その日の昼前、斗和は風柱邸の台所にいた。
長期任務に赴いていた実弥から、昼までには帰ると連絡が来た。
久しぶりの家でゆっくりして貰いたい。
斗和はそう思い、昼餉を作っているのだった。
想いが通じ合い結ばれた翌日から、実弥は長期任務で二人はしばらく会っていない。
斗和は、想いが通じ合った日のことを思い出す。
二度抱かれた初めての経験の後は、気怠かった。
見送ろうと起き上がるも下半身が痛み、それに気付いた実弥に寝てろと言われた。
斗和は恥ずかしいやら嬉しいやらで、その言葉に甘えた。
それから今日まで会っていないので、斗和はまだ色々と慣れずにいる。
冷静になると非常に恥ずかしく、どんな顔をして会えばいいのか妙に緊張していた。
「んー…」
出来上がった料理を見て、斗和は唸る。
数少ない、まともにできる料理の鰤大根を作った。
そして、家から持参した糠漬け。
他に何品か作ったものの、果たしてこれでいいのかと考える。
味見をすれば、鰤大根以外はもやっとする味だった。
斗和は、やはり何年経とうが料理は上達しないのだと悟る。
実弥は、藤の家で美味しい料理ばかり食べている可能性が高い。
このままではがっかりされそうだと思った。
(やっぱり通いの隠に頼めばよかったかな…でもいつ来るか知らないし…)
膳や茶碗を用意していると、開け放っていた勝手口から鴉の令和が叫ぶ。
「風柱、帰宅ッ!」
(任務でもないのに、実弥さんが絡むと話すのか…)
斗和は令和に呆れつつ、戸口からそっと顔を出す。
すると、ふわふわとした白い頭が勝手口に向かって来た。
とたん恥ずかしくなり、斗和は頭を引っ込める。
深呼吸を繰り返し、再度覗こうとした時だ。
「何隠れてんだァ?斗和」
「わっ!さ…ねみさん!お帰りなさい、お疲れ様でした」
実弥が台所に入り、斗和を見て呆れている。
「別に隠れてなんか、ただちょっとその…」
口を尖らせ呟く斗和を無視し、実弥は腹が減ったと竈の上を覗く。
「あ、ご飯を作ったので今用意しますね。手を洗って居間で待ってて下さい。…?どうしました?」
実弥は鍋から視線を移し、斗和を見遣る。
「いつまで敬語なのかと思ってよォ。この前は抜けてたよなァ?敬語じゃねェと新鮮で益々そそるん…」
「ちょっ、ちょっと!何を言うんですか!?」
「まずは飯だなァ」
実弥は呟いて勝手口を出て行く。
斗和は顔を赤くしながら白米をよそった。
膳を前にいただきますと手を合わせ、向かい合って食事をする。
斗和が風柱邸で食事をするのは二度目だ。
一度目は継子の死を報告しに来た時で、その時は実弥が殆どを作った。
斗和より腕前は遥かに上であった。
今日は全て斗和が作ったので、実弥はそれなりに期待もしている。
斗和は、実弥が鰤大根に手を付けたのを見計らい窺う。
「鰤大根はどうですか…?」
「うまい」
(よかった…!)
実弥はおかわりまでして完食したので、今回は成功と言える。
食べ終わった斗和は、茶碗を洗いながら上機嫌だ。
洗い終わり、配膳台の四角い包みを開き皿に乗せる。
居間へ運ぶと、実弥は飲んでいた茶の香りを嗅いでいる。
「そのお茶、とってもおいしいでしょう?この前共同鍛錬場で飲んだらすごくおいしくて、売っているお茶屋を探していくつか買ってきたの!一袋置いていくので飲んで下さいね」
「あーだから着物だったのかァ。いねェと思ったら茶ァ買いに町に行ってたわけかァ…」
なるほどなァ、と茶を啜る実弥。
その目の前に、斗和は鼻歌混じりでおはぎを出した。
どんな反応をするのか、楽しみだった。