※前ページの実弥視点
門から現れた着物姿の女は、驚愕し俺を見つめている。
俺はというと、その女に見惚れていた。
若緑に椿が散りばめられた着物。
結い上げられた髪、化粧を施した目の前の女は蓬萊斗和だ。
それは町で会って以来、夢にまで出てきた姿だった。
綺麗だと、ただそう思った。
斗和は相当に驚き動揺しているんだろう。
持っていた風呂敷を落としそうになっている。
着物姿で、紅を付けたその口が何を紡ぎ出すのかと思い黙っていた。
すると斗和は口元に手を遣り、町で声を掛けた時のように上品に言葉を発した。
「…不死川さん、こんにちは。いらしてたんですね。今町まで出かけていたんです。すみません…待ちました?」
貼り付けた笑みを浮かべ俺を見ている。
「…いや」
そう答えれば、彼女は更ににこりと笑う。
「ならよかったです。多忙な柱の方をお待たせしてはいけませんから。そういえば、うちは初めてですよね?見ての通り狭いので、お客様をお通しする部屋もありません。…何か御用でしょうか?」
上品な言葉遣い、普段とは違う作ったような声色。
何だこれは…?
おかしいとすぐ気付いたが、敢えてそれには言及しない。
「…目が覚めてよかったなァ。…ずっと心配だった」
彼女が何を企んでいようと、俺は率直に伝えるだけだ。
僅かに表情が変化したのを見逃さない。
「…それはどうも。お気遣いありがとうございます。お館様より休みをいただいたんです。あと四日で任務に復帰しますので、それまでご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします。お忙しいのにわざわざ足をお運びいただき、申し訳ございません」
まるで文章を読んでいるかのように、斗和はすらすらと言い放つ。
そのまま頭を下げると、彼女は俺と視線を交えず更に続けた。
「…それで、何の御用でしょうか?まさかわざわざそんなことを言いに来たんですか?多忙な柱が一般隊士の心配をするなんて、心苦しいです。私はこの通り元気ですから。用が済んだのならお帰り下さい。…二度と来ないで下さい」
斗和は切り捨てるようにそう言い、俺を全く見ずに玄関へ向かっていく。
扉に手を掛けた時だ。
「好きだ」
「!」
ずっと告げられずにいた三文字は、いとも簡単に口にできた。
あれ程言えなかった癖に、こうも簡単に口から出るなど自嘲するしかない。
斗和は玄関扉に掛けた手が止まり、大袈裟なくらい肩が震えた。
「…風柱様、何か勘違いしてませんか?もしかして、以前のあの口付けごときでそのようなことを?」
斗和は振り返り、"あんなことぐらいで馬鹿馬鹿しい"と言いたげに冷ややかに笑う。
彼女のこんな表情は初めて見た。
まだ気付かないのだろうか。
なぜ気付かないのか。
俺はそう思った。
何も言わない俺に対し、斗和は更に言葉を紡ぐ。
「柱ともあろう方が、私みたいな醜い女を好き…?…下らない。早く目をお覚まし下さい。先に失礼しま…っ!」
扉を開け中に入ろうとした時だ。
もう黙っていられなかった。
斗和の腕を掴み、自らの胸に掻き抱いた。
「好きだ、斗和。…演技すんなら泣くんじゃねェ!」
「…っ、うっ…っふ…」
とたん斗和は嗚咽を漏らす。
俺を突き離そうと、演技しているのは最初から分かっていた。
途中から涙が零れているのにも気付かず、必死で言葉を紡いでいたのだ。
きっと斗和は様々考えたんだろう。
顔に傷があることで自分を卑下し、相応しくないとそう思ったんだろう。
そして俺のことも考えたはずだ。
迷惑がかかるんじゃないかと。
斗和はいつだってそうだ。
いつだって自分そっちのけで他人を思い遣る。
気持ちを押し殺してまで俺を突き離すつもりだろうが、そうはさせるか。
泣く程に俺を想っている女を、こんなにも愛しい女を手放せるわけがない。
すると斗和は、俺に抱き着いてきた。
「…っ、好き…私もあなたが好き…!」
ついに聞きたかった言葉が聞けた。
泣きじゃくる斗和の頰を撫で、一瞬目が合えばすぐに口唇も合う。
そのまま何度も角度を変え、離れていた時間を埋めるようにいつまでも互いを求めた。