賑やかな三人組が去り、再び病室は静かになる。
斗和は退屈しのぎに、室内をあちこち歩き体を曲げたり動かした。
今すぐ退院でも構わないと思うも、さすがにそれはできない。
杏寿郎が既に機能回復訓練をしているのには驚いた。
斗和より二週間も前に目覚めたというのも驚異的である。
かなりの重傷だったはずだが、それを感じさせないのは素晴らしいとしか言いようがなかった。
斗和は、心から尊敬してやまないと改めて感じていた。
その杏寿郎から好きだと言われたのは、夢のようだ。
斗和は吊り橋効果としか思えなかったが、きちんと返事はすると決めた。
(返事、か…)
斗和は右の手のひらをそっと見た。
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昼餉の時刻になり、朝同様にアオイが食事を運んできた。
動けるのに何もしないのは申し訳ないので、夕餉は配膳の手伝いをしようと決め重湯に口を付ける。
病院は至れり尽くせりだなと、斗和は改めて思った。
三食きちんと決まった時刻に出てくるのは有り難い。
斗和は、上げ膳据え膳とはまさにこれだなと頷く。
だがいいなとは思っていたが、いざその立場になると心苦しく感じられた。
(ん…?)
視線を感じ顔を向けると、アオイが斗和をじっと見ていた。
「あの…?私どこか変ですか?」
「蓬萊様は炎柱様と恋仲なのですか?」
斗和は驚いた。
なぜ彼女はいきなりそんなことを聞くのか。
「いえまさか!とんでもない!なぜそんなことを聞くのですか?」
顔の前でぶんぶん手を振り否定する。
「今朝炎柱様の様子を見に行ったら、炎柱様と蓬萊様が抱き合っていましたので恋仲なのかと。違うのですね、分かりました。では!」
アオイは納得しいなくなった。
重湯を掬ったままの匙が止まる。
あの大泣きした時を見られたのかと思った。
確かに斗和は、杏寿郎にしがみ付いて大泣きした。
だが全然違うのに、と斗和は小さくため息を吐いた。
昼餉を食べ終わってすぐ、同期の音柱・宇髄天元が見舞いに訪れた。
天元はこの後、嫁達と三人組と共に遊郭で上弦ノ陸と対峙する。
相当に苦戦するのは知っていた。
斗和はどうにかしたいと思うも、あの遊郭任務は記憶が朧気だった。
まず列車任務の後、いつ始まるのかが分からないのだ。
その描写があったのかどうか、覚えていなかった。
鬼は、二体同時に頸を斬らなければならない。
これだけは覚えていた為、炭治郎達にさり気なくなく教えた。
だが斗和はそれ以外、どう戦ったかなど殆ど覚えていないのだ。
覚えているのは堕姫は変幻自在の帯、妓夫太郎は毒の鎌を使ったというくらいだ。
それらを天元にどう伝えるかが問題である。
「よう蓬萊!元気そうじゃねえか。ずっと眠りっぱなしで心配したぜ。報告受けて一番に来てやったぞ」
天元は相変わらずだった。
「はあ…ありがとうございます。ご心配おかけしました。任務のこと、ご迷惑おかけしています。…それにしても何か変ですね、宇髄さんが芋娘と呼ばないのは」
すると天元はニヤニヤとし始める。
「何だ?芋娘のほうが気に入ってたか。いいぞいくらでも呼んでやる。同期だからな、遠慮するなよ芋娘」
「やっぱり嫌です!…ところで、お嫁さん達は元気にしていますか?」
斗和の問いに、天元は一瞬間を置いて口を開いた。
「実は少し前から潜入捜査して貰ってんだ。男は入れねえ場所なんだよ」
「それってまさか…」
天元は僅かに目を伏せ頷いた。
「ああ。お前が想像してる通り吉原、遊郭だ。それぞれ別の廓に入ってる」
「そうなんですか…それは心配ですね」
既に嫁達は遊郭に潜入していた。
斗和は早いなと思ったが、考えてみれば前々からその廓にいなければ情報を得ることは不可能だ。
そこで思い出した。
嫁の一人・須磨は花魁の地位にいたことを。
花魁は遊女の一番上の位だ。
昨日今日入りなれるわけがない。
おそらく、数ヶ月前から潜入させていたに違いなかった。
(そうか…花魁の地位ってどのくらいでなれるのかな?半年?一年?まさか数ヶ月?)
列車任務からは三週間が経過したが、本格的に始まるのは嫁達からの連絡が途絶えた時である。
それがいつなのかは分からない。
斗和は、ひとまず伝えられるだけ伝えておくことにした。
柱は多忙なので、こうして会えることは少ない。
天元に次はいつ会えるか分からないので、伝えるには今しかないのだ。
「宇髄さん、実は私…昔から勘が鋭いんですよ。なんかよく当たるんですよ」
斗和は神妙な顔つきになり、天元をじっと見つめた。
「あー?勘が鋭い?本当かよ。お前芋娘だから鈍そうだぞ」
天元は"嘘くせーな"とボソッと呟く。
斗和は苛立つも、平常心を装う。
真剣な顔付きで額を押さえた。
「同期の勘と言ったらいいのか…これからの任務は、特に毒に気をつけて下さい。いくら宇髄さんが元忍で毒に耐性があると言っても、内部を蝕む毒は非常に危険です」
徐(おもむろ)にそう言うと、天元は「はあ?」と訝しむ。
「同期の勘て何だよ、変な奴だな。つーか俺、お前に毒に耐性があるなんて言ったか?」
(えっ!?あっ言われてない!どうしよう…)
「前に隠が言ってたんですよ。忍者に興味があるらしくて、様々な本を読み漁ってて、その中に書いてたって。忍者は基本的に毒に耐性がある、って」
斗和は口から出任せを言った。
全て嘘だ。
天元は斗和を変な奴だと思った。
「俺は用があるからもう行くぞ。じゃあな」
天元は帰って行ったが、斗和は果たしてあの伝え方で大丈夫なのか心配だった。