※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

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斗和の目覚め

実弥が斗和の個室から去り、一刻程が過ぎた。

 

 

 

 

うっすらと目を開けた斗和は、ぼんやりと空間を見つめる。

状況を把握しようと、瞬きしたり頭をゆっくり動かす。

 

ふと右手が暖かく感じ、布団から取り出しまじまじと見る。

 

(ここは…?えっと、何でここにいるんだっけ?最近煉獄さんに会った気がするな…手合わせしに行って…そうだ!そうだ!そうだ!煉獄さん!煉獄さんは!?)

 

斗和は思い出した。

杏寿郎を救う為、無限列車に乗った。

初めて大々的に物語に関与した。

列車内では何もしなかったが、猗窩座と対峙し最後に拾ノ型を撃った。

 

その後の記憶がない。

 

一体どうなったのか。

杏寿郎はどうなったのか。

無事なのか。

知りたくてしょうがない。

 

「………」

 

声を出してみようとするも、掠れてハクハクと声にならない。

 

「……ぁ……あ……」

 

何度か試みて、やっと出てほっとする。

水が飲みたくてどうにか起き上がると、全身が軋むように痛い。

斗和は寝間着姿だった。

本で見た蝶屋敷での寝衣は、洋装である。

これまで一度も着たことがなかったので、残念だなと思った。

 

「水…台所…」

 

斗和はボソッと呟くと、履物に足を入れ立ち上がる。

蝶屋敷の台所は、以前野菜を運ぶ為に一度行ったことがある。

記憶を頼りに廊下を歩いた。

斗和は左目の辺りが痛む気がしたが、歩けるのだから問題なかった。

上弦と戦ってこれで済んだのは奇跡である。

 

誰もいない廊下をゆっくり歩き、台所に着くと喉を鳴らし水を飲む。

しばらくぶりに生き返った気がした。

 

すると厠へ行きたくなり、斗和は手探りながらもどうにか見つけ用を足す。

 

「!」

 

ふと手洗い場の備え付けの鏡を見て驚く。

左目横に縦の傷があった。

縫われたそれは、古傷と僅かに交差している。

 

(これはあの時猗窩座に…)

 

斗和は、また顔に傷を負ってしまったのだと落ち込んだ。

なんて醜い姿なのだろうと、じわりと目尻に涙が浮かぶ。

人前に出せる顔ではないと思った。

 

鏡はもう見たくないとため息を吐き、厠を出ようとすると何やら声がする。

 

「…蓬萊さん…?蓬萊さん!どこにいますか!?」

 

「は、はい。ここです…」

 

斗和は呼ばれているのに気付き、慌てて厠から出る。

するとそこには胡蝶しのぶがいた。

 

「蓬萊さん!?あ、あなたいつ目覚めたんですか!早く部屋に戻って下さい!いきなり歩いてはいけませんよ…!」

 

しのぶは斗和を叱り付けた。

そして駆け寄り支えようとする。

だがしのぶは斗和より背が低く、支えになるには厳しい。

斗和は一人で歩けるので、丁重に断るとゆっくりと部屋へ戻った。

 

 

 

 

◇

再び寝台に入り、斗和は起き上がったまま診察を受ける。

一通り診た後、しのぶはゆっくり口を開いた。

 

「首も手足も指もしっかり動きますね。顔の傷は痛むかもしれませんが、じきに治ります。ただ、痕が残ると思います…」

 

しのぶは申し訳なさそうに瞼を伏せる。

 

「大丈夫です。既に傷がありますから増えても…あ!実は私お面を持っているので、それを被りますから」

 

斗和が笑うと、しのぶは笑えない冗談ですねと一蹴した。

斗和は本気だった。

さすがに顔に二ヶ所も傷があるのは、見る者に不快な思いをさせると思った。

 

だが今はそれよりも気になることがある。

斗和は身を乗り出し、しのぶに詰め寄った。

 

「あの!…煉獄さんは?…無事ですか!?…生きて…いますよね!?」

 

「ええ。しかし無事とは言えません」

 

「え…!?」

 

斗和はみるみる青ざめていく。

 

 

「大丈夫、ちゃんと生きています。…ですが運ばれた時は左目は潰れており、左右の肋骨は全てにひびが入り、左腕と右足は酷い打撲。他にも肩口やあちこち深い裂傷と打撲という満身創痍で、予断を許さない状態でした」

 

「それで!?煉獄さんはっ…?」

 

胸元を押さえた斗和は、しのぶを見つめその先を問う。

 

「ずっと意識は無かったのですが、運ばれてから一週間程で目覚めました。その後は驚くほど早く快復しています。…余程心配だったんですね」

 

しのぶは微笑み、寝台脇の手拭いを取り斗和の顔に当てる。

斗和は自分が泣いているのだと気付いた。

 

「うっ…うっ…」

 

(煉獄さん、煉獄さん…!生きていた!生きててくれた…!!)

