※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

140 / 190
家族

任務が長引き三日ぶりに我が家に帰ってきた斗和は、風呂に入り汗を流す。

多少疲れはあるが、煉獄家に行く為に身支度を整える。

 

任務前に杏寿郎に文を書いたところ、いつでも来てくれと返事が来た。

間を空けるのもと思い、今日行くことにしたのだ。

 

手ぶらで行くのも憚られ、何度目になるか分からない焼きお握りと糠漬けを持参する。

毎度同じなのはさすがに杏寿郎も飽きるかと思ったが、斗和がまともに作れる物はこれぐらいしかない。

 

道中あれこれ考えを巡らせれば、小さなため息が漏れる。

 

天元達の遊郭潜入任務はいつなのかが、未だに分からないのだ。

 

列車任務から何ヶ月後だっただろうかと、斗和は必死で思い出そうとする。

おそらく数ヶ月後ではないかと思うも、二ヶ月なのかそれ以上なのか。

 

天元には、見舞いに来た時に毒に気を付けろと忠告はした。

炭治郎達にも、同時に首を斬らないと倒せない鬼がいるということは伝えてある。

 

だが、果たしてどちらも記憶しているだろうか。

事細かに伝えることはできなかった。

理由はいくつかある。

まず斗和が、遊郭任務の記憶が朧気ということ。

仮に詳細を口にすれば、斗和は不審に思われる。

ここまではまだいい。

危惧しているのは、それによる歪みや反動だ。

 

天元達が全ての対処法を知ることにより、鬼が戦い方を変えてくる可能性がある。

それにより、もしかしたら天元の嫁達が死ぬかもしれない。

はたまた、一般人が数多く犠牲になるかもしれない。

 

これらを熟慮した上でのことだ。

大して役に立たない忠告だとも思ったが、斗和ができる最大限のことだった。

 

斗和は、遊郭任務に関与するつもりはなかった。

顔に傷があるので、遊女として潜入はできない。

 

 

 

そして何より、足手まといになることを恐れた。

 

四人は重傷を負うが、誰も死なずに上弦を倒すことは確実なのだ。

それに敢えて加わらなくてもと思った。

斗和はその考えは逃げだとも思ったが、関与しないことに決めたのだった。

 

斗和は、その後に起こる刀鍛冶の里襲撃事件も記憶が曖昧である。

玄弥がいたから上弦ノ肆・半天狗は倒せたのと、上弦ノ伍・玉壺は無一郎が一人で倒したような…?

と、結果は知っていても中身を覚えていない。

 

そういえばと、斗和は玄弥はどうしているか気になった。

会いに行きたいと思うも、行冥の所に行く口実がない。

そこで閃く。

蝶屋敷で眠っていた間の任務を請け負った礼をすればいいのだ。

 

明日にでも行こうと決め、斗和は煉獄家へ急いだ。

 

 

 

 

────────

───────

着いて門を叩くと、千寿郎が出迎える。

握り飯の入った重箱を渡すと、顔をほころばせた。

 

「わぁ…嬉しいです。蓬萊さんの焼きお握りはとても美味しいので、兄上も喜びます。ありがとうございます。」

 

「どういたしまして。毎回同じものですが、気に入っていただけて私も嬉しいです」

 

斗和がにっこりと笑うと、千寿郎は深々と頭を下げた。

 

「この前の列車の任務では、兄上を救っていただき本当に感謝しています。蓬萊さんが来てくれたお陰だと、兄上の後輩の方から聞きました。本当にありがとうございます…!」

 

「いえそんな…」

 

千寿郎から、列車の任務での礼を言われ斗和は気付く。

 

(槇寿郎さんとはどんな会話をすればいい?)

 

槇寿郎とは裏で様々あったが、表向きは昔命を救ってくれた礼をし、稽古を頼んだという関係だ。

斗和は、どう接すればいいだろう?と庭に向かう数十秒で考える。

 

「斗和殿!久しいな、息災でなによりだ!任務はどうだ、問題なくできているか?」

 

「お久しぶりです!はい、変わりなく行っています。煉獄さんはすっかり元気ですね、よかったです!」

 

杏寿郎は意識不明の重体だったことも感じさせず、すっかり元気になっていた。

斗和は、眩しい程の笑顔に元気が湧いてくる。

杏寿郎から好きだと言われ、気持ちには応えられないと正直に告げた。

気まずくなりそうなところだが、以前と変わりなく接してくれている。

本当にありがたいと斗和は思った。

 

「…来客か?」

 

その時、縁側に槇寿郎が現れた。

 

