※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

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21歳⑦【勘違いと葛藤】
煉獄槇寿郎の恋人


斗和が列車任務から目覚め、およそ一ヶ月経った頃のことだ。

 

斗和は警備に行く前、新しい足袋を買う為に町を歩いていた。

 

「蓬萊さぁーん!こんにちはー!」

 

振り返ると、蜜璃がぶんぶん手を降り駆けて来る。

斗和は、相変わらずこぼれ落ちそうな胸だと思った。

どうしても自らの胸と比べてしまい、羨むのも何度目なのか。

気兼ねなく動きたいという理由から、斗和は隊服の下はサラシである。

 

「蓬萊さん、元気になってよかったわ!蝶屋敷で会って以来ね、任務に復帰したんでしょう?」

 

「はい、いろいろとお世話になり本当にありがとうございます。この通り完全に復活しましたので大丈夫です。あ、そういえば聞きたいことがあるんですが…」

 

斗和は蜜璃を見てあることを思い出した。

蝶屋敷にいる間の警備を、誰が請け負ってくれていたのかということだ。

杏寿郎としのぶと斗和、三人の警備は七人の柱で手分けして行っていた。

一ヶ月も任せきりだったので、斗和はその人に礼をと思っていた。

 

「蓬萊さんの警備区域なら、不死川さんが請け負っていたはずよ?あの時すぐに緊急柱合会議が開かれてね。その時に隣だからやるって言っていたわ。冨岡さんも隣合ってるから分担するって言ったんだけど、いいって聞かなくて。不死川さんお見舞いに来たでしょう?聞いてないかしら?」

 

蜜璃は顎に人差し指を当て「あらぁ?」と首を傾げている。

 

斗和は当然聞いてないので、相当に驚いた。

なぜ言ってくれないのかと、もやもやした気持ちになる。

 

「…全然知らなかったです。甘露寺さんに聞いておいてよかった。任務もみなさんに負担させてしまいました。本当にありがとうございます」

 

「助け合うのはお互い様よ!そういえば、煉獄さんとは会ったかしら?私、数日前に会ったんだけれど、もう相当動けるみたいよ。さすがだわぁ!今後のことは、近いうちにお館様に相談しに行くって言っていたの」

 

杏寿郎と斗和は、退院以来会っていなかった。

告白され返事をし、翌日朝に挨拶をしてそれきりだった。

杏寿郎は大怪我を負うも、既に鍛錬するまでになっている。

改めて杏寿郎は素晴らしいと、斗和は感心した。

 

手合わせしようと言われているので、近いうちに行ってみることにした。

 

「私が退院して以来、まだ会っていないんです。鍛錬して体を戻すのに必死で…。任務も復帰したら、あっという間に時間が経っちゃいました」

 

「そうよね…あっ!そうだ煉獄さんといえばね、私見たのよ…!」

 

蜜璃は口の横に手を当て、こっそり教えるような格好をする。

これは内緒話だなと、斗和は耳を傾けた。

 

「煉獄さんのお父さん、いい人がいるみたい!」

 

「えっ!?」

 

斗和は思わず耳を疑った。

 

杏寿郎の父親とは槇寿郎のことである。

その槇寿郎にいい人、つまり恋人がいるのは初耳だった。

いつの間にそんな人ができたのかと、斗和は目を見開き驚愕している。

 

「驚くわよねえ」と、蜜璃は腕を組み頷く。

 

「一ヶ月くらい前かしら?煉獄さんの家がある隣町の蕎麦屋の前で見たわ。お父さんと着物の女性が話していたのよ!女の人は後ろ向きで顔が分からなかったんだけど、お父さんはばっちり見えたわ!ほらだって目立つじゃない?ちょっと離れていたから、最初は煉獄さんかと思ったの。そしたら伊黒さんがあれはお父さんだって言うからピンと来たわ!!ずっと臥せっていたけど立ち直ったじゃない?そこにあの女性と知り合って恋仲になったのよ!きゃーっ素敵だわぁ!苦しんでいたお父さんに寄り添って、立ち直らせたかもしれないわよね!?きっと亡くなった煉獄さんのお母さんに似た方じゃないかしら?亡くなった奥さんの面影がある方で、その姿に葛藤しているんだわ!ああっ大人の恋だわっ、私には刺激が強すぎて困っちゃう…」

