのぶを含む三人の警備や任務は他の柱で手分けして行っている。
耀哉直々の命である。
しのぶは二人が快復するまでは、蝶屋敷からの外出もしないよう言われていた。
迅速な処置をする為だ。
他の柱に文は出したが、直接礼を言うのは実弥が初めてだった。
何も答えない実弥に、相変わらずだなと思い先を続ける。
「申し訳ないのですが、煉獄さんと蓬萊さんは面会謝絶です。目覚めるまで会えませんのでお帰り下さい」
「…状態は?」
振り返らずに聞く声は、普段の実弥の声とは違和感があった。
まるで本部で挨拶を述べる時のようである。
喧嘩っ早い姿がしのぶの脳内にあるせいか、今日は随分と落ち着いている印象だ。
「煉獄さんは重傷で予断を許さない状態です。左目は潰れ、左右の肋骨はすべてにひびが入り、左腕と右足は酷い打撲。他にも肩口やあちこちに深い裂傷と打撲があります。そして蓬萊さんは左目脇を裂傷、多数の軽い打撲。他は…無事です」
僅かに実弥の肩が揺れる。
しのぶは、斗和の心臓のことを口に出すのを躊躇いやめた。
「…邪魔したなァ」
しのぶの横を過ぎる実弥の表情は、薄暗くてよく見えない。
この時は、同じ柱である杏寿郎を見舞う為に来たのだと思っていた。
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それから更に五日が経った。
二人が快復するまではと、しのぶは耀哉より任務は免除され四六時中蝶屋敷にいる。
斗和が担っていた警備も含め、現在七人の柱に負担を掛けている状態だ。
多忙に輪を掛けた七人だが、それをおくびにも出さず、毎日誰かしら必ず見舞いに訪れていた。
だが二人は、変わらず目覚める気配がない。
目覚めるまでは、家族であろうと面会謝絶を貫くべきと判断した。
杏寿郎の父と弟も部屋の前で断っていた。
ずっと酒を飲み、引き籠もっていたという元炎柱・煉獄槇寿郎。
しのぶが見る限り、そうは思えない程にしっかりとしていたので驚いた。
やはり息子が生死を彷徨っていると聞けば、さすがに立ち直るのだなと思った。
会えなくても、それでも様子を聞きに来る彼らにしのぶは目頭が熱くなる。
杏寿郎は、処置の早さと輸血が功を奏してくれればと願っていた。
だがどこもかしこも酷い傷なのだ。
あとはもうとにかく祈るしかなかった。
そして斗和は、ひたすらに眠り続けている。
もしかしたら頰を叩けば、体を揺らせば起きるかもしれない。
そう思い様々試すも、全く目覚めなかった。
斗和はいつ診ようが、脈も心拍も乱れたままだ。
二度と正常には戻らない。
そのせいで目覚めないのかもしれない。
もしかしたらこのまま心臓が止まることも、可能性として考えられる。
(せっかく助かった命…二人とも早く目覚めて、お願い…!)
しのぶの祈る気持ちは日々強くなる。
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そして二人が蝶屋敷に運ばれ、ちょうど一週間経った正午過ぎだ。
様子を診に行ってからすぐのことだった。
部屋の換気をしに行ったアオイが、転がるようにしのぶを呼びに来た。
「しのぶ様ー!!大変です!炎柱が!早く来て下さい!!」
「!?」
行ってみれば、そこには右目をぼんやり開けた杏寿郎の姿があった。