(おっと!対応に気をつけなくちゃ)

 

「父上!蓬萊斗和さんです。今日は手合わせに来てくれました」

 

「そうか…。君には杏寿郎が世話になった。感謝している、ありがとう。…それと、以前はあのような態度ですまなかった。詫びにもならんが、何か俺にできることがあれば言ってくれ」

 

槇寿郎は正座し頭を下げた。

 

斗和は彼は演技が上手いな、などと思っていると三人の視線が集中する。

慌てて口を開いた。

 

「いえっそんな、私は大したことはしていませんよ!煉獄さんが強いからです。以前のことは気にしてませんから…あ、じゃあ私に稽古をつけて下さい。お願いします!」

 

「承知した。庭でいいか?」

 

「はい!」

 

 

 

 

◇

そして言葉通り二人は手合わせした。

縁側では杏寿郎と千寿郎が見ており、斗和はかなり緊張した。

 

それは槇寿郎もで、女を相手にしたことがなく非常にやり難かった。

結論、傍目から見てもぎこちない稽古だった。

 

 

 

斗和は千寿郎の淹れた茶を飲み、ふーっと息を吐く。

 

(なんかやり難かったな)

 

十四歳の時に鬼から救って貰った。

その剣捌きは間近で見たが、相当に驚いた。

間髪入れずに斬って斬って、相手に反撃させる暇を作らなかったのだ。

当時斗和は気付かなかったが、あれは炎の呼吸の型であった。

 

斗和は全ての型を知らないので、せっかくなので見たいと思っていた。

だが槇寿郎は一切撃たなかった。

やさぐれ期間が長かった割には相当動けており、再び隊士として任務に出ても問題なく見える。

(槇寿郎さんが隊士に復帰したら二人で同じ格好をするのかな?間違えたりして)

 

斗和は想像して顔がにやける。

目の前では杏寿郎と槇寿郎が手合わせをしており、やはり似ていた。

 

杏寿郎は隻眼と思えず、力強くしっかりとした太刀筋、無駄のない動きである。

同時に技を出さないかと思いしばらく見ていると、斗和の疑念は確信に変わった。

 

槇寿郎の動きが先程と違うのだ。

 

(槇寿郎さん、私に手加減したな?)

 

なぜなら木刀は、斗和の体に一度も当たらなかった。

そもそも力を抜きながら打っていたと感じていた。

斗和は遠慮なく打ち込んだのだが、それで勝っても嬉しくなかった。

 

(どうして手加減なんてするの!)

 

口を尖らせ、槇寿郎を睨む。

 

同じ中年男性でも、斗和の育手は違った。

泣こうが吐こうが容赦せず、諦めると稽古をつけなくなるのだ。

なので斗和は、何があろうと立ち向かって行き相当に鍛えられた。

この差は何なのだろうと思い、更に二人の手合わせをじっと見る。

 

その横で、千寿郎は悩んでいた。

あのことを斗和に聞いていいものかどうか。

思い切って声を掛ける。

 

「蓬萊さん、聞いてもいいですか?」

 

ひたすらに二人の手合わせを見続ける斗和は、横を向いた。

隣で千寿郎が、下がり気味の眉尻を更に下げている。

 

「何ですか?」

 

「あの…蕎麦屋の前で話しをするのはよくないのですか?」

 

(蕎麦屋の前?)

 

斗和は首を傾げる。

最近この言葉を甘露寺蜜璃から聞いたばかりだ。

千寿郎はなぜそんなことを聞いてくるのか。

 

斗和はハッとした。

蜜璃は、杏寿郎に槇寿郎の恋人疑惑を話したと言っていた。

杏寿郎はもしかしたら、千寿郎もいる時に槇寿郎にそのことを聞いた可能性がある。

そうでなければ、千寿郎が蕎麦屋の前などという単語を出すはずがないのだ。

 

瞬時に理解した斗和は、誤魔化すしかないと思った。

そもそも誤解なのだが、真実を話すわけにはいかない。

 

「それはお腹が空くからですよ!蕎麦屋の前で話しをしたらいい香りが漂ってくるので…。よくないわけではないですが、財布を持っていない時は困りますね」

 

「そのようなことではなく、男女で話すのはいけないのかと思いまして。場所に何か問題があるのでしょうか?」

 

千寿郎は眉尻を更に下げて聞いてくる。

なんて幼気な目なんだ、と斗和はタジタジになった。

まだ成長途中の千寿郎に何と言えばいいのか、陳腐な誤魔化しは効かないと悟る。

しかしどうやって誤魔化せばいいのか。

 

