※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

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見舞い④

夕餉前、斗和は三人娘の一人・きよを手伝い洗濯物を取り込む。

たたむのまで終わらせ、まだ配膳まで時間があるので玄関を掃除した。

 

普段はこの時間は任務なので、掃除をするのは初めてだった。

斗和が入り口に背を向け廊下を拭いていると、後ろから声を掛けられた。

 

「陽が沈む時分に申し訳ない。見舞いは可能だろうか?」

 

「あっ、はい!見舞われる方のお名前は?」

 

斗和が振り返りながら答えると、背の高い男が立っていた。

身丈は宇髄天元と同等かと思い、顔をまじまじ見る。

 

(…え!)

 

「…師匠?西盛師匠!?」

 

斗和がそう声を掛けると、男ははっと息を呑んだ。

 

「斗和…?蓬萊斗和か!?」

 

「は、はい!斗和です…師匠、本当に師匠だー!」

 

斗和は思わず抱き着いた。

 

(師匠…!懐かしい!でも昔より大きい感じがしないな。私が成長したからだよね)

 

「おいっ、子供じゃないんだ!昔みたいに抱き着くな!」

 

肩を押され引き剥がされ、斗和は我に返る。

つい最終選別が終わった時の感覚で抱き着いてしまったのだ。

とたん恥ずかしくなり、誰にも見られていないだろうかと辺りを見回す。

 

掃除を切り上げ、西盛を部屋へ連れて行き椅子を勧めた。

 

「びっくりしましたよ!いきなりどうしたんですか?よく蝶屋敷にいるって分かりましたね」

 

「お前、三週間ぐらい前に文を寄こしただろ?…いつもと違って不安が書かれていた。こんなこと今まで一度もなかったからな…胸騒ぎがしてお館様に文を出したんだ。そしたらお前が任務で怪我して意識不明だと書かれていた。それで慌てて東京まで出て来たんだ。現役時代ぶりだからな、鴉がいなきゃ迷ってた」

 

西盛は「東京も随分変わったな」と笑う。

 

斗和は、無限列車に乗る直前に師に出した文の存在を思い出した。

不安ですと書いたことで、心配しわざわざ来てくれたことに感激する。

 

(どうしよう、泣きそう。でもせっかく来てくれたのに泣いたらだめだ)

 

「ありがとうございます!師匠は山に籠もってたから世間に疎いんですよ。今、巷ではこういうひょっとこの面が流行しているんです」

 

寝台横の引き出しから白いひょっとこの面を見せ、斗和はにんまり笑う。

すると西盛は呆れた顔をした。

 

「嘘つくんじゃねえ。それ刀鍛冶の里の奴等が付けてる面だろ。…それより、意識が戻って本当によかったな。動いているところを見ると怪我は大したことないようだがどうなんだ?全く、三週間も目覚めないから心配したぞ!」

 

西盛は、心底安堵したという表情で弟子を見つめる。

斗和はこそばゆくなった。

 

「心配おかけしました…もう大丈夫です!この通り元気だし、また任務に出られます」

 

そう言い笑顔を見せると、西盛はそうかと頷く。

 

「それにしてもその格好、何で昔と同じ野良着姿なんだ?今は昔と違って洋装の隊服なんだろ?」

 

(隊服?あ、師匠は知らないんだった)

 

斗和は、修行していた時もずっと野良着だったことを思い出す。

確かにこの隊服は野良着にしか見えない。

実際は野良着ではなく、野良着に似せた隊服である。

 

「実は最初にお願いして、野良着のような隊服を作って貰ったんです。だからこれ一応は隊服なんですよ。生地も同じ物を使っていますし。正規の隊服もありますけど、お館様の屋敷に行く時しか着ていません」

 

包み隠さず斗和は告げる。

「まさか普段着も野良着か?」と聞くので頷く。

すると西盛は盛大にため息を吐いた。

 

「お前なあ!それじゃあ四六時中野良着じゃねえか。年頃の娘なんだから、少しは着物を着たりしろよ」

 

着物は動きにくくて…とぼやけば、西盛は顔を顰める。

そんなに着物は大事だろうか。

動きやすいのを着るのが一番だと斗和は思っている。

 

そのあと斗和は、成長したな、綺麗になったな、と西盛から驚くことを言われた。

 

「え、あ、ありがとうございます。でも…この傷…これは十三歳の時で、こっちの縦のは今回の任務で…」

 

斗和は自らの顔を指しながら説明する。

大きな傷が二つもある女が、綺麗と言われるのはどうなのかと思った。

 

すると西盛は笑う。

 

「傷はお前のこれまで戦ってきた証だ。恥じることはない」

 

「師匠…師匠は更におじさんになりましたね」

 

しんみりするのを避ける為、斗和はおどけた。

 

「斗和、お前な…この流れでそうくるのか。相変わらずだな、全く!」

 

斗和は久しぶりに気を許す師に会い、心から笑った。

 

 

 

九年ぶりの師との話は思いの外楽しく、安心できた。

斗和は結局、夕餉が配膳されるまで話し込み、手伝いをすっかり忘れてしまった。

 

西盛を玄関まで見送った際「元気で頑張れよ!」と頭を撫でられる。

子供扱いだなとは思ったが、斗和はとても嬉しかった。

 

師の姿が見えなくなるまで手を振り、さて夕餉をと部屋に戻ろうとした時だ。

 

杏寿郎が斗和を見ていた。

 

「あ…」

 

思わず声が出た。

 

(そうだ、返事…明日には帰れそうだから、言うなら今日の夜しかない)

 

斗和は、杏寿郎から好きだと告げられたことを思い出す。

見舞いや機能回復訓練で頭から抜けていたが、いつまでも先延ばしにはできない。

 

「…斗和殿、今の人は誰だ?君が気さくに手を振る姿は初めて見たぞ。…別れが名残惜しい相手なのか?」

 

杏寿郎は、いつもの明るいはきはきした喋りではなかった。

 

それもそのはず。

隣の部屋から楽し気な笑い声がし、杏寿郎は気になっていた。

時折くぐもった声がし、男と話しているのだと気付いた。

斗和が自分以外の男と談笑していることに、杏寿郎は酷く嫉妬した。

斗和は誰といるのかと、それを確かめる為に部屋から出てきたのだった。

 

(煉獄さん、声が暗いな。どうしたんだろう?なんだか知らない人みたい…)

 

「今の人は私の育手です。任務前に久しぶりに文を書いたら、返事がないって様子を見に来てくれたんですよ」

 

斗和は何も気付かずすらすらと教えた。

杏寿郎は、育手ならばと胸を撫で下ろす。

 

「そうか!ところで機能回復訓練はかなり順調だと聞いた。俺が言ったことは覚えているだろう?退院する前に返事を聞かせて欲しい」

 

隻眼になった杏寿郎に見つめられ、斗和は鼓動が早まるのを感じた。

 

「あ…はい…えっと、では胡蝶さんの診察後に部屋に行っていいですか?」

 

「ああ、待っている」

 

いつもの声色に戻った杏寿郎は、部屋に戻って行った。

 

 

 

 

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◉西盛師匠……斗和の育手で元岩柱。54歳。埼玉在住。

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