再会
(もうすぐ十五歳か…)
斗和は暦を見て思い出す。
誕生日をうっかり忘れるところであった。
数日前、斗和は思い立って拳を握り締めた。
すると浮き上がる己の文字に、うーんと首を傾げた。
乙に似ているが明らかに違う。
(おのれ…?階級・おのれ?何か変…)
上から何番目なのかも分からない。
斗和は相変わらず甲乙丙までと、一番下の
階級は強さの値であるが、柱になるまでの道程はまだまだ遠い。
斗和は柱になるつもりはないが、柱のようにに強くならなければ目的を達成できないと分かっている。
むしろ無惨並に強くならなければ倒せない相手だ。
(退けるだけでも相当厳しいのに、倒すことができるの?こんなちっぽけな私にできるのかな…)
考え始めると深みに嵌っていく。
斗和はこのところ、悩みが尽きなかった。
誰かと接触しなくては先に進めないのだが、これがなかなか会わないものだった。
杏寿郎の父・槇寿郎からは、文の返事も貰えないままだ。
共同任務はあっても見知った顔はいない。
鍛錬場に行っても知らない者ばかり。
失敗したか…と、斗和は今更ながら後悔していた。
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斗和は任務帰りの朝、帰り道にある共同鍛錬場に寄った。
疲労はあったが、先程の任務で土の呼吸の新たな型を出せそうだった。
その感覚を忘れない為に、再度と思ったのだ。
斗和は、普段は一般隊服で共同鍛錬場に来ていた。
だが今日は任務帰りなので野良着隊服だ。
どうにも居心地の悪さがあったが仕方がない。
広い鍛錬場には井戸や休憩所など完備されており、隠が管理しているので至れり尽くせりだ。
このあたりはさすが産屋敷家というべきか。
まずは顔を洗おうと、井戸を使っていた時だった。
ふいに後ろから声を掛けられる。
「蓬萊…?蓬萊だろ?」
斗和が濡れた顔のまま振り返ると、一人の隠が遠慮がちに近寄ってきた。
(え、誰?)
斗和は隠に知り合いはいない。
と言うより、鬼殺隊に知り合いはいない。
「え、あの……?」
急いで手拭いで顔を拭くと、目の前の隠は悲痛な面持ちで俯いた。
「傷、やっぱり消えないよな…ごめんな」
そこで斗和は気付く。
この隠は、初めて共同任務をした同い年の隊士だと。
両足のふくらはぎを斬られ、その後どうなったかは知らぬままだった。
(隠の装束…まさか!)
「隠になったんですか?足は?もしかして走れないんですか!?」
斗和がやや興奮気味に詰め寄ると、ふるふると頭巾が揺れる。
「違う…足は問題ない。けど、あれ以来鬼を見たら足が竦んじゃってさ。動かなくなったんだ。だから隠に転向した」
「そうだったんですか…。私、全然知らなくて…」
「蓬萊は頑張ってるみたいだな。階級上がったのか?」
何とも気まずかったが、斗和が手の甲を見せると相手は「お」と目を見開いた。
何番目なのか聞かなくてよかったと思った。
島本は再び斗和の顔の傷を謝罪するが、「絶対にあなたのせいじゃない。頼むからもう気にするな。それ以上言うならこれで殴る」と脅して刀に手を掛ければ、「殺す気かよ」と苦笑いし場が和んだ。
二人の他は誰もいなかったので、茶を淹れて休憩所に腰を下ろす。
斗和は、このように誰かと茶を飲みながら話すことは初めてで、緊張していた。
そんな斗和を知ってか知らずか、島本は話し上手でスラスラと言葉を紡ぐ。
島本の話しを聞いた後、斗和はここぞとばかりに様々聞くことにした。
今の柱は何人で、どんな人達なのか。
産屋敷家当主は何歳なのか。
目立つ風貌の隊士を見たことはあるか。
斗和は当たり障りのない、ごく普通の疑問を選んだつもりだ。
それでも返答で判明してくるものがある。
その返答だが、今の柱が何人いるかは分からず見たこともない。
最近新しい柱になった男が、背がかなり大きいらしい。
島本はそう答えた。
背の大きな人物で連想されるのは、岩柱の悲鳴嶼行冥だ。
もう一人、音柱の宇髄天元も大きい。
年齢は天元より行冥が四歳上である。
斗和は、登場人物の年齢をしっかり把握していた。
斗和の記憶では、行冥は十九歳で柱になった。
最終選別で見た天元の年齢は不明だが、あれから数年経過している。
故に、行冥は既に柱になっている可能性が高い。
(ということは、宇髄さんは最近柱になったのか!早いな…同期として尊敬する!)