「…それは、その、いけないことではないです。実は蕎麦屋の二階はお見合いの場に使われているのですよ。ですからお見合いが終わった男女が、別れ際に蕎麦屋の前で今後の話しをすることもよくあるんです」

 

我ながら素晴らしい嘘だと、斗和は内心で頷く。

これなら問題ないとそう思い千寿郎を見れば、眉尻をこれでもかというくらい下げて悲しそうにしている。

 

「ど、どうしたんですか!?」

 

「実は先日兄上が、甘露寺蜜璃さんから聞いたのです。父上が…蕎麦屋の前で女性と会話をしていたと。それを父上に聞いたら…」

 

斗和は、途中から大して話しが入って来なくなった。

失敗である。

見合いの場などと言えば、益々怪しむに決まっている。

 

否定した槇寿郎の顔は少し赤かったので、怪しい。

杏寿郎も、表向きは納得したように見せて裏では疑っている。

千寿郎の見解はこうだった。

 

(千寿郎君は観察眼が鋭いのかな?ああ騙してるみたいで罪悪感が…実際騙しているけど)

 

斗和はザワザワと胸の奥が騒がしくなる。

こんなことになるなら、あんなところで会わなければよかったと思った。

安堵したせいか帰りもつい一緒に出てしまったので、何も考えていなかったのだ。

 

(皆に迷惑かけて…私ってば最低…)

 

「蓬萊さん!?涙が出ていますよ!俺、何かおかしなことを…」

 

慌てる千寿郎に、斗和は手を振り否定する。

 

「ち、違います!千寿郎君のせいではなくて、その、えっと…煉獄さん!煉獄さんが今まで同様に刀を振るっていることが嬉しくて…!」

 

(違う、いや違わないけれど!それも嬉しいけれど今はそうではなくて、ああもう私はどうしたら…)

 

「斗和殿!?どうした!なぜ泣いている?」

 

騒ぎを聞きつけ、二人は手合わせを中断し縁側に駆け寄った。

 

「これは嬉し涙です!煉獄さんが刀を振るう姿に感動したんです…」

 

斗和は涙を拭いながら言い訳をする。

 

「泣けば目が腫れる。冷やした方がいい。千寿郎、濡らした手拭いを」

 

「はい!」

 

槇寿郎は、手拭いを濡らしてくるよう指示した。

随分気が利くんだなと思い、斗和は礼を述べた。

 

「お気遣いありがとうございます、槇寿郎様」

 

「む!」

 

いきなり杏寿郎が声を張り上げた。

 

「なぜ父上のことは名前で呼ぶ?」

 

「え、だめでした?煉獄さんのお父さんと呼ぶのは長いし、ならお父上様?お父様?さすがにおじさんは失礼ですし…」

 

斗和は、うーんと悩む。

 

(おじさん…)

 

聞いていた槇寿郎は、僅かに顔を引き攣らせた。

おじさんと呼ばれるのは何となく嫌だった。

 

「そうではなく、千寿郎も父上も名前で呼ぶなら俺のことも名前で呼んで欲しい」

 

杏寿郎は大きな双眸で斗和を見つめている。

斗和がしばし何も反応できずにいると、千寿郎が戻って来た。

 

濡らした手拭いを受け取り目に当てれば、杏寿郎からの視線を感じる。

定着しているので、今更名前で呼ぶのは慣れないなと思った。

しかしそれでは杏寿郎が納得しそうにない。

斗和は渋々ながら、口を開く。

 

「では…杏寿郎さん、でいいですか?」

 

「ああ!そうしてくれ」

 

「杏寿郎、彼女にあのことは話したのか?」

 

黙ってやりとりを聞いていた槇寿郎が口を開く。

 

「まだです。…斗和殿、実は俺は柱を引退した」

 

「そう、なんですか…?」

 

驚く斗和に、杏寿郎は頷いた。

 

「やはり隻眼では今まで同様とはいかない。任務にも支障をきたす。今後は隊士に稽古をつけ、育成に尽力を注ぐつもりだ」

 

「そうなんですね…。杏寿郎さんが隊士の稽古をつけるなら、皆必ず強くなります。鬼殺隊を支えていただき、ありがとうございます」

 

斗和は、杏寿郎の言葉に込められた意志を感じ取った。

隻眼でも大丈夫だと思っていただけに、残念であった。

だが、斗和が何もしなければ、杏寿郎はその通りに死んでいた。

命があり、動けることは幸せなのだ。

そしてバラバラだった親子が、また共に歩んで行くようになった。

 

この上ない幸せだ。

 

斗和は三人に笑顔を向けた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。