※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

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21歳⑧【決断】
音柱邸にて


列車任務から約四ヶ月後。

 

上弦の鬼を百年以上ぶりに撃破したというその朗報は、鬼殺隊を一気に駆け巡った。

 

仮眠後に一人鍛錬していた斗和は、鴉の令和が告げたそれについにと思った。

いつ起きるか不明だった遊郭潜入任務は、あの列車任務から四ヶ月後だったのだ。

 

天元や嫁達、そしてあの三人と禰 豆子はどうなったのか。

 

斗和は、彼等にできる限りの情報は伝えた。

四ヶ月前の入院中に、天元には毒に気をつけるように。

更に炭治郎達には頸を斬るのは同時に。

しかし、そこから間も開いたので忘れてしまった可能性が高い。

 

とにかく無事と状態を確かめたいと思った。

天元と斗和は同期であり、それを理由に会いに行ける。

土産はどうするか。

天元の好物は知らない上、嫁達もいるので手頃な甘味にしようと決める。

 

まだ療養中のはずなので、少し間を開け一週間後に行くことにした。

 

 

 

 

 

────────

───────

そして一週間後。

みたらし団子と豆大福を購入した斗和は、音柱邸へ向かった。

 

野菜をお裾分けするべく何度か足を運んだが、柱の屋敷は斗和の家と違いかなり大きい。

何せ斗和の家は、家屋より畑が広い変わった作りだ。

そこで荒れ放題になった畑を思い出し、ため息が出る。

 

門を叩いて呼ぶと、以前斗和を芋柱と呼んだ須磨が出てきた。

 

「あ!芋柱様じゃないですか!お久しぶりです、こんにちはー!どうぞ入って下さい。さっき炎柱様も来たんですよ」

 

杏寿郎が来ているという偶然に、斗和は胸が躍る。

前回手合わせに煉獄家に行った時は、結局できなかった。

今日して貰おうかと一瞬考える。

だが目的は手合わせではない。

まずは天元の状態を確認しなければ。

斗和はそういえばと、須磨を見つめる。

 

なぜ須磨は、未だに斗和を芋柱と呼んでいるのか。

斗和は芋柱ではない。

そして柱でもない。

天元は嫁達に教えていないのだろうかと、斗和は首を傾げた。

 

「どうかしましたかー?」

 

「あ、いえ。そうだこれ、みたらし団子と豆大福です。遊郭への潜入捜査、大変お疲れ様でした。本当に頭が下がる思いです」

 

斗和が言葉通り頭を下げると、須磨は"いやそんなぁ"と照れる。

雛鶴とまきをはそれぞれ買い出しに行っており、不在だった。

 

斗和は玄関から中に入ると、長い廊下の先に通された。

 

「天元様ー!芋柱様が来ましたよー!」

 

お茶持ってきまーすと、須磨はいなくなる。

 

「失礼します…!宇髄さん、煉獄さ…っと、杏寿郎さんもお久しぶりです」

 

前回杏寿郎からは、下の名前で呼んで欲しいと言われていた。

しかし長年の呼び方が定着しており、斗和はなかなか癖が抜けないでいる。

 

どうにもしっくりこないと思いながらも、脳内で"杏寿郎さん""杏寿郎さん"と呟く。

 

「斗和殿!」

 

「おー久しいな、座れ」

 

斗和は杏寿郎の隣に腰を下ろし、さり気なく天元を見る。

左目に眼帯をしているが、左腕も右腕も無事に確認できた。

着流しから両手が見えて、安堵の息が漏れる。

 

「なんだよさっきからじろじろと、…ん、んー?蓬萊、お前…」

 

天元は雰囲気が変わったな、と言おうとして遮られる。

 

「ちょっと宇髄さん、聞きましたよ!上弦ノ陸を討伐したそうですね!本当によかったですね!左目は残念ですが、元気に戻られ安堵しました」

 

「おう。まああいつら…竈門に我妻に嘴平、知ってるだろ?あいつらのお陰だ。あと竈門の妹も。今回は嫁達にも苦労かけたし、かなり骨が折れた任務だったぜ」

 

天元は安心したような穏やかな顔をしている。

斗和は、素顔はやはり美形だなと思った。

気になるのは、今後どうするかだ。

物語では、隻腕にもなり柱を完全に引退した。

任務にも出ておらず、最終決戦で輝利哉の護衛を槇寿郎と共に務めていた。

 

「竈門少年達とは、俺も先の任務で一緒だっただろう?今その話しもしていたんだ」

 

杏寿郎は斗和に顔を向ける。

 

