翌早朝。
目覚めると行冥が佇んでおり、斗和は寝台から落ちそうになった。
任務明けに寄ったのだ。
目が覚めてよかったなと泣く行冥に、斗和は礼をした。
玄弥のことが気になり、誰か弟子や継子ができたか聞くと一人弟子がいると答える。
斗和はそれ以上詳しく聞かなかったが、玄弥で間違いないと思った。
行冥が帰ると、斗和は寝間着からしばらくぶりに野良着隊服に着替えた。
今日から機能回復訓練開始だ。
慣れ親しんだ野良着隊服を着れば、やはり落ち着く。
斗和は、改めて前田まさおは縫製柱だと思った。
動きやすい隊服を作るというのは、それなりの腕がいる。
ましてや斗和の特注野良着隊服は、作りも一般的な物より複雑だ。
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「午前中はここまでにしましょう。蓬萊様は一通り問題なくできています。午後はまた同じものをこなしてもらいますが、更に追加しますので」
アオイとカナヲから頭を下げられ、斗和も吊られて下げる。
「はい。ありがとうございました」
斗和は機能回復訓練をしたが、まだ体が鈍っている感じが否めなかった。
一通りこなしたが、できれば木刀で打ち合いをしたいと思った。
午後はカナヲと稽古をしたいと申し出てみようか、そんなことを考える。
部屋に戻り昼餉を食べようとすると、小芭内と蜜璃が見舞いに来た。
膳を前に話していたせいか、蜜璃の腹がグーグー鳴り、小芭内に睨まれる。
斗和が悪いわけではない。
まさに食べようとしていた時に来ては、どうしようもない。
目で不可抗力です!と訴える斗和だが、聞き入れて貰えなかった。
小芭内は終始斗和を睨む。
そして腹が減り耐えられなくなった蜜璃は「このままいたら、蓬萊さんのご飯を食べてしまうわ!」と嘆く。
そして手短に切り上げ帰って行ったのだった。
斗和は視線から解放され、少しばかり冷めた粥に口を付ける。
(あの二人はなんだかんだ結構一緒にいる気がする。伊黒さんが甘露寺さんを見る目がすごく優しかったな…)
斗和は先程の二人を思い出し、羨ましいなと思ったのだった。
斗和が昼からの機能回復訓練に向かおうと扉を開けると、まさに相手は扉を叩こうとしていたらしく二人で仰け反る。
扉の前にいたのは村田だった。
「村田さん!ごめん、驚かせたね」
「蓬萊さーん!本当に目覚めたんだね!昨日の任務で、隠から目覚めたらしいって聞いてさ!本当によかったな!」
村田は目を潤ませる。
斗和が入って!と促せば、どこか行くところだったんじゃないのかと聞いてくる。
少しくらいなら大丈夫だろうと、斗和は台所から茶を持って来ようとした。
丁度アオイがいたので、機能回復訓練は少し待ってくれと告げる。
「分かりました。準備ができたら声を掛けて下さい」
「すみません、お願いします」
斗和は茶を持って戻ると、
村田は見舞い品だと甘味屋の栗羊羹を渡してきた。
「これはもしかしてあの甘味屋の…?わー嬉しい!ありがとう。あの…心配かけてごめんね」
「それはいいんだよ。とにかく目覚めて本当に良かった。炎柱が先に目覚めたの聞いてさ。蓬萊さん大丈夫かなって心配だったけど、こうして無事で何よりだよ」
村田は心底安堵し胸を撫で下ろす。
斗和も、自分を心配してくれた村田に感謝した。
「それにしても、蓬萊さんと炎柱が同じ任務だったとは思わなかったよ。あ、そうだ!柱を退いたんだろ?どうしたんだよ、何かあったの?」
「ううん、何もないよ。柱の定員は九人でしょ?昨年霞柱が加入した時に退いたの。私はやっぱり一般隊士が性に合ってるから。だからまたよろしくね!あ、そのうちご飯食べに来て」
「うん、じゃあまた焼きお握りと卵焼きと糠漬け食べたい」
村田はキラッと目を輝かせる。
病室前で手を振って別れた後、斗和は午後の機能回復訓練へ向かった。
午後の機能回復訓練は、殆どカナヲが相手だった。
午前中でほぼ完璧にこなしたので、午後は一段階高度なものになっていた。
栗花落カナヲは、無表情で淡々と行う。
斗和にとっては遣り難いと感じていた。
うっすら笑みを湛えているのだが、何をするのもとにかく分かり難い。
義勇もだが、表情に変化がないと何を考えているのか分からない。
故に斗和は、蜜璃や村田のように喜怒哀楽がはっきりした者が話しやすく好きだった。
斗和はカナヲに、木刀で打ち合いたいと言おうとしていた。
だがなんとなく言い出せなくてやめたのだった。
訓練は午前午後と一通りこなし、問題なくできた。
明日にでも退院できそうだと思ったが、果たして許可が降りるかどうかだ。
しのぶからは、目覚めて数日は容態に変化があるかもしれないと言われていた。
最初は良くても、急変することも珍しくないと。
三週間も眠りっぱなしだったせいだが、斗和は正直もう帰りたいと思っていた。
黙っているのは暇でしょうがなく、早く鍛錬して体を戻したいのだ。
鴉の令和もしばらく何もしておらず、退屈に違いない。