 

一人芝居さながら捲し立てた蜜璃は、きゃーっと両手で顔を覆い身悶えている。

 

呆気にとられた斗和は、口をぽかんと開けたまま記憶を巡らせる。

 

(一ヶ月程前、着物姿、蕎麦屋の前…それはまさか私!?)

 

斗和はカッと目を見開いた。

槇寿郎から謝罪された日は、着物姿で蕎麦屋の二階で会った。

下で去り際に、また家に行くなど少しばかり話しをした。

女は大抵着物姿なので、別人の可能性はある。

だが斗和は、あの槇寿郎に恋人というのは考えられなかった。

 

そして同時に思ったのは、蜜璃は小芭内と頻繁に会っているということだ。

二人は既に恋人なのではと、疑いたくなった。

 

「あのー甘露寺さん、それは勘違いじゃないですか?道を聞かれたとか、その程度なんじゃ…」

 

「あらだって蕎麦屋の前でよ!?きっとそれまで二階にいたのよ、間違いないわ!それに楽しそうに会話していた気がするもの。だからこの話は煉獄さんの耳にも入れておいた方がいいと思って、言っておいたわ。…あらっ大分話し込んでしまったわね、任務頑張りましょう!じゃあまた!」

 

蜜璃は勝手に捲し立て、勝手に去って行った。

 

(えええ、煉獄さんに言っちゃったの!?)

 

斗和は顔が引き攣った。

蜜璃の行動力には驚かされる。

ただの勘違いというのが濃厚なのに、さすが恋柱である。

 

斗和は、とにかく近いうちに杏寿郎に文を出すことにした。

槇寿郎の恋人は多少気になるが、まずは杏寿郎の今後のことを知っておきたかった。

 

 

その後斗和は足袋を買い、警備へと向かった。

 

 

 

 

────────

───────

斗和が蜜璃と出会う数日前のことだ。

 

杏寿郎は手合わせが終わってすぐ、父・槇寿郎の顔をじっと見た。

 

 

 

杏寿郎は午前中に蝶屋敷へ行った帰り、元継子で同じ柱の甘露寺蜜璃と会った。

蝶屋敷にいるうちは何度か見舞いに訪れていたが、退院後に会うのは初めてだ。

 

体のことや今後のことを一通り話していると、蜜璃の様子に落ち着きがない。

やけにちらちらと杏寿郎を窺い、何かを言いたげにそわそわしている。

何か言い難い話しでもあるのかと、遠慮なく話せと言うと驚くことを口にした。

 

 

『あっ、あのぅ…煉獄さんのお父様は恋人がいらっしゃるんですかっ?これは言っていいかしら…でも…実は…』

 

 

一ヶ月程前に、蕎麦屋の前で槇寿郎が女性と親しげに会話していた。

蜜璃がしばらく見ていると、互いに小さく頭を下げ和やかに別れた。

女性は終始、後ろ姿しか見えなかった。

蜜璃はそれを見て、槇寿郎は蕎麦屋の二階で誰かと逢瀬をしていたのでは?と思った。

 

つまりはこういうことである。

説明の途中途中で蜜璃の擬音満載の反応が入るも、杏寿郎はしかと全容を聞いた。

 

寝耳に水である。

一人捲し立てた蜜璃と別れた杏寿郎は、しばし思考が停止し我に返った。

 

(父上が蕎麦屋の二階で女性と…?いつの間にそのような人ができたんだ!?)

