※この作品はR-18です。

野良着の隊士・改編   作:いとめ

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残された時間

音柱邸から帰宅すると、斗和は早速私室に入り筆を取る。

 

杏寿郎と天元、二人から柱への復帰を進言された。

それについて耀哉に文を書くのだ。

二人の手前、斗和は悩んでいるように見せたが、実際は悩むこともなく決めている。

 

斗和は、柱に復帰する気は毛頭無かった。

 

それどころか、斗和にはもう柱の力が無い。

今まで行っていた柱同様の任務には行けないと思っていた。

本来はもっと早くに文を出すべきだった。

だが斗和は、まだできると過信していた。

 

もう体が追い付いていないのである。

 

警備はできても、確実に鬼を倒さねばならない任務をこなすのは限界だった。

 

耀哉はどう思うのか気になった。

病だと弱音を吐くことを許してくれるだろうか。

斗和は考え込み、持った筆が動かない。

 

耀哉の病は進んでいた。

目はもう見えておらず、斗和の文はあまねに読んで貰うことになる。

 

耀哉には昨年、今後のことを一通り話してある。

自由に動いていいと言われているので、斗和は杏寿郎を助ける為に行動した。

 

近いうちに無惨は倒され平和な世になる。

斗和は今後、自分にできることは何もないと思っている。

だが、斗和の存在理由は鬼殺隊にしかないのだ。

 

犠牲があったからこそ、平和が訪れるのは分かっている。

やはり斗和はつらかった。

 

斗和は様々考えながら文を書き、鴉の令和に届けさせた。

 

列車任務の後から、斗和は蝶屋敷へ行くことが増えた。

 

それまで数える程度しか行くことのない場所だった。

だが明らかに負傷が増えている。

見知った隊士に会わないように、柱に会わないように。

斗和は、そればかり考える日々に嫌気が差していた。

 

体のことは、斗和自身が誰よりよく分かっている。

鬼と対峙する度、以前のように動けない現実に直面していた。

それでも、葛藤しながらも前を見続けている。

ここまで来て後戻りはできなかった。

そして、するつもりもなかった。

 

変化に気付かれるのを恐れ、実弥にはなるべく会わないようにしていた。

 

斗和は実弥と恋仲になってから、手合わせすることがなくなった。

実弥は、体を重ねている相手と刀を交えることを避けていた。

斗和にとっては都合がよかった。

弱くなった姿を見られずに済んでいる。

 

だが、裸になれば隠せない。

実弥との手合わせはなくなったが、その代わりというのか交わることが増えた。

互いに多忙の身なので、会える日は必ず求められるのだ。

包帯が増える度に、弱くなったことを指摘されるのではないかと怯えてばかりいた。

 

なので斗和は、長期任務だとか後輩に稽古をつける約束をしただとか、あらゆる手を使って避けていた。

実弥とは鴉を使ってやりとりをし会っている為、突然来るということもない。

 

それでも全く会わないわけにはいかず、実弥に求められれば嬉しく幸せだった。

斗和は、実弥の為ならばと苦手な料理も作る。

上達しない料理でも、必ず完食してくれた。

 

情事の最中に愛してると何度も囁けば、実弥は俺もだと柔らかに笑う。

顔に傷があろうがお前は綺麗だと、泣きたくなるくらい嬉しいことを言う。

傷口が開かないよう、気を遣う実弥が優しすぎて泣けてくる。

 

そんな実弥を、斗和はどうしようもなく愛しく想っていた。

 

本当は毎日でも会いたいのだ。

実弥の逞しい胸板に抱き着き、目一杯甘えたいと思う。

 

だが、傷が増える度怖くて会えなかった。

 

斗和は不安に押し潰されそうな、葛藤する毎日が続いていた。

 

 

 

 

斗和は徐々に動きが鈍くなっていた。

速く動けず、技が撃てない。

手こずるはずのない鬼に苦戦する。

 

とはいえ丙未満の隊士よりは遥かに強い。

だがそれは、あくまで一般隊士と比べればである。

実弥ら柱と肩を並べていた斗和にとっては、かなり弱くなったと感じていた。

 

斗和は柱を退いてから、階級を確認することをしなかった。

衰えを感じるようになってからは特にだ。

はっきりと字を見てしまえば、精神的にも追い詰められると思った。

 

