目覚めた杏寿郎の細かな診察、快復までのあらゆる治療と看護が始まった。
しのぶは、文字通り付きっきりで杏寿郎の部屋にいた。
片時も目が離せない状態で、その間の他隊士の治療は、町医者を頼む程であった。
耀哉と柱には、すぐに報告の鴉を飛ばした。
だが状態が安定するまでは、引き続き面会謝絶を貫いた。
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更に一週間経ち、杏寿郎は驚異的と言える速度で快復していった。
それは目を見張るものがあり、しのぶは正直驚きを通り越している。
いくら柱とて生身の人間。
生死を彷徨えば、元に戻るまでは相当の時間を要する。
だが杏寿郎は、通常の何倍もの速さで快復しているのだ。
寝台で一人で起き上がり、隣の病室まで歩こうとしていたのを慌てて止めるまでになっていた。
あっという間に面会謝絶も解除し、家族や柱達も訪れ喜びに涙していた。
特に一緒に任務をした三人は、解除を告げたとたん慌ただしく来て大騒ぎし大泣きした。
三人はこの蝶屋敷に滞在しているが、その騒々しさから部屋を一番遠くにしている。
他の隊士や隠達も、病室の扉から中を覗いては泣いていた。
杏寿郎の人望の厚さが伺える。
隊士の中の一人が、隣の個室をやけに心配そうにうろついているのを見かけた。
しのぶは気になり呼び止める。
「ちょっとそこのあなた。そちらはまだ面会謝絶です。立ち入り禁止ですよ」
前髪がサラサラと靡いている隊士だ。
しのぶはどこかで見たと思ったら、この前の下弦ノ伍の討伐任務で繭から助けた隊士だった。
「あ、あの、こっちの病室には元土柱の蓬萊さんがいるって聞いたんですけど…本当なんですか!?まだ目が覚めないんですか!?」
心配で仕方が無いといった表情だ。
「ええ、そちらには蓬萊斗和さんがおります。彼女はまだ目覚めません。傷自体は軽いものですが、目覚める気配がないんです」
「そんな…!」
一気に青ざめた前髪の隊士は、今にも泣きそうになっている。
しのぶは気の毒に思うも、まだ会えないことを告げる。
「申し訳ないのですが、目覚めるまでは誰であろうと面会謝絶です」
分かりましたと小さく返事をし、がっくり肩を落とす。
前髪の隊士は名残惜しそうに、何度も振り返りながら帰って行った。
斗和の親しい友人なのか、はたまた恋人なのか。
隊士の後ろ姿を見送り、しのぶはそっと個室に入る。
眠り続ける斗和に小さく声を掛けた。
「煉獄さんもとっくに目覚めたんですよ?遥かに軽傷のあなたが目覚めないのはおかしいです。皆待っています。早く目を開けて下さい…」
だが杏寿郎が順調に快復するのとは対照的に、斗和は目覚める気配が全くなかった。
微動だにせず、ただ呼吸を繰り返しているだけの、まるで植物のような状態だった。
杏寿郎とその家族、柱達、三人の隊士、サラサラ髪の隊士、そして隠。
斗和と交流があった面々はずっと心配していた。
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二人が蝶屋敷に運ばれてから、間もなく三週間が経とうとしていた。
夜明け前、その人物は現れた。
杏寿郎の面会謝絶を解いた数日後、見舞いに来た姿をしのぶは見た。
それは昼の明るいうちの話しだ。
「来るのは必ず任務明けなんですね。最初の二日間は治療の為に来ていると思っていました。それも普段のあなたにしたら珍しいですが。だけどその後も、あなたは蝶屋敷に毎日来る。…怪我もしていないのに」
「………」
斗和の部屋の前に立つ実弥は、何も答えず僅かに顔をしのぶに向ける。
「…そんなに蓬萊さんが気になりますか?」
「………」
「明日で三週間です。このまま目覚めなければ、この先は心臓が止まるまで一生この姿のままだと思われます。…その部屋、鍵はかかっていませんよ」
しのぶは二人がどんな関係なのかは知らない。
だが、あんなにも悲痛な顔をした実弥の姿は初めてだった。
バタン
診察室に戻るすがら、しのぶは背後で扉が閉じられる音を聞いた。