 

杏寿郎は悶々と考える。

帰り際に人目も憚らず親しげに話す女性、つまり別れが名残惜しい程の相手ということだ。

妻を失いかなりの年月が経つ。

だが、あの父にまさかと思った。

 

こうなると気になって仕方がない。

杏寿郎は脇目も振らず自宅を目指した。

 

 

杏寿郎が勢いよく帰宅すると、槇寿郎は千寿郎に稽古をつけていた。

帰ってきた杏寿郎を見て、手合わせを持ち掛けてきた。

 

「ついでだ、手合わせするか?」

 

「はい!」

 

杏寿郎は応じるも、脳内は例の恋人が気になりどうにも身が入らない。

 

"手合わせ中に他のことを考えるのはよくない"

 

これは以前、斗和に対し言った言葉だ。

まさにだと思った。

 

結局、杏寿郎は負けてしまった。

 

鍛錬など、かなりの年数をしていなかったはずの槇寿郎。

だが立ち直ってからは、まるで現役の頃を彷彿とさせる。

杏寿郎が負けたのは今日に限ったことではない。

隻眼の感覚を掴むまでは、父を相手に鍛錬を詰まなければと思った。

 

しかし…と、杏寿郎は大いに訝しむ。

立ち直ってからの現役さながらの動きは、活力に溢れている。

 

(活力…活力!?まさか、やはりそうなのか!父上は蕎麦屋の二階でその女性と…!)

 

「杏寿郎!さっきから何だ!?言いたいことがあるなら言え。これからは真摯に向き合うと告げただろう…!」

 

杏寿郎の無言の圧に気付いていた槇寿郎が、耐えきれず口火を切った。

 

傍にいた千寿郎は、心配そうに2人を交互に見遣る。

 

「父上…」

 

「何だ」

 

「単刀直入に聞きます!意中の相手がいるというのは本当ですか!?」

 

「!?」

 

「兄上!?」

 

三者三様の表情で、しばし無言になる三人。

 

「…甘露寺が見たというのです。一ヶ月程前に、父上が蕎麦屋の前で女性と会っていたと。…随分と親しげだったそうですね?一体どちらの女性なんですか!?」

 

杏寿郎が問い詰めると、槇寿郎は少々たじろいだが反論する。

 

「それは…たまたま道を聞かれただけだ!目的の場所が説明し難いから、少しばかり話しが長くなっただけのこと。親しいなど…おそらく場所が場所だから勘違いしたのだろう。意中の者などいるわけがない!」

 

「そうですか!変なことを言いました。すみません父上」

 

場所が場所?と首を傾げる千寿郎は、どうも二人が怪しいのを感じていた。

 

父の顔はほんの少しだけ赤い。

兄の声色は疑いを含んでいる。

 

兄が生死を彷徨ってから立ち直った父に、意中の相手?

考え難いが、この様子では兄はまだ疑っている。

もし本当にそのような相手がいたとしたら、父は母への想いが薄れたのだろうか。

 

千寿郎は悲しくなった。

 

 

 

 

 

 

(危なかった…!)

 

槇寿郎は、自室で盛大にため息を吐いた。

 

蝶屋敷から帰宅した杏寿郎から妙な視線を感じていたが、まさかあんなことを言われるなど思わなかった。

 

一ヶ月程前に蕎麦屋の前と言えば、謝罪の為に隣町に赴いたあの時しかない。

蓬萊斗和と二人きりで会える場所が無く、苦肉の策で蕎麦屋の二階というのは仕方がないと思った。

だから知り合いに会わないよう、あちらも気を遣い隣町を指定したのだ。

 

だが鬼殺隊の隊士や関係者は至る所にいる。

鉢合わせなくとも、見られていることはある。

 

(まずかったか…)

 

それでも斗和の顔を見られていないのは、不幸中の幸いだった。

万が一見られていたら、言い訳の仕様がない。

 

 

もうあんなところで会うものではないなと、槇寿郎はつくづく思うのであった。

 

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