斗和はざっと脳内で整理し、今の柱には炎柱、岩柱、音柱がいることを確信した。
次に産屋敷耀哉の年齢だが、島本は全く分からないと答えた。
耀哉には最終選別で会ったきりだと付け加えた。
そして目立つ隊士がいるかどうかだが、島本は斗和を名指ししてきた。
これには当然ながら斗和が驚く。
地味に生きてきたつもりが、目立っていたとは心外でならない。
なぜ私なのかと斗和が問えば、農婦のいで立ちで日輪刀も風変わりで土の呼吸を使うからだと答える。
他人の口から聞くと、やっぱりおかしいかもしれないと斗和は思った。
そして島本は続ける。
「この前の事後処理で、髪が白くて顔と体に傷がたくさんある隊士を見たんだ。なんでも稀血だとかで、自分の体を傷つけて戦っているらしい。目つきは恐ろしいし、纏う雰囲気も尋常じゃなくてさ。俺、思わず冷や汗かいた」
(それって不死川さんだ…!)
白髪に傷だらけに稀血といえば、風柱の不死川実弥しか考えられない。
実弥もおり未だ柱になっていないということは、兄弟子の粂野匡近もまだ生きているはずである。
実弥が柱になるのは、匡近と二人で下弦ノ壱を倒したからだ。
しかし、その時に匡近は死ぬ。
助けることができるとしたらその時だが、いつそうなるかがまったく分からないのだ。
斗和はまたもや、モヤモヤとした気持ちになる。
こうしてみると入隊して二年経つが、まったく進展がない。
それなりに情報を得てはいるが、やはり本人に会わないと埒があかないと思った。
「そっちは?珍しい隊士に会った?」
島本が斗和を覗きこんでくる。
考え込んでいた斗和は、弾かれたように前を見た。
「へー!そんな人がいるんですね。私は単独任務が多くて、あまり他の人と一緒にならないんですよ。あ、一度共同任務で炎柱様が助けに来てくれたことがあります。あの方が来なかったら、私は死んでいましたよ」
「それは命拾いしたんだな!よかったな、炎柱が来てくれて。あ、そういえば昨年、炎柱の息子が入隊したらしい。知ってるか?」
「えっ!?」
斗和は勢いよく隣を見る。
(今何と!?炎柱の息子が入隊!?じゃあ煉獄さんが隊士になったんだ!)
斗和が驚いたせいか、ん?どうした?と島本が隣で首を傾げる。
「あ…炎柱様に息子がいたんですね。全然知りませんでしたよ、見たこともないです」
「俺も見たことないけど、外見がそっくりらしいよ」
(はいよく知っていますとも!一見どこを見てるか分からない大きな目。声が大きいこと、さつまいもが好きなこと、明朗快活で面倒見がいいこと、すごく強くてかっこいいことも。そして……皆を守って、戦い抜いて命を散らすことも……)
膝を握り締めた拳が僅かに震え、斗和は泣きそうになった。
いつの間にか大分時間が経っており、ちらほらと隊士が入ってきて各々鍛錬を始めていた。
忘れ物を取りに来ただけだった島本と別れ、斗和は刀を握る。
今生きている煉獄杏寿郎を助ける為に、絶対に強くなると誓った。
そしてこの日、斗和は新たな技を生み出したのだった。