※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

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茶を求めて

槇寿郎から謝罪を受けた翌日、斗和は久方ぶりに共同鍛錬場に赴いた。

 

何と言っても、しばらくぶりのまともな鍛錬である。

一人でするより、もし誰か隊士がいたら手合わせして貰おうと思っていた。

 

 

 

 

斗和は、夜が明けてすぐ握り飯を持ち来たが、誰もいなかった。

当たり前の話しだが、鬼殺隊は基本的に夕刻から明け方近くまで任務だ。

終わり次第休息を取り、昼前に起きて再び夕刻に出る。

つまり、朝の早い時間は大抵寝ているのだ。

 

そのうち誰か来るだろうと、斗和は走り込みをし、素振りをし、技を出し、鍛錬に明け暮れた。

 

体を動かすことで、斗和は考えることを避けていた。

これからどう動くべきか、向き合わなくてはならない現実があるのも分かっていた。

 

逃避すればなんとかなる。

そんなことは思っていない。

 

だが斗和は怖かった。

本当は逃げてしまいたい程であった。

 

その都度、弱くて情けない自分に腹を立てていた。

 

斗和は雑念を全て振り払い、一心不乱に刀を振るう。

 

 

 

 

 

───────

──────

しばらく一人で鍛錬していた斗和だが、休憩しようと炊事場へ入る。

一通り揃っているので、湯を沸かし茶を淹れ持参した握り飯を食べることにした。

 

いつも得意の焼きお握りだったが、今日は珍しく味噌漬け入りの普通の握り飯だ。

まずはと一口啜った茶に驚き、斗和は茶碗の中を覗き込みその香りを嗅いだ。

 

(このお茶、めちゃくちゃ美味しい!どこのお茶屋のだろう?)

 

鼻に抜けるような香りと、深みのある味わいが斗和の体の奥底に染み渡る。

甘味の共にすれば、間違いなく至福のひとときである。

 

甘味と言えば、村田が見舞いに持って来た栗羊羹は格別だった。

この茶と食べれば、益々美味になるのではと想像する。

 

(欲しい…これは是非とも欲しい!)

 

斗和はどこの茶屋で扱っているのか、探し始める

袋はどこかにないかと、あちこち引き出しを開けて探す。

しかし見つからない。

もしや、この鍛錬場近くの町にある茶屋のものではなかろうか。

 

斗和は決めた。

休みはあと四日ある。

今日くらい町に出てもいいだろうと考えた。

 

そうと決まれば、帰って風呂に入り着替えなくては。

 

斗和は握り飯を食べると、茶を飲み干し家に帰った。

 

 

 

 

 

───────

──────

鍛錬場から帰宅した斗和は、風呂を沸かし汗を流すと昨日着た着物に袖を通す。

 

普段着の野良着でもよかったが、茶屋に行くならと身なりに気を遣った。

色や香り味から推察するに、高級茶葉であることは間違いないのだ。

野良着で高級茶葉を買うのは、あまりにも不釣り合いだ。

 

かなり昔のことたが、斗和は野良着姿で喫茶店に入ろうとしたことがある。

そこで若い娘達に笑われてしまった。

あの時は本当に恥ずかしく、二度としないと決心した程だ。

それからは、ちゃんと場をわきまえなくてはと心がけていたのだ。

 

斗和は、未だ慣れない着付けにもたつきながらも帯を締め、鏡台で髪を纏め玉簪を挿す。

そこまでしてしまえば化粧もと、手に取り顔に塗っていく。

斗和は最後に、薄く紅を引き鏡と向き合う。

 

鏡に写る化粧をした女。

 

数える程しか見ていない、普段とは違う顔があった。

化粧でも完全に消えない、左頰の耳まである古傷。

そして真新しい左目横の縦の傷。

少しだけ交差された傷を、斗和はそっと指でなぞる。

 

もし…もしこの二つの顔の傷が無ければ、もっと堂々と町を歩けただろうか。

もっと自信を持てただろうか。

あの人の隣に並べる女になれただろうか。

あの人は傷のない顔を何と言ってくれるだろうか。

傷さえなければ、あの人に好きだと告げられただろうか。

 

斗和は鏡に向かい自問する。

 

(なんてそんなの…傷があろうとなかろうと、私のような女がおこがましい…)

 

考えても仕方のないことを考えた自らに、斗和は呆れた。

 

今日でこの格好も最後にしよう。

 

斗和は口唇に懐紙を軽く挟み、屑入れに捨て立ち上がった。

 

 

 

 

 

────────

───────

数刻後。

斗和は、風呂敷に茶葉を数袋入れ上機嫌で帰路に着いていた。

 

鍛錬場の近くの町で片っ端から茶屋を訪ねれば、一番大きな茶屋に目当ての物があった。

"厳選最高級玉露"と銘打ったそれは、店の看板商品だった。

高いながらも一番売れており、斗和が見ている先で何人か買い求めていた。

斗和は値段を見て一瞬躊躇うも、持参した有り金を全て注ぎ込み数袋手に入れたのだった。

 

今まで必要最低限の物しか買っていなかったので、ここに来てかなり奮発してしまった。

 

帰り道、飲み終わった茶葉の再利用を考える。

斗和は、最大限利用してやろうとあれこれ想像する。

もったいないので風呂にでも入れようか。

緑茶は抗菌作用もあり、傷や肌にいいかもしれない。

 

斗和は自然と顔がほころぶ。

 

(これから毎日このお茶が飲める!お茶風呂も早く試したいな)

 

軽快に門を潜りながら、顔の左側に巻いた襟巻きを取った。

 

思わずその足が止まる。

 

力が抜け、持っていた風呂敷を落としそうになった。

 

 

ドクンと大きく心臓が波打つ。

 

 

 

そこにいたのは不死川実弥だった。

 

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