※前ページの実弥視点
長期任務を終え帰路に着く。
久方ぶりの長期での任務は、昔からある
似たような窟が点在する一帯を調べ、鬼を狩ってきた。
窟の数が多く思っていたより時間はかかったが、やっと帰路に着くことができた。
藤の家を出る前に、昼までには着くと斗和に伝えてある。
しばらく会っていない彼女は、どんな顔で出迎えてくれるだろうか。
ずっと告げられなかった想いを伝えた後、そのまま流れのままに睦み合った。
着物姿で化粧を施した斗和は、それはもう美しかった。
脱がせればまた違う一面も見え、普段からは考えられない時を過ごしたのだった。
見送ろうとする気怠げな斗和の姿は、ほんのりと色香が漂っていた。
その姿を見て、帰ろうとしたはずの足が一瞬止まったのは確かだ。
翌日からは今回の長期任務だったので、しばらく会っていない。
斗和は元気にしているか、早く会いたい気持ちが湧き上がる。
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自宅付近まで来ると、上空に一羽の鴉の姿が見えた。
あれは斗和の鴉・令和だろうか。
門を潜り勝手口に目を遣ると、こちらを見る一つの頭。
戸口に手を掛け、ひょっこりと顔を出している斗和の姿があった。
すると、素早く頭を引っ込め消える。
何をコソコソ隠れているんだか。
「何隠れてんだァ?斗和」
勝手口を覗くと、斗和はその横で胸に手を当て深呼吸している。
「わっ!さ…ねみさん!お帰りなさい、お疲れ様でした…」
俺を見て驚き、しどろもどろに労ってくる。
いちいち反応するのが面白い。
「別に隠れてなんか、ただちょっとその…」
ぶつぶつと呟く斗和を無視し、竈を覗き込む。
「あ、ご飯を作ったので今用意しますね。手を洗って居間で待ってて下さい。…?どうしました?」
何でまた敬語に戻ってるんだ?
そもそも俺達は同い年だ。
本来敬語は不要だが、斗和は柱になろうと常に敬語だった。
だが、この関係になってもそれが続くのは面白くない。
「いつまで敬語なのかと思ってよォ、この前は抜けてたよなァ?敬語じゃねえと新鮮で益々そそるん…」
「ちょっ、ちょっと!何を言うんですか!?」
俺のそそるという言葉を遮り、声を張り上げる。
その顔は赤い。
斗和の反応はいちいち面白い。
膳を前に、手を合わせ向かい合って食事をする。
白米、人参と大根の葉の味噌汁、鰤大根、葱のぬた、あんかけ豆腐、糠漬けだ。
斗和と食事をするのは二度目だ。
一度目は継子の死を報告しに来た時で、その時は俺がほぼ作って出した。
斗和に味噌汁を作らせたら、出汁を取らなかったことを思い出す。
たまたま忘れただけだと思う。
膳からは食欲をそそる香りがし、まずは斗和の得意料理と言う鰤大根に口を付ける。
「鰤大根はどうですか…?」
すかさず聞いてくるあたり、気にしていたんだろう。
「うまい」
かなり美味い。
得意料理と自ら言うだけある。
鰤の旨みが染み込んだ大根が柔らかく煮込まれ、飯に合う。
前回出汁を取らなかった味噌汁は今回は取ったようだが、大根の葉がまだ生だ。
あんかけ豆腐は餡が妙に固まっているが、味はまあまあ。
糠漬けも美味い。
だが、葱のぬたはほんのり酢の味しかしない。
鰤大根はかなり美味いので追加で食べたが、なんだかちぐはぐな料理だった。
そういえば、鰤大根と握り飯"ぐらい"しかまともに作れないと言っていなかったか。
斗和は、もしかしたら料理が苦手なのかもしれない。
焼いた握り飯と鰤大根はかなり美味いが、他はいまいちだった。
野良着に手拭い、見るからに炊事はできそうな感じだが、実は苦手というのは何とも言えない。
気にしている可能性もあるから、直接聞くことはしない。
それでも、斗和が俺の為に作ってくれるなら何だって食べる。
斗和は茶碗を洗っているので、用意されていた急須で茶を淹れる。
すると湯気のたつ茶の香りが、いつもよりいいことに気付く。
一口飲むと、香りとともに深みのあるまろやかな味わいが広がった。
いつもの茶葉かァ?
色を見たり鼻を近付けたりしていると、洗い物の終わった斗和が現れる。
「そのお茶、とってもおいしいでしょう?この前共同鍛錬場で飲んだらすごくおいしくて、売っているお茶屋を探していくつか買ってきたの!一袋置いていくので飲んで下さいね」
なるほどそれでか。
合点がついた。
「あーだから着物だったのかァ。いねェと思ったら茶ァ買いに町に行ってたわけか。なるほどなァ」
あの時着物姿だったのは、町に買い物に出ていたからなのか。
あの風呂敷包みの中身はこの茶だったわけか。
それにしても、わざわざ茶を求め買いに行くなど珍しい。
斗和の口からは、おおよそ女がしそうな買い物だのなんだのの話題は出てこない。
唯一するのは、よく土産を買ってくる甘味屋の話しだけだ。
そういやしばらく食ってねェなァ…
俺は湯気のたつ茶を啜り、好物のあれを思い浮かべる。
すると斗和は、ふっふっふーと鼻歌混じりに今思い浮かべていたあれを出してきた。