※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

132 / 190
仮面─斗和─

※斗和視点

 

 

 

 

彼の姿を見るのはいつ以来だろう。

本当に久方ぶりに見る。

少し髪が伸びたかもしれない。

 

そんなことを一瞬だけ思えば、彼が私に向ける驚いた表情でハッとなった。

今の自分の格好は着物、それに化粧をしている。

彼にこの姿で会うのは二度目だ。

着物の柄は違うが、継子と偽装夫婦になった任務の時に一度会っている。

その時は、彼は私だと気付いていないはずだ。

 

だがこれで完全にばれた。

 

あの時騙したことを怒るだろうか、それとも……

 

野良着姿だったら挫けたかもしれない。

だけど今は化粧をしている。

着物も着ている。

 

私はこの身につけた仮面を使って、全ての感情を押し殺す。

あの時のように、町で駅を尋ねた時のように。

 

「…不死川さん、こんにちは。いらしてたんですね。今町まで出掛けていたんです。すみません…待ちました?」

 

私は口元に手を当て、至極穏やかな笑みを作った。

 

「…いや」

 

彼はこちらを見据えたまま微動だにしない。

その表情からは、何を考えているのか読み取れなかった。

 

「ならよかったです。多忙な柱の方をお待たせしてはいけませんから。そういえば、うちは初めてですよね?見ての通り狭いので、お客様をお通しする部屋もありません。…何か御用でしょうか?」

 

彼の目を見据え、暗に帰れと告げた。

 

お願い帰って、もう来ないで。

 

「…目が覚めてよかったなァ。…ずっと心配だった」

 

「!」

 

目が覚めてよかった。

 

それは以前にも聞いた言葉だった。

下弦を二体倒した時、私は一週間目を覚まさなかった。

初めてお館様の屋敷で会った時に、あなたは私にそう言ってくれた。

驚いたけれど、内心とても嬉しかった。

 

その言葉をまた言うの…?

お願いやめて…!

決心が揺らぐ。

そんな優しい目で私を見ないで!

 

私は感情を押し殺し、深呼吸した。

 

「…それはどうも。お気遣いありがとうございます。お館様より休みをいただいたんです。あと四日で任務に復帰しますので、それまでご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします。お忙しいのにわざわざ足をお運びいただき、申し訳ございません」

 

私は淡々と、抑揚なくまるで文章を読んでいるように言い放ち頭を下げた。

彼と視線を交えず更に続ける。

 

「…それで、何の御用でしょうか?まさかわざわざそんなことを言いに来たんですか?多忙な柱が一般隊士の心配をするなんて、心苦しいです。私はこの通り元気ですから。用が済んだのならお帰り下さい。…二度と来ないで下さい」

 

私は彼の横を通り過ぎ、玄関扉に手を掛けた。

彼の方は一切見なかった。

 

私はちゃんと無表情になれているだろうか。

醜くて非道い女になりきれているだろうか。

 

胸が苦しい…

こんな想いするなら好きにならな…

 

 

「好きだ」

 

 

「!」

 

背後からの声に、扉を開けようとした手が止まる。

大袈裟なくらい肩が震えてしまった。

 

やめて、やめて、やめて!

お願いだからやめて…!!

 

そんなこと…お願いだから言わないで…

 

「…風柱様、何か勘違いしてませんか?もしかして、以前のあの口付けごときでそのようなことを?」

 

私は振り返り、薄く笑った。

 

「柱ともあろう方が、私みたいな醜い女を好き…?…下らない。早く目をお覚まし下さい」

 

呆れた風を装い彼を一瞥すると、私は扉を開け中に入ろうとした。

 

「先に失礼しま…っ!」

 

その瞬間、腕を掴まれ抱きすくめられた。

 

「好きだ、斗和。…演技すんなら泣くんじゃねェ!」

 

「…っ、うっ…っふ…」

 

ああ…どこまでも馬鹿な私。

いつの間にかこんなに泣いていたなんて。

涙が零れているのにも気付かず一人で…本当、馬鹿みたい。

 

離れようとしたのに。

決心したのに。

どうしてできないの…?

どうして彼と向き合えば決心が揺らぐの…?

 

毎日見舞いに来てくれたこと、心配してくれたこと、とても嬉しかった。

眠っている間、あなたに握られた手の温もりはいつまでも残っていた。

 

目覚めたら、二度とあなたに関わらないと誓った。

以前の記憶を全て戻した私が、こんな傷のある醜い情けない私が、あなたの傍にいられるわけがない。

迷惑ばかりかけてしまう。

 

だって、私はきっと…

 

だから会いたくなかった。

会っても突き離すつもりだった。

 

なのに…いざ会えば決意は揺らぎ、挙げ句泣いて…

 

私は本当に馬鹿

 

だけど…

 

だけど…

 

もう無理

 

もう偽れない

 

どうしようもないくらい不死川さんが恋しくて、好きで好きで堪らない!

 

「…っ、好き…私もあなたが好きっ…!」

 

私は泣きながら彼に強く抱き着いた。

彼の大きな手が、私の頰をそっと撫でる。

 

そのまま重なった唇は何度も角度を変え、離れていた時間を埋めるようにいつまでも互いを求め合った。

 

 

もうこの想いは止められなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。