斗和は風呂から上がり、濡れた髪を乾かした。
新しい着替えも寝間着で、やはりあの蝶屋敷服は着られないのかと思った。
(あれを着るのは男の隊士だけなのかな?)
左目横の傷には注意した斗和だったが、場所が場所なので濡らしてしまった。
出血はもうないが、縫われた傷口は気持ちのよいものではない。
髪を下ろしていても全ては隠れず、杏寿郎に見られるのは嫌だった。
やはり面をと、引き出しを開ける。
そこには、斗和が念の為に持参したひょっとこの面があった。
使うことはなかったが、今後はこの傷を隠す用に必要だと思った。
(どうしよう…これ着けて煉獄さんに会ったらおかしいかな?だけどこんな傷を見られるのは…)
斗和は、面を手に取りしばらく悩んだ。
そして、杏寿郎は傷のことを知っているので隠さず行くことにした。
知らない者ならば驚くだろうが、既に知っているならば仕方がないと思った。
それでも斗和の本音は、嫌で堪らないのだった。
斗和は面を仕舞った後、洗われていた若緑の羽織を着て隣の部屋へ向かった。
すぐ隣、何歩か歩けばの位置だというのに、斗和は足が震え進まない。
(煉獄さん…本当に、本当に無事なの?怪我は…本当に生きているんだよね?)
ドクドクと更に心臓が早鐘を打つ。
扉を叩くのも緊張し、手も震える。
斗和は怖かった。
杏寿郎に会いたいが、不安なのだ。
本当にこの先にいるのか、未だに信じられなかった。
だがいつまでも迷っているわけにいかず、意を決し震える手でコンコンと二回叩いた。
「どうぞ!」
「っ!!」
中から大きな返事がし、思わずビクッと肩が跳ねる。
斗和は、失礼しますと小声でそっと戸を開け中に入った。
恐る恐る顔を上げ寝台を見れば、そこには杏寿郎がいた。
起き上がり、斗和を見てこれでもかと目を見開いている。
杏寿郎は左目に包帯が巻かれていた。
斗和は黙っていられず、駆け寄る。
「っ…煉、獄さ…!」
「斗和!!目が覚めたのか!?よかった…目覚めてくれて本当によかった…!」
杏寿郎に両手を握られ、斗和はそのまま寝台に腰掛けた。
いつの間にか"斗和"と名を呼ばれていることに、斗和は気付いていない。
「煉獄さん、お腹は大丈夫なんですか!?肋は、内臓は無事なんですか!?」
斗和は、杏寿郎の体を隅々まで何度も確認する。
見える箇所には殆ど包帯が巻かれている。
杏寿郎も斗和と同じく寝間着姿であった。
一瞬斗和は、もしかしたら柱は蝶屋敷服は着ないのか?と頭を掠める。
だがとにかく、杏寿郎の状態が気になりそれどころではない。
「ほ、本当に、本当に生きているんですよね?幻じゃないですよね?…生きて…生きてる、生きてる、煉獄さんが生きてる!!よかったです…!本当に本当によかった!生きててくれてありがとうございます!!」
斗和の両眼から、ボロボロと涙が止めどなく溢れ出る。
「私っ…本当にごめんなさい!…肝心な時に役に立てなかった!煉獄さんの戦いを邪魔してっ、こんなに怪我も…うっ…私だけ無傷で…」
斗和は嗚咽で言葉にならない。
本当は左目も守りたかった。
重傷を負わせず、どうにか杏寿郎を救いたかった。
だがどんなに予測しても、現実は思うようにいかない。
斗和が戦闘に加わったことで、本来の動きとは変化した。
包帯だらけの杏寿郎を間近で見て、斗和は悔やむ気持ちが湧いてくる。
すると杏寿郎は、握っていた手を引き寄せた。
「煉獄さん…」
「斗和、顔を上げてくれ。戦いを邪魔されたなど思っていない。確かに君が突然現れたのには驚いた。だが、君がいなければ俺はこの世にいなかっただろう」
杏寿郎は斗和の肩に腕を回し、そっと抱き寄せる。
「君には感謝している…礼を言うのは俺の方だ!ありがとう!」
杏寿郎は幾分か声を抑え、優しい眼差しで斗和を見つめた。
「鬼は、あの鬼はどうなったんですか!?頸は…!」
斗和は猗窩座のことが気になり、問い詰める。
杏寿郎は静かに首を振った。
「あと一歩のところで逃げられた」
目を見開いた斗和は、悔しくて堪らない。
「…私、言いましたよね!?私が引き付けている間に、私ごと奥義であいつを抉れと!そしたらきっと倒せたんですよ!?こんなに満身創痍にならず、煉獄さんはあいつの頸を斬れた!なぜそうしなかったんですか!」
斗和は、初めてとも言える強い口調で杏寿郎に迫る。