杏寿郎から今後の話しを聞いている最中のことだ。
玄関のあたりが騒がしくなり、皆が顔を向けるとぞろぞろと三人組がやってきた。
炭治郎、善逸、伊之助である。
(…まずい)
斗和は、煉獄家に来たのは失敗だったと思った。
三人は列車任務を通じ、杏寿郎を慕っている。
柱を引退した杏寿郎に稽古をつけて貰っているのは、容易く想像できたはずなのだ。
斗和は、不安要素が無ければこうして会うのは喜んだ。
だが気掛かりがある今は、この三人に会うのは避けたかった。
五感が鋭い彼等と一緒にいるのは、誤魔化せない。
斗和は、どうすればこの場から去れるか素早く考える。
「こんにちはー!煉獄さん、今日も来ました」
「勝負だ!今日こそ勝つ!」
「ううう、禰 豆子ちゃんが見ててくれるなら俺は頑張れると思う…」
相変わらず個性の強い三人は、杏寿郎達に挨拶し賑やかだ。
槇寿郎は早くもゲンナリしている。
「おっさん、今日こそはぜーったい勝つからな!」
伊之助は槇寿郎に稽古をつけて貰っており、勝つことに躍起になっていた。
「嘴平、お前は脇が甘くなる癖を直せ」
「伊之助さんの二刀流はなかなかできませんから、俺は見ているだけでも刺激になります」
千寿郎の言葉に気を良くした伊之助は、ササッとどんぐりを取り出す。
「分かってるじゃねえか!よーしこのツヤツヤのどんぐりをやろう!おっさんも欲しいか!?」
「いらん」
槇寿郎は即答し、厠へ行くと玄関へ向かった。
「わあ大きいどんぐりですね!」
「このどんぐりは子分にしかやらねえからな、ありがたく受け取れ!」
わいわい騒がしい伊之助達の横で、炭治郎が斗和に近寄る。
「蓬萊さん!お久しぶりです。任務に復帰しているんですか?」
「どうも、お久しぶりです。そうなんです。私は軽傷でしたから、退院して割とすぐに任務には出ました。皆さん元気そうで何よりです」
斗和は、至極普通に挨拶をし返す。
内心どうにかこの場を去れないものかと必死で考えているが、この気持ちさえ炭治郎には気付かれるのではと思った。
「俺達、任務の合間に…」
炭治郎が言い掛けたその時だった。
鴉が飛んで来て羽根をばためかせる。
「任務!任務!西ノ外レ、関所ヘ急ゲ!」
(令和!)
「任務か!」
「そのようです。半端なところで申し訳ありませんが、私はこれで失礼しますね」
突然入った任務に、斗和は挨拶もそこそこに煉獄家を出る。
斗和が、先を行く鴉の令和を追いかけようとした時だ。
「斗和さん!…待って下さい!」
「我妻君…!どうしました?」
呼ぶ声に振り返れば、善逸がいた。
まさか追いかけて来るとは思わず、斗和は平常心を保つのに必死になる。
「あの…言うべきか迷いました。蝶屋敷で会った時は俺の勘違いかもって思った。…だけど、今日会って間違いじゃないと確信しました…!」
善逸はいつも見せる情けない顔ではなく、真剣だった。
斗和はドクドクと動悸がし始める。
「斗和さん…心臓が悪いんですよね?」
「………」
斗和は黙って善逸を見つめた。
「俺は病気の事は分からないけど、斗和さんの心拍は明らかに乱れてる。雑音も混ざってるし、何より…!」
「我妻君、もういいですよ」
その先を遮り、斗和は首を振る。
「以前より酷くなっている、そうでしょう?」
「気付いてたんですか!?なら何で、このままじゃ…!」
善逸は悲痛な表情で眉尻を下げた。
「誰にも言わないで下さい。どうかお願いします!私は鬼を倒す為に鬼殺隊にいます。ここでやめるわけにはいかないんです。だからどうか内密に!…では」
終始困惑していた善逸を残し、斗和は先を急いだ。
(ばれていた…)
斗和はぐっと下唇を噛んだ。
蝶屋敷で、三人が見舞いに訪れる前に退院すべきだったと後悔する。
耳がいい善逸に会うのだけは避けたかった。
斗和は己の行動を悔やむ。
だが、いつかこうして煉獄家で会うことにはなったのかもしれない。
それでも口止めはできた。
(胡蝶さんと善逸君…大丈夫、これ以上ばれはしない。このまま堪えればなんとかなるはず…きっと…!)
斗和は、拭い去れない不安を抱えながらも走った。
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斗和は、自宅の縁側で鴉の令和を眺めていた。
先ほど煉獄家で告げてきた任務は、令和の吐いた咄嗟の嘘だったのだ。
煉獄家を出て最初は西に向かっていたが、途中からいつもの帰路に合流したので驚いた。
任務は!?と声を張り上げれば「嘘モホーベン!嘘モホーベン!」と言うので、斗和はしばし呆然としてしまった。
令和は斗和の気持ちを察したのか。
あの場にいたくない、去りたいとなぜ分かったのか。
こんなことは今まで一度たりともなかった。
任務伝令以外は全く喋らない鴉だが、主の思いを察して助けたのだ。
こんなに気の利く鴉は他にいるだろうか。
令和は誰より斗和と共にいる相棒だ。
斗和はじわりと涙が浮かぶ。
「令和…ありがとう」