少し前に、耀哉に柱復帰を辞退すること、警備と任務についてを要望した。

それ以来、基本的には警備だけになった。

任務も入るが、それ程多くはない。

鬼が出なければ、隠や他の隊士と接することがないので安堵していた。

 

 

 

───────

──────

任務明け。

背中に負った打撲の治療を受けるべく、斗和は蝶屋敷に赴いた。

左腕も斬られたが、それは大したことはなかった。

 

傷の処置はアオイがした。

相変わらずのてきぱきとした仕事ぶりで、斗和は見ていて感心した。

腕の治療が終わり、少し待てと言われる。

すると、しのぶが現れた。

斗和にとっては会いたくない人物でもある。

だが蝶屋敷はしのぶの屋敷だ。

不在の方が少ない。

 

「背中の打撲だそうですね。見せて下さい」

 

有無を言わさぬ圧に、斗和は小さくはい、と答えながら後ろを向いた。

隊服を脱ぎ、サラシを取る。

軟膏か何かが患部に塗られるも、ふとしのぶの手が止まった。

 

「…少し痩せましたね。一回り小さくなったように見えます」

 

「………」

 

斗和は何も言えなかった。

前より鍛錬することが減り、筋肉量が落ちたのである。

 

そのまま聴診器を当てるしのぶは、正面を向いて下さいと指示する。

従うと、胸に当てられる。

脈をとられた後に、もういいですよと言われた。

 

何も言わず、このまま帰らせて欲しい。

斗和はそう強く思った。

目の前のしのぶは机に片手を置き、一点を見つめている。

彼女を悩ませることはしたくないと、斗和はやっと口を開いた。

 

「…そんな顔しないで下さい。私などに気を揉む必要はありません」

 

極めて明るく振る舞うと、しのぶは真剣な眼差しを斗和に向ける。

 

「…少しずつではありますが、やはり悪化しています。すぐに刀を置いて、悔いなく生きて下さい」

 

「刀を置いたら悔いしか残りません。…胡蝶さん、分かるなら教えて下さい。…あとどのくらいですか?」

 

斗和の問い掛けに、しのぶはぐっと堪え顔を歪める。

 

「…おそらく…もって半年程です。しかし、呼吸法を通常に戻さなければいつどうなるか分かりません。突然心臓が止まる可能性もあるんです。生きる要なんですよ、心臓は。今こうして刀を振るえているのが奇跡なくらいなんです…!」

 

「…分かりました、ありがとうございます。引き続き内密にお願いしますね。この先も治療ばかりさせると思いますが、どうかよろしくお願いします」

 

深々と頭を下げ、斗和は部屋を後にした。

しのぶの顔は一切見なかった。

 

 

 

斗和は、蝶屋敷を出た曲がり角でしゃがみ込んだ。

衝撃で力が抜けてしまった。

 

【突然心臓が止まる可能性もある】

 

突きつけられた現実に、呆然となった。

 

それ程に弱くなっていたのかと愕然とする。

斗和は、体の状態から大体の予想はつけていた。

もって半年ならば、それ以内に無惨は倒せるのか。

 

斗和は必死で記憶を辿る。

 

次はあまり間を空けずに、刀鍛冶の里の事件が起きる。

もしかしたら、既に起きている可能性も考えられた。

 

その後に緊急柱合会議があり、柱稽古をして産屋敷邸が爆破される。

そのまま全隊士は無限城に吸い込まれる。

翌日には無惨が倒されるわけだが、問題は柱稽古だ。

斗和にはその期間が分からないのだ。

一ヶ月なのか二ヶ月か、はたまたそれ以上なのか。

 

とにかく時間がない。

 

無限城まで、一日でも長くもたせたかった。

最終決戦ではどこかで役に立ちたい。

それは、斗和の最後の足掻きだった。

これまで斗和は、違う行動をすることの反動を気にしていた。

だが最終決戦では、命を賭して一人でも多くの隊士を救いたいと思った。

役に立ち死ねるならば本望だった。

 

斗和は、町医者に告げられた時から薄々気付いていた。

 

 

心臓が長くもたないことを。

 

 

既に目的は果たしている。

あとは最終決戦のどこかで、鬼殺隊として最期を迎えられればよかった。

だが、突然止まる可能性があることを考えなかった。

徐々に、いずれ…それは甘い考えだったのである。

 

(突然心臓が止まるかもしれないなんて…もしそうなれば…)

 

 

 

斗和は悲しげに空を見上げた。

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