 

「本当に、本当に煉獄さんは生きてるんですね!?」

 

斗和は泣きながら何度も確認するので、しのぶはついにクスクスと笑い出した。

 

「蓬萊さんたら、何度言わせるんですか」

 

「すいません…でも、やっぱりこの目で見ないことには実感が…」

 

どうしても不安が拭い去れない斗和に、しのぶはこの反応も仕方ないと思った。

斗和は杏寿郎と共に上弦の鬼と戦ったのだ。

先に意識を無くしたのは斗和だった。

杏寿郎の生死は何よりも心配だったのだろう。

 

「煉獄さんは隣の個室にいます。朝になったら是非会いに行って下さい。さすが柱というべきか自然治癒力も高く、既に寝台から起き上がり歩いています」

 

「もう起き上がってるんですか!?」

 

斗和は思わず口に手を当て驚いた。

聞く限りでは相当な重傷だというのに、斗和よりも早く目覚め、更に起き上がれるとは思わなかったのだ。

当然だと言う風にしのぶも頷く。

 

「私も本当に驚きました」

 

しのぶは、杏寿郎が起き上がれるようになると、すぐに斗和の部屋へ向かおうとしたのを思い出した。

生きていることは知っていても、まさか目覚めなていないとは思わなかったのだろう。

重傷であることも構わず、とにかく斗和を一目見ようとしたのだ。

あの時は、蝶屋敷の面々全てが必死になって止めた。

心配でならないと顔を歪めた杏寿郎の姿を、しのぶは初めて目にした。

 

「煉獄さん、あなたに会おうとすぐに歩こうとしていたんですよ。皆、あなたを心配しています。何せ三週間も目覚めないのですから」

 

「え、三週間!?そんなにですか!?」

 

斗和は驚いて声が上擦る。

数日程度だと思っていただけに、三週間と聞かされ頭がついていかない。

 

(どうしてそんなに…あ、そういえば…)

 

以前下弦を二体倒した時も、拾ノ型を撃った後は一週間も起きなかった。

斗和は、今になりそれを思い出したのだ。

今度は三週間である。

さすがに驚きを隠せない。

 

それでも斗和は生きている。

そして何より杏寿郎が生きている。

 

斗和にとって、最大の願いが叶ったのだ。

 

 

 

その後斗和は、しのぶに風呂に入りたいことを告げた。

さすがに戦い後、三週間も湯浴みをしないままは嫌だった。

 

「…すいません、我儘を言って」

 

「そのくらいで我儘なんて、蓬萊さんはどこまでも低姿勢なんですね。あなたが隠に人気なのが分かる気がします」

 

しのぶは頷いた。

 

「分かりました。では朝一番に入れるようにしておきます。三週間経過してはいますが、顔の傷が深いのでくれぐれも気を付けて入って下さい。異変があればすぐに上がるように」

 

しのぶは、ではまたと病室からいなくなった。

 

 

 

───────

──────

斗和はその後、伸びた爪を切り、寝台でぼんやりと夜明けを待った。

落ち着かせようとしても、心臓は忙しなく動く。

杏寿郎が生きて隣の部屋にいる。

しかも、もう動いているとしのぶは言った。

 

(煉獄さんが生きている…私は本当に煉獄さんを救うことができたの?)

 

斗和は隣の部屋を見つめては立ち上がり、落ち着かない。

そして陽が昇ると同時に部屋を出て、風呂へ向かった。

 

 

 

するとアオイが介助をする為に来た。

 

「蓬萊様!おはようございます。目覚められて本当に良かったです!何なりと申し付けて下さい」

 

早朝からハキハキとしたアオイの姿に、斗和はやはり背筋が伸びる。

アオイの前でノロノロしていると、即座に注意されそうな気がするのだ。

 

「はい。あの、湯浴みは一人で大丈夫です。私は怪我も軽いのでどうかお気遣いなく。三週間もただ寝ていてすみません」

 

頭を下げる斗和を見て、アオイはぐっと奥歯を噛んだ。

 

「どうして謝るのですか!?蓬萊様は上弦と戦ったのですよ!そして、こうして生きて戻られました…!それはとてもすごいことです!」

 

任務に赴くことができなくなったアオイは、自分を情けないと思っていた。

炭治郎の言葉に大分勇気付けられたが、斗和の経緯を聞いて思うところがあったのだ。

斗和は何となく察し、首を横に振る。

 

「私が本当にすごいなら、三週間も眠り続けてませんよ。私はアオイさんが蝶屋敷にいてくれて、とても感謝しています。アオイさんは私と違って常にハキハキとしているので、憧れます。私は未だにおどおどしてしまうので…あ、とにかく本当に大丈夫ですから。では…」

 

斗和はアオイに頭を下げ、脱衣場の扉を開け中へ入った。

 

傷に注意し久しぶりの湯船に浸かると、斗和は安心してまた涙が出てきた。

 

杏寿郎が生きていて本当によかったと、何度も噛み締めた。

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