(そうか、この二人はその点で共通しているんだ)

 

斗和は成程と頷く。

そして二人が着流し姿なことに気付く。

斗和は、自分だけが野良着隊服なのを恥ずかしく感じた。

 

「芋柱様、お茶どうぞ!」

 

そこへ須磨が茶を持って来た。

 

「芋柱様から、みたらし団子と豆大福を貰いました!」

 

皿に置いた豆大福を素早く出すと、須磨はまたいなくなった。

天元からどうもな、と言われる。

杏寿郎がいると知っていたら芋羊羹も買ったのにと、斗和は思った。

 

「ところで芋柱とは斗和殿のことか?」

 

杏寿郎が不思議そうに斗和に目を向ける。

 

(あー気付かれた…)

 

斗和が天元の方を見ると、にやけている。

また変なことを言うつもりだなと、斗和は警戒した。

 

「いやあ、こいつ隊服は野良着だし手拭い被ってるし、田舎から出てきた芋娘みたいだろ?だから最初は芋娘って呼んでたんだよ。そしたら柱になって、じゃあ芋柱だよなって嫁達と話してたんだわ」

 

天元は斗和の昔の姿でも思い出したのか、途中から笑っている。

 

「杏寿郎さん、どう思います?宇髄さんはいつも私のことをからかうんです!」

 

「芋柱なら芋の呼吸になるぞ!」

 

杏寿郎は心做しか楽しげだ。

 

「そうなんですよ、壱ノ型は蒸かし芋かなって」

 

「そうなると弐ノ型は焼き芋か?」

 

さすが、さつまいも好きならすぐに出てくると二人は笑う。

 

「お前らそれ調理方法だろ。俺の腹筋を崩壊させる気かよ!」

 

天元は、斗和と杏寿郎を見ながらかなり笑っている。

斗和は心外だった。

芋娘はいいとしても、芋柱はさすがにおかしいのである。

そもそも柱を退いているので、柱と呼ばれるのは困るのだ。

 

「あの、でも芋柱と呼ぶのはさすがに。私はもう柱ではないですから、お嫁さん達に訂正して下さいよ」

 

「ああそれ、お前が来たのはちょうどよかった。さっき煉獄とも話したんだが、俺は柱を引退した。煉獄も引退してるだろ、それで…」

 

 

 

斗和は驚いた。

なんと、柱に復帰して欲しいと言われたのだ。

二人は耀哉とも相談して了承を得たらしく、是非に頼みたいと言われた。

 

それだけは引き受けられなかった。

柱を受けた頃の昔ならば頷いたかもしれない。

だが今はもう無理だった。

 

既に斗和には、柱の力はない。

 

今の任務と警備でさえやっとの状態なのだ。

柱に復帰など到底絶対にできなかった。

斗和が悩んでいるように見えたのか、天元が口を開いた。

 

「伊黒の奴が柱の穴埋めがどうたらネチネチうるさくてよ。蓬萊は前から警備もしてるし、柱を退いても実質柱同様に任務もこなしているだろ?実績のあるお前が復帰してくれりゃあ俺達も安心だからよ」

 

「分かりました…少し考えてからお館様に返事をしますね」

 

斗和は二人の前でこう言うしかなかった。

はっきりできませんと告げるのも忍びなく、だが本当にもうできないのだ。

 

(もう、本当に…)

 

斗和は落ち込む。

自分がこんなでなければもっと役に立てた。

そう思えば思う程、いたたまれなくなる。

 

斗和はぼんやりと目の前の豆大福を見つめた。

せっかくだから食べようかなと、豆大福に手を伸ばす。

 

「いただきます」

 

程よい豆の甘さと餡が口に広がる。

 

それを見た天元と杏寿郎も、斗和の持ってきた豆大福に口を付ける。

 

「そういやお前、焼きお握りが得意らしいな?さっき煉獄から聞いたぜ」

 

天元が思い出したように聞く。

 

「斗和殿の焼きお握りは本当に美味いぞ。いくらでも食べられる」

 

「そうですか?なんだか恥ずかしいです。あれは鬼殺隊に入ったあたりに、長屋の主婦から聞いたんですよ。他にもいろいろ教えて貰いました」

 

斗和は茶を呑みながら、懐かしいなと当時を思い出す。

修行時代から炊事を担ってきたが、斗和は基本的に料理は苦手だった。

田舎にいた時は、飯の支度をするよりも農作業ばかりしていた。

それもあり、台所に立つのは嫌いだった。

 

「へぇ。じゃあこーいう大福なんてのも作れんのか?」

 

「いやそれが…甘味は全く。難しいんですよ。作れるなら作りたいですけどね」

 

苦笑いする斗和に、杏寿郎は以前芋羊羹を貰ったことを思い出す。

あれは明らかに手作りだった。

以降は店から購入した物を貰っているが、斗和は作らないだけで作れるのではと思った。

 

杏寿郎は、斗和への想いを完全に消化したつもりだった。

だがこうして近くで話しをすれば、抱いていた想いが再び湧き上がる。

蝶屋敷で告白の返事を聞いた時、斗和が拒絶しなければ口付けていた。

触れ合う寸前まで近付いた口唇。

杏寿郎は、豆大福を頬張る斗和の口に釘付けになった。

 

白い粉が口唇のあちこちに付着しており、思わず指摘する。

 

「…斗和殿、唇に粉が付いている」

 

「えっ!やだどこですか?」

 

斗和は、杏寿郎の方を見た。

 

(やだ恥ずかしい!)

 

早く取らなければと、舌で唇を舐めながら指でも擦る。

ふと杏寿郎を見ると、目を見開いたまま固まっていた。

 

「あの、杏寿郎さん?取れました?」

 

「…あ、ああ。もう取れた」

 

杏寿郎の顔は少し赤く、斗和は部屋が暑いのかと思った。

 

 

それから斗和は、炭治郎達は今入院中だと聞かされた。

禰 豆子の能力は、今後の重要な鍵になるとのことだった。

 

そのうちに杏寿郎が、槇寿郎と稽古をするからそろそろと切り出し帰って行った。

 

私もと斗和が腰を上げると、天元から話しがあると言われた。

 

嫌な予感がすると思った斗和だが、的中する。

 

「俺が見舞いに行った時のこと覚えてるか?同期の勘だとか言って毒に注意しろと…すっかり頭になかったんだけどよ。上弦との戦闘で毒を使われて思い出したんだわ。結果的に毒は喰らっちまったがな。お前の勘は本当に当たるんだな?」

 

天元の右目が斗和をじっと見据える。

 

「あの時宇髄さんの顔を見たら、なんだか毒を喰らう予感がしたんです。ただそれだけですよ」

 

斗和は我ながら苦しい言い訳だと思うも、どうしようもない。

 

「へぇ、そーかよ。ならもう一つ聞くが、あいつらに鬼の頸を同時に斬れと教えたそうじゃねえか?」

 

「私、そんなこと言いました?確か様々な鬼がいて血鬼術も多種だから、用心に越したことはない…という話しをした気がしますけど」

 

正面からの射抜く視線を感じながら、斗和は思い出すふりをした。

 

「煉獄の任務に隠れて同行したのも気になってはいたが…蓬萊、お前何を知っている?何か隠してねえか?」

 

「何も隠していませんよ。長年の同期を疑うんですか?」

 

斗和は天元の右目を見据える。

全ての行動は、疑われるのを承知の上でだ。

杏寿郎は追及して来なかったが、しのぶ同様に不思議に思ってはいるはずなのだ。

天元が不審に思うのも当然だった。

 

だが斗和は、何も話すつもりはない。

耀哉以外に知られるわけにいかないのだ。

 

(このまま引いて…お願い)

 

すると天元は、フッと表情に力が抜ける。

 

「まあいい。お前が何を知っていようが、多少なりとも俺も煉獄も助かったのは事実だ。感謝するせ、蓬萊。…それにしても、数ヶ月見ないうちに変わったな!」

 

やけにニヤニヤする天元だが、斗和には心あたりがない。

野良着隊服も頭の手拭いも昔から変わりない。

 

「何がですか?」

 

「もう芋娘とは呼べねえな。相手は煉獄かと思ったが、あの反応じゃ違うようだ」

 

(あの反応?相手は煉獄さんかと思ったって何…?)

 

斗和は、天元が何を言っているのかさっぱり分からない。

 

「あの、さっきから何を言っているのかよく分からないんですけど…」

 

天元は斗和を凝視し何か思案しているので、もう帰ろうと立ち上がろうとした。

 

「…不死川」

 

「!」

 

その名前に、斗和は思わず止まってしまう。

「へぇ、なるほどねぇ」と呟く声が聞こえた。

 

「私、帰ります!では」

 

斗和は、天元を見ずに部屋を出て帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 

帰り道、斗和は顔が赤くなっていた。

 

"不死川"と言われ、つい反応してしまった。

 

なぜ天元は自分たちのことを知っているのか。

次会ったら、またからかわれそうだなと思うのであった。

 

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